ハンセン病について(ファクトシート)
2016年4月 WHO(原文〔英語〕へのリンク)
要点
- ハンセン病は、Mycobacterium leprae(らい菌)という増殖速度が遅い細菌によって起こる慢性疾患です。
- らい菌は増殖速度が遅く、疾患の潜伏期間が約5年です。症状が現われるまでに20年かかることもあります。
- この疾患は、主に皮膚、末梢神経、上気道粘膜、さらには眼を侵します。
- ハンセン病は治療が可能です。
- らい菌の感染力は強くありませんが、治療されていない患者と濃厚かつ頻回に接触すると、鼻や口からの飛沫で感染します。
- ハンセン病は、治療しなければ、皮膚、神経、手足、眼に、進行性で一生残る障害を起こします。
- WHOの5つの地域事務局にある121か国から公表された数値では、2014年末の時点で17万5,554人(原文どおり記載)のハンセン病患者の罹患が世界で登録されていることが示されました。同年1年間には、新たに21万3,899人の患者が報告されました。
概要
ハンセン病は、抗酸性桿菌Mycobacterium leprae(らい菌)によって起こされる慢性感染症です。この疾患は、主に皮膚、末梢神経、上気道粘膜、眼を侵します。
ハンセン病は、治療が可能で、早期に治療すれば障害を防ぐことができます。
多剤併用療法(MDT)が、1995年以降、世界中のすべての患者に対しWHOから無料で受けられるようになりました。MDTは、すべての病型のハンセン病に単純ですが高い有効性をもつ治療を提供します。
世界的には、ハンセン病の撲滅(世界でハンセン病の有病率が1万人当たり1人未満)を2000年に達成しました。過去20年以上に渡って、1,600万人以上のハンセン病患者が多剤併用療法によって治療されてきました。
今日のハンセン病
ハンセン病の感染制御は、国や地方行政の取り組みによってほとんどの常在国で大きく改善しました。従来の一般的な医療保健サービスの中に初期のハンセン病の保健サービスを組み入れたことで、この疾患の診断と治療が容易になりました。
地域社会の中からすべての患者を発見し、MDTによる治療を貫徹することが、「ハンセン病による脅威のさらなる軽減のため向けた世界戦略の強化」(計画期間は2011年から2015年まで)の基本教義になります。
WHOは、2016年に新たな世界戦略「ハンセン病の世界戦略2016-2020:ハンセン病のない世界への加速」を開始しました。それは、ハンセン病の感染制御のための努力をもう一度活性化し、障害を回避すること、特にこの疾患が常在国で感染した子どもたちで障害を回避することを目的としています。
この戦略では、必要なこととして専門知識を維持し、ハンセン病に精通したスタッフを増やし、ハンセン病への医療支援を提供する中での感染した人との関わりを改善し、外観の変形(グレード2の障害)を減らすことに加えて、ハンセン病に対する偏見を減らすことの必要性が強調されています。また、この戦略は、政治の関わり方の一新、支援組織間での関係調整の強化、さらに研究の重要性とデータ収集と分析の向上の重要性を強調しています。
ヨーロッパを除く全てのWHO地域事務局にある121か国から公表された報告によれば、2014年末までに世界で登録されたハンセン病罹患者は17万5,554人(1万人あたり0.24人)でした。2014年には、世界で報告された新たな患者数は21万3,899人でした。2013年の新たな患者数は21万5,656人、2012年は23万2,857人でした。
新規の患者数は、感染の伝播が一定程度続いていることを示しています。世界統計では、新たなハンセン病患者200,808人(94%)が、新たに1,000人以上の患者が報告された13か国から報告されました。残る国から報告された新たな患者数はたったの6%でした。
新たな患者数が1,000人に満たない国も含めて、たくさんの国のいくつもの地域で、現在も高密度に局所的に残るポケットがあります。これらの地域の一部では、新たな患者の通報の割合が非常に高く、強烈な感染伝播を目の当たりにすることがあります。
略史-ハンセン病と治療
ハンセン病は、中国、エジプト、インドの古代文明で知られていました。歴史を通して、感染した人々は、しばしば地域社会や家族からのけ者にされてきました。
ハンセン病は、過去には様々な方法で治療されましたが、最初に進展があったのは、1940年代にハンセン病の進行を阻むダプソンが開発されたことでした。しかし、治療期間は長期に渡り、時には生涯続くこともあり、患者が治療を続けることは困難でした。1960年代に、らい菌は、当時、世界で唯一の抗らい病薬として知られていたダプソンに耐性を持ち始めました。1960年代の初めに、リファンピシン、クロファジミンその他で、推奨される2剤を併用する多剤併用療法(MDT)が発見されました。
1981年に、WHOの研究グループはMDTを推奨しました。MDTは、ダプソン、リファンピシンの2種類、これに複数の細菌性疾患のためのクロファジミンを加えた3種類の薬剤で構成されています。この薬剤の併用が病原体を殺し、患者を治療します。
1995年以降、WHOは世界中のすべての患者に対して無料で多剤併用療法を提供しています。当初は、日本財団から基金が提供され、2000年以降は、ノバルティスとの合意で基金が提供されています。
公衆衛生学上の問題としてのハンセン病の撲滅
