狂犬病について(ファクトシート)
2015年9月WHO(原文[英語]へのリンク)
要点
- 狂犬病は150以上の国・地域で発生していますが、ワクチンで予防できるウイルス性疾患です。
- イヌは人の狂犬病の感染源の大半を占めています。
- 狂犬病の撲滅はイヌにワクチン接種することで実現可能です。
- 毎年、数万人が狂犬病により死亡しており、そのほとんどがアジアとアフリカで発生しています。
- 狂犬病が疑われる動物に咬まれた人の40%は15歳未満の子どもです。
- 狂犬病が疑われる動物と接したときには、直ちに傷を洗浄することで、生命を救うことができます。
- 毎年、狂犬病を予防するために世界で約1,500万人が暴露後予防接種を受けています。これは、毎年、数十万人の狂犬病患者の生命が救われている計算になります。
狂犬病は、発症後にほとんど全員が死に至るウイルス感染症です。人の場合の99%以上において、狂犬病ウイルスは飼いイヌから感染伝播しています。狂犬病は、ペット動物、野生動物に感染し、これらが唾液を介して咬む、又は引っ掻くことで人に拡がります。
狂犬病は、南極大陸を除く全ての大陸に存在します。しかし、死亡者の95%以上はアジアとアフリカで発生しています。
狂犬病は、死者が出てもほとんど届けられることのない、貧しく体制の脆弱な集団、そして、人用の狂犬病ワクチンと免疫グロブリンが確実に利用できることのない、又は、利用できる環境に行けない地域の集団、で発生する顧みられない疾患です。主に、遠隔の農村部で発生し、5-14歳の子どもが最も多く犠牲になっています。
狂犬病暴露後予防接種(PEP)の平均費用は、アフリカでは40USドル、アジアでは49 USドルとなるため、1日の平均収入が1-2 USドルほどしかない貧困な人々にとっては破滅的な高額になります。
予防
イヌの狂犬病の撲滅
狂犬病はワクチンで予防できる疾患です。イヌへのワクチン接種は、人での狂犬病予防における最も対費用効果のある対策です。イヌへのワクチン接種は、狂犬病による死亡に着目させるだけでなく、イヌ咬傷治療の一部としての暴露後予防接種(PEP)の必要性にも着目させます。
人での予防接種
狂犬病暴露前予防接種も安全かつ有効なワクチンとして使用されています。これは長時間を野外で過ごす旅行者、特に、サイクリング、キャンプ、ハイキングなどの農村地域での活動やウイルス暴露への大きなリスクのある地域で長期間を過ごす旅行者や滞在者、に勧められます。
狂犬病暴露前予防接種は、活性のある狂犬病ウイルスやその他の狂犬病関連ウイルス(リッサウイルス属)を扱う研究施設関係者のようなリスクの高い職業の人々、さらに、狂犬病に汚染された地域でコウモリ、肉食動物、その他の哺乳動物と専門的または何らかの機会に直接ウイルスと接触する可能性のある活動をする人々にも勧められます。
症状
狂犬病の潜伏期間は、一般的には1か月から3か月ですが、1週間未満から1年以上と幅があります。狂犬病の初発症状には、発熱、頻繁な創傷部位の痛み、説明のつかない異常なヒリヒリやチクチクする痛み、灼熱感(錯感覚)があります。ウイルスが中枢神経系に広がるにつれ、脳と脊髄に、進行性で致命的な炎症を起こします。
この疾患には2つの病型があります。狂躁型の狂犬病では、活動性の亢進、易興奮性、恐水症状、また時に恐風症状が、現れます。数日後には、心肺停止によって死亡します。
麻痺型の狂犬病は、人の狂犬病全体の約30%を占めます。狂躁型ほどの激烈さはなく、通常、長い経過をたどります。筋肉は、咬傷または擦過傷部位から、徐々に麻痺を生じます。昏睡が徐々に進行し、最後には死に至ります。麻痺型の狂犬病は、しばしば誤診され、疾患の過少報告につながっています。
診断
発症の前に狂犬病の感染を診断できる検査はありません。また、恐水症状や恐風症状のような狂犬病に特有の症状が出現するまでは、臨床診断が困難です。人の狂犬病は、生検と死亡解剖のいずれかの方法であれば、脳脊髄液中の全ウイルス、ウイルス抗原、ウイルス特異的抗体や感染した組織(脳、皮膚、尿、唾液)中の核酸を標的とした様々な診断技術によって確定検査することができます。
感染伝播
通常、人は、感染した動物に深く咬まれたり、引っ掻かれたりすることで感染します。イヌは、狂犬病の主たる宿主であり、媒介動物です。 イヌは、アジアとアフリカでは人の狂犬病の死亡原因です。
アメリカ大陸では、コウモリがほとんどの狂犬病死亡の感染源です。 また、コウモリの狂犬病は、最近、オーストラリア、西ヨーロッパでも公衆衛生上の脅威となっています。非常に稀ですが、キツネ、アライグマ、スカンク、ジャッカル、マングースや他の野生の肉食動物種から人に狂犬病が感染し、死に至ることがあります。
