単純ヘルペス、性器ヘルペス (ファクトシート)

2017年1月 WHO(原文[英語]へのリンク

要点

  • (一般に)ヘルペスと呼ばれるウイルスには、単純ヘルペス1型(HSV-1)と単純ヘルペス2型(HSV-2)の2種類があります。
  • 単純ヘルペス1型は、口唇ヘルペス("COLD SORE"として知られる症状を含む)を引き起こし、口から口への接触によって伝播します。性器ヘルペスの原因にもなります。
  • 単純ヘルペス2型は、性器ヘルペスを引き起こす性行為感染症です。
  • HSV-1、 HSV-2ともに生涯にわたり感染し続けます。
  • 世界で、推定で50歳未満の37億人(67%)がHSV-1に感染しています。
  • 世界で、推定で15歳から49歳までの4億1,700万人(11%)がHSV-2に感染しています。
  • 口唇ヘルペス、性器ヘルペスともに、ほとんどが無症状です。
  • ヘルペスの症状には、感染部位の疼痛を伴う水疱や潰瘍があります。
  • ヘルペスは、症状があるときだけでなく、無症状のときにも他の人に伝播できる強い感染力を持っています。
  • HSV-2への感染はHIVへの自らの感染や、他人に感染させるリスクを高めます。

概要

一般にヘルペスとして知られている単純ヘルペスウイルスの感染は、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)でも単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)でも起こります。HSV-1は、主に口から口への接触によって伝播し、口腔内もしくは周囲に感染(口腔ヘルペス)を引き起こします。HSV-2は、ほぼ例外なく性行為で伝播し、性器や肛門に感染(性器ヘルペス)を引き起こします。しかし、HSV-1には、口と性器との接触を通して性器にも伝播し、性器ヘルペスを引き起こす能力もあります。

口腔ヘルペス感染や性器ヘルペス感染はともに、ほとんどが無症状ですが、感染部位に軽度の症状や疼痛を伴う水疱や潰瘍を引き起こす力があります。

単純ヘルペス1型(HSV-1)

HSV-1は、世界中で日常的に存在する非常に感染力の強い感染症です。ほとんどのHSV-1の感染は小児期に獲得し、感染が生涯に渡ります。HSV-1感染症の大部分は(口腔内もしくは口腔周囲の感染で、一般に口唇ヘルペスとも呼ばれる)口腔ヘルペスですが、HSV-1の感染は一定の割合で、性器ヘルペス(陰部または肛門部への感染)にもなります。

問題の大きさ

2012年には、50歳未満の推定37億人、世界人口の67%がHSV-1に感染していました。推定罹患率はアフリカ(87%)が最も高く、アメリカ大陸(40-50%)が最も低くなっています。

HSV-1の性器感染については、2012年には推定で15歳から49歳までの1億4000万人がHSV-1に感染していました。しかし、罹患率は地域によって大幅に異なりました。HSV-1の性器感染のほとんどは、アメリカ大陸、ヨーロッパ、西太平洋で発生しているとみられています。この地域では、HSV-1が成人期に感染獲得されることが多い状態が続いています。他の地域、アフリカなどでは、性交渉の初体験以前に小児期に感染獲得してしまいます。

自覚症状と他覚所見

口腔ヘルペス感染のほとんどは無症状で、HSV-1に感染した人々の大半は感染していることに気づいていません。口腔ヘルペスの症状は、感染部位の疼痛を伴う水疱や口腔内や口腔周囲の潰瘍で現れるただれです。唇のただれは一般的に「口唇ヘルペス(COLD SORES)」と呼ばれています。感染者は、ただれの出現の前にしばしば口の周りに疼きや痒みや焼け付く痛みを経験します。最初に感染した後、水疱や潰瘍は定期的に再燃することがあります。再燃の頻度は、人によってさまざまです。

HSV-1による性器ヘルペスは、無症状か、または自覚しないほどの軽い症状を示します。性器ヘルペスは、症状が現れたときには、性器や肛門に現れる単一かそれ以上の水疱や潰瘍を特徴とします。最初に症状が現れた後、再燃することがあり、それは重い症状になることもあります。しかし、HSV-1による性器ヘルペスは、ほとんどの場合、頻繁には再燃しません。

感染経路

HSV-1は、主に口と口との接触で伝播し、口腔周囲または口腔内の創部、唾液、皮膚表面に存在するHSV-1ウイルスとの接触を通して口腔ヘルペス感染を引き起こします。しかし、HSV-1は性器にも伝播し、口と性器との接触を通して性器ヘルペスを引き起こします。

