リーシュマニア症について(ファクトシート)

2017年4月 WHO(原文〔英語〕へのリンク

要点

  • リーシュマニア症には、主に3種類の病型があります。3種類の病型は、内臓リーシュマニア症(カラ・アザールとしても知られ、最も重篤な病型)、皮膚リーシュマニア症(最も頻度が高い病型)、皮膚粘膜リーシュマニア症です。
  • リーシュマニア症は、寄生虫のリーシュマニア原虫によるもので、原虫を持ったサシチョウバエに刺されることで感染します。
  • この疾患は、世界で最も貧しい人々に感染し、栄養失調、集団移動、住宅の荒廃、免疫機能の低下、財力の欠落が関係してきます。
  • リーシュマニア症は、森林の伐採、ダム建設、灌漑計画、都市化などの環境変化と関係します。
  • 年間に推定で70-100万人の新たな患者が発生し、2万人から3万人が死亡しているとみられます。
  • 最終的には、リーシュマニア原虫に感染したごく一部の者だけが病気を発症します。

概観

リーシュマニア症は、20種を超えるリーシュマニア原虫によって引き起こされ、人は原虫をもった雌の吸血性サシチョウバエに刺されることで感染します。90種類以上のサシチョウバエが、リーシュマニア原虫を伝播すると知られています。リーシュマニア症には主に3種類の病型があります。

内臓リーシュマニア症(VL)

カラ・アザールとしても知られており、治療しなければ95%以上で死に至ります。不規則な発熱、体重減少、肝脾腫、貧血を特徴とします。インド亜大陸とアフリカ東部に多く常在しています。世界では、年間推定で5万人から9万人に新たな内臓リーシュマニア症患者が発生しています。2015年には、WHOに報告された新たな患者の90%以上が、ブラジル、エチオピア、インド、ケニア、ソマリア、南スーダン 、スーダンの7か国で発生しています。東南アジアでは、カラ・アザール撲滅計画が撲滅に向けた歩みを続けており、感染が常在していたバングラデシュ、インド、ネパールの3か国で、患者数が減少してきています。

皮膚リーシュマニア症(CL)

最も頻度の多い病型です。身体の感染した部位に皮膚病変、多くは潰瘍を生じ、生涯に渡って瘢痕を残し、重度の身体障害を起こします。皮膚リーシュマニア症患者の約95%は、アメリカ大陸、地中海沿岸地域、中東、中央アジアで発生しています。新たに発生する患者のうち3分の2以上は、アフガニスタン、アルジェリア、ブラジル、コロンビア、イラン、シリアの6か国で発生しています。世界では、年間推定で60万人から100万人の新たな患者が発生しています。

皮膚粘膜リーシュマニア症

鼻、口、咽喉の粘膜の一部または全部が破壊されます。皮膚粘膜リーシュマニア症の患者の約90%は、ボリビア、ブラジル、エチオペア、ペルーで発生しています。

感染経路

リーシュマニア症は、原虫をもった雌のサシチョウバエ亜科サシチョウバエに吸血されることで感染します。リーシュマニア症の疫学は、原虫の種類別の特徴、感染伝播が起きている地域の生態学的特徴、現在及び過去における地域住民の原虫への暴露状況、人々の生活行動様式によって異なります。人間を含めて約70の動物種が、リーシュマニア原虫の自然宿主として知られています。

地中海沿岸地域

地中海沿岸地域では、主な病型は内臓リーシュマニア症です。農村部や山岳地帯の村のほか、リーシュマニア原虫が主に犬に寄生しており、都市周辺部でも発生します。

東南アジア

東南アジアでは、主な病型は内臓リーシュマニア症です。一般的に、感染伝播は、1年を通して多雨で、平均湿度が70%を越え、気温が15℃から38℃の地域に位置し、植生が豊富で、地下水と沖積土がある農村部で発生しています。土壁や土間のある家が多く、牛やその他の家畜が人の生活に近いところで飼われている農村で、最も頻繁にみられます。東南アジア地域では、人がリーシュマニア原虫の唯一の宿主と考えられています。

