エボラ出血熱について (ファクトシート)(更新)
2017年5月 WHO (原文〔英語〕へのリンク)
要点
- Ebola virus disease(エボラ出血熱)は、人間では重症化し、しばしば死に至る病気です。
- ウイルスは野生動物から人に感染し、生活環境下では人から人へも感染伝播します。
- エボラ出血熱の死亡率は平均して50%前後です。過去の流行では、致死率は25%から90%の間で変動しています。
- エボラ出血熱の最初の流行は、アフリカ中央部の熱帯雨林に近い僻村で発生しました。しかし、2014-2016年に発生した西アフリカでの最近の流行は僻村だけでなく主要都市でも発生しました。
- 地域社会の関わりが流行の制御を成功に導くための鍵となります。感染流行の適切な制御は、症例の管理、感染の予防と制御の実践、調査研究と接触者の追跡、処理能力をもった検査体制、安全な埋葬、社会資源の動員といった一連の組立てを取り行うことにかかっています。
- 補液による早期の支持療法、対症療法は、生存率を向上させます。まだ、ウイルスを中和し改善させるための承認された治療法はありません。しかし、ある種の血液療法、免疫療法、薬物療法が開発途上にあります。
背景
エボラウイルスは、治療をしなければ、しばしば死に至る急激かつ重篤な病態を引き起こします。エボラ出血熱は、1976年に初めて、現在の南スーダンのンザラとコンゴ民主共和国のヤンブクの2か所で同時期に発生しました。後者は、エボラ川の近くの村で発生したため、疾患名が川の名前にちなんで名づけられました。
2014-2016年に発生した西アフリカの流行は、1976年にエボラウイルスが最初に確認されてから、最大かつ最も深刻なエボラ流行となりました。患者、死亡者ともに、過去の流行を全て合わせた数を上回りました。流行は、ギニアで始まりシエラレオネとリベリアの国境を越えて拡がりました。
エボラウイルスが属するフィロウイルス科は、クウェバウイルス(Cuevavirus)属、マールブルグウイルス属(Marburgvirus)、エボラウイルス(Ebolavirus)属の3種の属から成ります。また、エボラウイルス属は、ザイール、ブンディブギョ、スーダン、レストン、タイフォレストの異なる5型が同定されています。ブンディブギョ、ザイール、スーダンの3種は、アフリカでの大流行を起こしてきました。2014年-2016年に発生した西アフリカでの流行を起こしたウイルスはザイール型に属しています。
感染経路
エボラウイルスの自然宿主はオオコウモリ科のフルーツコウモリと考えられています。エボラウイルスは、熱帯雨林で発症したり、死亡したりした感染動物(チンパンジー、ゴリラ、フルーツコウモリ、サル、森林に生息するレイヨウ、ヤマアラシなど)の血液、分泌液、臓器、その他の体液を介して人が濃厚に接触することで感染します。
その後、エボラウイルスは感染した人の血液、分泌液、臓器、体液など、また、これらに汚染された物の表面や日用品(ベッド、衣類など)を介して直接接触することで(皮膚の傷や粘膜を通して)人から人へと感染が拡がります。
医療従事者は、エボラ出血熱の疑いまたは確定患者を治療する際に、しばしば感染しています。これは、感染予防対策や厳しく実践されていないときに、患者と濃厚接触したことが原因で起きています。
埋葬儀式で参列者が死者の体に直接触れることも、エボラの感染拡大の一因となりました。
感染者は、ウイルスが血液に含まれている限り、感染性を保持しています。
性行為感染
性行為感染のリスク、特に、精液中に存在し活性のあるウイルスの経時的な感染リスクについて、さらなる調査データの集積と研究が必要とされています。現在の証拠に基づいて、WHOは暫定的に以下のことを推奨しています。
- 全てのエボラ出血熱からの回復者および性的パートナーは、精液が2度の検査で陰性となるまでは、安全な性行為を確実に行えるように講習を受けることが必要です。回復者にはコンドームが提供されるべきです。
- 男性のエボラ回復者は、発症後3か月の時点で検査を受け、その検査で陽性となった者は、その後は、2度のRT-PCR法によってウイルスが陰性となるまで毎月、精液の検査が行われるべきです。
- エボラ出血熱からの回復者および性的パートナーは、以下の何れか(の対策)を行う必要があります。
- 性行為の一切を控えること
- 回復者の精液が2度の検査で陰性となるまでは、一貫して確実にコンドームを使用して安全な性生活を送ること
- 回復者は、陰性の結果が得られれば、エボラウイルスの感染を恐れることなく、普段どおりに性生活を再開しても安全です。
