C型肝炎について(ファクトシート)

2015年7月更新 WHO(原文〔英語〕へのリンク

要点

  • C型肝炎はC型肝炎ウイルスによって起こる肝疾患です。このウイルスは急性と慢性、両方の肝炎を引き起こし、数週間持続する程度の軽い病態から一生にわたる重い病態まで、重症度に幅がみられます。
  • C型肝炎ウイルスは血液で感染するウイルスです。感染が最も起きている状況は、安全性に欠ける注射手技、不十分な医療器具の殺菌処理、スクリーニング検査していない血液や血液製剤の輸血においてです。
  • 全世界で、1億3000万人~1億5000万人が慢性C型肝炎に感染しています。
  • 慢性的に感染しているかなりの数の患者が、将来に肝硬変または肝癌を発症します。
  • 毎年約50万人がC型肝炎関連の肝疾患で死亡しています。
  • 抗ウイルス薬はC型肝炎の約90%を完治させることができます。そして、肝がんや肝硬変による死亡リスクを下げることができます。しかし、診断や治療への利用環境はまだ限られています。
  • 現在、C型肝炎に対するワクチンはありません。しかし、この分野での研究が続けられています。

 C型肝炎ウイルス(HCV)は急性感染と慢性感染の両者を引き起こします。急性HCV感染症は、通常無症候性で、命にかかわる病態を引き起こすことは極めて稀です。約15~45%の感染者では、治療を受けなくても感染後6か月以内に自然にウイルスが排除されます。

 残る55~85%の感染者では、慢性HCV感染症へと進展することになります。慢性HCV感染患者の中で、20年以内に肝硬変に至るリスクは15~30%です。

地理的分布

 C型肝炎は全世界でみられます。最も感染率の高い地域は、アフリカと中央および東アジアです。国によっては、C型肝炎への感染は、特定の集団(例えば、薬物注射の使用者層)に集中していることがあります。一般集団でみられることもあります。HCVウイルスには複数の株(すなわち遺伝子型)があり、その分布は地域によって異なります。

感染経路

 C型肝炎ウイルスは血液で感染するウイルスです。最も一般にみられる感染経路は以下とおりです。

  • 注射器具の使い回しによる注射麻薬の使用
  • 医療器材(特に注射器や針)を再使用したり、不十分な滅菌処理をしたりしている医療施設
  • スクリーニング検査されていない血液および血液製剤の輸血
  • HCVは性的接触や母子感染でも伝播する可能性があります。しかし、これらの感染経路はそれほど一般的ではありません。

 C型肝炎は、母乳、食物、水によって感染することはなく、感染者との抱擁、キス、食べ物や飲み物を共にすることなどの日常的接触で感染することはありません。

症状

 C型肝炎の潜伏期間は2週間から6か月間です。初期感染の後、感染者のおよそ80%では全く症状が現れません。感染者の急性症状では、発熱、易疲労性、食欲低下、吐き気、嘔吐、腹痛、暗色尿、灰白色便、関節痛、黄疸(皮膚や白目の部分の黄染)がみられることがあります。

スクリーニング検査と診断

 通常、急性HCV感染は無症候性であることから、急性期に診断される人は稀です。慢性HCV感染症に進展した感染者でも、感染から数十年を無症候のまま過ごしているため、感染が二次的に重度の肝障害の症状に進展するまで、感染が診断されずにいることもあります。

 HCV感染は次の2つのステップで診断されます。

  1. 1.血清診断で抗HCV抗体に対するスクリーニング検査を行うことで、ウイルスに感染していた人を発見します。
  2. 2.検査で抗HCV抗体に陽性の場合には、慢性HCV感染であることを確認するためにHCV RNAに対する核酸増幅試験が必要とされます。これは、HCVに感染した人の約15~45%が、治療をせずとも強い免疫応答によって、自然治癒するからです。彼らは、もはや感染していませんが、抗HCV抗体検査では依然として陽性の結果が出てしまいます。

 C型慢性肝炎と診断された感染者は、肝障害(肝の線維化、肝硬変)の程度について評価を受ける必要があります。肝生検または種々の非侵襲的な検査によって評価することができます。