東アフリカ

東アフリカでは、北部のアカシア-バラニテスが生えるサバンナとシロアリの塚の周辺にサシチョウバエが生息する南部のサバンナや森林地帯において、内蔵リーシュマニア症の集団発生が頻繁に発生しています。アフリカのこの地域では、人が内蔵リーシュマニア症を起こすリーシュマニア原虫の主たる宿主と考えられています。皮膚リーシュマニア症は、東アフリカのエチオピア高原などの場所で発生しています。そこでは、ハイラックス(イワダヌキ)の自然生息地でもある岩の丘や川岸に村が築かれており、人とハエとの間で多くの接触機会があります。

アフリカ北部・ユーラシア大陸

アフリカ北部・ユーラシア大陸では、主な病型は皮膚リーシュマニア症です。農業計画や灌漑計画によって、免疫のない人がその計画の仕事に就き、皮膚リーシュマニア症への感染率が増加することがあります。人口が密集した都市でも、特に戦争などで大規模な人口の移動があると、大規模な集団発生が起こります。皮膚リーシュマニア症を起こす寄生虫は、主に人とげっ歯類に寄生しています。

アメリカ大陸

アメリカ大陸における内臓リーシュマニア症は、地中海沿岸地域でみられるものと非常に似ています。家の中で犬などの動物を飼う習慣があることが、人への感染を助長していると考えられています。アメリカ大陸における皮膚リーシュマニア症の疫学は、感染伝播のサイクル、保有宿主、媒介するサシチョウバエ、臨床症状、治療への反応性がさまざまで非常に複雑であり、同じ地域に複数のリーシュマニア種が流行しています。

カラ・アザール後皮膚リーシュマニア症(PKDL)

カラ・アザール後皮膚リーシュマニア症は、内臓リーシュマニア症の後遺症で、通常、顔、上腕、体幹その他の部位に、斑、丘疹、結節が現われます。これは、主にアフリカ東部やインド亜大陸で発生しており、インド亜大陸では5%から10%の患者に後遺症が現れます。通常、これは、カラ・アザールが治ったとみられた6か月から1年以上も後に現れますが、それよりも早く現れることもあります。カラ・アザール後皮膚リーシュマニア症になった人は、カラ・アザールの潜在的な感染源になると考えられています。

リーシュマニアとHIVの重複感染

リーシュマニアとHIVに重複感染している人は、多彩な臨床症状が現れる確率が高く、再発率や死亡率も高くなっています。抗レトロウイルス薬による治療は、重複感染した人の疾患の進行を抑え、再発を遅らせ、生存率を高めます。リーシュマニアとHIVに重複感染している人の割合は、ブラジル、エチオピア、インドのビハール州で高いことが報告されています。

主なリスクファクター

社会経済的な状況

貧困によって、リーシュマニア症のリスクが高まります。家屋が貧粗で家庭内の衛生環境(例えば廃棄物の管理が不十分で、下水道が密閉されていないなど)が十分でないと、サシチョウバエの繁殖場所や生息場所が増え、サシチョウバエが人と接触する機会が増えます。サシチョウバエにとって、血液という豊富な栄養源があるため、密集した家屋は格好の場所となります。屋外や地面の上で寝るなどの人々の行動はリスクを高める可能性があります。殺虫剤で処理された蚊帳を使用すればリスクが低下します。

栄養失調

食事にタンパク質、鉄、ビタミンA、亜鉛が不足していると、感染がカラ・アザールに進展するリスクが高くなります。

人々の移動

皮膚リーシュマニア症と内臓リーシュマニア症は、移民や免疫を持たない人々の感染伝播サイクルが存在する環境への移動と、しばしば関係します。広範な森林伐採と職業的な接触機会とは重要な要因となっています。例えば、(かつては)森林であった地域に住すんでいた人々が、サシチョウバエの生息地近くに移動していることがあります。これは、患者を急激に増加させることがあります。

環境の変化

リーシュマニア症の罹患率に影響する環境の変化には、都市化、伝播サイクルの定着、森林地帯での農場や居住地の開拓がなどがあります。

気候の変化

リーシュマニア症は気候に敏感で、降雨量、気温、湿度の変化に強く影響されます。地球温暖化や土地の荒廃は、いずれもリーシュマニア症の疫学に影響を及ぼします。

  • 気温、降雨量、湿度の変化はサシチョウバエの生息分布を変え、生息規模に影響を与えることで、その分布を変化させるにより、媒介するハエと保有宿主に強い影響を与えます。
  • 気温の小さな変動でも、サシチョウバエの体中にいるリーシュマニア原虫の発育周期(前鞭毛型)には大きな影響力を与え、以前にはリーシュマニア症が常在しなかった地域にも寄生虫の伝播を可能にします。
  • 気候の変化による干ばつ、飢饉、洪水は、リーシュマニア症が流行している地域への人々の大規模な移動を引き起こし、栄養不良は免疫機能に障害を与えます。