HSV-1は、正常にみえる口腔や皮膚表面、さらには症状がないときにも、伝播します。しかし、感染のリスクが最も大きいのは創部に炎症のあるときです。

既にHSV-1の口腔ヘルペスに感染している人は、その後にHSV-1が性器に感染することはほとんどありません。

稀なことですが、HSV-1の感染は、HSV-1に性器感染している母親から出産時に新生児に伝播することがあります。

起こりうる合併症

ヘルペスの重症化
病状が進行したHIV感染者のような免疫不全者では、HSV-1は、より重篤な症状を起こし、より頻繁に再燃することがあります。稀に、HSV-1感染は、脳炎や角膜炎(眼感染症)のようにさらに深刻な合併症を引き起こすことがあります。

新生児ヘルペス
新生児ヘルペスは、分娩中に新生児が産道でHSVと接触したときに起こることがあります。発生は稀で、世界での出生10万人あたり10人程度での発生ですが、続いて、神経障害や死に至ります。新生児ヘルペスのリスクは、母親が妊娠後期に初めて HSVに感染したときが最大です。妊娠前から性器ヘルペスに感染している女性では、彼女らの新生児がHSVの感染伝播を受けるリスクは非常に低くなります。

心理社会的影響
口腔ヘルペスの再燃症状は不快なことがあり、ある種の社会的偏見や心理的な苦痛をもたらすこともあります。性器ヘルペスでは、これらの要因は生活の質や性的関係おいて重大が影響を与えることがあります。しかし、何れの型のヘルペスに感染した人も、やがてはほとんどが感染症をもった生活に慣れていきます。

治療
アシクロビル、ファムシクロビル、およびバラシクロビルなどの抗ウイルス薬は、HSVに感染した人に対して使用できる最も効果のある薬剤です。これらには、症状の重症度を下げ、頻度を減らす効果があります。しかし、感染自体を治癒させることはできません。

予防
HSV-1は、口唇にヘルペス症状が現れた時に最も感染力が高くなります。しかし、自覚症状や目に見える症状がないときでも感染力を持ちます。感染力のある口腔ヘルペスの症状が現れている人は、他の人との接触や唾液が触れた物品の共有を避けるべきです。また、これらの人は、セックスパートナーの性器にヘルペスが伝播することを避けるために、オーラルセックスを控える必要があります。性器ヘルペスの症状のある人は、何れの症状があった場合にも性行為を控えておく必要があります。

既にHSV-1に感染している人が、再び感染するリスクはありませんが、単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)に性器感染(下記参照)するリスクは残されています。

コンドームを一貫性して正しく使用することは、性器ヘルペスの拡大を防ぐことに役立ちます。性器ヘルペスがコンドームで予防できない部位に出現することもあるため、コンドームは感染のリスクを減らすことができるに過ぎません。

性器ヘルペスの症状のある妊娠女性は、自分の健康を管理してくれる人には(感染を)知らせておくことが必要です。新生児ヘルペス感染の予防は、妊娠後期の女性では特に重要となります。このときに、新生児ヘルペスへの感染リスクが最大となるからです。

ワクチンのように、HSV感染に対してさらに効果的な予防法を開発するために、さらなる研究が進められています。現在、いくつかのHSVワクチン候補が研究されているところです。

単純ヘルペス2型(HSV-2)

HSV-2の感染が世界中に広まっており、ほとんど例外なく性交渉で伝播し、性器ヘルペスを引き起こします。HSV-2は、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)によっても引き起こされますが、HSV-2が主な原因です。HSV-2への感染は生涯にわたり続き、治るものではありません。

問題の大きさ

HSV-2による性器ヘルペスは世界的な問題で、2012年に世界中で推定4億1,700万人が感染しています。HSV-2感染の罹患率は、アフリカ(31.5%)で最も高く、次いで、アメリカ大陸(14.4%)と推定されています。新たな感染者の数は青年層で最高ですが、患者数は年齢が上がるとともに増加することも示されてきました。

HSV-2の感染者は男性よりも、女性の方が多く、2012年には女性感染者が2億6,700万人で、男性感染者が1億5,000万人と推定されています。性行為によるHSVの伝播は、女性から男性よりも男性から女性の方が感染の効率が高いためです。

自覚症状と他覚所見

性器ヘルペスは、しばしば無症状もしくは気づかない程に軽い症状です。ほとんどの感染者が自分の感染には気づいていません。一般には、性器ヘルペスの診断前にHSV-2感染の申告があった人はおよそ10-20%です。

