コレラについて (ファクトシート)

2016年10月 WHO(原文〔英語〕へのリンク

要点

●コレラは、急性の下痢を起こす疾患で、治療しなければ数時間で死に至ることもあります。
●世界では、毎年、推定で130万人から400万人のコレラ患者が発生し、21,000人から143,000人が死亡しています。
●ほとんどの感染者は、症状が軽いか無症状で、経口補水液を使ってうまく治療することができます。
●重症患者には、点滴治療と抗生物質で速やかに治療することが必要です。
●コレラやその他にも飲用水が媒介する感染症を制御するためには、安全な水と衛生環境を確保することが重要です。
●コレラの感染対策の追加手段として、経口コレラワクチンがあります。しかし、これは従来の感染対策に代わるものではありません。
●安全な経口コレラワクチンが、コレラ発生のリスクが高いことが知られる地域では、コレラの集団発生を予防・管理するために水の安全性と衛生環境の改善とともに使用されるべきです。

概要

コレラは、コレラ菌(V. cholerae)で汚染された飲食物を摂取することによって起こる急性下痢性感染症です。コレラは、世界の公衆衛生上の脅威に留まっており、社会の発展の不平等と欠陥を示す指標となっています。毎年、約130万人から400万人の患者が発生し、21,000人から143,000人がコレラによって死亡していると、研究者たちは見積もっています。

症状

コレラは、重篤な急性下痢性感染症を起こす極めて病原性の高い疾患です。コレラ菌で汚染された飲食物を摂取すると、12時間から5日で感染者に症状が現れます。コレラは小児にも成人にも感染し、治療しなければ数時間で死に至ることもあります。
コレラ菌(V. cholerae)に感染しても、ほとんどの人は症状を現しません。それでも、感染してから1-10日間は便中にコレラ菌を含んでおり、(それが)環境中に排泄されるため、他の人に感染させる可能性があります。
発症しても、多くの人は軽症または中等度の症状です。しかし、少数の人は重症の脱水を伴う水様性の急性下痢症を起こします。この場合、治療しなければ死に至ります。

歴史

コレラは、19世紀にインドのガンジス川河口域を発生起源として世界中に広がりました。その後に6回の世界的な流行を起こし、大陸全土で数百万人を死に至らしめました。現在の世界的な流行(7回目)は、1961年に南アジアで始まり、1971年にアフリカ大陸に広がり、1991年にアメリカ大陸に広がりました。現在も、コレラは多くの国に常在しています。

コレラ菌の血清型

コレラ菌にはたくさんの血清型がありますが、流行を起こすコレラ菌は、O1血清型と O139血清型の2種類だけです。最近、流行を起こしているのはO1血清型コレラ菌です。過去に、1992年にバングラデシュで流行を起こしたことのあるO139血清型コレラ菌は、最近では散発的に患者が発見されるだけに留まっています。アジア以外で確認されたことはありません。この2種類の血清型が起こす症状に違いはありません。
コレラ菌は人体のほか、汽水や入り江の水のような、多少の塩分を含む暖かい水辺で生存します。最近の研究は、地球の温暖化がコレラを発生させる細菌にとって適した環境を形成していることを示しています。

コレラ菌の疫学、危険因子、疾病の脅威

コレラは風土病として存在し、流行も起こします。コレラが常在する地域とは、コレラ確定患者が地域感染(他の地域から感染輸入されていないこと)の証拠とともに、過去5年間のうち3年で(患者が)確認された地域となっています。コレラの集団発生および流行とは、コレラが日常的に存在しない地域で地域感染のコレラ確定患者が1人以上発生することと定義されています。
コレラの感染伝播は、水の安全性と下水道設備への利用環境が不十分なことと深く関係します。生活に必要な基盤が整備されていない都市周辺のスラム街や、必要最低限の清潔な飲料水や衛生環境が整備されていない国内避難民や難民キャンプなどが、典型的な感染リスク地域になります。
水や衛生設備が破壊され、収容能力を超えて混み合うキャンプに人々が移動するといった人道的危機に続いて、そこにコレラ菌が常在していたり、持ち込まれたりすると、感染流行が起こるリスクが高くなります。感染していない死体は、流行の感染源としては報告されていません。
WHOに報告されるコレラの患者数は、この数年にわたり高い状態が続いています。2015年には、42か国から合計172,454人の患者が報告されました。そのうち1,304人が死亡しています。これらの患者数と推定される疾病の脅威との間には乖離があり、それは多くの患者が調査体制の限界と貿易や旅行に対する制裁を恐れるために記録が取られていないという実態によるものです。

