A型肝炎について (ファクトシート)

2017年7月 WHO  (原文[英語]へのリンク)

要点

  • A型肝炎はウイルス性の肝疾患です。症状は軽症から重症まで幅があります。
  • A型肝炎はウイルスに汚染された食品や水を摂取したり、感染した人に直接接触したりすることで感染します。
  • A型肝炎は、ほとんど全ての人が回復し、生涯にわたり免疫力を保ちます。しかし、極めて稀に、劇症肝炎で死ぬことがあります。
  • A型肝炎の感染リスクは、清潔な水の不足、不十分な衛生環境(不衛生な手など)に関連します。
  • 流行は、爆発的に進展し、大きな経済損失を生じることがあります。
  • A型肝炎の予防には、安全で効果の高いワクチンがあります。
  • この疾患と戦うためには、安全な飲料水の供給、安全な食料品、衛生環境の改善、手洗い、およびA型肝炎の予防接種が、最も効果的な方法です。

概要

A型肝炎は、A型肝炎ウイルスによって起こる肝疾患です。このウイルスは、主に、感染したことのない(また、予防接種を受けたことのない)人が、感染した人の糞便で汚染された食べ物や水を摂取することで感染します。この疾患は、不衛生な水や食べ物、不十分な衛生環境、個人の衛生意識の欠如と密接に関係します。

A型肝炎は、B型肝炎やC型肝炎とは異なり、慢性肝炎を起こすことがなく、死亡することは稀です。しかし、全身の衰弱症状や、劇症肝炎(急性肝不全)を起こすことがあり、この場合には死に至ることがあります。

A型肝炎は、世界中で、散発的に発生し流行を起こしており、周期的に再燃する傾向があります。A型肝炎は、食べ物で起こる感染症のうち、最も頻繁にみられる原因疾患のひとつです。ウイルスで汚染された食べ物や飲み水と関係し、流行が爆発的に発生することがあります。1988年には、上海で約30万人の感染者が発生しました。A型肝炎ウイルスは長く環境中に存在し、一般的に細菌性の病原体を不活化させたり増殖を抑制したりするために使用される食品生産工程には抵抗を示します。

この疾患は、地域社会に著しい経済的・社会的影響をもたらすことがあります。感染した人が回復し、仕事や学校に通い、日常生活ができるようになるまでには、数週間から数か月かかることがあります。通常、ウイルスが検出された食品関連施設や地域の生産性への影響は相当に大きなものになります。

地理的分布

A型肝炎感染の地理的分布は、高・中・低の3つのレベルに分けることができます。

感染が高レベルの地域
衛生環境が極めて悪く、衛生習慣もよくない開発途上国では、小児のほとんど(90%)が10歳になるまでにA型肝炎に感染します。小児で感染した場合には、明らかな症状は現れません。通常、年齢の高い小児や成人は免疫力を持っているので、流行が起こることは稀です。このような地域での有症率は低く、流行の発生は稀です。

感染が中等度レベルの地域
開発途上国のうち、経済成長の過渡期にある国で、衛生状態が変化している地域では、しばしば小児が幼少期での感染が起こらなくなります。そして、免疫を持たずに成人します。皮肉にも、こういった経済や衛生環境の改善が、免疫を持たない成人の増加を生み出します。このような集団では、年齢が高くなるに連れて感染しやすくなるため、時に大流行を発生させることがあります。

感染が低レベルの地域
衛生環境の良い先進国では、感染率は低くなります。疾患は、注射薬物使用者、男性同性愛者、ウイルスの蔓延地域に渡航した者、閉鎖的な宗教コミュニティのような孤立した人々などのような、高リスクグループの青年や成人で発生することがあります。しかし、このような地域集団にウイルスが持ち込まれても、衛生状態の良さが人から人への感染伝播を阻止し、感染の発生は急速に消滅していきます。

感染経路

A型肝炎ウイルスは、主に糞口感染で伝播します。即ち、感染していない人が、感染した人の便によって汚染された食べ物や飲み水を摂取することで感染します。頻度は低いものの、水系汚染による大流行が起こるのは、大抵、下水による汚染や、不適切な水の処理と関係しています。

通常、人と人との接触程度でウイルスが広がることはありません。しかし、濃厚な身体の接触では感染することがあります。

症状

A型肝炎の潜伏期間は、通常14日から28日間です。

A型肝炎の症状は、軽症から重症まで幅があり、発熱、倦怠感、食欲不振、下痢、悪心、腹部の不快感、褐色尿、黄疸(皮膚や眼球結膜の黄染)がみられます。感染した人のすべてが、これらすべての症状を発現するものではありません。
成人は小児よりも所見や症状が現れます。年齢が高くなるに連れて、疾患の重症度と死亡率が上がります。6歳未満の小児での感染では、通常は顕著な症状が現れず、黄疸は10%程に過ぎません。しかし、年齢が上がるに連れて、通常、症状がより重症となり、黄疸が現れる患者が70%を超えます。A型肝炎は、再発することがあります。病態が回復した人でも、再度、急性肝炎に陥ることがあります。しかし、このときは、回復に向かいます。

リスクのある人

A型肝炎のワクチン接種を受けたことがなく、過去に感染したことのない人には、誰でもA型肝炎に感染する可能性があります。ウイルスが広範囲に存在する地域(流行蔓延地域)では、ほとんどの小児が早期にA型肝炎に感染しています。流行が中規模や大規模の地域では、リスク要因には、次のようなものがあります。

  • 不十分な衛生環境
  • 安全な飲料水の不足
  • 快楽のための薬物の使用
  • 感染した人との同居生活
  • 急性A型肝炎に感染している人の性的パートナー
  • 予防接種を受けずに、ウイルスの蔓延地域に渡航する人

