野生型ポリオの国際的拡大に関する国際保健規則(IHR)緊急委員会第4回会議でのWHO声明

2015年2月27日 WHO(原文[英語]へのリンク

 国際保健規約IHR(2005)に基づき、2014-15年にかけての野生型ポリオの国際的拡大に関する第4回緊急委員会が事務局長の要請により招集され、2015年2月17日にテレビ会議を使って開催されました。以下のIHR加盟国、カメルーン、赤道ギニア、パキスタン、シリアは、前回委員会が開催された2014年11月13日以来の一時勧告の実施状況の更新資料を提出しました。

 委員会は、2014年11月13日以降に記録されたパキスタンから隣国アフガニスタンへの新たな感染輸出をもって野生型ポリオウイルスの国際的な感染拡大が続いていることに言及しました。パキスタンで報告される患者数は季節による減少傾向がみられたものの、感染の伝播は4つの地方と連邦直轄部族地域で続いています。委員会は、パキスタンからの国際的な感染拡大のリスクは続いていると評価しました。委員会は、パキスタンが新たに強固なオフ・シーズンワクチン接種計画の作成、国と地方の緊急運用センターの設立、および南北ワジリスタンでのキャンペーン活動の再開を高く評価しました。けれども、2014年11月13日の第3回緊急委員会会議の日以降も、野生型ポリオウイルスの国際的な感染拡大の土台にある根本的な要因は変化してはいません。

 2014年3月以降、他には野生型ポリオウイルスの拡大の記録はありません。他の感染地の加盟国9か国では新たな国際的な感染拡大のリスクは減少しているようですが、国際的な感染拡大の可能性は、まだ、特に中東や中部アフリカでの紛争地域の拡大によって悪化しており、世界的な脅威としてとどまっています。さらに、紛争の影響を受けた国では、このような多くのリスク国が予防接種体制を悪化させることにつながる保健サービス提供の低下を必然的に経験することになります。

 委員会は、ポリオの拡大が現在も国際的な懸念に関する公衆衛生緊急事態(PHEIC)の状態にあり、さらに3か月の一時勧告の延長を勧めるべきものと評価しました。委員会は全会一致でこの結論に達する中で、以下の要因を議論しました。

  1. 1.2014年全体を通して持続する野生型ポリオウイルスの国際的な感染拡大
  2. 2.世界で最も重要でワクチンでの予防が可能な疾患の一つを地球規模で根絶することに失敗することのリスクとその結果としての費用
  3. 3野生型ポリオウイルスの国際的な感染拡大を阻止し、2015年5月/6月における流行が高まるシーズンの開始における新たな感染拡大を防ぐために国際的に協調して対策を継続する必要性
  4. 4.武力紛争や複雑に入り組んだ緊急事態によって予防接種の整備が破壊された国の数が増加することによって、さらなる国際的な感染拡大への懸念が増す社会的重要性
  5. 5.ポリオの国際的な感染拡大が領土を越えて発生することに対する地域のアプローチと協力体制の重要性

 委員会は、真摯に、すべての国が一時勧告に対する対策を講じ、IHRの下で対策を講じる国々に対して委員会が以前に作成した評価基準に基づいて進捗状況を吟味していることの努力を高く評価しました。(また)、委員会は、一時勧告の実施が地域紛争の影響を受けている全ての感染発生国と、その国のたくさんの人々に対して不不十分であることに、懸念を示しました。

 委員会は、野生型ポリオウイルスの国際的な感染拡大を減らす目的のために以下の助言を事務局長に提出しました。その助言は、10か国を「現在も野生型ポリオウイルスを感染輸出している国」、「野生型ポリオウイルスの感染がみられるが現在は感染輸出がみられない国」にリスクで階層化し、より早く判断基準を検討すべく更新したものです。(ここに)委員会によって、「もはや野生型ポリオウイルスの感染はないが、国際的な感染拡大を受けやすい国」という3つ目のリスクカテゴリーが追加されました。また、委員会は、多くの場合、たくさんの国境を越える人口移動、長い国境、そして一般的な疫学的な障害をもつ状況でのポリオ撲滅対策を実行することへの課題に焦点を当てた4つの感染輸出国からの意見の還元にも言及しました。そのため、委員会は、各国が地域的なアプローチを採用し、近隣諸国と共同で予防接種戦略を展開することを勧めました。