 加えて、感染者はC型肝炎ウイルス株の遺伝子型を類別する検査を受ける必要があります。HCVには6種類の遺伝子型があり、それぞれに治療への反応が異なります。さらに、2種類以上の遺伝子型のウイルスに重複感染している可能性もあります。肝障害の程度およびウイルスの遺伝子型は、この疾患の治療方針や管理方法を決定するための方針決定に用いられます。

検査を受ける場合

 早期診断は、感染によって生じる健康問題を防ぎ、ウイルス伝播を防ぐことを可能にします。WHOは、感染リスクの高い人を対象にしたスクリーニング検査を推奨しています。

 HCV感染のリスクの高い集団は以下のとおりです。

  • 薬物注射の使用者
  • 感染した血液製剤を投与された人、十分な感染症管理を行っていない医療施設で侵襲的な医療処置を受けた人
  • HCVに感染している母親から生まれた子ども
  • HCVに感染したセックス・パートナーがいる人
  • HIV感染者
  • 鼻腔内投与薬を使用したことのある人
  • タトゥーやピアスをしたことのある人

治療

 免疫応答によって感染が除去されることもあるため、C型肝炎は必ずしも治療が必要とは限りません。そして、慢性感染を起こしても肝障害に進展しないこともあります。治療が必要な場合、C型肝炎の治療目標は根治となります。治癒率は、ウイルス株や、実施した治療方法などいくつかの要因の影響を受けます。

 C型肝炎の標準治療法は急速に変化しています。これまでは、C型肝炎の治療はインターフェロンとリバビリンを併用した治療が基本でした。この治療法は48週間毎週の注射を必要とし、それでも治癒する患者はおよそ半数でした。しかも、頻繁に、時には命に関わるような有害な反応を起こしていました。

 最近、新しい抗ウイルス薬が開発されました。これらの薬剤はdirect antiviral agents(DAA)と呼ばれ、旧来の治療法よりも極めて高い有効性と、安全性および忍容性があります。DAA剤による治療ではHCV感染者のほとんどを完治させます。しかも治療期間は通常12週と短く、より安全です。DAA剤の生産コストは低いけれども、最初の価格は非常に高く高所得の国々でさえもこれらの薬剤を利用することは困難なようです。

 これらの進歩が世界で治療に対してさらに大きな利用環境を作ることを確保するために、たくさんのことが行われなければなりません。

予防

一次予防
 C型肝炎に対するワクチンはありません。したがって、HCV感染の予防は、医療施設、注射麻薬の使用者などのハイリスク群、性的接触などでのウイルスへの暴露を減らすことにかかっています。

 限定的なものですが、WHOが推奨している一次予防法のリストの例を以下に掲げます。

  • 手指の衛生管理:外科手術の際する手指の管理、手洗い、手袋の使用
  • 安全な取扱いと鋭利物および廃棄物の処分
  • 無菌注射器具を含む注射薬物使用者への包括的な有害要因削減のための福祉事業の提供
  • 献血者における(HIVおよび梅毒も含めた)B型およびC型肝炎の検査
  • 医療従事者の訓練
  • コンドームの適正な一貫した利用の促進

二次、三次予防
 C型肝炎ウイルスに感染した人々に対して、WHOは以下のことを推奨します。

  • 医療ケアや治療についての選択肢に関する教育や助言
  • 肝保護の観点から、他の肝炎ウイルスとの重複感染を防ぐためのA型肝炎ウイルスワクチンおよびB型肝炎ウイルスワクチンの接種
  • 適切と考えられる場合に、抗ウイルス治療を含む早期の適正な医学的管理
  • 慢性肝疾患を早期診断するための定期的受診

C型肝炎ウイルス感染者のスクリーニング検査、医療ケア、治療

 WHOは、2014年4月に「C型肝炎感染者に対するスクリーニング検査、医療ケアおよび治療に関するガイドライン」を発行しました。

 これは、WHOが作成したC型肝炎治療に関する最初のガイドラインであり、HCVを含む血液で感染するウイルスの感染予防に関する既存のガイダンスを補完する役割を担っています。

