住血吸虫症について (ファクトシート)

2017年1月 WHO(原文〔英語〕へのリンク

要点

  • 住血吸虫症は、寄生虫(住血吸虫)によって起こる急性及び慢性の疾患です。
  • 人々は、住血吸虫が含まれた水と日常的に接する機会のある農業活動、家事、職業や野外娯楽活動の中で感染します。
  • 衛生習慣の欠如や、住血吸虫で汚染された水の中での水泳や釣りなど、学齢期の子どもにいくつもの(感染しやすい)日常の遊びがあるため、これらの子どもは、特に感染しやすくなります。
  • 住血吸虫症の感染制御は、定期的に大規模の住民にプラジカンテルを投与することで疾患を減少させることに焦点が当てられています。また、飲料水や清潔な衛生環境の確保、淡水の貝の駆除など、さらに包括的なアプローチが感染伝播の減少を可能にさせると考えられています。
  • 2015年には、少なくとも推定で2億1800万人が住血吸虫症の予防的治療を必要としていることが示されています。
  • 2015年には、6,650万を超える人々が住血吸虫症の治療を受けたと報告されました。

概要

住血吸虫症は急性及び慢性の寄生虫性疾患で、住血吸虫(Schistosoma)属の住血吸虫(糞便虫)が原因です。2015年には、少なくとも2億1,800万人に予防的治療を行う必要があったことが示されています。数年に渡って繰り返される必要のある予防的治療は、罹患率を減らし、(感染を)予防します。住血吸虫症の感染伝播は78か国で報告されています。しかし、大規模な住民や地域社会に狙いを定めた住血吸虫症の予防的治療を必要とする国は、中等度から高度の感染伝播が起きている52か国だけです。

感染経路

人々は、住血吸虫に汚染された水に触れ、淡水の貝から放出される住血吸虫の幼態が皮膚を突き破ることで(体内に)侵入し、感染します。

感染の伝播は、住血吸虫症に罹患している人が住血吸虫の虫卵を含む排泄物で水源を汚染し、その虫卵が水の中で孵化することで発生します。

体内では、幼態は住血吸虫の成虫へと成長します。成虫は血管内に生息し、そこで雌は虫卵を放出します。虫卵の一部は、便や尿とともに排泄され、住血吸虫のライフサイクルを形成します。また、別の虫卵は、体内組織で(循環中に臓器に)引っかかり、(そこで)免疫反応を起こし、組織の障害を進行させます。

疫学

住血吸虫症は、熱帯地域及び亜熱帯地域で、特に安全な飲料水が手に入らず清潔な衛生環境を得られない貧しい国々で多くみられます。住血吸虫症の治療が必要な人の少なくとも90%がアフリカに住んでいると見られています。

住血吸虫症は、腸管に寄生する住血吸虫と泌尿生殖器に寄生する住血吸虫の2つに大別され、主に5種の住血吸虫が原因となります(表参照)。

表:住血吸虫の種と地理的分布

地理的分布
消化管に寄生する住血吸虫 マンソン住血吸虫
Schistosoma mansoni
アフリカ、中東、カリブ海諸国、ブラジル、ベネズエラ、
スリナム
日本住血吸虫
Schistosoma japonicum
中国、インドネシア、フィリピン
メコン住血吸虫
Schistosoma mekongi
カンボジアの一部地域と
ラオス
インターカラーツム住血吸虫近縁種(Schistosoma guineensis and related S.intercalatum 中部アフリカの雨林地域
泌尿生殖器に寄生する住血吸虫 ビルハルツ住血吸虫
Schistosoma haematobium
アフリカ、中東、コルシカ(フランス)

住血吸虫症は、貧しい農村地域、特に農業、漁業の従事者に感染しています。(住血吸虫で)汚染された水で洗濯などの家事を行う女性にもリスクがあります。特に小児は、適切な衛生習慣がなく、(住血吸虫で)汚染された水に触れることで、感染を受けやすくなります。

都市部への移住や大量の住民の移動が、新たな地域に疾患を持ち込んでいます。人口規模の増加とそれに伴う電力と水の必要性は、しばしば開発計画(の提案)に繋がり、この環境の変化が感染を伝播しやすくしています。

エコ・ツアーや"人里から外れた"旅行企画の増加に伴い、多くの旅行者が住血吸虫症に感染しています。時には、重症の急性感染を起こし、通常は現れることのない麻痺などの障害を起こす旅行者もいます。

泌尿生殖器に寄生する住血吸虫症も、特に女性で、HIV感染のリスク・ファクターになると考えられています。

症状

住血吸虫症の症状は、虫卵に対する生体の反応によって引き起こされます。

腸管に寄生する住血吸虫症は、腹痛、下痢、血便を起こします。進行した患者では肝腫大がみられ、肝腫大はしばしば腹腔内に腹水を貯留させ、腹部血管の圧を亢進させます。そのような患者では、脾腫も起こることがあります。

泌尿生殖器に寄生する住血吸虫症の古典的な症状は血尿です。進行した患者では、ときに膀胱尿管線維症や腎障害を起こします。合併症として、後期になると膀胱がんを発症することもあります。女性では、泌尿生殖器に寄生する住血吸虫症は、生殖器病変、膣出血、性交痛、外陰部結節を起こします。男性では、泌尿生殖器に寄生する住血吸虫症は、精嚢、前立腺、その他の臓器に病変を起こします。この疾患は、不妊など長期にわたる不可逆な転帰をもたらすことがあります。