現在も野生型ポリオウイルスを感染輸出している国

 カメルーン(3月11日まで)、赤道ギニア(4月4日まで)、シリア(3月17日まで)、パキスタンには以下のことの実行が求められます。

  • もしまだならば、国又は政府のトップレベルが公式に、ポリオウイルス伝染の阻止が国家の公衆衛生上の緊急課題であることを宣言すべきです。その旨の宣言が既に行われているならば、この緊急課題が継続された状態にあることを宣言すべきです。
  • 全ての住民と4週間以上の長期滞在者が国際渡航の12か月前から4週間前までに1回のポリオ生ワクチン(OPV)又は不活化ワクチン(IPV)の接種を受けていることを確認すべきです
  • 4週間以内に急な旅行を行う人々で、ポリオ生ワクチンもしくは不活化ワクチンを接種していない人は、出発までに1度はポリオワクチンを接種していることを確認すべきです。これでも、有益性が上回ります。特に、これは頻繁に旅行する人に当てはまります。
  • そのような渡航者には、IHR(2005)別添6で明記された国際接種・予防証明書がポリオワクチンの接種記録としてまた接種の証明書として発行されていることを確認すべきです。
  • ポリオウイルスの早期検出のためのサーベイランスを強化するために、国境を越えた協力体制を強化し、実質的に難民、旅行者、国境を越える集団でのワクチン接種率を高めることが必要です。
  • これらの対策は以下の基準が達成されるまで継続されるべきです:(i)新たな感染輸出がなく、少なくとも6か月を経過すること、(ii)すべての感染地域やハイリスク地域で質の高い撲滅活動が完全に実施されたことの証拠となる書類を提出すること、そのような書類が提出できない場合には、少なくとも12か月間は新たな感染輸出なく経過するまでこれらの対策を継続すること。

 委員会は、2015年3月11日、3月17日および4月4日までに、カメルーン、シリア、赤道ギニアで、記録が残されている感染輸出の日から12か月が過ぎます*。これらの日において感染輸出が発生していなければ、カメルーンと赤道ギニアは野生型ポリオウイルスに感染した国における「現在も感染輸出している国」ではなく、「現在は感染輸出がみられない国」となり、このカテゴリーの勧告の対象となります。シリアは、「もはや野生型ポリオウイルスの感染はないが、国際的な感染拡大を受けやすい国」の基準を満たします。

※:委員会は、新たな感染輸出の検出がないこと、新たな患者の発見または環境下の分離株での野生ポリオウイルスの検出がないことを適用基準としています。

 国際的な感染拡大への継続的な危険性を考えると、カメルーンと赤道ギニアの両国には特別な注意を払う必要があります。

  • 野生型ポリオウイルスの早期発見と難民や移動民族集団へのワクチン接種を確実に行うために、地域での協力と国境を越えた連携の強化が行われるべきです。

パキスタンが追加すべきこと

  • 適切なポリオ予防接種の書類を欠いたままではいかなる住民も国際渡航を出発の時点で制限すべきです。これらの勧告は、搬送の手段(例えば、陸、空、海)に関係なく、すべての出発地から国際渡航する者に適用されるべきです。
  • 以前に急ぎの旅行者に対して求めた勧告は現在も有効です。すなわち、適切なポリオの予防接種を受けていない人々は、出発までにポリオワクチンを少なくとも1回は接種する必要があります。その時には適切に書類が提供されるべきです。
  • 旅行が制限された住民の数と出発の地点で適切な予防接種の書類を提供した旅行者の数を含む、国際渡航での一時勧告の月別実施件数に関する報告書を事務局長に提供し続けることが求められています。
  • パキスタンは、アフガニスタンとの国境を越えて移動する人々は野生型ポリオウイルスの感染輸出を容易にし続けていることを認識し、実質的にと国境を越える旅行者とハイリスクの国境に住む人々に対してワクチン接種率を高めるために、アフガニスタンとの協力体制を改善することによって国境での努力を強化すべきです。

