中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)に関するIHR緊急委員会第10回会議でのWHOの声明

2015年9月3日 WHO (原文[英語]へのリンク

2015年9月3日付けのWHOメディアセンターからの発表によりますと、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)に関するIHR緊急委員会第10回会議が、国際保健規則(2005)に則った事務局長の召集により、2015年9月2日中央ヨーロッパ時間13時(欧州中央時間夏時間:UTC+2)から16時20分までテレビ会議によって開催されました。会議の中で、WHO事務局は、サウジアラビア、ヨルダン、アラブ首長国連邦(UAE)の最近の症例や感染伝播のパターンなどの疫学的・科学的進行状況について委員会に更新情報を提出しました。また、事務局は、これらの事象、感染制御と予防対策に関する情報に対して現時点でのリスク評価を提出しました。

加盟国であるヨルダン、サウジアラビア、韓国、フィリピン、タイおよびUAEから、自国でのMERS-CoV発生状況の事態と評価の現状に関する情報が提出されました。

事務局は、病院ベースで起きたMERS患者の集団発生のために、2015年8月23日に行われたサウジアラビアに対するWHOの派遣団報告について伝えました。予備的な結論の一つは、最も深刻な感染の影響を受けた病院では、ウイルスの感染伝播が救急治療室で深刻な院内での集団感染を起こしていたことでした。確立された重症度の選別システムがあるにもかかわらず、患者の過密状態、診断前の感染者の行動、および感染の予防と制御(IPC)の対策の適用のいくつかの破綻によって、ウイルスの感染伝播は発生しました。これらの鍵となる要因は、発生を助長しました。

緊急委員会の委員たちは、発生状況は国際的な公衆衛生上の脅威となる事象(PHEIC)には依然として該当していないという意見で一致しました。同時に、彼らは、全体としてMERS発生の状況に対する懸念は高まっていると強調しました。人に対するMERSが出現して3年が経つものの、国際社会は、この新興感染症を地域内に留めています。いくつかの国ではラクダから人へのウイルスの感染伝播が常態化し、医療施設内では人と人での感染伝播が起こり続けています。院内での集団での感染発生は、ほとんどの場合、診断されていないMERS感染者からの暴露と関係しています。現在続いている発生状況に寄与する主な要因は、特に救急部門などの医療施設環境で、このウイルスがもつ緊急的な危険性について認識が不足し、すべての担当する部門が十分に関与せず、大がかりな感染制御の対策が実行不十分であることにあります。委員会は、莫大な労力が注ぎ込まれ、これらの地域である程度の進歩が達成されていることは認識しています。しかし、委員会は、進歩自体がこの脅威を制御するに十分ではないこと、そして、このことが達成されるまでは、それぞれの国そして国際社会にさらに大規模な感染への重大な危険性が残されていることを指摘しています。

また、最近の感染はハッジの始まりと密接に関係しながら発生しており、たくさんの巡礼者が監視体制と医療環境の弱い国に戻るとみられています。最近の韓国での感染発生はMERSウイルスが新しい環境で出現したときに、医療環境や社会に広く感染伝播し、社会で深刻な混乱が生じる可能性を秘めていることを示しました。

さらに委員会は、このアドバイスが完全に守られていないことを指摘しました。ウイルスに対する検査で陽性の無症候の感染者には、必ずしも報告が必要とされていません。感染が発生した国で実施された調査研究とウイルス学的な調査を含め、公衆衛生上の重要で詳細な情報が適時共有されることは、限定的なものに留まり、期待に届かぬものとなっています。例えば、ウイルスが動物から人へ、人から人へ、さまざまな環境の中でどのように感染伝播していくのか、ということの理解には進展が不十分です。委員会は動物の担当部門からの情報を欠いていることには失望を示しました。

委員会は、全ての関係する行政当局、特に国家公衆衛生、動物および農業の関係機関に、MERSか持つ公衆衛生上のリスクの継続性と重大性を警鐘することが重要であるとの印象を持ちました。これらの担当部門は、国内的にもそして国際的にも、WHOから発行されたアドバイスに従い協力していかなければなりません。

委員会は以下のことをアドバイスしました。

  • これまでのアドバイスは現在も適用させることができます。
  • 行政当局は、全ての医療施設が、特に感染予防と制御対策および患者の早期発見を含む適切な対応の実践と維持のために、対応能力、知識そして訓練を行うことを確保する必要があります。
  • 該当する行政当局が協力して、動物と人との両方でのMERSの感染制御を妨げている現在より深い体制上の問題に対処する必要があります。
  • 国家当局は、疫学調査、ウイルス遺伝子配列の情報、調査研究における知見など、公衆衛生上の重要な情報を迅速に適時共有していくことを確保する必要があります。
  • 人と動物のワクチンおよび治療法の開発に対するための国際協力を加速させることが必要です。
  • ラクダが市中感染の主たる感染源であることの証拠から考えれば、公衆衛生、動物の健康と農業の担当部門はMERSの公衆衛生上のリスクに対処するために協力体制を向上させることが必要です。
  • 国家的なリーダーシップは、MERSがもたらす課題に、柔軟、効率的かつ十分に政府全体で調整された対策を確保するために不可欠となります。

事務局長は、委員会のアドバイスと現在利用できる情報に基づいて、委員会のアセスメントを受理しました。事務局長は委員会の一連の報告に謝意を表しました。

渡航や貿易の制限を通じてMERSの拡散を防ぐ措置を講ずることへの公衆衛生上の正当な理由はありません。入国地点のスクリーニング検査は、現時点では不要と考えられています。しかし、MERS感染国へ又は感染国からの旅行者の間に、特に巡礼の際に、MERSとその症状について注意を喚起しておくことを、強くお勧めします。

WHOは、委員とアドバイザーに更新された情報を提供していきます。発生状況が必要とする場合には、緊急委員会が再招集されます。

出典

WHO:Media Center News, Statements. 3September2015
WHO statement on the tenth Meeting of the IHR Emergency Committee concerning MERS-CoV
http://www.who.int/mediacentre/news/statements/2015/ihr-emergency-committee-mers/en/