 このガイドラインは、低所得国あるいは中所得国でHCV感染者のスクリーニング検査、医療ケア、治療に関するプログラムを作成している政策担当者、政府関係者、その他の担当者向けのものです。このガイドラインは上述の領域で重要な推奨事項を提示し、実施の検討する議論しているので、HCV感染者に対する治療サービスを拡大するための一助となるでしょう。

重要な推奨事項に関するサマリー

  1. 1.HCV感染のスクリーニング検査についての推奨事項
    HCV感染者であると同定するためのスクリーニング検査
    高いHCV罹患率を示す集団に属する人や、過去HCVに罹患するリスクに暴露された、またはリスクを伴う行動をとった人には、HCVの血清学的検査を行うことが推奨される
  2. 2.慢性HCV感染との確定診断をいつすべきか
    HCVの血清学的検査の結果が陽性であったら直ぐに慢性HCV感染の診断を確立させるために、HCVリボ核酸(RNA)に対する核酸増幅試験(NAT)を行うことが推奨されます。さらに、HCV RNAを検出するためのNATはHCV感染に対する治療を始めるための評価の一部とすることが推奨されます。
  3. 3.HCV感染者に医療ケアを行う際の推奨事項
    アルコール摂取量のスクリーニング、および中等量と大量のアルコール摂取量を減らすためのカウンセリング
    アルコール摂取量の評価は、すべてのHCV感染者に推奨されます。そして、中等量から大量のアルコールを摂取する感染者には、アルコール摂取量を減らす行動をとるための介入が推奨されます。
  4. 4.肝の線維化および肝硬変の程度の評価
    医療費に制限のある環境では、肝の線維化を評価する場合、非侵襲的検査である超音波エラストグラフィーやFibrotestなどの追加の設備が必要となる検査よりも、アミノトランスフェラーゼ/血小板数比(APRI)あるいはFIB4テストを用いることが提案されます。
  5. 5.HCV感染治療の推奨事項
    HCV治療を行うか否か評価すること
    注射薬物の使用者を含め、慢性HCV感染のある人は成人も小児も、全員に抗ウイルス薬治療に対する評価が行われるべきです。
  6. 6.ペグインターフェロン・リバビリン併用療法
    慢性HCV感染治療に際しては、標準非ペグインターフェロン・リバビリン併用療法よりも、ペグインターフェロン・リバビリン併用療法が推奨されます。
  7. 7.テラプレビル(telaprevir)またはボセプレビル(boceprevir)による治療
    遺伝子型1による慢性HCV感染に対しては、ペグインターフェロン・リバビリン併用療法だけではなく、DAA剤であるテラプレビルまたはボセプレビルをペグインターフェロン・リバビリン併用療法に加えて投与することが推奨されます。
  8. 8.ソフォスブビル(sofosbuvir)による治療
    遺伝子型1、2、3、4による HCV感染の場合、ペグインターフェロン・リバビリン併用療法だけではなく、ソフォスブビルをリバビリンと併用し、HCVの遺伝子型によりペグインターフェロンを併用し、もしくは併用せず投与することが推奨されます。あるいはインターフェロン治療に忍容性がない患者についても同治療が推奨されます。
  9. 9.シメプレビル(simeprevir)による治療
    遺伝子型1b によるHCV感染者およびQ80K多型をもたない遺伝子型1aによる HCV感染者に対しては、ペグインターフェロン・リバビリン併用療法だけではなく、それに加えてシメプレビルを投与することが推奨されます。

注:推奨事項8および9については医療費について考慮されていません。それは、この推奨事項がまとめられた時点で、アメリカ合衆国以外の国で薬価情報が入手できる国がないためです。

WHOの取り組み

 WHOはウイルス性肝炎の予防および制御を目的に以下の領域で作業を続けています。

  • 注意の向上、パートナーシップの促進、資源の動員
  • エビデンスに基づく政策と行動するためのデータの組織立て
  • 感染経路の防止
  • スクリーニング検査、医療ケア、治療の実行

 さらにWHOは、毎年7月28日にウイルス性肝炎に対する意識および理解を高めるために世界肝炎デー(World Hepatitis Day)を開催しています。

出典

WHO Fact sheet N°164
Hepatitis C, Update July2015
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs164/en/