抗生物質への耐性について (ファクトシート)
2015年10月 WHO (原文[英語]へのリンク)
要点
- 今日、抗生物質への耐性は、世界の健康を脅かす最大のものの一つです。これは、誰にでも、どの年齢層にも、どの国の人々にも影響を与えます。
- 抗生物質への耐性は自然に発生しますが、人や動物における抗生物質の乱用は、そのプロセスを加速します。
- 肺炎、結核、淋病といった増え続ける感染症は、これらの治療に使用される抗生物質が効きにくくなっており、治療をより困難なものにしています。
- 抗生物質への耐性は、長期の入院、医療費の高騰および死亡率の増加を導きます。
序説
抗生物質は、細菌感染を予防し治療するために使用される薬剤です。抗生物質への耐性は、細菌がこれらの薬剤を使用したことに反応して変化を生じたときに、発生します。
細菌は、人類に関係なく、抗生物質に耐性となります。その後、このような細菌が人に感染すると、非耐性菌よりも治療を困難にします。
抗生物質への耐性は、長期の入院、医療費の高騰および死亡率の増加を導きます。欧州連合(EU)だけで、薬剤耐性菌は25,000人に死をもたらし、毎年、医療費と生産力の損失に毎年15億USドル以上を費やさせていると推定されています。世界は、早急に、我々が処方し使用している抗生物質への姿勢を変える必要があります。新薬が開発されたとしても、現在の姿勢を変えなければ、抗生物質への耐性は、今後も大きな脅威となります。現在の姿勢の変更には、ワクチン接種、手洗いと清潔な食品衛生を通して感染の広がりを減らす活動も含めておかなければなりません。
問題の焦点
抗生物質への耐性は、世界中すべての地域で危険な高いレベルまで上昇しています。新しい耐性機序が、毎日、世界中に現れ、拡がり、そして、我々が一般感染症を治療できる能力を脅かしています。肺炎、結核、淋病といった一連の増え続ける感染症は、これらに治療に使用される抗生物質で治りにくくなっているために、治療をより困難に、ときには不可能にしています。
抗生物質を処方箋なしに購入できる国では、耐性の出現と拡散をさらに悪化させています。また、標準治療ガイドラインを備えていない国では、しばしば抗生物質が医療者によって過剰処方され、市中で過剰に使用されています。
早急に行動しなければ、我々は抗生物質投与後の時代に向けて、かつてのように一般感染症や軽傷が再び命を奪うことになります。
予防と管理
抗生物質への耐性は、抗生物質の乱用や過剰投与だけでなく、不十分な感染の予防と制御によっても加速されます。社会のあらゆるレベルで薬剤耐性の影響を減らし、拡散を限られたものにするために以下のステップを踏むことができます。
社会一般が取り得るステップ
- 規則的な手洗い習慣、清潔な食品衛生によって感染症を予防すること、病気の人々との濃厚な接触を避けること、そして、最新のワクチン接種状態を維持すること
- 資格をもった医療専門家により処方されたときにのみ抗生物質を使用すること
- 常に、処方された薬を完全に飲みきること
- 決して、使い残しや使いすぎをしないこと
- 決して、他人との間で抗生物質を分け合わないこと
医療者と薬剤師が取り得るステップ
- 手指、器具、環境を清潔に保つことにより感染症を予防すること
- 最新の患者のワクチン接種状態を維持すること
- 細菌感染が疑われたときには、細菌培養を行い、検査で確認すること
- 抗生物質は本当に必要とされるときだけに、それらを処方し配布すること
- 正しい用量と正しい投与期間で処方し配布すること
政策立案者が取り得るステップ
- 抗生物質への耐性に取り組む確固たる国の活動計画をもつこと
- 抗生物質耐性菌への感染症に対する調査活動を改善すること
- 感染の予防と制御の対策を強化すること
- 品質の高い医薬品の適正使用を統制し、推進すること
- 抗生物質耐性菌の影響に関する情報を利用できるようにすること
- 新しい治療の選択肢、ワクチン、診断方法の開発を奨励すること
農業従事者が取り得るステップ
- 家畜動物やペットを含め、動物に与える抗生物質は、感染症の治療に対し、獣医師の指示の下でのみ使用されるということを着実に行うこと
- 抗生物質の必要性を減らす動物へのワクチン接種と、植物の中での抗生物質の使用に対する代替物を開発すること
- 動物と植物を起源とする食品の生産と加工の全工程で適切な実施基準を推進し適応させること
- 動物への衛生環境の改善、防疫、ストレスのない管理を備えた持続可能な体制を採り入れること
- OIE(国際獣疫事務局)、FAO(国際連合食糧農業機関)、WHOによって定められた、抗生物質の使用に関する国際標準使用を履行すること
製薬企業が取り得るステップ
新しい抗生物質、ワクチン、および診断に投資すること
最近の動向
いくつかの新しい抗生物質が開発中ではありますが、何れも最も危険な種類の抗生物質耐性菌に対して有効となることは期待されていません。
現在、人々が旅行することの容易さや頻度を考えれば、抗生物質耐性菌は全ての国で努力を必要とする世界的な問題です。
社会的影響
感染症がもはや標準治療の抗生物質では治療できない場合には、より高価な薬が使われなければなりません。長期間の闘病や治療は、しばしば病院において、医療費だけでなく、家族や社会の経済的負担を増加させます。
抗生物質への耐性は現代医学の成果をも危険に曝します。感染症の予防と治療に有効となる抗生物質なしには、臓器移植、化学療法および帝王切開などの手術が、はるかに危険なものとなります。
WHOの取り組み
抗生物質の耐性への取り組みはWHOにとって優先度が高いものです。2015年に、抗生物質への耐性を含む抗微生物薬耐性に対する世界行動計画が世界保健総会で了承されました。世界行動計画は、安全かつ有効な薬剤で感染症の予防と治療が続けられることの確保を目指しています。
世界行動計画には、5つの戦略目標があります。
- 1.抗微生物薬への耐性の認識と理解の向上
- 2.調査活動と研究の強化
- 3.感染症の発生率の低減
- 4.抗微生物薬使用の最適化
- 5.抗微生物薬の耐性に対抗できる持続可能な投資の確保
目標1に関して、WHOは「抗生物質:取り扱い注意("Antibiotics:Handle with care")」をテーマに世界で複数年のキャンペーン活動を進めます。キャンペーン活動は、2015年11月16日から22日を初年度の抗生物質の世界啓発週間として開始します。
WHOは、世界計画の目的に沿って、抗微生物薬への耐性に対処するために各加盟国が独自に行動計画を策定することを支援しています。
出典
WHO Fact sheet
Antimicrobial resistance. October 2015
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/antibiotic-resistance/en/