フランベジア(イチゴ腫)について(ファクトシート)

2017年3月 WHO(原文〔英語〕へのリンク

要点

  • フランベジア(イチゴ腫)は、梅毒トレポネーマの亜種pertenueによって引き起こされ、慢性で外観を損ない、消耗を来す感染症です。
  • (フランベジア)は、1950年代にWHOとユニセフが根絶を目指すことを最初に定めた疾患のひとつです。WHOは、2012年にフランベジアを根絶するための世界的な取り組みを見直しました。
  • この疾患は、皮膚、骨、軟骨に影響を及ぼします。現在のところ、人だけが保有宿主と考えられており、伝播は人から人へと伝わっていきます。
  • フランベジアは、アジスロマイシン抗生剤を単回経口投与するだけで完全に治すことができます。
  • 現在、フランベジアが常在している国は13か国で、そのうち8か国のみがデータを定期的にWHOに報告しています。
  • 以前に感染が常在していた73か国では、現在の疾患の状態を確認することが必要です。

概要

フランベジアは、風土病性トレポネーマ症として知られる慢性の細菌感染の一群の一部を構成しています。これらの疾患は、トレポネーマに属する螺旋状の細菌によって引き起こされます。ここには、風土病性梅毒(ベジェル)やピンタも含まれます。フランベジアは、これら3つの感染症の中で最も頻繁にみられるものです。

原因菌であるTreponema pallidum亜種pertenueは、梅毒の病原体である梅毒トレポネーマやベジェルやピンタの病原細菌と遺伝学的に近い関係にあります。

この疾患は、主に、アフリカ、アジア、ラテンアメリカ、太平洋の温帯で湿潤な熱帯雨林気候地帯の貧困な地域でみられます。感染者の多い地域では、(感染者は)ほとんどが子どもで、医療支援を受ける環境からはほど遠く、「道の終わり」と表現されるところに住んでいます。貧困、社会経済的に整わない環境、および個々人の劣悪な衛生状況などが、フランベジアの拡大を促進しています。

感染した人の約75~80%は15歳未満の子どもです。彼らが、大きな保有宿主となっています。発生が最も多いのは6歳から10歳の子どもです。男女とも、同じように感染します。感染の伝播は、小さな傷での人から人への直接の接触で起こります。また、ほとんどの病変は四肢に発生します。フランベジアの初期病変は細菌に富んでおり、潜伏期間は、9-90日、平均で21日です。

治療しなければ、感染によって慢性的に外見が損なわれ、障害を生じることにつながります。

問題の展望

現在、フランベジアの常在が知られている13か国のうち、8か国で46,000人を超える患者が2015年に報告されました。残る5か国での(この疾患の)常在性を確かめるには、さらに評価が必要です。1950年代以降に感染が常在していた国のうち、少なくとも73か国では感染伝播が絶たれたことを判断するための評価が必要です。そのため、WHOは、世界での根絶プロセスの一部として(これらの国に)この疾患が終息したことを確認するための手続きを行っています。

WHOは、2016年5月に、インドでフランベジアの終息を宣言しました。エクアドルではこの数年間に患者は報告されていないものの、まだフランベジアが終息したことは確認されていません。

臨床症状、診断、治療

臨床症状

フランベジアは、最初に、細菌が巣くう乳頭腫として現れます。乳頭腫は、フランベジアの典型的な症状であり、容易に臨床診断できます。治療をしなければ、乳頭腫は潰瘍となります。潰瘍を形態すると、診断は少し難しくなり、血清学的な確認が必要となります。乳頭腫と潰瘍には、強い感染性があり、治療していない状態では他の人々に簡単に感染させる可能性があります。フランベジアには、他にも臨床の形態がありますが、これらはあまり感染性がありません。

第二のフランベジアの症状は、最初の感染後の数週間から数か月後に起こります。典型的な症状は、複数の隆起した黄色病変や長骨および指の腫れと痛み(指炎)です。WHOは、医療従事者や地域ボランティアがこの疾患を特定するためのトレーニング資料を作成しました。

軟性下疳菌(Haemophilus ducreyi)によって起こる潰瘍は、皮膚潰瘍の大きな原因(主に脚部に起こる)で、フランベジアと臨床的に似ており、臨床的な診断を困難にさせます。臨床的にフランベジアと診断された潰瘍のうち、約40%はH.ducreyiによって起こされた軟性下疳です。

診断

伝統的に、トレポネーマ感染症(例えば、梅毒、フランベジア)を診断するために、梅毒トレポネーマ粒子凝集検査法(TPPA)や急速血漿レアギン試験(RPR)などの血清学的検査が、広く使用されてきました。しかし、これらの検査は、フランベジアと梅毒とを区別することができません。フランベジアが常在する地域に住む成人における検査結果を解釈するときには、慎重な臨床評価が必要になります。

