2016年のニュース

HIV/AIDSについて (ファクトシート)

2016年7月 WHO(原文[英語]へのリンク

要点

HIVは、依然として世界的における公衆衛生上の大きな問題であり、これまでに3,500万人以上の生命を奪ってきました。2015年には、世界中で110[94~130]万人がHIV関連の疾患(原因)で死亡しています。
2015年には、世界全体で210[180~240]万人が新たにHIVに感染し、HIV感染者は2015年末に約3,670[3,400~3,980]万人になりました。
最も感染の多い地域はサハラ以南のアフリカで、2015年にはHIV感染者が2,560[2,310~2,850]万人になりました。また、世界全体で新たにHIVに感染した人の2/3はサハラ以南のアフリカ人でした。
HIVの感染は、簡単に迅速診断検査で診断できます。これは、HIVに対する抗体の存在の有無を検出します。もっともよく使用される検査では、結果がその日のうちに得られます。その日のうちに診断が得られることは、早期に治療し、健康管理する上で重要です。
HIV感染症を完全に治療する方法はありません。しかし、有効な抗レトロウイルス薬(ARV)によってウイルスを制御し、感染伝播を防ぐことはできます。その結果、日常的には感染の危険性をもつHIV感染者も健康的で生産性のある生活を楽しむことができます。
現在、自分の感染状態を知っている感染者は54%に過ぎないと推定されています。2014年には、低所得と中所得の129か国で1億5,000万人の大人と子どもがHIVの検査サービスを受けました。
2015年末までに、世界で1,700万人のHIV感染者が抗レトロウイルス療法(ART)を受けました。
2000年から2015年までに、新規のHIV感染者は35%減少し、AIDS関連の死亡者は28%減少しました。HIVを標的とするミレニアム開発目標(the Millennium Development Goals)を世界規模で達成に導くための国際的な努力が行われた結果、780万人も生命が救われました。
すべてのHIV感染症患者に抗レトロウイルス療法の適応を拡大し、予防のための選択肢を広げることで、2030年までに2,100万人のエイズ関連死亡と2,800万人の新たな感染の阻止に繋げることができます。

HIV(ヒト免疫不全ウイルス)

 HIV(ヒト免疫不全ウイルス)は、人の免疫機能を標的とし、感染症やある種の癌に対する人々の免疫応答を低下させます。ウイルスは免疫細胞の機能を破壊し傷害を与えることで、感染者を徐々に免疫不全にさせていきます。免疫機能は主にCD4細胞数で示されます。免疫不全になると、正常な免疫系をもった人ならば防御できる様々な感染症やその他の疾患に罹りやすくなります。

 HIVが最も進行した状態がAIDS(後天性免疫不全症候群、エイズ)です。個人差がありますが、感染して2年から15年でAIDSを発症します。AIDSは、ある種の癌、感染症またはその他の重篤な臨床症状が発症することによって定義づけられています。

症状と臨床所見

 HIVの症状は感染の段階によって異なります。HIV感染者は最初の数か月が感染力の最も強い時期となりますが、多くの人は、この段階で感染に気づくことはなく、もっと後になって気づきます。感染した最初の数週間は、感染者に発熱、頭痛、発疹、咽頭痛などのインフルエンザ様症状が現れます。しかし、無症状のこともあります。

 感染が進行して免疫機能が弱まってくると、患者には、次第にリンパ節の腫張、体重減少、発熱、下痢、咳などの症状や臨床所見がみられるようになります。治療をしなければ、感染者には、結核、クリプトコッカス髄膜炎といった重篤な疾患や、リンパ腫、カポジ肉腫といった癌種が現れます。

感染経路

 HIVは、感染した人の血液、母乳、精液、膣分泌液など様々な体液によって伝播します。キス、抱擁、握手、個人で使用する物品、食品、水などを共同で使用するといった日々の生活での接触では感染しません。

危険因子

 HIVに感染するリスクをさらに高めてしまう行動様式や状況は、次のとおりです。
コンドームを使用せずに肛門性交や膣性交をする場合
梅毒、ヘルペス、クラミジア、淋菌や細菌性膣炎など、他の性行為感染症に感染している場合
薬物を注射する際の針、シリンジ、その他の付属器具や薬液など、ウイルスで汚染されたものを使い回す場合
安全が不確かな注射器、輸血、滅菌処理されていない医療用具での切開や(ピアスの)貫通などの医療行為を受けた場合
医療従事者を含む偶発的な針刺し事故を経験した場合

診断

 迅速診断検査や酵素免疫測定法(enzyme immunoassays:EIAs)のような血清学的検査はHIV-1/2とHIV p24抗原の両方または片方に対する抗体の有無を検出します。検証検査アルゴリズムに則った検査の方針において、このような検査が用いられた場合には、HIV感染を高い精度で検出することができます。血清学的検査は、HIVそのものを直接検出するのではなく、外来病原体を撃退するために感染者が免疫応答するシステムの一部として感染者の体内で産生された抗体を検出する検査であることには注意が必要です。

