E型肝炎について(ファクトシート)

2015年7月 WHO(原文[英語]へのリンク

要点

  • E型肝炎には、毎年推定で2,000万人が感染し、300万人以上がE型肝炎を発症しており、E型肝炎に関連して56,600人が死亡しています。
  • E型肝炎は、ほとんどが自然治癒しますが、劇症肝炎(急性肝不全)に進展することもあります。
  • E型肝炎ウイルスは、主に汚染された水によって糞口感染で伝播します。
  • E型肝炎は世界中で発生しています。しかし、有症率は東アジアと南アジアが最も高くなっています。
  • 中国では、E型肝炎ウイルス感染を予防する初めてのワクチンが生産され、承認されました。しかし、世界的にはまだ利用できません。

E型肝炎は、E型肝炎ウイルスによって起こる肝疾患です。E型肝炎ウイルスは、エンベロープを持たない、プラス鎖一本のリボ核酸(RNA)ウイルスです。

E型肝炎ウイルスは、主に汚染された飲み水を通して伝播します。通常は自然に治る感染症で、4~6週間以内に回復します。時に、劇症肝炎(急性肝不全)に進展し、死亡することもあります。

地理的分布

E型肝炎の集団発生や散発例は世界中で発生しています。これらの集団発生は、生活に不可欠な水、衛生設備、衛生と保健のサービスへの利用環境に制約のある、資本の限られた国で頻繁に発生し、数百人から数千人に感染しています。この数年では、このような流行の発生の中に、紛争地域や戦争地帯のような人道的に緊急事態である地域における流行発生や、難民や国内避難民(internally displaced populations: IDP)のキャンプでの発生があります。毎年、世界中で推計2,000万人の感染者と330万人の急性患者が発生し、およそ56,600人が死亡しています。

E型肝炎は世界中で発生しています。疫学的には、E型肝炎ウイルスのジェノタイプ(遺伝子型)に違いがみられます。例えば、ジェノタイプ1は、通常、開発途上国でみられ、地域レベルで集団発生を起こします。一方、ジェノタイプ3は、通常、先進国でみられ、集団発生を起こしません。

血清での有病率(集団の中でこの疾患に対する検査が陽性となった人の割合)が最も高いのは、衛生水準が低く、ウイルスが伝播するリスクの高い地域です。東アジアと南アジアでは、頻繁に感染が集団発生しており、水源が糞便で汚染されやすい雨期によく起こります。

感染経路

E型肝炎ウイルスは、主に糞便で汚染された飲み水を介した糞口感染によって伝播します。他の感染経路も確認されており、以下の感染経路があります。

  • 感染した動物からの生産物を食べることによる食品由来の感染
  • 感染した血液精製物の投与
  • 妊婦から胎児への垂直感染

人間はE型肝炎ウイルスの自然宿主と考えられていますが、E型肝炎ウイルスやその近縁ウイルスに対する抗体は、霊長類やいくつか他の動物種でも検出されています。

E型肝炎は水系感染症であり、汚染された水や食べ物の供給が大規模な集団発生に関係しています。生または加熱不十分な甲殻類の摂取が流行地域での散発例の感染源であることも確認されました。

E型肝炎の危険因子は、世界中の広い地域で、衛生環境の悪さと糞便から排出されるE型肝炎ウイルスに関係しています。

症状

E型肝炎ウイルスに暴露された後の潜伏期間は3週間から8週間と幅があり、平均では40日間です。感染力を有する期間は不明です。

E型肝炎ウイルスは、散発的または流行性の急性ウイルス性肝炎を起こします。感染の症状は、15歳から40歳の若年成人に最もよく現れます。小児もしばしば感染しますが、ほとんどは無症状か、黄疸が出ない(無黄疸性の)非常に軽い症状を起こすだけで、ほとんどは診断されません。

肝炎の典型的な所見と症状は、以下のとおりです。

  • 黄疸(皮膚や眼球結膜の黄染、褐色尿、白色便)
  • 食欲不振(食欲減退)
  • 大きく腫れ圧痛を伴う肝臓(肝腫大)
  • 腹痛と腹部の圧痛
  • 悪心、嘔吐
  • 発熱

これらの症状の大部分は、急性期にどの肝疾患でも起こり得る症状のため、鑑別ができません。また、症状は、通常は1週間から2週間続きます。

稀なことですが、急性E型肝炎は劇症肝炎(急性肝不全)を起こし死亡することがあります。劇症肝炎は、妊娠中に最も高率で起こります。妊婦はE型肝炎による産科の合併症と死亡のリスクがより高くなり、妊娠第三期における死亡率は20%になります。

