C型肝炎について(ファクトシート)

2016年7月更新 WHO (原文〔英語〕へのリンク

要点

  • C型肝炎はC型肝炎ウイルスによって起こる肝疾患です。このウイルスは急性と慢性、両方の肝炎を引き起こし、数週間持続する程度の軽い病態から一生にわたる重い病態まで、重症度に幅がみられます。
  • C型肝炎ウイルスは血液を介して感染するウイルスです。最も一般的な感染様式は、安全性に欠ける注射手技、不十分な医療器具の殺菌処理、スクリーニング検査していない血液や血液製剤の輸血です。
  • 全世界で、1億3000万人~1億5000万人が慢性C型肝炎に感染しています。
  • 慢性的に感染しているかなりの数の患者が、将来に肝硬変または肝がんを発症します。
  • 毎年約70万人がC型肝炎関連の肝疾患で死亡しています。
  • 抗ウイルス薬はC型肝炎患者の約90%を完治させることができます。そして、肝がんや肝硬変による死亡リスクを下げることができます。しかし、診断や治療への利用環境はまだ限られています。
  • 現在、C型肝炎に対するワクチンはありません。しかし、この分野での研究が続けられています。

C型肝炎ウイルス

C型肝炎ウイルス(HCV)は急性感染も慢性感染も引き起こします。急性HCV感染症は、通常、無症候性で、命にかかわる病態を引き起こすことは極めて稀です。約15~45%の感染者では、治療を受けなくても感染後6か月以内に自然にウイルスが排除されます。

残る55~85%の感染者では、慢性HCV感染症へと進展することになります。慢性HCV感染患者の中で、20年以内に肝硬変に至るリスクは15~30%です。

地理的分布

C型肝炎は全世界でみられます。最も感染率の高い地域は、アフリカと中央および東アジアです。国によっては、C型肝炎への感染は、特定の集団(例えば、薬物注射の使用者層)に集中していることがあります。一般集団でみられることもあります。HCVウイルスには複数の種類(すなわち遺伝子型)があり、その分布は地域によって異なります。

感染経路

C型肝炎ウイルスは血液を介して感染するウイルスです。最も一般にみられる感染経路は以下とおりです。

  • 注射器具の使い回しによる注射麻薬の使用
  • 医療器材(特に注射器や針)を再使用したり、不十分な滅菌処理をしたりしている医療施設
  • スクリーニング検査されていない血液および血液製剤の輸血

HCVは性的接触や母子感染でも伝播する可能性があります。しかし、これらの感染経路はそれほど一般的ではありません。

C型肝炎は、母乳、食物、水によって感染することはなく、感染者との抱擁、キス、食べ物や飲み物を共にするなどの日常的な接触で感染することはありません。

症状

C型肝炎の潜伏期間は2週間から6か月間です。初期感染の後、感染者のおよそ80%では症状が全く現れません。感染者の急性症状では、発熱、易疲労性、食欲低下、吐き気、嘔吐、腹痛、暗色尿、灰白色便、関節痛、黄疸(皮膚や白目の部分の黄染)がみられることがあります。

スクリーニング検査と診断

通常、急性HCV感染は無症候性であることから、急性期に診断される人は稀です。慢性HCV感染症に進展した感染者でも、感染から数十年を無症候のまま過ごしているため、感染が二次的に重度の肝障害の症状に進展するまで、診断されずにいることもあります。

HCV感染は次の2つのステップで診断されます。
1.血清診断で抗HCV抗体に対するスクリーニング検査を行うことで、ウイルスに感染していた人を発見します。
2.検査で抗HCV抗体に陽性の場合には、慢性HCV感染であることを確認するためにHCV RNAに対する核酸増幅試験が必要とされます。これは、HCVに感染した人の約15~45%が、治療をせずとも強い免疫応答によって、自然治癒するからです。彼らは、もはや感染していませんが、抗HCV抗体検査では依然として陽性の結果が出てしまいます。

C型慢性肝炎と診断された感染者は、肝障害(肝の線維化、肝硬変)の程度について評価を受ける必要があります。評価は肝生検または種々の非侵襲的な検査で実施することができます。

加えて、感染者はC型肝炎ウイルス株の遺伝子型を類別する検査を受ける必要があります。HCVには6種類の遺伝子型があり、それぞれに治療への反応が異なります。さらに、2種類以上の遺伝子型のウイルスに重複感染している可能性もあります。肝障害の程度およびウイルスの遺伝子型は、この疾患の治療方針や管理方法を決定するための方針決定に用いられます。