- 現在行われている調査のさらなる分析とエボラ出血熱のWHO諮問グループによる検討に基づいて、WHOは、エボラ出血熱からの男性回復者に対して、発症から12か月間もしくは精液検査で2度のエボラウイルスに対して陰性の結果が得られるまでは安全な性行為とその対処法を実施することを勧めています。2度のエボラウイルスに対する検査で陰性の結果が得られるまでは、回復者はマスタベ-ションの後を含め、精液と直接に接触した後には、石鹸と水で直ぐに徹底的に洗浄することによって、適切に手と身体の清潔を保つことを実行すべきです。この間、使用されたコンドームは、中の精液との接触を防ぐために、安全に取り扱い、安全に破棄される必要があります。
- 全てのエボラ出血熱からの回復者およびそのパートナーや家族には、敬意と尊厳そして思いやりをもって接せられるべきです。
エボラ出血熱から回復した人に対する医療支援 -暫定ガイドライン
エボラ出血熱の症状
潜伏期間(感染から発症するまでの期間)は2日から21日です。症状が発現するまでは、その人は感染力をもちません。初期症状は、突然に襲われる発熱を伴う倦怠感、筋肉痛、頭痛、咽頭痛です。これらの症状に続いて、嘔吐、下痢、発疹、腎機能および肝機能の障害が起こり、しばしば内出血と外出血(歯肉出血や血性便)がみられます。検査所見では、白血球減少、血小板減少、肝酵素の上昇がみられます。
エボラ出血熱から回復者に潜伏するウイルス
エボラウイルスは、エボラ出血熱からの回復した一部の人の免疫特異部位で存続することが知られています。これらの部位には、睾丸、眼の内部、および中枢神経系などがあります。妊娠中に感染した女性では、胎盤、羊水、胎児でウイルスが存続します。授乳中に感染した女性では、ウイルスは母乳中で存続する可能性があります。
ウイルスの存続についての研究では、病気からの回復者の何人かの体液では、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法検査において、エボラウイルスが9か月以上にわたって陽性であったことが示されています。
稀ですが、病気からの回復者の何人かで、特定の部位でウイルスが増殖したために生じた再燃性の症候性疾患が、報告されています。この現象が起こる理由は、まだ完全には解明されていません。
診断
マラリア、腸チフス、髄膜炎などの感染症とエボラ出血熱との鑑別は困難です。エボラウイルス感染症による症状であることの確認は以下の検査で行います。
- 抗体捕捉のためのELISA法
- 抗原検出試験
- 血清中和試験
- RT-PCR法検査
- 電子顕微鏡
- 細胞培養によるウイルス分離
検査方法の選択には、技術の特殊性、疾患の発生率と罹患率、検査結果の社会的および医学的な意味などを慎重に考える必要があります。確立された評価と国際的な評価を受けた診断検査法の使用を検討することが、強く勧められます。
現在、WHOが推奨している検査法は、次のとおりです。
- 定期検査での診断を管理するための自動または半自動核酸検査(NAT)。
- NATを簡単に使えない僻地の環境では、迅速な抗原検出法検査。これらの検査は、調査活動の一部としてのスクリーニング検査を目的とすることにも推奨されますが、(感染)再燃の検査はNATで確認する必要があります。
診断のために求められる検体の採取法は、次のとおりです。
- 症状を呈している患者からは、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)管に全血を採取します。
- 死亡した個体または採血ができないときには、感染を防止できる搬送媒体に口腔内液を採取して保管します。
患者から採取された検体は、病原体に対する高いリスクがあります。不活化されていない検体に対する施設での検査は、最大級の生物学的な封じ込めの条件下で実施されなければなりません。すべての生体からの検体は、国内および国際的に輸送される場合に、3重での包装手段を取って包装する必要があります。
治療とワクチン
経口または点滴により支持的に行う補液療法、特異的な症状に対処する治療は生存率を向上させます。まだ、エボラ出血熱に対処できると証明された治療法はありません。しかし、血液療法、免疫療法、薬物療法など、ある種の治療法の可能性は、現在、評価の段階にあります。
ギニアでの大規模な(臨床)試験で、実験段階のエボラワクチンが、致死的なウイルスに対して高い防御を示すことが証明されました。rVSV-ZEBOVと呼ばれるこのワクチンは、2015年に11,841人を対象とした試験で調査が行われました。ワクチンを受けた5,837人で、ワクチン接種後10日以上にわたりエボラ患者は記録されませんでした。一方、ワクチン接種を受けていなかった人はワクチン接種後10日以上経過して23人の患者がでました。
