E型肝炎について(ファクトシート)
2016年7月 WHO(原文[英語]へのリンク)
要点
- E型肝炎は、E型肝炎ウイルスとしてしられるウイルス性感染性肝疾患です。
- E型肝炎には、毎年推定で2,000万人が感染し、推定330万人がE型肝炎を発症し、そして、56,600人がE型肝炎の関連で死亡しています。
- E型肝炎は、ほとんどが自然治癒しますが、劇症肝炎(急性肝不全)に進展することもあります。
- E型肝炎ウイルスは、主に汚染された水によって糞口感染で伝播します。
- E型肝炎は世界中で発生しています。しかし、罹患率は東アジアと南アジアで最も高くなっています。
- 中国では、E型肝炎ウイルスへの感染を予防する初めてのワクチンが生産され、承認されました。しかし、まだ他の国では利用できません。
E型肝炎
E型肝炎は、E型肝炎ウイルスによって起こる肝疾患です。E型肝炎ウイルスは、エンベロープを持たない、小型のプラス1本鎖リボ核酸(RNA)ウイルスです。このウイルスは、少なくとも4つの遺伝子型(ジェノタイプ)に分かれます。ジェノタイプ1、2、3、4型です。1型および2型は、人にだけ見つかっています。ジェノタイプ3型および4型ウイルスは、何ら症状を現すことなく、(豚、イノシシ、鹿など)いくつかの動物で伝播し、時には人にも感染します。
E型肝炎ウイルスは、感染した人の糞便から排出され、人の身体に入り腸管に達します。主にウイルスで汚染された飲み水で伝播します。通常は自然に治る感染症で、4~6週間以内に回復します。時に、劇症肝炎(急性肝不全)に進展し、死亡することもあります。
通常、感染は感染者に留まりで、2-6週間で治ります。時に、この疾患のうちの何人かは、劇症肝炎(急性肝不全)として知られる重篤な病態に陥り、死に至ります。
地理的分布
E型肝炎の集団感染や散発例は世界中で発生しています。E型肝炎が発生するところでは、異なる2つのパターンがみられます。
- 頻繁に水がウイルスに汚染される資本の乏しい地域
- 安全な飲料水を供給する地域
これらの集団発生は、生活に不可欠な水、衛生設備、衛生と保健のサービスへの利用環境に制約のある、資本の限られた国で頻繁に発生し、数百人から数千人に感染しています。この数年では、このような流行の発生の中に、紛争地域や戦争地帯のような人道的に緊急事態である地域における流行発生や、難民や国内避難民(internally displaced populations: IDP)のキャンプでの発生があります。
散発的な患者は、小規模ではあるものの、水や食べ物のウイルス汚染と関係していると考えられています。これらの地域では、世界中で推定2,000万人の感染者と330万人の急性患者が発生し、およそ56,600人が死亡しています。これらの地域における患者は、ほとんどがジェノタイプ1型のウイルスへの感染を原因としており、残る僅かな頻度がジェノタイプ2型ウイルスを原因としています。
衛生状態がよく、安全な水が供給される地域では、E型肝炎は稀で、時折、散発的な患者が発生するだけです。これらの患者のほとんどが、ジェノタイプ3型ウイルスを原因としており、通常、ウイルスは(動物の肝臓を含めて)加熱が不十分な動物の肉を摂取することを感染源とし、水やその他の食品の汚染とは関係していません。
過去にウイルスに曝露されたことの血清学上の痕跡が、ほとんどの地域でみられます。一般的に衛生環境が悪く、感染伝播のリスクがより高い地域では、HEVに対するIgG抗体の陽性を示す人の割合が高くなっています。しかし、これらの抗体の存在自体は、疾患の存在や疾患のリスクの増加を意味するものではありません。疫学的な目的に対するこの種のデータの有用性は、利用できる血清学的アッセイ系の変動性や付随する潜在的な性能、およびウイルスに曝露された集団の時間経過に伴う抗体消失の可能性などの制約を受けてしまいます。
感染経路
E型肝炎ウイルスは、主に糞便で汚染された飲み水を介して糞口感染によって伝播します。この経路は、この疾患における臨床患者の大部分を占めています。E型肝炎に対するリスク要因は、感染者の糞便から排泄されたウイルスが供給される飲料水に到達することを許してしまうような衛生環境の悪さと関係します。
他の感染経路も確認されていますが、臨床患者の数ははるかに少なくなります。これらには、以下の感染経路があります。
