サル痘について (ファクトシート)
2016年11月 WHO (原文[英語]へのリンク)
要点
- サル痘は、主に熱帯雨林付近のアフリカ中央部と西部の僻地で発生している稀な疾患です。
- サル痘ウイルスは、人に致死的な症状を起こすことがあります。サル痘は、既に撲滅された天然痘に近い(疾患)ですが、これよりもかなり軽症です。
- サル痘ウイルスは、さまざまな野生動物から人に伝播します。しかし、人から人への二次感染は限られています。
- 通常、サル痘の流行時での患者死亡率は1%から10%の間で、ほとんどの死亡者はかなり若い年齢層です。
- 以前は、天然痘ワクチンがサル痘の予防にもかなり有効でしたが、現在は治療法も使用できるワクチンもありません。
概要
サル痘は、稀な人畜共通(動物から人に伝播するウイルス)のウイルス感染症です。かつて見ることのあった天然痘とよく似た症状を示しますが、これよりもかなり軽症です。天然痘は1980年に撲滅されました。しかし、サル痘は、まだアフリカの一部で散発的に発生しています。
サル痘は、ポックスウイルス科オルソポックスウイルス属に属します。
このウイルスは1958年にデンマーク・コペンハーゲンの国立血清学研究所で発見されました。サルでの天然痘様の疾患を調査していたときのことでした。
流行
人でのサル痘は、1970年にコンゴ民主共和国(当時の国名はザイール)で9歳の少年から発見されたのが最初でした。ここでは、天然痘が1968年に撲滅されていました。これ以降、患者の多くがコンゴ盆地からアフリカ西部、特にコンゴ民主共和国(DRC)の僻地にある熱帯雨林地域から報告されました。DRCには、この疾患が常在していると考えられています。DRCでは、1996-97年に大規模な集団発生が起こりました。
2003年の春、サル痘患者がアメリカ合衆国中央平原で発見されました。これは、アフリカ以外の大陸で発見された初めての患者でした。患者の多くはペットにしていたプレーリードックと密に接触していました。
2005年に、スーダン・ユニティ州で集団感染が起こりました。また、患者の散発的な発生がアフリカ各地から報告されました。2009年には、コンゴ民主共和国からコンゴ共和国に入って来た難民の医療福祉キャンペーンで、サル痘患者2人が発見され確定診断されました。2016年8月から10月にかけて、中央アフリカ共和国では、患者26人と死亡者2人によるサル痘の集団感染が発生しました。
感染経路
最初の患者の感染は、感染した動物の血液、体液、皮膚、粘膜などと直接に接触することから起こります。アフリカでは、感染したサル、Gambian giant rats(アフリカオニネズミ)、リスなどを取り扱うことで、人への感染が記録されています。このウイルスの感染宿主は主にげっ歯類でした。感染した動物の肉を調理不十分のまま食べることは、感染のリスク要因となります。
二次感染となる人から人への伝播は、感染者の呼吸器・気管分泌物、皮膚(病変)、患者の体液や病変部に触れて間もない医療品などと濃厚に接触することで起こります。感染伝播は、通常、呼吸器からの飛沫で発生し、症状の現れた患者の家族は対面で長く接触することが必要となるため、感染のリスクがかなり高くなります。感染伝播は、接触や(先天性サル痘患者の)胎盤でも起こります。これまでに、人から人への感染だけで人の中でサル痘の感染が続いたという証拠はありません。
最近のプレーリードックで行われたサル痘の人への感染モデルの研究では、このウイルスに異なる2つの系統、コンゴ盆地系統とアフリカ西部系統があることが発見されました。前者の方が、毒性が高いことが判明しています。
症状と所見
サル痘の潜伏期間(感染から症状の発症までの期間)は、通常、6日から16日です。しかし、5日から21日までの幅があります。
この感染は2つの期間に分けられます。
- 1.侵入期(0-5日)は、発熱、強い頭痛、リンパ節腫脹、背部痛、筋肉痛、無力症などで特徴付けられます。
- 2.皮膚症状期(発熱後1-3日以内)には、さまざまな段階の皮疹が現れます。通常、顔面から始まり、身体の他の部分に拡がっていきます。もっとも皮膚症状が現れやすい部位は、顔部(患者の95%)、手掌と足底(75%)です。平らな基部を有する黄斑病変は、およそ10日間かけて、漿液で満たされた小水疱、さらに膿疱、痂皮へと進展します。痂皮の完全な消失には、3週間を必要とします。
病変の数は、数個から数千個までさまざまです。病変は、口腔内粘膜(患者の70%)、生殖器部(30%)、眼瞼結膜(20%)、並びに眼球結膜にも及びます。
患者のある者は、皮疹が出現する前に、重症のリンパ節腫脹を起こします。これは、類似の他疾患と比べて区別しやすい特徴です。
サル痘は、通常、症状が14日から21日続いて、自然と消退していきます。子どもでは重症化することが多く、その他にも、重症化はウイルスの暴露量、患者の健康状態、合併症の重症度などとも関係します。