診断と治療

内臓リーシュマニア症は、臨床所見と寄生虫学的検査または血清学的検査(迅速診断検査やその他の検査)を組み合わせることによって診断されます。皮膚リーシュマニア症と皮膚粘膜リーシュマニア症では、血清学的検査の有用性は限られています。皮膚リーシュマニア症は、臨床症状と寄生虫学的検査によって診断が確かめられます。

リーシュマニア症の治療は、病型、感染にともなう病態生理、寄生虫の種類、地理的条件などのいくつもの要因に依存します。リーシュマニア症は治療可能で完治できる疾患です。内臓リーシュマニア症と診断されたすべての患者は、速やかに治療を行い、完遂する必要があります。分布地域毎のさまざまな病型に対する治療の詳しい情報は、WHOテクニカル・レポート・シリーズ949「リーシュマニア症の感染管理」に示されています。

感染の予防と管理

リーシュマニア症の感染伝播は、宿主となる人、寄生虫、媒介するサシチョウバエ、いくつもの原因となる動物の保有宿主などが関係する複雑な生態系の中で起こっています。そのため、リーシュマニア症の感染予防および感染管理には、介入戦略を組み合わせる必要があります。重要な戦略は以下の通りです。

  • 早期発見と効果的な患者管理は、疾患の罹患率を低下させ、障害や死に至ることを防ぎます。現在、患者の早期発見および早期治療は、感染の伝播を減らし、疾患の拡大および疾患脅威を監視することに役立ちます。現在、内臓リーシュマニア症に対して非常に有効かつ安全な抗リーシュマニア薬があります。これらの医薬品の利用環境は、WHO交渉価格制度とWHOによる医薬品寄付プログラムのおかげで大幅に向上しました。
  • 媒介昆虫のコントロールでは、特に、家の中にいるサシチョウバエを駆除することが、疾患の感染伝播を減らし遮断することに役立ちます。駆除・防御の方法には、殺虫剤の噴霧、殺虫剤で処理された蚊帳の使用、(生息)環境の管理、個人による予防などがあります。
  • 効果的な疾患のサーベイランスは重要です。治療中の患者死亡率などの速やかなデータの報告は、感染の蔓延や発生状況の中での監視と、対策の鍵となります。
  • 動物の保有宿主の管理は難しく、地域の状況に合わせて調整しなければなりません。
  • 有効な行動変容への介入となる地域活動や地域教育などの社会的な地域活動員との関係強化は、常に地域に合わせたコミュニケーション戦略を用いなければなりません。さまざまな利害関係者や昆虫により媒介されるその他の疾患を管理する計画の実施者との協力関係が、重要となります。

WHOの取り組み

WHOはリーシュマニアの感染管理のために、次のような対応に取り組んでいます。

  • 各国で、リーシュマニア症に対する最新のガイドラインを作成し、疾患の管理計画を立てる感染管理計画を支援する。
  • リーシュマニア症の世界的な脅威に関する注意喚起と知識の普及を向上させ、疾患予防や患者管理に対する平等な医療サービスの利用を推進する。
  • リーシュマニア症の感染の予防および管理に関して、科学的根拠に基づいた政策の指針、戦略、策定基準を設定し、実施状況を監視する。
  • 継続可能で効果のある疾病調査体制と、流行への備え、感染対策の計画を築き上げるために、加盟国に対し技術的支援を提供する。
  • 支援組織や利害関係者、その他の団体との間で、連携及び協調活動を強化する。
  • 世界におけるリーシュマニア症の発生状況、動向を監視し、疾患の感染管理の進展状況や資金調達状況を評価する。
  • 診断機器および最終的な選択としての抗リーシュマニア症薬を提供する。
  • 安全かつ有効で安価に入手できる薬剤、診断機器、ワクチンなどの分野から効果の高いリーシュマニア症の感染管理に関する研究を推進する。
  • 研究結果の普及を促進する。

出典

WHO.Fact sheet, Media centre.Updated April2017
Leishmaniasis

http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs375/en/index.html