D型肝炎について(ファクトシート)

2017年7月 WHO (原文〔英語〕へのリンク

要点

  • D型肝炎ウイルス(HDV)は、複製のためにB型肝炎ウイルス(HBV)を必要とするリボ核酸系(RNA)ウイルスです。HDVは、HBVと同時に、また重複したときに感染が成立します。
  • このウイルスは、感染者の血液またはその他の体液との接触を介して感染伝播されます。
  • 母から子への垂直感染は稀です。
  • 世界中で、約1,500万人が慢性的にHDVとHBVとに重複感染しています。
  • 現在、D型肝炎に対して有効な抗ウイルス療法はありません。
  • D型肝炎への感染は、B型肝炎の予防接種によって予防することができます。

D型肝炎

D型肝炎は、D型肝炎ウイルスによって引き起こされる急性および慢性の肝疾患です。複製のためにB型肝炎ウイルス(HBV)を必要とします。D型肝炎は、B型肝炎ウイルスが存在しなければ感染は起こりません。HBVとの同時感染またはHDVの重複感染では、HBVへの単独感染よりも重篤な病態が引き起こされます。

B型肝炎のワクチンが、HDV感染を予防するための唯一の手段となります。

地理的分布

HBs抗原に陽性の人の5%はHDVにも重複感染しており、分布は世界中に拡がっていると推定されています。有病率の高い地域は、地中海、中東、パキスタン、中央、北アジア、日本、台湾、グリーンランド、アフリカの一部(主にアフリカの角と呼ばれる地域と西アフリカ)、アマゾン盆地、太平洋の特定の領域などです。有病率が低いのは、北米、北ヨーロッパ、南アフリカ、東アジアです。

感染経路

HDVの感染経路は、HBVと同じです。ウイルスを含んだ血液や血液製剤と経皮的または性的に接触して感染します。垂直感染も考えられますが、稀です。HBVのワクチン接種はHDVの重複感染を防ぐことから、幼少期のHBV予防接種プログラムが拡大したことが世界のD型肝炎の発生率に低下をもたらしました。しかし、いくつかの環境下では、D型肝炎の有病率の増加が、薬物注射の使用者やHDVが流行している地域からの移民で観察されています。

症状

急性肝炎症状:HBVおよびHDVとの同時感染は、軽度から中等度あるいは劇症肝炎をも引き起こします。しかし、ほとんどは感染に回復し、D型肝炎が慢性化することは稀です(急性肝炎の5%未満)。

重複感染:HDVは既に慢性的にHBVに感染している患者では感染が成立することがあります。B型慢性肝炎におけるHDVの重複感染は、すべての年齢層において患者の70-90%で、さらなる重症化への進展を加速させます。HDVはHBVの複製を抑制しますが、HDVの重複は、HBV単独での感染者よりも肝硬変への進行を約10年は加速させます。HDVはさらに重度の肝炎を引き起こしますが、HBV単独よりも線維化が速く進行する機序は不明です。

(感染)リスクの高い人とは?

慢性的なHBVのキャリアには、HDVへの感染のリスクがあります。

HBVに対する免疫を持たない人(自然感染もB型肝炎ワクチンを接種もしていない人)は、HBVへの感染の危険と同時に、HDVへの感染の危険にも曝されています。

スクリーニング検査および診断

HDVへの感染は、HDVに対する免疫グロブリンG(IgG)とM(IgM)の力価が高いことで診断され、血清中のHDV RN Aを検出することで確認されます。

ただし、HDVの診断はどこでも利用できるものではなく、HDV RNAアッセイ系は一般化されたものでもありません。この検査法は、抗ウイルス療法に対する有効性を評価するために用いられます。

治療

急性および慢性のHDV感染症に対する特別な治療法はありません。持続するHDVの複製は、死亡率と抗ウイルス療法の必要性を予測する最も重要な予測因子です。ペグ・インターフェロンαは、HDVに対して唯一有効な薬剤です。HBVに対する核酸系抗ウイルス薬は、HDVの複製には何ら抑制効果をもたらしません。至適な治療期間は十分には確立されておらず、患者には治ウイルス学的著効を達成し治療を終了した後に、どのくらいの期間、HDV RNAが陰性で必要であるかも分かっていません。1年以上の治療が必要かもしれません。

子どもを含め、全体としてのウイルス学的著効率は低く、ほとんどの患者は治療中止後に再発してしまいます。肝移植は、劇症肝炎や肝炎末期の場合には、検討されることもあります。新たな治療薬および新たな治療戦略が必要とされ、プレニル化阻害剤やHBV侵入阻害剤のような新規の薬剤が早くから有望となっています。

予防

HDV感染症の予防と感染制御は、B型肝炎の予防接種、血液の安全性、注射の安全性、および(注射薬物使用者に対する)ハーム・リダクション・サービスを通してHBVの感染予防することを必要とします。 B型肝炎の予防接種は、既にHBVに感染している者にはHDVに対する予防効果を示しません。

WHOの取り組み

WHOは、D型肝炎に対する特別な推奨を行っていません。しかし、B型肝炎の予防接種によるHBVの感染経路の阻止、安全な注射の取り扱い、血液の安全性、注射針や注射器の衛生に伴う(注射薬物使用者に対する)ハーム・リダクション・サービスなどが、HDVへの感染伝播の予防には有効かもしれません。

2016年5月に、世界保健総会では、初めて「ウイルス性肝炎部門の世界保健戦略、2016-2021」を採択しました。この戦略は、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(医療費の支払いに困窮する貧困層にも保健医療サービスを届けること)の役割の重要性を強調し、この戦略の目標が、いくつもの継続すべき発展目標とともに並べられています。この戦略には、公衆衛生上の問題として、ウイルス性肝炎を撲滅することを視野に入れており、2030年までに新たなウイルス性肝炎感染者を90%減らし、ウイルス性肝炎による死亡者を65%減らすことが含まれています。これらの目標を達成するために、各国およびWHO事務局が取るべき活動が戦略の中で概説されています。

2030年に向けた持続すべき発展目標の下で、世界の肝炎に対する目標達成に向けた各国を支援するために、WHOは次のような分野を支援しています。

  • 意識の向上、パートナーシップの促進、人的資源の動員
  • エビデンスに基づく政策と行動するためのデータの定形化
  • 感染経路の防止
  • スクリーニング、管理、治療の規模拡大

WHOは、ウイルス性肝炎に対する意識と理解の向上のため、毎年7月28日を世界肝炎デー(World Hepatitis Day)と定めています。

出典

WHO.Media center.Fact sheet. July 2017
Hepatitis D
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/hepatitis-d/en/