メジナ虫症(ギニア虫症)について (ファクトシート)(更新)
2016年5月 WHO(原文〔英語〕へのリンク)
要点
- メジナ虫症は、2015年には22人の患者が報告されただけで、根絶間近にある重症の寄生虫症です。
- この疾患は、通常は清潔な水源からの飲料水をほとんど確保できないか全く確保できない人々が、ギニア糸状虫の幼虫を媒介するミジンコ類(サイクロプス)で汚染された澱んだ水を飲むことで感染します。
- 1980年代半ばまでこの疾患が流行していた20か国のうち、2015年に患者が報告された国は4か国(チャド9人、マリ5人、南スーダン5人、エチオピア3人)でした。
- 感染の成立から、成熟した糸状虫が体外に現れるまでの感染伝播のサイクルが完了するには10か月から14か月かかります。
概要
メジナ虫症(ギニア虫症)は長い糸状の寄生虫であるDracunculus medinensisによって引き起こされる重症の寄生虫症です。この疾患は、糸状虫を体内にもったミジンコ類が含まれる澱み水を飲んだときにのみ感染します。
メジナ虫症で死亡することは稀ですが、感染した人には数週間は機能不全が起こります。貧しく孤立した農村地域に住み、飲料水を主に池のような表層水に依存している人々に感染します。
問題の展望
1980年代中頃には21か国で推定350万人のメジナ虫症患者が発生しており、そのうち17か国はアフリカの国でした。報告される患者数は、2007年には1万人未満までに減少しました。さらに、患者数は2012年に542人、2013年に148人、2014年に126人と減少しました。2015年には、世界中で報告された患者数が22人で、これまでの最低となりました。
感染経路・生活環・潜伏期間
感染が成立してから約1年で、有痛性の水疱が現れます。水疱の90%は下肢にみられます。そして、灼熱感を伴いながら1匹かそれ以上の糸状虫が体外に出てきます。患者は、しばしば灼熱感を和らげるために感染部位を水に浸します。このとき、何千もの幼虫が水中に放出されます。これらの幼虫は、ミジンコ類である小さな甲殻類やカイアシに食餌され、後に感染性をもつ段階に達します。
汚染された水を飲むときに、人は感染したミジンコも飲み込みます。ミジンコは胃の中で死にますが、感染性のある幼虫が放出されます。そして、これらは腸壁を貫き、体内に移行します。そして、受精した雌の糸状虫(体長は60cmから100cm)が皮下を移動し、大抵は下肢に達し、水疱や膨隆を形成して体外に現れます。感染してから成虫が体外に現れるまでに10か月から14か月かかります。
予防
この疾患を予防するワクチンと治療薬はありません。しかし、予防戦略を通して予防することができ、この疾患は根絶間近にあります。戦略には、以下の対策があります。
- メジナ糸状虫が体外に現れてから24時間以内に患者を発見するための調査活動を強化する
- 成虫が完全に体外に現れるまでの間、症状の観られる部位を定期的に処置し、清潔を保ち、包帯保護を行うことにより、感染部のメジナ糸状虫からの伝播を防止する
- 患者に対し、水中を歩いて渡ることを控えるように助言し、飲料水の汚染を防止する
- 感染を予防するために、飲料水の供給能を向上させ、より広く提供できるようにする
- 表層水域の水は飲む前に濾過する
- 幼虫の駆除剤であるテメフォス(temephos)により媒介生物の制御を実施する
- 健康教育や行動変容を啓発する
根絶への道のり
1981年5月、「飲料水供給と衛生の10年(1980年~1990年)」における国際的な関係機関の共同歩調を取るための運営委員会が、この10年の達成目標の指標として、メジナ虫の根絶を盛り込むことを提案しました。同年、WHOの意志決定会議である保健総会において、メジナ虫症は根絶の機会にあることを示す「国際飲料水供給と衛生の10年」を認識する決議(WHA34.25)が採択されました。WHOと米国疾病予防管理センター(CDC)が主導し、根絶キャンペーンの戦略や技術指針を作成しました。
1986年、カーター・センターがこの疾患との戦いに参加し、WHOや国連児童基金(UNICEF)の支援組織となりました。以来、このセンターは根絶活動の最前線に立ってきました。2011年には、この取り組みを最後に一押しするために、世界保健総会でメジナ虫が常在するすべての加盟国に対し、感染伝播の遮断を推進することと、メジナ虫の根絶を証明するための全国規模の調査活動を強化することが要請されました。
国からの根絶の証明
メジナ糸状虫が根絶されたことを宣言するには、国が感染伝播がないことを報告し、その後、少なくとも3年間は積極的な調査活動を維持する必要があります。