住血吸虫症によって生じる経済と健康医療への影響はかなり大きく、この疾患は死に至らしめるよりも障害を(多く)もたらします。小児では、住血吸虫症は、貧血、発育障害、学習能力の低下を起こすことがあります。それでも、通常、これらの障害は治療によって回復します。慢性の住血吸虫症では、就労能力に影響を与えることや、死亡することもあります。住血吸虫症による死亡者数は、肝不全や腎不全、膀胱癌などの病態に隠れているために推測が困難ですが、WHOは、毎年、20万人以上が住血吸虫症で死亡していると見積もっています。

診断

住血吸虫症は、便検体または尿検体中で虫卵を検出することで診断されます。血液や尿の検体から検出される抗体や抗原も感染の指標となります。

泌尿生殖器に寄生する住血吸虫症には、ナイロン、紙、ポリカーボネイトのフィルターを使う濾過法が標準的な診断法です。小児のビルハルツ住血吸虫感染症では、ほぼ常態的に尿中の顕微鏡的血尿が見られ、これは化学試験紙でも確認できます。

消化管に寄生する住血吸虫症の虫卵は、グリセリンの中でメチレンブルーで染色したセロハンを使うかスライドグラスを使うことで糞便から発見することができます。これは、Kato-Katz法として知られています。

住血吸虫症が常在していない地域や感染伝播の少ない地域では、感染への接触機会の確認と、徹底した検査、治療および経過観察が必要とされる患者に、血清学的検査と免疫学的検査が有効です。

予防と感染制御

住血吸虫症の感染制御は、リスクのある住民への大規模な治療、安全な飲料水の利用環境の確保、衛生状況の改善、健康教育、淡水の貝の駆除に基づいて行われます。

WHOの住血吸虫症に対する感染制御の戦略は、感染の発生する地域住民への大規模な(予防投与の)治療を行うことで、定期的にプラジカンテルで住血吸虫を治療することによって、疾患を減らすことに焦点が当てられています。これはリスクのあるすべての住民に対し定期的に治療することが必要です。感染伝播が少ないいくつかの国では、疾患の撲滅を目指す必要があります。

治療の対象となる集団は、以下の通りです。

  • 常在地域の学齢期の子ども
  • 常在地域でリスクがあると考えられる成人、漁業従事者、農業従事者、灌漑作業従事者などの感染リスクのある水に接する職業に従事する人、家事で感染リスクのある水に接する女性
  • (罹患率の)高い常在地域に住むすべての人

治療の頻度は学齢期の子どもの有病率によって決定されます。高度に感染が伝播している地域では、数年に亘り、毎年繰り返し治療することが必要となるかもしれません。感染に対する介入の効果をみるためのモニタリングは必須となります。

目的は、疾患の減少にあります。リスクのある人を定期的に治療することで、軽度の症状を根治し、感染した人が重症化したり慢性の後期症状に進展したりすることを防ぎます。しかし、住血吸虫症の感染制御に対する大きな障害は、プラジカンテルの確保が限られていることです。2015年のデータでは、世界的には治療を必要としている人の28.2%にしか(プラジカンテル)は届いていませんでした。これは住血吸虫に対する予防投与が必要とされ、治療されている学童期の子どもの42.2%にしかなりません。

プラジカンテルは、住血吸虫のすべての形態に推奨される治療法です。有効かつ安全でしかも低価格です。小児期に治療が開始され反復されれば、治療後に再感染が起きたとしても、重症化するリスクが少なくなり、回復もします。

住血吸虫症に対する感染制御は、過去40年以上に渡り、ブラジル、カンボジア、中国、エジプト、モーリシャス、イラン、サウジアラビアなど数か国で成功してきました。また、モロッコでも住血吸虫症の感染伝播が止まったことの科学的な根拠が示されました。ブルキナファソ、ニジェール、シエラレオネ、イエメンでは、数年以内に国レベルで住血吸虫症の治療を拡大し、この疾患に打撃を与えることができるまでになりました。いくつもの国で感染伝播の状況の評価が行われています。

過去10年以上に渡り、リスクのある人々のほとんどが住むサハラ以南の数々の国で、治療キャンペーンが拡大されてきました。

WHOの取り組み

住血吸虫症に対するWHOの活動は、顧みられない熱帯病を制御するための集約的アプローチの一部です。顧みられない熱帯病は、医学的には様々な疾患の総称ですが、貧困な環境に存続し、集団発生を起こし、しばしば重複感染を起こす共通の特徴があります。

WHOは、共同センターや、学術・研究組織、民間団体、非政府組織(NGO)、国際開発機関、国連のその他の各機関といった支援組織と協議しながら、予防的化学療法の戦略への調整を図っています。また、WHOは、各国の制御計画で使用する技術的なガイドラインと対処方法を作成しています。

WHOは、支援組織や民間団体と連携しながら、プラジカンテルの利用環境の拡大と、それを実現させるための資金の拠出を、呼びかけています。毎年1億人以上の学齢期の子どもを治療するために、大量のプラジカンテルが民間団体や開発支援組織から提供されています。

出典

WHO.Fact sheet, Media centre.Updated January2017
Schistosomiasis
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs115/en/index.htm