2016年のニュース

ブルーリ潰瘍(マイコバクテリウム・ウルセランス感染症)について(ファクトシート)

2016年3月 WHO(原文[英語]へのリンク

要点

ブルーリ潰瘍は、恒久的に外観を損なう障害を起こしうる、慢性消耗性皮膚軟部組織感染症です。
マイコバクテリウム・ウルセランス菌(Mycobacterium ulcerans)によって引き起こされます。
ブルーリ潰瘍は、少なくともアフリカ、南アメリカ、西太平洋地域の熱帯、亜熱帯、温帯気候の33か国で報告されています。
2014年には、33か国のうち12か国から、新たに2,000人の患者が報告されています。
患者のほとんどは15歳未満の子どもです。
早期に発見されたうちの80%の患者は、抗生物質を組み合わせることで治療できます。

概要

 ブルーリ潰瘍は、環境細菌のうちのひとつMycobacterium ulcerans によって引き起こされる慢性消耗性皮膚疾患です。この病原体は、結核やハンセン病を引き起こす細菌属に分類されます。罹患率を最小限に抑え、長期障害を防止するには、早期の診断と治療が唯一の方法です。

 感染は、通常、足や腕に大きな潰瘍をつくり、皮膚や軟部組織を破壊します。患者は、早期に治療を受けなければ、長期間の機能障害に苦しむことになります。罹患率を最小限に抑え、障害を防止するには、早期の診断と治療が唯一の方法です。

問題の展望

 科学文献から集められた情報では、ブルーリ潰瘍は、アフリカ、南北アメリカ、アジア、西太平洋の33か国で報告されたことが示されています。ほとんどの患者は、オーストラリア、中国、日本以外では、熱帯・亜熱帯地域で発生しています。33か国のうち15か国では、WHOに定期的にデータが報告されています。

 ほとんどの患者は、ベナン、カメルーン、コートジボワール、コンゴ民主共和国、ガーナなどのアフリカの西部と中部から報告されています。最近は、オーストラリアで患者報告数が増えてきました。

 2014年には、データが定期的にWHOに報告されている15か国のうち12か国から、約2,200人の新たな患者が報告されました。これは、5,000人の患者が報告されていた2009年の半分以下になっています。僅かな例外国を除いて、患者数は2010年以降に減少の傾向です。減少の明らかな原因は分かっていません。

臨床的特徴と疫学的特徴

 疾患の臨床的特徴と疫学的特徴は、国や環境によって、また、国や環境の中でもかなりさまざまです。

 アフリカでは感染者の約15歳未満の子どもが48%なのに対して、オーストラリアでは15歳以下が10%、日本では15歳未満の子どもが19%です。男性感染者と女性感染者の割合には、有意な差は存在しません。

 病変は、四肢に頻繁に発生します。上肢が約35%、下肢が55%、身体の他の部分が10%です。

 重症度については、この疾患は、次の3つのカテゴリーに分類されます。カテゴリーⅠは、単一の小さな病変(32%)、カテゴリーⅡは非潰瘍部と潰瘍部による小斑点および浮腫を伴う病態(35%)、カテゴリーⅢは骨炎、骨髄炎、関節炎などの播種との混合形態(33%)です。オーストラリアと日本では、ほとんどの病変(>90%)がカテゴリーIと診断されています。

 何れの国でも、全ての患者の少なくとも70%は潰瘍の段階で診断されます。

原因微生物の特徴

 Mycobacterium ulceransが増殖するためには、29~33℃の温度(結核菌は37℃で増殖)と低酸素濃度(2.5%)が必要です。この微生物は、免疫応答を阻止し、組織損傷を引き起こすマイコラクトンという特有の毒素を産生します。

感染伝播

 現在も、Mycobacterium ulceransの正確な感染伝播の形式は分かっていません。

所見と症状

 ブルーリ潰瘍は多くの場合、痛みのない腫脹(結節)で始まります。最初、広い無痛性領域の硬結(プラーク)や、脚、腕、顔のびまん性の無痛性腫脹(浮腫)として現れることもあります。マイコラクトン毒素が局所免疫を抑制する特徴は、この疾患が痛みや発熱を発展させないことにあります。治療をしない場合、時に抗生物質の治療中でも、結節やプラークや浮腫は、古典的な下掘れの境界を伴い4週間以内に潰瘍を作ります。時に、骨が感染で大きく変形することもあります。

診断

臨床診断
 全体的には、流行地域の訓練を受けた医療専門家の臨床診断であれば信頼できます。患者の年齢、患者の住む地理的環境、病変の部位、痛みの程度、その他の(健康)状態などが、除外診断に必要とされます。鑑別診断には、熱帯性潰瘍、動脈および静脈不全による慢性下腿潰瘍(多くの場合高齢者層における)、糖尿病性潰瘍、皮膚リーシュマニア症、広範な潰瘍性フランベジア、軟性下疳菌による潰瘍があります。

