野生型ポリオの国際的拡大に関する国際保健規則(IHR)緊急委員会第6回会議でのWHO声明

2015年8月17日WHO(原文[英語]へのリンク

 国際保健規約IHR(2005)に基づき、野生型ポリオの国際的感染拡大に関する第6回緊急委員会が、事務局長の要請により招集され、2015年8月4日にテレビ会議を使って開催されました。以下のIHR加盟国、アフガニスタン、パキスタンは、前回の委員会が開催された2015年4月24日以来の一時勧告の実施状況の更新資料を提出しました。

 委員会は、ポリオの感染拡大が現在も国際的な懸念に関する公衆衛生緊急事態(PHEIC)の状態にあることを宣言してから、事務局長によって発行された一時勧告に対する各国の取り組みが力強い進展をみせ、全体として野生型ポリオの国際的感染拡大を抑止していることを議題にしました。委員会は、これらの達成度を賞賛すべきとして高く評価しました。

 委員会は、アフリカでは約12か月にわたって野生型ポリオウイルス患者が報告されていないことを取り上げて、アフリカの各国がポリオ撲滅に力強く努力していることが真実であることを確認しました。

 委員会は、2015年に発生したアフガニスタンからパキスタンに感染輸出された2つの新たな感染事例を取り上げ、未だに野生型ポリオウイルスが国際的に感染拡大していることにも言及しました。パキスタンのこれら2つの感染事例は、パキスタンで見つかったポリオウイルス分離株よりもアフガニスタンで流行している株に近いものでした。このうちの1例はアフガニスタンとパキスタンとの国境近くのQuetta(クエッタ)で発生しました。しかし、もう1例は、アフガニスタンとの国境には位置していないSindh(シンド)州の中から発見されました。これは、ポリオウイルスの感染伝播地帯から離れていても国際的感染拡大のリスクがあることを、明確に示しています。委員会は、全年齢層の海外渡航者を対象とした一時勧告が、アフガニスタン、特に、その空港で実行されていないことに懸念を示しました。航空機を利用する海外渡航者に対するワクチン接種は確認されておらず、国際空港でのワクチン未接種の渡航者に対する出口スクリーニングも、出国制限も実施されていませんでした。委員会は、現在、いくつかの国がパキスタンとアフガニスタンからの入国者に、入国地点でポリオ予防接種の証明を要求しており、渡航者に対して一時勧告が適切に実施されることの重要性が強められていることを指摘しました。そこには、カンダハル州で集団予防接種キャンペーンが現在も中断されており国際的な感染拡大へのリスクが増加していることが、もう一つの大きな懸念材料になっていました。

 パキスタンは、2015年の患者数は2014年の同時期に報告された患者数の1/3以下になったことを報告しました。2014年10月以降、パキスタンからの感染輸出はなく、パキスタンでは見落とされ続けている子どもやワクチン接種を利用できない子どもの数は減ってきています。しかし、このような改善にもかかわらず、パキスタンは2015年に世界で発生したポリオウイルス患者の85%を占めています。国内では感染伝播の起こりにくい季節でも感染伝播が続いており、新たな感染輸出のリスクは残っています。そして、5月には感染伝播が起こりやすい季節が始まりました。

 委員会は、長い間、パキスタンとアフガニスタンは大きな共通のポリオウイルス感染伝播地帯となっていたものの、最近の2国間の感染拡大はそれぞれの国の持続的な感染伝播による個別の地域から発生していることを議題に取り上げました。かつてポリオが流行した地域での経験を踏まえれば、このような地帯での強力な感染予防活動には、このような国境を越える感染伝播を遮断することが必要となります。委員会は、この2つの加盟国間でのポリオの感染拡大が国際的な拡大となっていることもIHRの下で強調しました。委員会は、国境において協力体制を敷くことの努力を評価する一方で、国際的な感染拡大のリスクを軽減するためには国境でのワクチン接種と調査活動の協力体制とその質がさらに強化される必要があると促しました。両国で繰り返される進展状況の後戻りからこの国際的な感染拡大を防ぐためには、両国がポリオウイルスの感染伝播の遮断を同時に達成しなければなりません。委員会は、IHRの要求を履行する中で、パキスタンがこれまで達成してきて、アフガニスタンとパキスタンを支援する国際的なパートナーを奮起させてきた改善に対して謝意を表しました。