診断

A型肝炎の患者は、臨床的には他のタイプの急性ウイルス性肝炎と区別できません。確定診断は血中の特異抗体であるIgG-HAV抗体(IgM)の検出によって行われます。追加検査には、A型肝炎ウイルスRNAを検出する逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法がありますが、この分析には特別な検査設備が必要になります。

治療

A型肝炎に対する特別な治療法はありません。感染後の症状の回復は遅く、数週間から数か月かかることがあります。最も重要なことは、不必要な薬物治療を避けることです。アセトアミノフェン/パラセタモールや制嘔剤は投与すべきではありません。
急性肝不全が起こらなければ、入院の必要はありません。治療は、嘔吐や下痢で失われた体液の補正を行い、負担の少ない(身体)状態の維持と十分な栄養バランスの維持を合わせて行います。

予防

A型肝炎に取り組むには、衛生状態の改善と食べ物の安全性、そして予防接種が最も効果的な方法です。

A型肝炎の感染拡大は、以下の方法で減らすことができます。

  • 安全な飲用水の十分な供給
  • 地域での下水の適切な処理
  • 日頃から清潔な水での手洗いなど、個々人での衛生習慣の実践

国際的に、数種類のA型肝炎ワクチンが利用可能です。よく知られているウイルスからの感染防御効果と副反応はすべてのワクチンで同様です。1歳未満の小児に承認されたワクチンはありません。中国では、経口生ワクチンも使われています。
ワクチンを1回接種後の1か月以内に、ほぼ100%の人でウイルスに対する抗体価が感染を防ぐレベルになります。また、ウイルスに暴露された後でも、ウイルスとの接触機会から2週間以内に1回接種を受けることができれば感染予防効果があります。しかし、ワクチン製造業者は、接種後5年から8年の長期予防効果を確実にするために2回接種することを推奨しています。
世界中で、何百万もの人々がワクチンを接種していますが、重篤な副反応は起こっていません。ワクチンは小児の定期予防接種の一部として接種でき、また、渡航者では他のワクチンと一緒に接種することができます。

予防接種の実施への取り組み

A型肝炎の予防接種は、ウイルス性肝炎の予防と感染制御に向けた包括的な計画の一部となるべきものです。大規模な予防接種計画を策定する際には、慎重に経済評価を行うべきで、衛生環境の改善や衛生習慣を向上させる健康教育など、予防接種に代わる予防方法や、追加の予防方法も検討すべきです。
小児の定期予防接種にA型肝炎ワクチンを含めるかどうかは地域の状況によります。人口の中での感染しやすい人の割合やウイルスとの接触機会の程度が検討されるべきです。一般的には、中等度レベルで流行の発生する国では、子どもたちに広く予防接種することが最も有益となります。低レベルで流行の発生する国では、リスクの高い成人へのワクチン接種を検討すべきです。高レベルで流行の発生する国では、ほとんどの成人は自然免疫があるため、ワクチン接種は限定されます。

2016年6月現在、16か国(アメリカ大陸6か国、地中海東部地域3か国、ヨーロッパ地域4か国および​​西太平洋地域3か国)では、国として定期予防接種にA型肝炎ワクチンが組み入れられています。
多くの国では、不活化A型肝炎ワクチンの2回接種が行われています。しかし、国によっては、予防接種のスケジュールとして1回の不活化A型肝炎ワクチン接種の導入が検討されていることもあります。いくつかの国では、以下のA型肝炎に感染するリスクの高い人々にもワクチン接種が勧められています。リスクの高い人の対象は、次のとおりです。

  • 快楽のための薬物の使用者
  • ウイルスの蔓延地域への渡航者
  • 男性同性愛者
  • 慢性肝疾患を有する人(A型肝炎に感染すると、重篤な合併症のリスクが増加するため)

流行対策のための予防接種については、特定の地域ではA型肝炎ワクチンの勧告事項も実施されるべきです。実現には、広範囲で予防接種キャンペーンを素早く実地することが必要とされます。
地域に広がった流行を制御するための予防接種は、小規模の地域で、その活動が速やかに開始され、多くの年齢層で高い接種率が達成できたときに、最も成功しています。予防接種を実施する努力は、衛生環境の改善、衛生習慣の向上、食品の安全向上のための健康教育で補われる必要があります。

WHOの取り組み

2016年5月に、世界保健総会は、初めて「ウイルス性肝炎部門の世界保健戦略、2016-2021」を採択しました。この戦略は、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(医療費の支払いに困窮する貧困層にも保健医療サービスを届けること)の役割の重要性を強調し、この戦略の目標が、いくつもの持続すべき発展目標とともに並べられています。この戦略には、公衆衛生上の問題として、ウイルス性肝炎を撲滅することを視野に入れており、2030年までに新たなウイルス性肝炎感染者を90%減らし、ウイルス性肝炎による死亡者を65%減らすことが含まれています。これらの目標を達成するために、各国およびWHO事務局が取るべき活動が戦略の中で概説されています。

2030年に向けた継続可能な発展目標の下で、世界の肝炎に対する目標達成に向けた各国を支援するために、WHOは次のような分野を支援しています。

  • 意識の向上、パートナーシップの促進、人的資源の動員
  • エビデンスに基づく政策と活動のためのデータの規格統一
  • 感染の防止
  • スクリーニング、健康維持と治療への支援の規模拡大

WHOは、ウイルス性肝炎に対する意識と理解の向上のため、毎年7月28日を世界肝炎デーと定めています。

出典

WHO Fact sheet, Media centre.Updated July2017
Hepatitis A
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs328/en/