 初期の結節性病変は時におでき、脂肪腫、ガングリオン、リンパ節結核、オンコセルカ症結節、真菌感染症のような他の皮下感染症と混同されます。

 オーストラリアでは、最初、丘疹状病変が虫刺されと混同されることがあります。

 (逆に、)蜂巣炎は、Mycobacterium ulceransによる感染で生じた浮腫のように見えることがあります。しかし、蜂巣炎の場合、病変は有痛性で、患者は体調を崩し、発熱を呈します。

 HIV感染症は危険因子ではありませんが、流行が重なる国ではHIV感染症が患者の管理を複雑にします。免疫力の低下は、ブルーリ潰瘍の臨床的進行をより早くし、結果として、治療成績が悪くなります。

 国際的な渡航者では、非流行地域に患者が現れることがあります。そのため、医療従事者は、ブルーリ潰瘍の病名とその臨床症状についてよく理解していることが重要です。

検査室的診断
 ブルーリ潰瘍を確定診断するために、4つの標準的な検査方法が使われます。IS2404ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法検査、直接顕微鏡検査、組織病理、と培養です。PCR法検査は最も普及している検査法です。最近、WHOは、検査室の研究者や医療従事者への指針を示すために、これら4つの方法の操作マニュアルを公開しました。

 流行国との非流行国14か国にある17研究所で構成されるWHOネットワークが、患者を(検査で)確定診断する国による感染制御計画を支援しています。

治療

 治療は、抗生物質および(罹患率の管理と障害の予防およびリハビリテーションの下での)相補的治療の組合せで構成されます。医療従事者のための治療指針を、WHO出版物"Treatment of mycobacterium ulcerans disease (Buruli ulcer)."「マイコバクテリウム・ウルセランス症(ブルーリ潰瘍)の治療」で見ることができます。

抗生物質
 組み合わせの異なる抗生物質が8週間投与され、病気の進行段階に関係なく、ブルーリ潰瘍の治療のために使用されます。次の組み合わせのうちの1つを、患者に応じて使用します。

•リファンピシン(10mg/kg、1回/日)とストレプトマイシン(15mg/kg、1回/日)の併用、または
•リファンピシン(10mg/kg、1回/日)とクラリスロマイシン(7.5mg/kg、2回/日)の併用(そのランダム試験による有効性は証明されていない)

 ストレプトマイシンは妊娠時には禁忌のため、リファンピシンとクラリスロマイシンの併用療法が妊娠中の患者にはより安全な選択肢と考えられています。有効性はランダム試験によって証明されていないものの、リファンシピン(10mg/、1回/日)とモキシフロキサシン(400mg、1回/日)の併用も行われます。

罹患率の管理と障害の予防

 創傷の治癒の速度を早めるために、創傷管理や手術(主に壊死組織切除と皮膚移植)などの介入治療が行われます。これによって、機能障害の予防とリハビリに効果があります。

 質の高い治療の環境を確保するために、感染の発生する地域では全てのレベルで医療体制の対応能力を強化しておくことが重要です。

予防

 ブルーリ潰瘍の感染は機序が解明されていないため、予防対策を立てることができません。

感染管理

 ブルーリ潰瘍の感染管理の目的は、身体機能障害や社会的・経済的な負担からの苦しみを最小限に押さえることです。早期発見と抗生物質による治療は、WHOのブルーリ潰瘍に対する感染制御戦略の基礎となります。

研究の優先順位

 この疾患の患者管理を向上させることを目的とした2つの研究が行われています。

1.経口の抗生物質治療の開発
 経口ベースのブルーリ潰瘍治療法を開発する目的で、WHOにより調整が図られた無作為化臨床試験が、2013年にベナンとガーナで始まりました。この研究は、2016年に試験を完了し、2017年末までの1年間、追跡調査が行われる予定です。

2. 治療の観点における蛍光薄層クロマトグラフィー確認検査の利用
 マイコラクトン毒素を検出するために、蛍光薄層クロマトグラフィー法を使った患者の検体の初期診断を行った予備分析の結果では、地域レベルの医療施設で迅速に診断できる大きな可能性が示されました。スイスのジュネーブにある画期的な新しい診断方法のための基金財団(the Foundation for Innovative New Diagnostics:FIND)とハーバード大学の支援によって、この方法の実証評価が、今年、ベナン、コンゴ民主共和国、ガーナで開始されます。

WHOと世界における取り組み

 WHOは、技術指針を提供し、行政計画の方向性を示し、感染制御と研究への取り組みの調整を図っています。

 WHOは、ブルーリ潰瘍に関係する主要関係の者全てを結集して、定期報告を土台とする情報共有を行い、疾病の管理と研究への取り組みを調整し、進捗状況を注視しています。

 また、これらの取り組みは、ブルーリ潰瘍の可視化を高め、これに挑む人的・物的資源の動員を助けます。WHOのリーダーシップの下、非政府組織、感染が発生する国の研究機関や政府の支援を受けて、安定かつ力強い歩みが創られています。

出典

WHO. Media centre. Fact Sheet. Updated February 2016
Buruli ulcer(Mycobacterium ulcerans infection)
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs199/en/