 国際的な感染拡大を防ぐための主な対策が、感染国での野生株ポリオウイルスの感染伝播の遮断にあるとともに、感染の影響を受けやすい地域で脆弱性を軽減し集団発生のリスクを下げることも極めて重要です。紛争の影響を受けた国々や地域はポリオの集団発生の影響も受けやすくなっています。なぜなら、政情の不安定性や利用環境の困難さは公衆衛生環境の悪化や予防接種体制の弱体化を引き起こすからです。脆弱なこれらの地域には、中東、アフリカの角と呼ばれる地域、アフリカ中部、特にチャド湖周辺地域における紛争国が含まれます。もし、複雑な人道的緊急事態の状況で、健康管理体制の中断が続くものならば、苦労して築き上げてきた成果が急速に失われる可能性があります。

 世界は、ポリオを世界から撲滅させるための重要な最終局面にあります。そして、現在の推進力の欠落は、世界がこの目標に到達することに逆行し、妨げる可能性があります。委員会は、ポリオの国際的な感染拡大が、まだ国際的な懸念に関する公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)にあることに全会一致で合意し、修正のとおり、さらに3か月間一時勧告を延長することを勧告しました。委員会は、この結論に達する中で以下の要因について検討しています。

  • 進展が認められ患者数の減少を認める一方で、2015年もパキスタンとアフガニスタンの感染伝播の起こりにくい季節にも野生型ポリオウイルスの国際的な感染拡大が続いていること。
  • 世界で最も深刻だがワクチンで予防が可能な疾患の一つを地球上から撲滅することに失敗したときのリスクとその結果としての費用。
  • .野生型ポリオウイルスに対して予防接種とサーベイランスを向上させ、国際協調の下に対策を続けることの必要性、国際的な感染拡大の阻止および2015年5月/6月における感染伝播が起こりやすい季節の開始に伴う新たな感染リスクの軽減。
  • 紛争や複雑な緊急事態によって予防接種体制の弱体化や崩壊が生じた国が増えることで、さらに国際的な感染が拡大することの深刻な結果。これらの不安定な地域の人々はポリオの集団発生に対して脆弱です。脆弱な状態での集団発生は感染制御が極めて困難で、最終局面で世界でのポリオ撲滅の完結を脅かします。
  • ポリオの国際的な感染拡大は国境を越えて発生することが多いことから、地域での感染対策の推進と国境での協力体制の強化が重要であること。一方、ポリオの感染伝播が活発な地帯から遠隔地に国際的な感染拡大のリスクを認めること。

 委員会は、下記のリスク分類に基づいて、野生型ポリオウイルスの国際的な感染拡大のリスクを減らす目的のために以下の助言を事務局長に提出しました。

  • 現在も野生型ポリオウイルスを感染輸出している国
  • 野生型ポリオウイルスの発生があるが現在は感染輸出のない国
  • もはや野生型ポリオウイルスの感染はない、しかし国際的な感染拡大を受けやすい国

 委員会は、新たな患者の感染輸出を伴わない期間、および野生型ポリオウイルスの新たな患者の発生もしくは環境内でのウイルス分離に対する観察期間の評価について、以下の更新申請を行っています。

もはや感染輸出のない(新たな野生型ポリオウイルスの検出がない)国:

  • 野生型ポリオ感染者:最新の感染輸出による最初の症例が発症した日に加えて、患者発見、調査、検査確認と報告期間を考慮した1か月を加えた日から12か月。もしくは、野生株1型を除くポリオに対して検査された最新の感染輸入による最初の症例の12か月以内に発症した全てのAFP(急性弛緩性麻痺)患者および最初の患者の12か月以内に集められた環境サンプルが陰性となり、何れも続いているとき。
  • 感染輸出された野生型ポリオウイルスの環境下からの分離:新たに感染輸出を受けた国の環境下での最初の陽性検体の採取に加えて、検査確認と報告期間を考慮した1か月を加えた日から12か月。

もはや感染のない(新たな野生型ポリオウイルスの検出のない)国:

  • 野生型ポリオ感染者:最新の症例が発症した日に加えて、患者発見、調査、検査確認と報告期間を考慮した1か月を加えた日から12か月。もしくは、野生株1型を除くポリオに対して検査された最後の症例の12か月以内に発症した全てのAFP(急性弛緩性麻痺)患者および最後の患者の12か月以内に集められた環境サンプルが陰性となり、何れも続いているとき。
  • (野生型ポリオウイルス患者の発生がない)野生型ポリオウイルスの環境下からの分離:最新の環境下での陽性検体の採取に加えて、検査確認と報告期間を考慮した1か月を加えた日から12か月。