森林地域やその近くに住んでいる人々は、感染した動物から間接的または低用量でウイルスと接触している可能性があります。その場合、感染しても無症状のままとなる可能性があります。
患者の死亡率は感染地域によってさまざまですが、記録されているものでは10%以下で、ほとんどが小さな子どもです。一般に、年齢が小さくなればなるほど、サル痘の感染に影響されやすいようです。
診断
考えるべき鑑別診断には、天然痘、水痘、麻しん、細菌性皮膚感染症、疥癬、梅毒および薬物関連性アレルギーなどの皮膚病変があります。この病気の前駆症状であるリンパ節症は、天然痘と区別できる臨床的特徴となります。
サル痘は、さまざまな検査でウイルスを同定できる検査施設でしか確定診断ができません。
- 酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)
- 抗原検出検査
- ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査
- 細胞培養によるウイルス分離
治療とワクチン
サル痘の感染に対し、特別な治療法も使用できるワクチンもありません。それでも、流行を管理することはできます。過去には、天然痘のワクチンはサル痘を予防する効果が85%に上ることが確かめられています。しかし、天然痘の地球上からの撲滅に続いて(ワクチン接種が)中断された後、公には使用することができません。それでも、これまでの天然痘ワクチンの接種は、臨床経過をより軽くさせる可能性があります。
サル痘ウイルスの自然宿主
アフリカでは、サル痘への感染がたくさんの動物[rope squirrels、tree squirrels(スミスヤブリス)、Gambian rats(アフリカオニネズミ)、striped mice、ドミス(アフリカヤマネ)および霊長類]から見つかっています。このウイルスの自然経過には謎が残っており、サル痘ウイルスの正確な自然宿主の同定や自然界でどのように受け継がれていくのかについては、さらなる研究が必要とされています
アメリカ合衆国では、このウイルスはプレーリードッグのようなアフリカ以外の動物種の中で感染しやすい動物が、アフリカの動物と一緒に飼われたことで感染伝播が起きたと考えられています。
予防
動物貿易の規制によるサル痘の拡大防止
アフリカの哺乳小動物やサル類の移動を制限したり禁止したりすることに、アフリカ以外でこのウイルスの拡大を抑制する効果があるかもしれません。
捕獲した動物に天然痘を接種してはいけません。感染した可能性のある動物は他の動物から引き離し、直ちに隔離することを、代わりに行わなければなりません。感染した動物と接触した可能性のある動物は、すべてを隔離し、予防措置の基準に沿って30日間はサル痘の症状を観察する必要があります。
人への感染リスクの軽減
サル痘が人に流行しているときには、他の人との濃厚な接触がサル痘ウイルスへの感染への最も大きなリスク要因となります。(サル痘への)特別な治療法やワクチンのない中で、人々への感染を減らす唯一の方法は、リスク要因への注意喚起と、ウイルスとの接触機会を減らすために取るべき対策を人々に教育することになります。
国民への健康教育のメッセージには、次に述べるリスクに焦点を向ける必要があります。
- 人から人への感染伝播のリスク軽減:サル痘に感染した人と密に身体を接触させることは避けるべきです。症状のある人の世話をするときには、手袋や防護具を付ける必要があります。発病した人の世話をしたり、訪問したりした後には、必ず手洗いを行うことが必要です。
- 動物から人への感染伝播のリスク軽減:ウイルスが錠剤する地域では感染を防ぐための努力として、食べる前に動物から得たもの(血、肉)全てを徹底して料理することに焦点を向ける必要があります。弱った動物、感染症状のある動物を取り扱うとき、動物を解体するときには、手袋や適切な作業服を付けて行う必要があります。
医療施設での感染管理
サル痘への感染が疑われる又は確定診断された患者を担当する、又はその検査検体を取り扱う医療関係者は、感染管理の基準に沿った予防対策を行う必要があります。
医療関係者、およびサル痘患者やその検査検体を取り扱ったり、これらと接触したりする機会のある者は、国の健康保健当局が天然痘に対する予防接種の実施を検討することが必要です。古くなった天然痘ワクチンは、免疫システムが弱ってきている人に投与すべきではありません。
サル痘への感染が疑われる人や動物から採取された検体は、管理体制の備えられた検査施設で働く熟練した検査者が取り扱うことが必要です。
WHOの取り組み
WHOは、感染の発生する国内で調査活動、感染への備え、流行への対策を行う加盟国を支援しています。
出典
WHO.Fact sheet, Media centre.November2016
Monkeypox
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs161/en/