その期間を経た後、根絶を証明するための国際的なチームが、その国を訪問し、調査活動が適切に行われていたかを評価し、メジナ虫症患者と噂された事例とその後に取られた対策の調査記録を再調査します。
感染が起きていた地域での飲料水源の改善を評価するための指標が検証され、感染伝播がないことを確定するために村の中での評価が行われます。また、再度、疾患が持ち込まれるリスクも評価されます。最終的に再評価のために、報告書がメジナ虫症根絶証明国際委員会(International Commission for the Certification of Dracunculiasis Eradication; ICCDE)に提出されます。
1995年以降、ICCDEは10回開催されました。ICCDEの勧告に基づき、WHOは198の国と地域ではメジナ虫症の発生がないと認定しました。
進行中の調査活動
WHOは、最近になってメジナ虫症の感染伝播がみられなくなった国では、最低3年間、積極的な調査活動が継続されるべきことを推奨しています。これは、見落とされた症例がないことを確認し、疾患の再燃がないことを確認するために重要です。
この疾患の潜伏期間は10か月から14か月なので、見落とされた患者が1人でもいると、根絶への取り組みが1年以上後退することになります。疾患が再燃する事例が現れてきており、エチオピア(2008)では国の根絶計画が感染伝播を遮断したとの声明を出したにもかかわらず、また、さらに最近ではチャド(2010)で約10年間も患者の発生がゼロであったにもかかわらず、再燃しました。
14ヶ月間連続して患者の発生が報告されていない国では、感染伝播が遮断されたと考えられます。その後、根絶証明の前段階として、最低3年間は強化された調査活動を続ける必要があります。根絶が証明された後も、世界での根絶が宣言されるまでは、調査活動を続ける必要があります。
課題
最後に残っている患者は、通常、遠隔の地で、多くは訪れることができない農村部で発生するため、根絶までの過程において、その患者の発見と感染拡大の防止が最も困難で費用のかかる段階となります。
特に、依然として患者が発生しているチャド、エチオピア、マリ、南スーダンでは、身の危険のため常在地域で疾患の調査活動ができないという大きな制約があります。
また、Dracunculus medinensisに感染した犬の存在が、特にチャドとエチオピアでの計画には難題をもたらしています。この事象は、2012年にチャドで確認され、その後、人で採取されたものと遺伝子配列上は区別できないメジナ糸状虫に感染したいくつかの犬がリスクのある領域で発見されています。2015年には、チャドで犬500匹以上、エチオピアで犬13匹からメジナ糸状虫の出現が報告されました。2015年には、マリ、南スーダンでも、各1匹ずつの犬の感染が報告されました。
WHOは、2016年3月に、犬へのDracunculus medinensisの感染に取り組むために科学会議を招集しましました。優先されるべき研究分野の中で、いくつもの対策が勧められています。そこには、以下のようなものがあります。
- 感染要因となる採餌、行動範囲、その他の共通因子を把握するために、GPSによる追跡や安定した同位体の解析などの新技術を用いて(治療後の)感染犬と因子を適切に揃えた対象犬との感染犬例対照研究を行うこと
- 犬と人間において、メジナ虫症の抗体を検出できる血清学的アッセイ系事例の開発
- 犬と人間の疾患伝播の動態系を評価し、潜在するメジナ虫症への新たな接触領域を発見し、感染対策(例、イベルメクチンによる治療)への介入の動向を監視できる機血清学的なプロトコルの開発および実施
WHOの取り組み
WHOは、根絶のための啓発を行い、技術的な指針を提供し、根絶活動を調整し、メジナ虫症の発生のない地域での調査活動を強化し、進展の達成度を報告しています。
WHOは、ICCDEが作成した勧告に基づき、メジナ虫症の撲滅を国に対して認定する唯一の機関です。ICCDEは現在、公衆衛生の専門家9人を擁しています。また、委員会は、メジナ虫症の撲滅証明を申請している国に対し、感染伝播の状況を評価し、特定の国で感染伝播が遮断されたことを認定するかどうかを進言するときに、必要に応じて開催されています。
出典
WHO.Media center. May 2016
Dracunculiasis(guinea-worm disease)
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs359/en/index.html