野生型ポリオウイルスの発生があるが現在は感染輸出のない国

 アフガニスタン、ナイジェリア、ソマリア、エチオピア(3月16日まで)、イラク(5月19日まで)、イスラエル(4月28日まで)には以下のことの実行が求められます。

  • もしまだならば、国又は政府のトップレベルが公式に、ポリオウイルス伝染の阻止が国家の公衆衛生上の緊急課題であることを宣言すべきです。その旨の宣言が既に行われているならば、この緊急課題が継続されていることを宣言することが必要です。
  • 全ての住民と4週間以上の長期滞在者は国際渡航の12か月前から4週間前までに1回のポリオ生ワクチン(OPV)又は不活化ワクチン(IPV)の接種を受けることを推奨すべきです。4週間以内に急な旅行を行う人々には、出発までに1度はポリオワクチンを接種することを推奨すべきです。
  • そのようなワクチン接種を受けた旅行者はポリオワクチン接種状況の記録を適切な文書で所有していることを確認すべきです。
  • ポリオウイルスの早期発見のためのサーベイランスを強化するために、国境を越えた協力体制を強化し、実質的に難民、旅行者、国境を越える集団でのワクチン接種率を高めることが必要です。
  • これらの対策は以下のような基準が達成されるまで継続されるべきです:(i)国内のどのような検体からも野生型ポリオウイルスが少なくとも6か月間検出さずに経過すること、(ii)すべての発生地域とハイリスク地域で質の高い撲滅活動が完全に実施された証拠文書を提出すること。これらの対応の証拠文書が提出できない場合には、少なくとも12か月間は新たな感染輸出なく経過するまで対応を継続すること。
  • 国際的な感染拡大へのリスクが続くならば、難民や移動民族集団に野生型ポリオウイルスの早期発見とワクチン接種を確実に実施するために、地域協力や国境を越えた連携の強化を必要とします。

 委員会は、2015年3月16日、4月28日と5月19日に、それぞれエチオピア、イスラエル、イラクで野生のポリオウイルスを検出してから12か月が経過することに言及しました。これらの日までに野生型ポリオウイルスのさらなる検出がなければ、エチオピア、イラク、イスラエルは「もはや野生のポリオウイルスの感染のない、しかし国際的な感染拡大を受けやすい国」の基準を満たすことになります。

もはや野生のポリオウイルスの感染のない、しかし国際的な感染拡大を受けやすい国

 エチオピアで3月16日までに、シリアで3月17日までに、イスラエルで4月28日までに、イラクで5月19日までに、もはや野生のポリオウイルスが検出されなければ、これらの国はこのリスクカテゴリーの国に入り、以下のことの実行が求められます。

  • 特に、ハイリスクの移動民、感染を受けやすい集団において未発見の野生型ポリオウイルスの伝染を減らすためにサーベイランスの質の強化を図るべきです。
  • 国内避難民、難民、その他の感染を受けやすい人々である、移動集団、越境集団でのワクチン接種を確実に実行する努力を強化すべきです。
  • 野生型ポリオウイルスの早期発見とハイリスク集団でのワクチン接種を確実にするために地域協力や国境間連携を強化すべきです。
  • 質の高いサーベイランスと12か月間のワクチン接種活動を十分に盛り込んだ書類を使っての対策を維持すべきです。

 この助言、現在入手可能な情報による感染の発生した加盟国で作成された報告に基づいて、事務局長は、委員会の評価を受け入れ、2月27日に野生型ポリオウイルスの国際的な懸念に関する公衆衛生緊急事態(PHEIC)の宣言を延長することを決定しました。事務局長は、「現在、野生型ポリオウイルスを感染輸出している国」、「野生型ポリオウイルスの感染があるが、現在は感染輸出していない国」、「もはや野生のポリオウイルスの感染はないが、国際的な感染拡大を受けやすい国」に対して、委員会の勧告を推奨し、2015年2月27日有効の野生型ポリオウイルスの国際的な感染拡大を減らすための国際保健規約(IHR:2005)に基づき一時勧告をこれらの国に対して延長しました。事務局長は、委員会メンバーと専門家アドバイザーにその助言に対する謝意を表明し、これからの3か月間での状況の再評価、特に、この一時勧告が2015年の世界保健総会を越えて継続すべきか、そのときに国際的な感染拡大リスクをさらに効果的に減らすために永続的な勧告を必要とするかの検討を依頼しました。

補足

もはや感染輸出のない(新たな野生型ポリオウイルスの検出がない)国

  • 野生型ポリオ感染者:最新の感染輸出による最初の症例が発症した日に加えて、患者発見、調査、検査確認と報告期間を考慮した6週間を加えた日から12か月。
  • 感染輸出された野生型ポリオウイルスの環境下からの分離:新たに感染輸出を受けた国で最初の環境下での陽性検体の採取に加えて、検査確認と報告期間を考慮した4週間を加えた日から12か月。

もはや感染のない(新たな野生型ポリオウイルスの検出のない)国:

  • 野生型ポリオ感染者:最新の症例が発症した日に加えて、患者発見、調査、検査確認と報告期間を考慮した6週間を加えた日から12か月。
  • 野生型ポリオウイルスの環境下からの分離:最新の環境下での陽性検体の採取に加えて、検査確認と報告期間を考慮した4週間を加えた日から12か月。

出典

WHO.Media center news, Statements. 27February2015
Statement on the4th IHR Emergency Committee meeting regarding the international spread of wild poliovirus.
http://www.who.int/mediacentre/news/statements/2015/polio-27-february-2015/en/