臨床現場では迅速point-of-care test検査法が広く使用できます。しかし、それらの大部分はトレポネーマの基質に基づいており、過去と現在の感染を区別することができません。最近、トレポネーマ性および非トレポネーマ性の2種類を同時に検査する迅速検査法が利用できるようになり、現場での診断が簡素化されました。これらの検査法は、現在と過去の感染を検出して、直ちに治療を指導することができます。

ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査法は、皮膚病変から病原組織を検出することで、フランベジアを確定診断することに使われます。アジスロマイシンへの耐性獲得を監視することにも使うことができます。フランベジア根絶へのPCR法検査の採用は、大規模な治療後に発生する少数の患者でのフランベジアを鑑別診断しなければならないときに、非常に役に立ちます。

治療

フランベジアの治療には、2種類いずれかの抗菌薬(アジスロマイシンまたはベンザチン・ペニシリン)が使用されます。

  • アジスロマイシンの単回経口投与30mg/kg(最大2g)が、WHO「フランベジア根絶への戦略」(the Morges Strategy)では、大規模な治療キャンペーンで管理と物資の検討が容易なことから、好んで選択されます。
  • ペニシリン・ベンザチンの単回筋肉内注射の小児60万単位(10歳以上)と成人120万単位が、臨床的にアジスロマイシンでの治療に失敗した患者やアジスロマイシンにアレルギーのある患者に選択されます。

患者の経過観察

患者は、抗生物質で治療した4週間後に検査を受けます。95%を超える患者では、完全に治癒したことが観察されます。何らかの臨床所見がある場合、特異な患者に対し、治癒したことを完全に評価するために、治療6か月後や12か月後に非トレポネーマ(性病原体)への検査を繰り返し行うことがあります。

予防

フランベジアにワクチンはありません。早期診断のほか、患者が発生している地域での集団治療や、患者と接触者に対象を絞った治療により、感染伝播の阻止に基づいた予防が行われます。健康教育と個々の衛生状態の改善は予防の中でも重要な要素です。

根絶に向けた新たな取り組み:これまでの進展

WHOは、2012年に、60年のベンザチン・ペニシリン注射薬から移行させ、アジスロマイシン経口薬に基づいてフランベジアの根絶を目指す戦略を立てました。それはMorges戦略(the Morges Strategy)と呼ばれています。顧みられない熱帯病に対するWHOの2012年ロードマップ(工程表)と2013年の WHO総会での決議66.12の中で、フランベジアは2020年までに根絶するという目標が定められました。

コンゴ、ガーナ、パプア・ニューギニア、ソロモン諸島、バヌアツの5か国におけるフランベジア根絶への戦略に先駆けた実施試験では、有望な結果と規模の拡大への実践的な説得力のある根拠が提供されました。

根絶への計画の指針として、研究を行うための優先事項が定められました。ガーナとパプア・ニューギニアで、フランベジアの標準治療30mg/kgと比較して、トラコーマに推奨される用量20mg/kgでもあるより低い用量で有効があるとする研究が2016年末に終わりました。結果は、2017年に出されます。

根絶の判断基準

1960年に、性行為感染症とトレポネーマ感染症(Venereal Infections and Treponematoses)に関するWHO専門家委員会によって、この疾患の根絶のための2つの判断基準が設定されました。

その判断基準は、次のように定められています。

  • 3年連続して、新たに感染していた患者が見つからないこと
  • 3年連続して、1-5歳の小児の血清検査で測定した結果で、感染の証拠がみつからないこと(例えば、RPR血清反応性に陽性の小児がいないこと)

2010年にPCR法検査の技術が進展して以来、疑わしい病変におけるPCR法検査での陰性結果が診断基準に追加されました。これは、フランベジア潰瘍とよく似たH.ducreyi(軟性下疳菌)のような病変を鑑別するために必要なものです。

他の計画との連携

ブルーリ潰瘍、皮膚リーシュマニア症、ハンセン病などの顧みられない熱帯性疾患(NTDs)プログラムとの連携、並びに性行為感染症プログラムとの連携は、フランベジアの根絶を進めるために不可欠です。

2020年までの根絶への展望

各国でのフランベジアの根絶を目指す戦略(Morges戦略)の先行試験を実施することから得られたさまざまな経験から、アジスロマイシンの持続的な供給が確保されれば、いくつかの国では2020年までに感染経路を遮断することは可能であることが明らかになっています。インドでのフランベジア根絶への勝利は、取り組みへの努力を進める他の国にも説得力のある前向きとなる根拠を提供しています。

出典

WHO.Fact sheet, Media Centre.Updated March2017
Yaws
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs316/en/index.html