一時勧告

現在も野生型ポリオウイルスを感染輸出している国
 パキスタン(最後の感染輸出は2014年10月21日)とアフガニスタン(同、2015年6月6日)には以下のことの実行が求められます。

  1. 1.もしまだならば、国又は政府のトップレベルが公式に、ポリオウイルス伝播の阻止が国家の公衆衛生上の緊急課題であることを宣言すべきです。その旨の宣言が既に行われている国では、この緊急課題が継続された状態にあることを宣言すべきです。
  2. 2.全ての年齢での、全ての住民と4週間以上の長期滞在者は国際渡航の12か月前から4週間前までに1回のポリオ生ワクチン(OPV)又は不活化ワクチン(IPV)の接種を受けていることを確認すべきです
  3. 3.4週間以内に急な旅行を行う人々で、12か月前から4週間前までにポリオ生ワクチンもしくは不活化ワクチンを接種していない人は、出発までに1度はポリオワクチンを接種していることを確認すべきです。これでも、有益性が上回ります。特に、これは頻繁に旅行する人に当てはまります。
  4. 4.そのような渡航者には、IHR(2005)別添6で明記された国際予防接種証明書がポリオワクチンの接種記録としてまた接種の証明書として発行されていることを確認すべきです。
  5. 5.適切なポリオ予防接種の書類を欠いたままではいかなる住民も海外渡航を出発の時点で制限すべきです。これらの勧告は、渡航の手段(例えば、陸、空、海)に関係なく、すべての出発地から海外渡航する者に適用されるべきです。
  6. 6.パキスタンとアフガニスタンとの国境を越える人々の移動は野生型ポリオウイルスの感染輸出を助長し続けることを認識しておくべきです。両国は、実質的には、国境を越える渡航者とハイリスクの国境に住む人々に対してワクチン接種率を高めるために、国、地域、地方レベルで協力体制を確実に向上させる国境での努力をさらに強化させる必要があります。両国は長年にわたり主要な国境検問において永続的な予防接種チームを維持してきました。国境での努力の協調体制の改善には、より密接な管理、国境通過点での接種ワクチンの品質の監視とともに、国境を越えた後にワクチンを接種していないと識別される渡航者の割合を追跡することを組み入れる必要があります。
  7. 7.これらの対策は以下の基準が達成されるまで継続されるべきです:(i)新たな感染輸出がなく、少なくとも6か月を経過すること、(ii)すべての感染地域やハイリスク地域で質の高い撲滅活動が完全に実施されたことの証拠となる書類を提出すること、そのような書類が提出できない場合には、その国が "もはや感染輸出のない国"の上記の基準を満たすまでこれらの対策は継続されること。
  8. 8.渡航が制限された住民の数とワクチンを接種し出発の地点で適切な予防接種の書類を提供した渡航者の数を含め、海外渡航での月別実施件数に関する一時勧告の報告書を事務局長に引き続き提供することが求められています。

野生型ポリオウイルスの発生があるが現在は感染輸出のない国
 委員会は、改訂された上記の基準に則れば、ナイジェリアとソマリアは、あと1~2か月で「もはや野生型ポリオウイルスの感染のない、しかし国際的な感染拡大を受けやすい国」になることを記しました。

 しかし同時に、委員会は、そのときまでナイジェリア(最後の患者:2014年7月24日)とソマリア(同:2014年8月11日)には以下の勧告を繰り返し述べます。

  1. 1.もしまだならば、国又は政府のトップレベルが公式に、ポリオウイルス伝染の阻止が国家の公衆衛生上の緊急課題であることを宣言すべきです。その旨の宣言が既に行われているならば、この緊急課題が継続されていることを宣言することが必要です。
  2. 2.全ての住民と4週間以上の長期滞在者は海外渡航の12か月前から4週間前までに1度ポリオ生ワクチン(OPV)又は不活化ワクチン(IPV)の接種を受けることを推奨すべきです。4週間以内に急な旅行を行う人々には、出発までに1度はポリオワクチンを接種することを推奨すべきです。
  3. 3.そのようなワクチン接種を受けた渡航者はポリオワクチン接種状況の記録を適切な文書で所有していることを確認すべきです。
  4. 4.ポリオウイルスの早期発見のためのサーベイランスを強化するために、地域の協力体制と国境を越えた協力体制を強化し、実質的に難民、渡航者、国境を越える集団でのワクチン接種率を高めることが必要です。
  5. 5.これらの対策は以下のような基準が達成されるまで継続されるべきです:(i)少なくとも6か月間、国内のどのような検査検体からも野生型ポリオウイルスの感染伝播が検出さずに経過すること、(ii)すべての発生地域とハイリスク地域で質の高い撲滅活動が完全に実施された証拠文書を提出すること。これらの対応の証拠文書が提出できない場合には、その国が "もはや感染輸出のない国"の上記の基準を満たすまでこれらの対策は継続されること。
  6. 6.感染伝播の証拠なく12か月間を終えたときには、一時勧告を実行するために取られた対策の報告書を事務局長に提供することが求められています。

