食品由来の吸虫症について(ファクトシート)

2016年3月 WHO (原文[英語]へのリンク)

要点

  • 少なくとも5,600万人が1種類もしくはそれ以上の食品由来の吸虫症にかかっています。
  • 人は、吸虫の幼虫が付着している生の魚、甲殻類、野菜を食べることで感染します。
  • 食品由来の吸虫症に最も多く感染している地域は、東南アジアと南米です。
  • 食品由来の吸虫症は、重症の肝疾患や肺疾患を起こします。
  • 食品由来の吸虫症の予防や治療には、有効かつ安全な薬剤があります。

概観

世界で、5,600万人以上の人々が食品由来の吸虫症に感染しています。

食品由来の吸虫症(flukes)は、人に感染する最も一般的な吸虫はClonorchisOpisthorchisFasciolaParagonimusといった種類によって起こされます。

人は、小さな吸虫の幼虫が付着している、生や加熱不十分の食品である魚、甲殻類、野菜を食べることで感染します(表1)。

感染経路

食品由来の吸虫症は動物由来の感染症で、当然、脊椎動物から人へ、人から脊椎動物へも伝搬されます。しかし、関係する原因寄生虫は、通常、人以外の中間宿主で成長する段階を必要とする複雑な生活環を経た後でのみ感染力を持つため、直接、感染が伝播することはありません。

第一中間宿主はすべての種類で淡水産の巻貝です。第二中間宿主は種類によって異なります。肝吸虫症(clonochiasis)とオピストルキス症(opisthorchiasis)は淡水魚、肺吸虫症(paragonimiasis)は甲殻類が第二中間宿ですが、肝蛭症(fascioliasis)は第二中間宿主を必要としません。最終宿主は常に哺乳類となります。

人は、吸虫の幼虫に感染した第二中間宿主を食べることで感染します。肝蛭症の場合、吸虫の幼虫が付着した生野菜を食べることで感染します。(詳細は表1)

図、食品由来吸虫症の疫学的特徴

疫学とその脅威

2005年には、世界で5,600万人以上の人が食品由来の吸虫症に感染し、7,000人以上が死亡していました。

食品由来の吸虫症患者は70か国以上の国で報告されていますが、東南アジアと南米で最も多く発生しています。これらの地域では、食品由来の吸虫症は公衆衛生上の重要な課題となっています。

患者が発生している国の中でも、感染伝播は、しばしば限られた地域でみられ、人々の食習慣と食料の生産方法や調理法、中間宿主の分布が反映されます。アフリカにおける食品由来吸虫症の発生状況に対する疫学情報は、ほとんどありません。

食品由来の吸虫症による経済的な影響は大きく、動物の生産、並びに輸出の制限や消費意欲の低下に伴う家畜産業や養殖業の損失へとつながります。

症状

食品由来の吸虫症による公衆衛生上の疾病脅威は、死亡率よりもむしろ罹患率によるものが主体です。

感染早期や軽症の時は、無症状か、ほとんど症状がないため、しばしば見過ごされています。逆に、感染した虫体数が多い場合には、全身倦怠感がよくみられ激痛が現れることがあります。特に、肝蛭症の場合には、しばしば腹部に激痛が現れます。

慢性の感染では、常に重い症状がみられます。症状は、主に臓器に特異的で、最終的に体内で成虫が寄生する部位を反映します。

<肝吸虫症とオピストルキス症>

成虫は、肝臓の小胆管に寄生し、炎症を起こすほか、隣接組織の線維化を起こします。最終的には重篤で致死的な胆管癌を起こします。ネコ肝吸虫(O. felineus)以外の肝吸虫(肝吸虫C.sinensisとタイ肝吸虫O.viverrini)は、発癌性を有する病原体に分類されています。

<肝蛭症>

成虫は、太い胆管や胆嚢に寄生し、炎症、線維化、閉塞、疝痛、黄疸を起こします。しばしば、肝線維症と貧血もみられます。

<肺吸虫症>

肺吸虫は、最終的に肺に寄生します。症状は、結核の症状に似ており、血痰を伴う慢性の咳嗽、胸痛、呼吸困難(呼吸促迫)、発熱がみられます。体内を移行することがあり、脳に移行した場合が最も重症です。

予防と感染制御

食品由来の吸虫症の感染制御は、感染リスクを減らし、疾患に関連した病状を抑えることを目指しています。

WHOは、感染リスクを減らすために、獣医公衆衛生学的な対策や食品安全対策の実施を推奨しています。また、病状の進行を抑えるために、有効かつ安全な駆虫薬を使った治療を受けられる環境への改善も推奨しています。

治療は予防的化学療法や個々人への患者治療を通して提供されます。予防的化学療法は、個人が感染しているか否かにかかわらず、地域の住民全体に薬を投与するという、集団を対象とした治療方法を行います。感染者の多い地域では推奨されます。

個々の患者治療は、感染していることが確定された患者や感染が疑われる患者の治療を目指しています(表2)。この治療方法は、患者が集団発生してはいない場所や、医療機関を利用できる場所ではより適切な方法です。

図、推奨される治療と戦略

WHOの取り組み

WHOの食品由来の吸虫症に対する活動は、顧みられない熱帯病を制御するための総合対策の一環であり、次のような活動を行っています。

  • 戦略の方向性と勧告の作成
  • 流行国における発生地域の分布図の作成支援
  • 流行国における試験的な介入と感染制御計画への支援
  • 実施活動の監視と評価への支援
  • 食品由来の吸虫症の脅威と実施された介入の効果に関する文書作成

WHOは、確実に最悪の結果(胆管癌など)を十分に防ぐことができるように、対象者に食品由来の吸虫症に含めて、その対策の主流となる予防的化学療法を推進しています。

また、WHOはノバルティスファーマAGと交渉し、同社から、肝蛭症と肺吸虫症の治療薬であるトリクラベンダゾールの無償提供を受けることで合意に至りました。この薬剤は各国保健省からの申請により、無償で提供されます。WHOは、この提供計画を利用することを、すべての流行国に勧めています。

2015年には、流行地に住む薬608,000人が食品由来の吸虫症の治療を受けたと報告されました。食品由来の吸虫症の感染制御に対する大規模治療の計画が、ボリビア、コロンビア、ベトナムで実施されています。

出典

WHO.Media Centre.Fact Sheet.Update March2016
Foodborne trematodiases
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs368/en/