- 加熱不十分な肉、感染した動物からの加工食肉の摂取
- 感染した血液精製物の投与
- 妊婦から胎児への垂直感染
生または加熱不十分な貝類の摂取は、流行地域では散発的な感染源となることがあります。
症状
E型肝炎ウイルスに暴露された後の潜伏期間は、2-8週間と幅があり、平均5-6週間です。感染者は、発症の数日前から排出が始まり、発症後に約3-4週間続くと考えられています。
罹患率の高い地域では、感染症状は、15歳から40歳の若年成人に最もよく現れます。このような地域では、小児も感染しますが、ほとんどは無症状か、黄疸が出ない(無黄疸性の)非常に軽い症状を起こすだけで、ほとんどは診断されません。
肝炎の典型的な所見と症状は、以下のとおりです。
- 初期段階での微熱、食欲減退、数日続く吐き気や嘔吐。一部の患者では、腹痛、(皮膚病変のみえない)痒み、皮膚の発疹、関節痛が出現
- 褐色尿、白色便をともなう黄疸(皮膚や眼球結膜の黄染)
- やや腫大した、柔らかい肝臓(肝腫大)
稀なことですが、急性E型肝炎は劇症肝炎(急性肝不全)を起こし死亡することがあります。劇症肝炎は、妊娠中に最も高率で起こります。E型肝炎となった妊婦、特に、妊娠第2期および第3期の妊婦では、急性肝不全、流産、死亡のリスクが高くなります。妊娠第3期における患者死亡率は20-25%になることが報告されています。
免疫抑制状態にある人、特に臓器移植を受けた人では、ジェノタイプ3型や4型のE型肝炎の慢性患者が報告されています。
診断
E型肝炎患者は、他の型の急性ウイルス性肝炎と臨床的に鑑別できません。しかし、診断は、大凡の疫学的な発生状況から強く疑うことができます。例えば、流行する疾患が妊娠女性でより重症化し、A型肝炎を除外することができる場合で、飲料水のウイルス汚染のリスクをともなう環境にあり、流行が知られる地域内で局所的に何人もの患者が発生したときなど、です。
E型肝炎の確定診断は、通常、血液中のウイルスに特定のIgMやIgG抗体を検出することで行います。通常、この疾患が日常的な地域であればこれで十分です。
追加試験には、血中および/または糞便中のE型肝炎ウイルスRNAを検出する逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(reverse transcriptase polymerase chain reaction: RT-PCR)法検査が挙げられます。この分析検査には特殊な検査室設備が必要となります。この検査は、E型肝炎が稀な地域やE型肝炎が慢性化した患者では必要とされます。
血清中のウイルス抗原を検出するための検査が開発されています。現在、E型肝炎の診断に代わるものとして検討されています。
治療
急性肝炎の経過を変えられるような治療法はありません。通常、E型肝炎は自然に治癒するため、一般的には入院を必要としません。しかし、劇症肝炎では入院が必要であり、症状のある妊婦にも入院が考慮されるべきです。
E型肝炎をもつ免疫が抑制された人には、リバビリンや抗ウイルス薬による特別な治療が有益です。いくつかの特殊な状況では、インターフェロンも使用され、成功を得てきました。
予防
予防は、この疾患に対する最も効果的なアプローチです。集団レベルでは、以下のことの注意によってHEVおよびE型肝炎の感染伝播を減らすことができます。
- 公共の水道で供給される水質基準の維持
- 排泄物に対する適切な処理システムの確立
個人のレベルでは、感染のリスクを以下のことの注意によって減らすことができます。
- 特に食品を取り扱う前に安全な水で手洗いするなどの個人での衛生対策の維持
- 衛生状態が分からない飲み水や氷の摂取の回避
- WHOが公表している安全な食品習慣の順守
2011年、E型肝炎ウイルス感染を防止するために、初めての組み換えワクチンが中国で承認されました。また、他の国では承認されていません。
WHO戦略的諮問委員会(Strategic Advisory Group of Experts: SAGE)は 、2015年に、E型肝炎の脅威と製造承認されたE型肝炎ワクチンの安全性、免疫原性(抗体産生)、有効性、およびの費用対効果におけるこれまでの知見を調査しました。