予防と感染制御

複数の学問領域にわたるアプローチが、コレラの流行発生を抑制し、常在地域におけるコレラを制御し、死亡者を減少させる鍵となります。調査活動、飲料水、下水道、衛生設備、社会活動員の活動、治療、経口コレラワクチンなどが組み合わせて行われます。

サーベイランス(調査活動)

コレラの調査体制は、地方レベルでの情報の還元と世界レベルでの情報の共有を含めて、集約されたサーベイランス(調査活動)の一部であるべきです。
コレラ患者は、重症の急性水様性下痢症を示す患者に対し臨床的に疑うことで発見されます。この疑似症は、感染した患者から採取された糞便からコレラ菌(V. cholerae)を検出することによって確定診断されます。コレラの発生を発見(診断)し管理(データの収集・編集・分析)する地方レベルでの検査処理能力が、効果の高い調査活動および感染対策の計画の軸となります。
コレラが発生している地域に隣接する国々では、疾病サーベイランスを強化し、もし国境近くにコララが拡大したとしても、速やかにそれを発見し流行に対処するため、国のレベルで備える必要があります。国際保健規則の下では、現在、コレラの全症例の報告は必須ではありません。しかし、コレラを含む公衆衛生上の事例は、常に、正式に報告することが必要かどうかを判断する基準に照らして評価していく必要があります。

水と衛生環境への介入

(糞口感染で拡大する全ての疾患に恩恵をもたらす)コレラの感染制御への長期的な解決策は、経済発展と安全な飲料水および十分な衛生設備を日常的に利用できることに依存します。これらの対策が、コレラの常在と流行の両方を予防します。
環境整備条件として焦点を絞るべき活動には以下の点が含まれます。
・水(塩素)処理施設をもつ水道システムの開発
・水の濾過、化学的または太陽光による水の消毒、清潔な水を貯蔵する容器などの家庭レベルへ
の介入
・トイレを含む安全な下水処理システムの建設
これらの介入のほとんどは、これらが最も必要とされる後発の開発途上国で、現実には資金を調達し維持管理が難しいところで、長期間の投資と維持管理の継続を必要とします。

治療

コレラは容易に治療できる疾患です。ほとんどの患者は、速やかに経口補水液(ORS)を投与することで順調に治療ができます。WHO/UNICEF ORS標準包装は、1Lの清潔な飲み水に溶かして作ります。大人には、中等度の脱水を治療するために、初日にORS 6Lを必要とします。
重篤な脱水症状を伴う患者はショック状態に陥るリスクがあるため、直ちに点滴による輸液が必要です。体重70kgの大人には、少なくとも7 Lの輸液投与と、治療中にORSの追加が必要となります。このような患者には、下痢の継続期間を短縮し、必要とされる補液量を減らし、糞便からコレラ菌が排泄される期間を短くするために、適正な抗菌薬の投与も必要とされます。
集団での抗菌薬投与は、コレラの感染拡大を防ぐ効果がないだけでなく、抗菌薬への耐性獲得につながるために推奨されません。
コレラの流行中は、直ぐに治療を受けることが重要です。地域社会の中では、経口による補液を行い、さらに大きな治療センターで点滴による輸液の補充と24時間の治療を行うべきです。適切に治療することで、致死率を1%未満にとどめることが必要です。

衛生環境の推進と社会における地域活動

健康教育キャンペーンでは、地域の文化や信仰に合わせながら、石鹸による手洗い、安全な調理、食品の保管、子どもの糞便の清潔な処理など、適切な衛生習慣の普及を促進する必要があります。コレラで死亡した人の埋葬儀式では、参列者の間での感染を防ぐように対策が取られなければなりません。母乳での育児は促進されるべきです。
また、感染の流行中には注意を喚起するキャンペーンが組まれる必要があり、さまざまな情報がその地域に提供されるべきです。その情報とは、コレラに潜在するリスクと症状、コレラを避けるための予防法、患者報告の時と場所、症状が現れたときに直ちに治療できる場所などです。適正な治療サイトの位置も共有しておく必要があります。