 ほとんどの感染者は、28日程でHIV-1/2に対する抗体が産生されます。そのため、感染の早い時期には抗体を検出できないことがあります。いわゆる「ウィンドウ・ピリオド」と呼ばれるものです。この感染の初期は、最も強い感染力をもつ時期でもあります。但し、感染伝播は、全ての時期で成立します。

 HIV検査で陽性の診断を受けた人には、検査や結果報告のあらゆる潜在的な誤りを除外するために、身体管理や治療の両方または片方を始める前にもう一度、検査を行うことが奨められます。

検査とカウンセリング

 HIV検査は自発的に行われるべきものであり、検査を拒否する権利が認められなければなりません。医療従事者、保健当局、もしくはパートナーや家族によって検査が義務づけられたり、強制されたりすることは、健全な公衆衛生の運用を妨げ、人権を侵害するものであり、許されることではありません。

 一部の国では追加の選択肢として自己診断検査の導入または検討を行っています。HIVの自己診断検査は、自分のHIV感染の有無を知りたい人が検体を採取し、自分で検査を行い、それによって個人で検査の結果を判定する方法です。HIV自己診断検査は、確定診断ではなく、単に、HIVのスクリーニング検査の代わりです。確定診断には、国が定めた検査アルゴリズムを使って医療者による検査を受ける必要があります。

 全てのHIV検査サービスでは、WHOが推奨する5つのC(five C's)を含むべきことを奨めています。5つのCとは、インフォームド・コンセント(informed Consent)、機密性の保持(Confidentiality)、カウンセリング(Counselling)、正確な検査結果(Correct test results)、ケア、治療、その他のサービスとの連携(linkage to Care , treatment and other services)です。

予防

 人は、危険な要因と接触する機会を絞り込むことによってHIV感染のリスクを下げることができます。HIV予防のための要点は下記のとおりです。これらはしばしば組み合わせて行われます。

1. 男性と女性のコンドーム使用
 膣性交や肛門性交を行う際には、男性用、女性用コンドームを常に正しく使用することでHIVを含む性行為感染症(sexually transmitted infections: STIs)の拡大から身を守ることができます。男性用ラテックスコンドームの使用は、HIVや他の性行為感染症の伝播に対して85%以上の予防効果があるという根拠が示されています。

2. HIVと性感染症の検査とカウンセリング
 
あらゆるリスク要因と接触する機会のある人々には、HIVとその他の性感染症の検査を受けることが強く奨められます。検査は、感染の有無を知り、後手に回ることなく予防や治療に必要な環境を利用することにつながります。WHOはパートナーやカップルにも検査を受けることを奨めています。

 結核(TB)は、HIV感染者で最もよく見られる疾患です。HIV感染者において(結核が)発見されていない又は治療されていない場合には致命症になります。HIV関連死の3人に1人は(結核が)主な死因となっています。結核を早期に発見し、結核治療と抗レトロウイルス薬治療を速やかに組み合わせることで、これらによる死亡を防ぐことができます。HIV検査サービスは結核のスクリーニングを組み入れて、HIVと結核の両方が診断されたすべての感染者に速やかに抗レトロウイルス療法を行うことが奨められます。

3. 任意で行われる男性の包皮環状切除
 
男性の包皮環状切除は、熟練した医療の専門家によって安全に行われた場合、男性におけるHIVの異性間感染のリスクを約60%低下させます。これは、HIVの罹患率が高く、男性の包皮環状切除の実施率が低い一般的な感染流行の状況では、重要な介入手段です。

4. 抗レトロウイルス薬を用いた予防
4.1
 予防としての抗レトロウイルス療法(ART
 
2011年のある試験によれば、HIV陽性患者が有効性のある抗レトロウイルス(ARV)薬の服用方法を遵守すれば、感染していない性交渉のパートナーに感染させるリスクを96%下げられることが確認されました。今回、WHOは、抗レトロウイルス療法を全てのHIV感染者で開始することがHIVの伝播の減少に大きく貢献するであろうことから、これを推奨しています。

4.2 HIV陰性のパートナーに対する暴露前予防(pre-exposure prophylaxis: PrEP)
 
HIVの経口暴露前予防(PrEP)は、HIVの感染を防ぐためにHIV非感染者がARV薬を日常的に使用することです。10件以上のランダム化比較研究で、パートナーの片方が感染者、もう片方が非感染者(Serodiscordant)の異性カップル、男性同性カップル、性転換した女性、ハイリスクの異性カップル、薬物注射の使用者などの集団において、経口暴露前予防(PrEP)にはHIVの感染伝播を減らす効果があることが実証されました。