1991年、WHOの最高意思決定機関である世界保健総会は、2000年までにハンセン病を撲滅するという決議を採択しました。ハンセン病の撲滅は、人口1万人当たりの有病率が1人未満と定義されます。目標は予定通りに達成されました。MDTを使った治療の普及と治療期間の短縮が、この減少傾向に大きく貢献しました。
- 過去20年間にわたり、1,600万人以上のハンセン病患者が治療されました。
- 疾患の有病率は、99%下がり、1983年の人口1万人当たり21.1から、2014年には人口1万人当たり0.24に下がりました。
- 全世界でのハンセン病の脅威は劇的に減少しました。1985年に520万人であった患者の発生が、1995年には80万5,000人、1999年の年末には75万3,000人、2014年末には17万4,554人まで減少しました。
- (人口100万未満の)いくつかの小さな国を除いて、ハンセン病は全ての国から撲滅されています。
- これまでに、単剤に対する散発的な耐性患者は観られたものの、MDTでのハンセン病治療に対する耐性は報告されていません。(それでも)警戒体制は世界の定点観測調査の機構を通して維持されています。
- 現在は、(特に障害に対する)疾患の脅威を低減し、感染伝播を遮断するために、患者の早期発見を促進することに焦点を当てています。これは、究極的には国家より下層レベルでハンセン病の撲滅に貢献するはずです。
求められる行動と社会資源
治療をすべての患者に行き届かせるためには、ハンセン病の治療が一般の医療保健サービスの中に完全に組み込まれる必要があります。さらに、ハンセン病が依然として公衆衛生上の懸案となっている国では、政治的な関与も維持される必要があります。ハンセン病の撲滅に携わる関係機関も、人的資源や財政支援が利用できる環境を確保し続ける必要があります。
長年にわたるハンセン病への偏見は、依然として、自発的な受診や早期治療からの障害となっています。ハンセン病のイメージが、世界レベルでも、国家レベルでも、地方自治体レベルでも変えらければなりません。患者が、どの医療施設でも躊躇なく診断と治療を受けられるように、新しい環境では、差別をなくし、社会への組み込みを促進させる体制でなければなりません。
WHOの取り組み
ハンセン病の感染制御のための努力をもう一度活性化するために、WHOは、2016年に新たな世界戦略「ハンセン病の世界戦略2016-2020:ハンセン病のない世界への加速」を立て、そこに以下の3つの柱を構築しました。
第1の柱となる活動:政府の責任意識、協調意識、協力意識の強化
- ハンセン病のプログラムに対して政治の関与と十分な物的・人的資源を確保すること
- 子ども、女性と移民や難民などの医療体制を持たない集団に特別に焦点を当てた全世界での健康保険に寄与すること
- 国と国以外の活動家との協力関係を推進することと、国際レベルかつ国内の部局間での連携と協力関係を推進すること
- すべての面でハンセン病の基礎と運用面の研究を行い、促進し、政策、戦略および活動を報告するための証拠ベースを最大にすること
- (地理情報システムを含む)プログラムの監視と評価のため、調査活動および健康情報のシステムを強化すること
第2の柱となる活動:ハンセン病とその合併症の阻止
- ハンセン病に対する患者と地域社会の関心の強化
- 罹患率の高い地域での積極的な患者捜索と接触者の健康監視を通した早期の患者発見の促進
- 治療レジメンの改善に向けた活動を含む、治療の速やかな開始と正確な服薬の確保
- 障害の予防と障害の管理に対する改善
- 検査施設間のネットワークを含む抗菌薬耐性に関する調査活動の強化
- e-ヘルス(電子医療情報)などによる、ハンセン病に関する訓練、紹介および専門知識の維持を行う革新的な方法の推進
- 感染および疾患を予防するための介入の推進
第3の柱となる活動:差別の阻止と社会参加の促進
- すべての形態の差別や偏見に取り組むことによる社会への融合の推進
- ハンセン病に感染した人々への発言力の付与と、ハンセン病の支援に積極的に参加する対応能力の強化
- ハンセン病の支援を向上させるために活動する地域社会の関与
- ハンセン病に感染した人々の間での連携組織づくりの推進、およびこれらの連携組織やその他の社会集団を基礎とする組織メンバーとの統合強化の奨励
- ハンセン病に感染した人々とその家族に対し、所得創出の促進などの、社会的・財政的支援サービス利用の促進
- ハンセン病に関連した障害を持つ人々に対する地域社会を基礎としたリハビリの支援
- 差別的な法律の廃止に向けた活動と、ハンセン病に感染した人々を社会に組み入れる政策の推進
戦略の目標
新たな世界戦略において、2020年までに満たすべき目標は以下のとおりです。
- 新しい小児患者での障害をゼロにすること
- グレード2の障害者の割合を100万人あたり1未満にすること
- ハンセン病に基づく差別を許すような法律をもつ国をゼロにすること
国内および国際的な支援組織からの継続的な支援とともに、国家プログラムによる持続的かつ献身的な行動が、世界におけるハンセン病の脅威を減らすことにつながります。この疾患に感染した人々の社会進出を増やし、社会支援と地域社会への大きな参加を導くことが、私たちにハンセン病のない世界をより早くもたらすことになります。
出典
WHO.Fact sheet, Media centre.Updated April2016
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs101/en/index.html