もはや野生のポリオウイルスの感染のない、しかし国際的な感染拡大を受けやすい国
 エチオピア、シリア、イラク、イスラエル、赤道ギニアおよびカメルーンは、この範疇のリスクの基準を満たすために、以下のことが求められます。

  • 未発見の野生型ポリオウイルスの感染伝播のリスクを低下させるために、特に、ハイリスクの移動民、感染を受けやすい集団において、サーベイランスの質の強化を図ること。
  • 国内避難民、難民、その他の感染を受けやすい人々にあたる移動集団や越境集団でのワクチン接種を確実に実行する努力の強化。
  • 野生型ポリオウイルスの早期発見とハイリスク集団でのワクチン接種を確実に実行するための地域協力や国境間連携の強化。
  • 質の高いサーベイランスとワクチン接種活動を十分に盛り込んだ書類に基づいた対策の維持。
  • ポリオウイルスの再導入の証拠なく12か月間を終えたときには、一時勧告の履行のために取られた対策の報告書を事務局長に提供すること。

 下記の国は、表に示すとおり最終報告書を提出する必要があります。

図,ポリオウィルス要最終報告書提出国

全ての感染国に対する追加の検討事項

 委員会は、IHRの下で一時勧告の履行が実質的に不完全である国、特にアフガニスタンに、ポリオ撲滅の計画の中でこの重要な時期にすべての感染国に最適なサポートを提供することを世界の加盟国に求めました。委員会は、進展状況、特に感染伝播が起こりやすい季節が始まることを考慮して、国際的な感染拡大のリスクに対する定期的な検討と評価およびこれらのリスクを軽減するための対策が保証されることを進言しました。

ワクチン由来のポリオウイルスに対する注意

 PHEICの特別な議題ではないものの、委員会は、ワクチン由来のポリオウイルスの流行による集団発生の阻止はポリオを終わらせる戦略の重要な要素であることも議題に上げました。委員会は、現在、マダガスカルでワクチン由来のポリオウイルス1型が発生し続けていることを取り上げ、全てのポリオウイルスの感染伝播が遮断されるまではポリオの撲滅はできないだろうと警鐘を鳴らしました。委員会は、発生が続くワクチン由来のポリオウイルスへの取り組みを提唱し、マダガスカルへ追加支援を提供することを加盟国に求めました。

 野生株ポリオウイルスに関する助言、アフガニスタンとパキスタン並びに現在入手可能な情報から作成された報告書に基づき、事務局長は委員会の評価を受理し、2015年8月10日に国際的な懸念に関する公衆衛生緊急事態(PHEIC)が続いていると判断しました。事務局長は、国際保健規約(IHR)の下、委員会によって改定されたとおり、2015年野生型ポリオウイルスの国際的な感染拡大を低下させるために8月10日から有効の一時勧告として「現在、野生型ポリオウイルスを感染輸出している国」、「野生型ポリオウイルスの感染があるが、現在は感染輸出していない国」、「もはや野生のポリオウイルスの感染はないが、国際的な感染拡大を受けやすい国」に対する委員会の勧告を支持し、これらを延長しました。事務局長は、委員会メンバーと専門家アドバイザーにその助言に対する謝意を示し、この発生状況でのこれからの3か月間に対する彼らの再評価を依頼しました。
 ワクチン由来のポリオウイルスの流行について、事務局長は、ポリオ撲滅が成功を迎えられるようにワクチン由来ポリオウイルスの発生を含め、ポリオウイルスの感染伝播を遮断することの重要性を強調しました。

出典

WHO.Media center news, Statements. 17 August 2015
Statement on the6th IHR Emergency Committee meeting regarding the international spread of wild poliovirus.
http://www.who.int/mediacentre/news/statements/2015/ihr-polio-17-august-2015/en/