 予防法の組み合わせの一環として、実質的にHIV感染の危険のある集団における予防のための選択肢としての経口暴露前予防(PrEP)を奨めるために、WHOから「抗レトロウイルス療法の開始およびHIVに対する暴露前の予防薬の開示時におけるガイドライン」が2015年9月に公開されました。

4.3 HIVに対する暴露後予防 (pre-exposure prophylaxis:PEP)
 
暴露後予防(post-exposure prophylaxis :PEP)は、感染を予防するためにHIVに暴露してから72時間以内にARV薬を使用することです。PEPには、カウンセリング、一次救急処置、HIV検査のほか、28日間の経過観察とARV薬の服用が含まれます。

 2014年12月に改定されたガイドラインでは、WHOは職業的な暴露と非職業的な暴露の両方そして成人と小児の両方に対してPEPの使用が推奨されています。新しいガイドラインでは、既に治療で使われているARV薬を用いて、より使いやすい投与計画が提示されています。新しいガイドラインの実効性は、医療従事者、予防が行われないままの性行為で受けたウイルス暴露や性的暴行のように偶発的にHIVに曝された人をHIV感染から護るために、処方をより簡単に、治療をより良好に継続させ、PEPを完全に行う割合を上げるものです。

5. 注射薬物使用者での感染の軽減
 
注射薬物の使用者は、毎回の注射の際に、針とシリンジ等が滅菌された状態の注射器具を使用することで、HIVの感染から予防することができます。HIVの予防と治療への介入の包括的な対応には、以下のことが含まれます。
針と注射器への対処計画
オピオイド依存患者へのオピオイド置換療法や、その他の根拠に基づいた薬物依存症の治療
・HIVの検査とカウンセリング
HIVの治療とケア
コンドームの使用
性行為感染症、結核、ウイルス性肝炎の感染制御

6. 母子感染の排除(Elimination of mother-to-child transmission of HIV:EMTCT)
 HIV陽性の母親から子どもへの感染は、妊娠中、出産時、授乳時に起こり、垂直感染または母子感染と言われます。介入が行われない場合、HIVの母子感染率は15%から45%です。母親、小児ともに、感染が起こり得る全期間でARV薬を投与すれば、母子感染はほぼ防ぐことができます。

 WHOは、母子感染の予防(PMTCT)のための様々な選択肢を推し奨めています。その選択肢には、妊娠中、出産中の母親と産後の母子にARV薬を投与すること、または、CD4値にかかわらずHIV陽性の妊婦に対して生涯にわたり治療することが含まれます。

 2015年に、世界でHIVに感染している推計140[130-160]万人の妊婦のうち77%[69-86%]が、母子感染を予防するために有効性のある抗レトロウイルス薬の投与を受けました。

治療

 HIVは、3種類以上のARV薬を併用する抗レトロウイルス療法(ART)で抑えることができます。ARTでは、HIV感染症を治癒させることはできませんが、体内でのウイルスの複製を抑制し、免疫機能を高め、感染症と戦う能力を再生することができます。

 2015年に、WHOは「抗レトロウイルス療法の開始およびHIVに対する暴露前の予防薬の開示時におけるガイドライン」を公開しました。ガイドラインでは、HIVに感染した人は、誰もが診断後には可能な限り速やかに、抗レトロウイルス治療を開始することが奨められています。

 2015年末には、世界でHIV感染症患者1,700万人が抗レトロウイルス治療を受けていました。これは、HIV感染者の世界の46%[37-45%]が治療を受けていることを示します。

 WHOの新しい推奨に基づくと、HIV感染者を治療し「実質的に」危険な状態にある人々にさらなる予防のための選択肢として抗レトロウイルス薬を提供することで、抗レトロウイルス治療の対象となる人々の数は2,800万人から3,670万人に増えます。治療環境の拡大は、2030年までにエイズの流行を終息させることを目指す2020年に向けた新しい目標の中心にあります。

WHOの取り組み

 第69回世界保健総会では、新たに「2016から2021までのHIVに関する世界保健部門戦略」を採択しました。戦略は、今後6年間で各国とWHOが優先的に活動していく5つの柱から成ります。それらは、次のとおりです。
・焦点を絞り込んだ活動のための情報(流行の状況と対策を理解すること)
・影響力のある支援介入(必要とされる支援範囲に支援を提供すること)
・公平な支援の分配(支援が必要とされる人々に支援を提供すること)
・持続可能な資金の調達(賄える支援を提供すること)。
・対策を加速させるための技術革新(未来に向かって見通しのあるものにすること)。

 WHOは、国連のAIDS計画(UNAIDS)の共同支援者です。WHOは、UNAIDS とともに、HIVの治療や医療支援、HIVと結核の重複感染への活動をリードし、HIVの母子感染の根絶に向けて活動するユニセフと歩調を合わせながら活動しています。

出典

WHO, Fact sheet N°360. Updated July 2016
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs360/en/