検査を受ける場合

早期診断は、感染によって生じる健康問題を防ぎ、ウイルス伝播も防ぐことができます。WHOは、感染リスクの高い人を対象にしたスクリーニング検査を推奨しています。

HCV感染のリスクの高い集団は以下のとおりです。

  • 薬物注射の使用者
  • 鼻腔内投与薬を使用したことのある人
  • 感染した血液製剤を投与された人、十分な感染症管理を行っていない医療施設で侵襲的な医療処置を受けた人
  • HCVに感染している母親から生まれた子ども
  • HCVに感染したセックス・パートナーがいる人
  • HIV感染者
  • 服役中の人、又は服役したことのある人
  • タトゥーやピアスをしたことのある人

治療

免疫応答によって感染から治ることもあるため、C型肝炎は必ずしも治療が必要とは限りません。そして、慢性感染を起こしても肝障害に進展しないこともあります。治療が必要となる場合、C型肝炎の治療目標は根治となります。治癒率は、ウイルス株や、実施した治療方法などいくつかの要因の影響を受けます。

C型肝炎の標準治療法は急速に変化しています。これまでは、C型肝炎の治療はインターフェロンとリバビリンを併用した治療が基本でした。この治療法は48週間毎週の注射を必要とし、それでも治癒する患者はおよそ半数でした。しかも、頻繁に、時には命に関わるような有害な反応を起こしていました。

最近、新しい抗ウイルス薬が開発されました。これらの薬剤はdirect antiviral agents(DAA)と呼ばれ、旧来の治療法よりも極めて高い有効性と、安全性および忍容性があります。DAA剤による治療ではHCV感染者のほとんどを完治させます。しかも、治療期間は通常12週と短く、より安全です。DAA剤の生産コストは低いものの、これらの治療は高所得の国、中等度所得の国でも高価に維持されています。しかし、遺伝子型に合わせたこれらの治療を導入することにより(主に低所得の国を中心に)いくつかの国では、価格が急激に落ちてきました。

これらの進歩が、世界で確実に、治療へのさらに大きな利用環境を作れるように、たくさんのことが実行されていかなければなりません。

予防

一次予防
C型肝炎に対するワクチンはありません。したがって、HCV感染の予防は、医療施設、注射薬物の使用者などのハイリスク群、性的接触などでのウイルス曝露への機会を減らすことにかかっています。

限定的なものですが、WHOが推奨している一次予防法のリストの例を以下に掲げます。

  • 手指の衛生管理:外科手術の際する手指の管理、手洗い、手袋の使用
  • 安全な取扱いと鋭利物および廃棄物の処分
  • 無菌注射器具を含む注射薬物使用者への包括的な有害要因削減のための福祉事業の提供
  • 献血者における(HIVおよび梅毒も含めた)B型およびC型肝炎の検査
  • 医療従事者の訓練
  • コンドームの適正な一貫した利用の促進

二次、三次予防
C型肝炎ウイルスに感染した人々に対して、WHOは以下のことを推奨します。

  • 医療ケアや治療についての選択肢に関する教育や助言
  • 肝保護の観点から、他の肝炎ウイルスとの重複感染を防ぐためのA型肝炎ウイルスワクチンおよびB型肝炎ウイルスワクチンの接種
  • 適切と考えられる場合に、抗ウイルス治療を含む早期の適正な医学的管理
  • 慢性肝疾患を早期診断するための定期的受診

C型肝炎ウイルス感染者のスクリーニング検査、医療ケア、治療

WHOは、2016年4月に「C型肝炎感染者に対するスクリーニング検査、医療ケアおよび治療に関するガイドライン」を更新しました。このガイドラインは、HCVを含めた血液を介したウイルスへの感染予防に関する既存のWHOガイダンスを補完するものです。

これは、WHOが作成したC型肝炎治療に関する最初のガイドラインであり、HCVを含む血液で感染するウイルスの感染予防に関する既存のガイダンスを補完する役割を担っています。

このガイドラインは、低所得国あるいは中所得国でHCV感染者のスクリーニング検査、医療ケア、治療に関するプログラムを作成している政策担当者、政府関係者、その他の担当者に向けたものです。このガイドラインは上述の領域で重要な推奨事項を提供し、実施に向けた議論を行っているため、HCV感染者に対する治療サービスを拡大するための一助となります。