症状が現れたときには、性器ヘルペスは単一または複数の水疱や性器潰瘍と呼ばれるただれを特徴とします。性器潰瘍に加えて、最初の感染では発熱、全身痛、リンパ節腫脹を伴います。

HSV-2による最初の性器ヘルペス感染の後には、通常、症状が再燃しますが、ほとんどは最初の感染よりも軽度です。再燃の頻度は、時間とともに減少します。HSV-2の感染者は、性器潰瘍が現れる前に、足、腰、お尻に穏やかなうずきや特発的な痛みを感じることもあります。

感染経路

感染は、主に性交渉時に性器の表面、皮膚、ただれや、ウイルスを含む体液が付着した物品との接触によって伝播します。HSV-2は正常に見える性器や肛門部の皮膚からも伝播し、また症状がない時もしばしば伝播します。

稀なことですが、HSV-2の感染は、分娩時に母親から新生児に伝播することがあります。

起こりうる合併症

HSV-2とHIVの感染の関係
HSV-2とHIVは互いに影響し合うことが分かっています。HSV-2感染は、新たにHIV感染症にかかるリスクを約3倍に高めます。また、HIVとHSV-2に重複感染している人は、他の人にもHIVを感染させる可能性が高くなります。HSV-2は、HIV感染者の中で最も一般的な感染症で、HIV感染者の60%から90%が感染しています。

HIV感染者(さらに他の免疫不全を持つ者)において、HSV-2に感染していると、多くの場合、症状がより深刻になり、再燃がより頻繁となります。HIV感染症が進行した場合には、HSV-2は、稀に、髄膜脳炎、食道炎、肝炎、肺炎、網膜壊死、播種感染など、さらに深刻な合併症を起こすことがあります。

新生児ヘルペス
新生児ヘルペスは出産時に産道でHSVに接触することで引き起こされます。稀ではありますが、新生児ヘルペスはときに極めて致死的な状態となります。新生児ヘルペスのリスクは、母親が妊娠後期にHSVに初めて感染したときが最大となります。妊娠前に性器ヘルペスに感染している女性では、彼女らの新生児がHSVの伝播を受けるリスクは非常に低いものとなります。

心理社会的影響
性器ヘルペスの再燃症状は痛みを伴うことがあり、ある種の社会的偏見や心理的な苦痛をもたらすことがあります。性器ヘルペスでは、これらの要因は生活の質や性的関係おいて重大な影響を与えることもあります。しかし、ヘルペスに感染したほとんどの人は、やがては感染症をもった生活に慣れていきます。

治療
アシクロビル、ファムシクロビル、およびバラシクロビルなどの抗ウイルス薬は、HSVに感染した人に対して使用できる最も効果的な薬剤です。これらは、症状の重症度および頻度を減らすことに役立ちます。しかし、感染自体を治癒させることはできません。

予防
性器ヘルペスの感染者は、症状が現れている時には性交渉を控えるべきです。HSV-2は皮膚にただれが生じているときに最も感染力が強くなります。しかし、自覚症状、目に見える症状がないときでも感染力を持ちます。

コンドームを一貫性して正しく使用することは、性器ヘルペスの拡大を防ぐことに役立ちます。しかし、コンドームで覆われない部位にも現れるため、コンドームの保護は限定的なものとなります。医学的な男性の割礼は、HSV-2、さらにはHIVやヒトパピローマウイルス(HPV)に対しても生涯にわたり一部を保護できます。

性器ヘルペスの症状のある妊娠女性は、自分に健康管理を提供してくれる人に知らせておく必要があります。

ワクチンまたは(性行為感染から保護するために膣や直腸の内側に使用できる薬剤による)局所殺菌剤など、HSV感染に対してさらに効果的な予防法を開発するために、さらなる研究が進められています。

WHOのHSV-1およびHIV-2に対する対策

WHOとその支援団体は、HSV-1および HSV-2による新生児ヘルペスと性器ヘルペスの予防および制御に対する研究の促進に取り組んでいます。この研究には、HSVワクチンの開発、局所殺菌剤などがあります。現在、いくつかの候補ワクチンと局所殺菌剤が研究されているところです。

2012年におけるHSV-1感染およびのHSV-2感染症の世界の患者数の新しい推定値が発表されてきました。新生児ヘルペスの世界の患者数の新しい推定値は、2016年に発表される予定です。

出典

WHO..Fact sheet, Media centre.Update January2017.
Herpes simplex virus
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs400/en/