この臨床試験は、WHO、ギニア保健省、国境なき医師団(MSF)、ノルウェー公衆衛生研究所とともに、他の国際支援組織の協力を得ながら、WHOの主導の下で行われました。リング・ワクチン接種プロトコールが、試験には選択されました。この試験プロトコールでは、患者が発見された直後に(患者の周囲の)いくつかでワクチンが接種され、3週間後にその他の患者の周囲の人々にワクチンが接種されました。
予防と感染制御
適切な流行の制御は、地域介入において、症例の管理、調査研究と接触者の追跡、収集能力をもった検査体制、安全な埋葬、社会資源の動員といった一連の組立てを当てはめることにかかっています。地域社会の関わりが流行を上手く制御するための鍵となります。エボラ感染の危険因子に注意を払う意識を高め、個々人で対処できる予防を行うことが、効果的に人での感染を減らす対策となります。感染の危険性を低減するためのメッセージが、いくつかの要点としてまとめられています。
- 感染したオオコウモリ、サル/類人猿との接触、その生肉の摂取を原因とする、野生動物から人への感染の危険性を減らすこと:動物は、手袋やその他適切な防護服の下で処理することが必要です。動物食品(血液や食肉)は食べる前に徹底して加熱調理することが必要です。
- エボラ症状のある人、特に、感染者の体液との、直接または濃厚に接触することでの人から人への感染の危険性を減らすこと:自宅で病人を世話するときには、手袋と適切な個人用の防御具を着用することが必要です。家庭内で病人を世話した後と同様に、患者の見舞いで病院を訪れた後にも必ず手洗いを行うことが必要です。
- WHO諮問グループによるエボラ出血熱への対策に関して続けられてきた研究と考察に基づくさらなる分析に基づいて、WHOは、性行為感染の可能性を減らすため、男性のエボラ出血熱からの回復者が、症状の発現から12か月間、またはそれらの精液でのエボラウイルス検査が2回(連続して)陰性になるまで、安全な性生活と衛生管理を実践することを推奨しています。体液への接触を避け、石鹸と水を使って洗浄することが勧められます。WHOは血液によるエボラウイルス検査で陰性の結果を得た回復期の男女に対して隔離することは推奨していません。
- 流行の抑制策:抑制策には、死者の迅速で安全な埋葬、エボラ感染者と接触した可能性のある人を特定し、21日間の接触者の健康状態の監視し、さらなる感染拡大を防ぐために病人から健康者を遠ざけておくことの重要視すること、良好な衛生環境の重要視と清潔な環境の維持などがあります。
医療機関での感染予防
推定される診断名に関係なく、医療従事者は、患者を世話するとき、常に基本的な予防対策を講じることが必要です。これらには、基本となる手指の衛生、換気の衛生、個人用の防御具の使用(飛沫または感染物質などとの接触を防御するため)、安全な注射の実施、さらには安全な埋葬の実施などが含まれます。
エボラウイルスが疑われた、または確定された患者を世話する医療従事者は、患者の血液や体液との接触を防ぎ、衣類やベッド・シーツのような(ウイルスで)汚染された物やその表面などとの接触を防ぐために、追加の感染管理対策をとる必要があります。1m以内でエボラ出血熱患者と接するときには、医療従事者は顔面の防御(フェイス・シールド、医療用マスクとゴーグル)、滅菌は必要ないものの清潔な長袖のガウン、手袋(いろいろな処置を行うための滅菌手袋)をつける必要があります。
検査施設の勤務者にも危険があります。エボラ感染の検査のために人や動物から採取された検体は、訓練を受けた職員が取り扱うべきであり、十分に設備が整った検査施設で対処されるべきです。
WHOの取り組み
WHOは、エボラ出血熱の調査を行い、感染制御の計画を展開してリスク国を支援することでエボラ出血熱の流行を防ぐことを目指しています。下記の文書はエボラやマールブルグウイルスの流行を制御するための総合ガイダンスです。
エボラやマールブルグウイルス病の流行:準備、警告、制御、および評価
流行が発生したとき、WHOは、調査の支援、地域社会への参画、症例の管理、検査設備、接触者の追跡、感染管理、法的支援、安全な埋葬の実施への訓練や支援に取り組みます。
WHOはエボラ感染予防と制御に関する詳細なアドバイスを作成しました。
エボラに焦点を当てた医療施設における疑いおよび確定したフィロウイルス出血熱の患者をケアするための感染予防と制御のための指針
エボラ出血熱発生の年表
出典
WHO.Fact sheet, Media centre.Updated June2017
Ebola virus disease.