世界におけるウイルス性肝炎の脅威
2016年7月28日が世界肝炎デーであることを踏まえ、WHOは、7月12日に、推定が難しい肝炎の発生状況についての評価記事を掲載しました。
ウイルス性肝炎について、度々、国際的な保健衛生行政の担当者や支援者から、どうしてこれ程までに僅かな資金と僅かな注目しか受けられないのですか、という質問をされます。例えば、持続可能な発展目標として、HIV、結核、マラリアの流行については2030年までに終息させるという目標が置かれていますが、肝炎については、死亡者数がそれぞれの病気による患者数よりも多いという事実があるにもかかわらず、取り組むというだけなのです。
この理由の1つは、ウイルス性肝炎の罹患率と関連する死亡率を正確に数値で評価することが難しいことがあります。この難しさは、主に肝炎が異なる感染経路をもつ5つの違った型のウイルスによって引き起こされていることと、死に至るまでに数十年かかること、そして、感染者は肝がんや肝硬変で死亡しますが、必ずしも基礎となる感染が原因で死亡してはいないこと、などによります。
世界レベル、国レベル、地域レベルでの評価
学術雑誌ランセットの中で、著者Jeffrey Stanawayらは、これらの課題への取り組みを大きく前進させました。死亡率と罹患率及びその相対的な重要度を推定することを応用した疾患の世界的脅威(GBD)の研究方法と使って、彼らは1990年から2013年にウイルス性肝炎に起因した肝炎疾患の脅威を、国レベル、地域レベル、世界レベルで評価しました。
彼らの分析による主な結論では、2013年にはウイルス性肝炎で145万人(95%信頼区間:138万から154万人)が死亡し、1990年に89万人(95%信頼区間:86万から94万人)が死亡していたのと比べて、63%(95%信頼区間:52-75%)の増加を示しています。1年あたりの有病率は65万人[45-89万人]から87万人[61-118万人]に増加しており、障害調整生存年数(DALYs:早死により失われた期間と疾病により障害を余儀なくされた期間の合計)も100万人あたり31.7年[30.2-33.3年]から42.5年[39.9-45.6年]の損失に増えています。
最大の増加は、C型肝炎への感染がもたらしました。C型肝炎はDALYsの割合を43%増加させました。B型肝炎とC型肝炎のウイルスは、慢性化し、生涯にわたり持続感染しながら、肝硬変や肝がんの原因となる肝臓に進行性の障害を起こすために、これら2つの肝炎で2013年の罹患率96%(95%信頼区間:94-97%)およびDALYs 91%[95%信頼区間:88-93%])を占め、罹患率および死亡率のほとんどを引き起こしています。また、この疾患の脅威は、世界で分布が均等ではありませんでした。
死亡率の高いオセアニア、アフリカ、アジア
肝炎に関連する死亡率は、大洋州、サハラ以南のアフリカ西部、中央アジア(人口10万人あたり年間死亡率は33.50人以上)で最も高くなっていました。しかし、患者の絶対数では、肝炎による死亡者数は東アジアと南アジアで最大(死亡者総数の52%)となっています。主に低所得国(ほとんどがアフリカ)で発生しているHIV感染症とは異なり、肝炎による死亡者の58%は中所得から高所得の国で発生していました。
この研究は、修正されたウイルス性肝炎の本当の脅威の推定値を示すために、急性感染症および慢性感染症による死亡者数を組み合わせて考えたGBD研究でのこれまでの世界での分析を初めて拡張したものです。Stanawayらの研究とこれまでの研究では、いくつかもの仮定と肝炎患者の発生率並びに有病率、さらに死亡診断記録による死亡者数に基づく複雑な統計手法を用いていました。しかし残念ながら、これらの方法は、肝炎に対しては、特に、肝炎患者数の推定、肝硬変や肝がんによる肝炎に関連した死亡報告の記録に対する変動が大きいという点で弱点をもっています。
Stanawayらの研究には、いくつもの重要な意味があります。ウイルス性肝炎は、世界における大きな疾病脅威であり、この病気は国内および国際的にもっと強く対策を行う必要があることを、説得力のある証拠で示しています。このような対策に効果をあげるには、新たな感染の防止(例えば、予防接種、安全な医療処置、および感染被害の減少)、推定400万人とされる慢性B型肝炎およびC型肝炎の感染者の死亡率を低下させるための検査と治療の規模拡大とを組み合わせる必要があります。
肝炎の世界的な脅威に取り組むには、実質的に追加の人的・物的資源が必要となります。肝炎の脅威のほとんどは中等度以上の所得の高い国で、その多くの国は対策への支援を受けていないため、おそらくは、これらの人的・物的資源には国の健康関連予算を当てる必要があるでしょう。低所得および中等度所得の国にとっては、肝炎へ大きな脅威への理解の向上となり、国際的な開発援助の増加につながることが期待されています。
ウイルス性肝炎に対する対策の強化を確立する動きが示されています。エジプト、グルジア、モンゴルといった、いくつかの国では撲滅への目標設定を採り入れており、2016年5月にWHOは、2030年までの公衆衛生上の脅威としてウイルス性肝炎の撲滅を目標設定した初めての世界炎戦略を採択しました。撲滅は撲滅を罹患率の90%低下と死亡率の65%低下と定義されています。肝炎による高い死亡率が記された世界レベルでの推定値は、世界戦略を提唱する上で重要で、これはStanawayらの研究によっても支持されます。現在、この戦略の成功を評価するために改善された国レベルでの推定値が必要とされています。
出典
WHO.Commentary, Media Centre. 12 July 2016
The global burden of viral hepatitis:better estimates to guide hepatitis elimination efforts
http://www.who.int/mediacentre/commentaries/better-estimates-hepatitis/en/