感染伝播は、感染性物質(通常は唾液)が人の粘膜や新鮮な傷に直接接触することで起こることもあります。理論上は、人が人を咬むことによるヒト-ヒト感染も起こり得ますが、確認されたことはありません。
稀に、狂犬病はウイルスを含むエアゾールの吸入や、感染した臓器の移植を通しても感染します。狂犬病に感染している動物の生肉または他の組織の摂取は、人への感染源にはなりません。
暴露後予防接種(post-exposure prophylaxis : PEP)
狂犬病暴露後予防接種(PEP)は、狂犬病感染を防ぐために狂犬病に曝露された後、直ちに咬傷被害者に開始される治療のことです。暴露後予防接種は、以下で構成されています。
- 暴露後、できるだけ早く創部の局所処置を開始する
- WHOの標準治療に合わせて強力かつ有効な狂犬病ワクチンを定められたコースで接種する
- 適応がある場合には、狂犬病の免疫グロブリンを投与する
狂犬病に暴露後、早期に有効な治療を行えば、発症の発症と死を防ぐことができます。
創部の局所処置
これは咬傷に必要とされる応急処置で、狂犬病ウイルスを失活させる、石鹸と水、洗剤、ポビドンヨード、その他の物質で最低15分間、直ちに徹底して感染性物質の洗い出しと傷の洗浄を行います。
推奨される暴露後予防接種
狂犬病が疑われる動物と接した状況にしたがって、暴露後予防接種は行われます(下表参照)。
狂犬病が疑われる動物との接触状況による区分 | 暴露後予防の方法 |
---|---|
区分1-動物に触れた。動物に餌を与えた。動物に正常な皮膚をなめられた。 | なし |
区分2-露出した肌を軽く咬まれた。出血のない引っ搔き傷や擦り傷ができた。 | 迅速なワクチン接種と創部の処置 |
区分3-単回または複数回の皮膚を貫く咬傷・擦過傷ができた。傷のある皮膚をなめられた。なめられて粘膜が唾液に汚染された。コウモリと接触した。 | 迅速なワクチン接種、狂犬病免疫グロブリンの投与、創部の処置 |
区分2と区分3の暴露はすべて、狂犬病を発症するリスクがあると評価され、暴露後予防接種を必要とします。以下の場合は、このリスクが高くなります。
- 咬まれた動物が狂犬病の保有が知られている種または媒介種である場合
- 咬まれた動物が病気のようだったり、異常な行動を起こしたりしている場合
- 傷や粘膜が動物の唾液で汚染された場合
- 刺激することなく動物に咬まれた場合
- 咬まれた動物が予防接種を受けていなかった場合
開発途上国では、暴露後予防接種をするかしないかを決める際に、疑われる動物の予防接種歴のみで考えるべきではありません。
機構は、イヌの狂犬病の撲滅を通じて人の狂犬病を予防するだけでなく、皮内投与をより広く普及させることによって投与量を減らすことで、細胞培養ワクチンの生産コストの80%~60%を削減することも推進しています。
WHOの取り組み
WHOは、国際連合食料農業機関(FAO:Food and Agriculture Organization)、世界動物保健機関(World Organization for Animal Health)、狂犬病制御世界同盟(GARC:Global Alliance for Rabies Control)と共同で、狂犬病汚染国で、この持続する人獣共通感染症を克服することへの関心を高め、取り組みを進めています。
ビル&メリンダ・ゲイツ財団のプロジェクトの一部としてWHOが主導しプロジェクトが進められ、フィリピン、南アフリカおよびタンザニアでは大きく前進しました。新しく国や地域やで狂犬病プログラムを維持し拡大する鍵は、小さくても始めること、成果と費用対効果を示すこと、地域社会の参加を確保することにありました。
イヌと人の狂犬病ワクチンの備蓄は、各国の狂犬病撲滅への取り組みを促進する効果がありました。
イヌから感染する狂犬病が、ラテンアメリカの多く国、チリ、コスタリカ、パナマ、ウルグアイ、アルゼンチンのほとんどの地域、ブラジルのサンパウロ州、リオデジャネイロ州、メキシコの大部分の地域、およびペルーから撲滅されています。
WHO東南アジア地域事務局の多くの国が、2020年までに地域から狂犬病を撲滅する目標に沿って、狂犬病撲滅キャンペーンを始めました。バングラデシュは2010年に撲滅プログラムを開始し、イヌの咬傷、大規模なイヌの予防接種、無料でのワクチン利用機会の増強を通して、2010-2014年での狂犬病死亡者50%を削減しました。
出典
WHO Fact sheet N°99
Rabies, Updated September2015
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs099/en/