重要な推奨事項に関するサマリー

HCV感染のスクリーニング検査についての推奨事項
1. HCV感染者であると同定するためのスクリーニング検査

高いHCV罹患率を示す集団に属する人や、過去HCVに罹患するリスクに暴露された、またはリスクを伴う行動をとった人には、HCVの血清学的検査を行うことが推奨されます

2. 慢性HCV感染との確定診断をいつ行うべきか
HCVの血清学的検査の結果が陽性と示されたならば、直ちに慢性HCV感染の診断を確定させるために、HCVリボ核酸(RNA)に対する核酸増幅試験(NAT)を行うことが推奨されます。さらに、HCV RNAを検出するためのNATはHCV感染に対する治療を始めるための評価の一部とすることも推奨されます。

HCV感染者に医療ケアを行う際の推奨事項
3. アルコール摂取量のスクリーニング、および中等量と大量のアルコール摂取を減らすためのカウンセリング

アルコール摂取量の評価は、すべてのHCV感染者に推奨されます。そして、中等量から大量のアルコールを摂取する感染者には、アルコール摂取量を減らす行動をとるための介入が推奨されます。

4. 肝の線維化および肝硬変の程度の評価
医療費に制限のある環境では、肝の線維化を評価する場合、非侵襲的検査である超音波エラストグラフィーやFibrotestなどの追加の設備が必要となる検査よりも、アミノトランスフェラーゼ/血小板数比(APRI)あるいはFIB4テストを用いることが提案されます。

HCV感染治療の推奨事項
5. HCV治療を行うか否か評価すること

注射薬物の使用者を含め、慢性HCV感染のある人は成人も小児も、全員に抗ウイルス薬治療に対する評価が行われるべきです。

6. 直接作用型抗ウイルス薬(DAAs)による治療
WHO は、すべてのC型肝炎患者がDAAを土台とするレジメンで治療されることを推奨しています。但し、いくつかの特定の患者グループでは、依然としてインターフェロンを土台とする治療レジメンが使用されます(5型または6型の遺伝子型の感染者と肝硬変を伴うHCV 3型の遺伝子型の患者では代替療法として使用される)。

7. テラプレビル(telaprevir)とボセプレビル(boceprevir)は、使われなくなりました
2014年のガイドラインでは、ペグインターフェロン及びリバビリンとの併用で投与されてきた第1世代DAAsの薬剤(テラプレビル、ボセプレビル)が推奨されていました。現在では、新しくDAAsを土台とするレジメンと比較すると、これらは有害事象が多く、治療効果も低い結果が示されています。したがって、現在は、WHOはこれら2種類の薬剤を推奨していません。

8. WHOは遺伝子型と肝硬変の状態に基づく優先DAAレジメンおよび代替DAAレジメンを推奨しています
ガイドライン作成グループは、入手できる全てのデータ(200以上の研究)で 6種類の異なる遺伝子型に最も効果的かつ安全性の高いレジメンを決定するための検討をおこないました。

WHOの取り組み

2016年5月に、世界保健総会では、初めて「ウイルス性肝炎部門の世界保健戦略、2016-2021」を採択しました。この戦略は、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(医療費の支払いに困窮する貧困層にも保健医療サービスを届けること)の役割の重要性を強調し、この戦略の目標が、いくつもの継続すべき発展目標とともに並べられています。この戦略には、公衆衛生上の問題として、ウイルス性肝炎を撲滅することを視野に入れており、2030年までに新たなウイルス性肝炎感染者を90%減らし、ウイルス性肝炎による死亡者を65%減らすことが含まれています。これらの目標を達成するために、各国およびWHO事務局が取るべき活動が戦略の中で概説されています。

2030年に向けた持続すべき発展目標の下で、世界の肝炎に対する目標達成に向けた各国を支援するために、WHOは次のような分野を支援しています。

  • 意識の向上、パートナーシップの促進、人的資源の動員
  • エビデンスに基づく政策と行動するためのデータの定形化
  • 感染経路の防止
  • スクリーニング、管理、治療の実行

WHOは、ウイルス性肝炎に対する意識と理解の向上のため、毎年7月28日を世界肝炎デー(World Hepatitis Day)と定めています。

出典

WHO Fact sheet N°164
Hepatitis C, Update July2016
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs164/en/