経口コレラワクチン

現在、WHOの事前審査に合格した3種類の経口コレラワクチン(DukoralR、ShancholR、EuvicholR)があります。3種類のワクチンはともに、十分に予防するには2回の接種が必要です。
DukoralRは、緩衝溶液とともに投与され、成人には150mlの水が必要です。コレラが流行する地域では、しばしば清潔な水を入手することが困難となるために、DukoralRは、主に旅行者向けに使用されています。DukoralRは、2年間でコレラを65%保護してくれます。
ShancholRとEuvicholRは、製造会社が異なるだけで実質的に同じワクチンです。これらは投与時に緩衝溶液を必要としません。そのため、緊急的な状況において大量の人々に、より簡単に投与できます。これらのワクチンの投与間隔は最低2週間を空けなければなりません。それでも、1回目のワクチン投与で、後日2回目を投与する迄、ある程度の保護作用を保ちます。
ShancholRまたはEuvicholRを接種すると、コレラの常在地域で、ワクチン接種後5年間で65%の保護が得られます。コレラに罹る人の数を減らすことによって、人々の中からコレラ菌の循環を減らすことができるため、さらに人々からコレラを減らすことができます。この副次的な保護作用は集団保護と呼ばれています。
2013年に、WHOは流行発生の管理と緊急事態の中で使用できるように200万回分の備蓄を行いました。この備蓄は、赤十字、赤新月社、国境なき医師団、UNICEF、WHOによって組織されたICG(供給の国際調整グループ)が管理しています。
緊急事態以外の状況では、ワクチンはコレラを管理する国際対策委員会を通じて利用できます。このような状況で、経口コレラワクチンは、コレラの感染管理の別の側面の強化など、長期的なコレラ制御計画の一部として使用されています。適応される国には、GAVI(ワクチンと予防接種のための世界同盟)によるワクチン投与のための財政支援が行われます。
WHOの支援による集団ワクチン接種キャンペーンにより、500万回を超える経口コレラワクチンが既に使用されました。人道的な危機状態にある感染に極めて弱い地域、ホットスポット(紛争地帯)として知られコレラが常在する地域の住民のうち、流行が実際に発生した地域に、キャンペーンが行われています。
経口コレラワクチンの使用で、科学的な証拠が集められ、コレラに高いリスクのある住民を保護する公的な健康管理の手段として、経口コレラワクチンのキャンペーンを実施することの有効性と可能性が示されています。

WHOの取り組み

2014年に、WHOに事務局を置くコレラを管理する国際対策委員会(GTFCC)が再活動しました。この委員会は、学術協会、非政府組織(NGO)、国連機関など、世界のコレラの感染管理に対し活動する50以上の支援組織のネットワークです。この委員会を通して、支援者からの援助により、WHOは次のような活動を行っています。
●世界規模でコレラの感染予防と制御のための対処能力を発展させることに貢献するために、世界戦略の企画とその実行を支援します。
●コレラの感染制御に対する国家の対処能力を強化するために、コレラに関連する活動の技術交流、連携、および協力のために、開かれた討論の場を提供します。
●効果的なコレラ感染制御に対する戦略と進捗状況のモニタリングを実施するために、各国を支援します。
●技術的なガイドラインと運用マニュアルの普及に努めます。
●感染の影響を受けた国におけるコレラの感染予防と制御に対して、画期的な取り組みを評価することに重点を置いた研究計画の推進を支援します。
●世界の重要な公衆衛生問題として、また、国家、地域、世界規模でのコレラの感染予防と制御を支援するための積極支援や人的・物的資源の動員活動を行うものとして、コレラの感染予防と制御についての情報の普及を通してコレラの認知度を高めます。

コレラに対するさまざまな項目の装備

コレラの流行を調査し確認し、コレラ患者を治療することに対し、確実に必要となる物資を効率よく効果的に配備するために、WHOは装備一式を揃えました。
これを実施する参加組織とともに協議をした結果、WHOは、現地でより必要性に遭遇する装備を改定し、コレラ装備2016年版としました。
・調査のための1項目の装備
・確定診断を行う検査のための1項目の装備
・地域社会、地方および中央レベル3項目の装備
・太陽電池式ランプ、囲いの材料、水袋、蛇口などの資材物流のための1項目の装備
それぞれを取り扱う装備は患者100人への対処に十分なものです。この改定されたコレラ用の装備は潜在するコレラの流行に備えるため、また、最初の1か月を支えるために考えられたものです。

出典

WHO.Fact sheet, Media centre.Updated October2016
Cholera
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs107/en/index.html