また、WHOは、SAGEの調査に基づいて方針の解説書を作成しました。
方針の解説では、以下のことが提言されています。
流行時に対応するためのガイドライン
WHOは、E型肝炎の水系感染を確認し、調査し、管理するためのマニュアルを作成し、公開しています。
要約すると、E型肝炎の発生が疑われる間は、以下の手順での対処が推奨されます。
- 診断の検証と感染の集団発生の存在の確認
- 感染経路とその様式の特定と、感染リスクの高い集団の識別
- 飲食物の糞便によるウイルス汚染を排除するための衛生環境の改善と衛生習慣の向上
- 感染源の除去
WHOの取り組み
WHOは、「E型肝炎の水系での集団発生:その認識、調査および感染制御」の報告書を発行しました。このマニュアルでは、E型肝炎の疫学、疾患の臨床症状と診断についての情報が提供されています。また、E型肝炎の集団発生に取り組む公衆衛生当局を支援するためのガイダンスも提供しています。
予防接種に関するWHO戦略的諮問委員会(Strategic Advisory Group of Experts: SAGE)は、E型肝炎の脅威と、承認されたE型肝炎ワクチンの安全性、免疫原性、有効性、および対費用効果に対する現在のエビデンスを検討した方針説明書を、2015年に発行しました。E型肝炎ワクチン使用に関しては以下のとおりです。
- WHOは、E型肝炎の重要性を、多くの発展途上国、特に妊婦や避難民のキャンプで流行が発生する状況下で暮らすに人々などの特殊な集団における公衆衛生上の問題として認識しています。
- WHOは、E型肝炎が頻繁に流行し散発的に起こる集団において、国家プログラムとしてワクチンの定期接種を導入することは推奨してはいません。しかし、各国の行政当局は、地域の疫学状況に基づいてワクチンを使用することはできます。
- WHOは、16歳未満の小児、妊婦、慢性肝疾患患者、臓器移植待機患者、および渡航者のサブグループにおいては、安全性、免疫原性および有効性に関する十分な情報が得られていないことからワクチンの定期接種を推奨していません。
- E型肝炎およびその合併症や死亡のリスクが特に高くなる集団感染のような、特殊な状況が起こるかもしれません。通常のプログラムに関する現在のWHOの姿勢は、このような特別な状況でワクチンを使用することを排除するものではありません。特に、E型肝炎の発生数を減らす、又は予防する目的でワクチンを使用することは検討されるべきであり、同様に、妊娠女性のようなハイリスク群での影響を軽減するためにはワクチンの使用は考慮されるべきです。
- さらなるデータが利用可能になれば、E型肝炎ワクチンに対する現在のWHOの姿勢は、新しい情報に基づいて検討され、必要に応じて更新されることがあります。
2016年5月に、世界保健総会では、初めて「ウイルス性肝炎部門の世界保健戦略、2016-2021」を採択しました。この戦略は、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(医療費の支払いに困窮する貧困層にも保健医療サービスを届けること)の役割の重要性を強調し、この戦略の目標が、いくつもの継続すべき発展目標とともに並べられています。この戦略には、公衆衛生上の問題として、ウイルス性肝炎を撲滅することを視野に入れており、2030年までに新たなウイルス性肝炎感染者を90%減らし、ウイルス性肝炎による死亡者を65%減らすことが含まれています。これらの目標を達成するために、各国およびWHO事務局が取るべき活動が戦略の中で概説されています。
2030年に向けた持続すべき発展目標の下で、世界の肝炎に対する目標達成に向けた各国を支援するために、WHOは次のような分野を支援しています。
- 意識の向上、パートナーシップの促進、人的資源の動員
- エビデンスに基づく政策と行動するためのデータの定形化
- 感染経路の防止
- スクリーニング、健康管理、治療サービスの向上
WHOは、ウイルス性肝炎に対する意識と理解の向上のため、毎年7月28日を世界肝炎デーと定めています。
出典
WHO Fact sheet N°280
Hepatitis E, Updated July2016
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs280/en/