E型肝炎の慢性感染症例が、免疫抑制状態にある人で報告されています。免疫抑制状態にある人では、E型肝炎感染の再活性化も報告されています。

診断

E型肝炎の患者は、他の型の急性ウイルス性肝炎と臨床的に鑑別できません。したがって、E型肝炎の診断は、通常、血液中のウイルスに特異的なIgMやIgG抗体を検出することで行います。追加試験には、血中と/または糞便中のE型肝炎ウイルスRNAを検出する逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(reverse transcriptase polymerase chain reaction: RT-PCR)がありますが、この分析検査は特殊な検査室設備が必要となります。

開発途上国で水系感染によって集団感染が発生した時、特に妊婦で病態が重症化し、A型肝炎が除外された時には、E型肝炎を疑う必要があります。

治療

急性肝炎の経過を変えられるような治療法はありません。この疾患には、予防が最も効果的な方法となります。

通常、E型肝炎は自然に治癒するため、一般的には入院は必要とされません。しかし、劇症肝炎では入院が必要であり、症状のある妊婦にも入院が考慮されるべきです。

予防

感染と伝播のリスクは、以下のことの注意によって減らすことができます。

  • 公共の水道で供給される水質基準の維持
  • 排泄物を除去するための適切な処理システムの確立

個人のレベルでは、感染のリスクを以下のことの注意によって減らすことができます。

  • 特に食品を取り扱う前に安全な水で手洗いするなどの個人での衛生対策の維持
  • 清浄と分からない飲み水や氷の摂取の回避
  • WHOが出している安全な食品習慣の順守

2011年、E型肝炎ウイルス感染を防止するための初めてのワクチンが中国で登録されました。世界的には利用できませんが、他にも数か国で使用できるようになるかもしれません。

流行時に対応するためのガイドライン

流行時には、WHOは以下のことを推奨しています。

  • 感染伝播様式の特定
  • 特に感染リスクが増している集団の特定
  • 共通の感染源の排除
  • 食品や水の糞便汚染を排除するための衛生環境や衛生習慣の改善

WHOの取り組み

WHOは、「E型肝炎の水系での集団発生:その認識、調査および感染制御」の報告書を発行しました。このマニュアルでは、E型肝炎の疫学、疾患の臨床症状と診断についての情報が提供されています。また、E型肝炎の集団発生に取り組む公衆衛生当局を支援するためのガイダンスも提供しています。

予防接種に関するWHO戦略的諮問委員会(Strategic Advisory Group of Experts: SAGE)は、E型肝炎への対策の負担と、承認されたE型肝炎ワクチンの安全性、免疫原性、有効性、と対費用効果に対する現在のエビデンスを検討した方針説明書を、2015年に発行しました。E型肝炎ワクチン使用に関しては以下のとおりです。

  • WHOは、E型肝炎の重要性を、多くの発展途上国、特に妊婦や避難民のキャンプで流行が発生する状況下で暮らすに人々などの特殊な集団における公衆衛生上の問題として認識しています。
  • WHOは、E型肝炎が頻繁に流行し散発的に起こる集団において国家プログラムとしてワクチンの定期接種を導入することは推奨してはいません。しかし、各国の行政当局は、地域の疫学状況に基づいてワクチンを使用することはできます。
  • WHOは、以下の集団のサブ​​グループにおいて、安全性、免疫原性および有効性に関する十分な情報が得られていないことから、16歳未満の小児、妊婦、慢性肝疾患患者、臓器移植待機患者、および渡航者におけるワクチンの定期接種は推奨していません。
  • E型肝炎およびその合併症や死亡のリスクが特に高くなる集団感染のような、特殊な状況が起こるかもしれません。通常のプログラムに関する現在のWHOの姿勢は、このような特別な状況でワクチンを使用することを排除するものではありません。特に、E型肝炎の発生数を減らす又は予防する目的でのワクチンの使用は検討されるべきであり、同様に、妊娠女性のような高リスク群での影響を軽減するためにはワクチンの使用は考慮されるべきです。
  • さらなるデータが利用可能になれば、E型肝炎ワクチンに対する現在のWHOの姿勢は、新しい情報に基づいて検討され、必要に応じて更新されるかもしれません。

上記の点に加えて、WHOは、ウイルス性肝炎の予防と感染制御のために、以下の分野で活動しています。

  • 意識の向上、パートナーシップの促進、資源の動員
  • エビデンスに基づく政策と行動するためのデータの組織立て
  • 感染経路の防止
  • スクリーニング、管理、治療の実行

WHOは、ウイルス性肝炎に対する意識と理解の向上のため、毎年7月28日を世界肝炎デーと定めています。

出典

WHO Fact sheet N°280
Hepatitis E, Updated July2015
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs280/en/