志賀毒素産生性(腸管出血性)大腸菌について (ファクトシート)

2017年9月 WHO (原文〔英語〕へのリンク

要点

・大腸菌(E.coli)は、恒温動物の下部腸管で普通に見られる細菌です。ほとんどの大腸菌株は無害ですが、重大な食中毒を引き起こす細菌株もあります。
・志賀毒素産生性大腸菌(STEC、別名、腸管出血性大腸菌)は、深刻な食物由来の感染症を引き起こすことのできる細菌です。
・STECの流行の主な感染源は、生または調理不十分な肉製品、生乳、および糞便で汚染された野菜などです。
・ほとんどの場合、その病態は患者自身に限定的ですが、幼児および高齢者では、溶血性尿毒症症候群(HUS)などの生命を脅かす疾患につながることがあります。
・STECは熱に感受性があります。家庭内で食べ物を準備するときには、「完全に熱を通して調理すること」などの基本的な食品衛生習慣を守ることが必要です。
・WHOが提唱する「食品をより安全に保つ5つの鍵」を守ることは、STECなどの食物由来の病原体からの感染を防ぐための鍵となります。

概要

大腸菌は人や恒温動物の腸管で普通に見られる細菌です。ほとんどの大腸菌株は無害です。しかし、いくつかの細菌株、志賀毒素産生性大腸菌(STEC、別名、腸管出血性大腸菌)は、深刻な食物由来の疾患を引き起こすことがあります。人への感染伝播は、主に生または調理不十分な肉製品、生乳、(細菌で)汚染された生野菜や芽野菜などから起こります。STECは、志賀毒素として知られる毒素を産生します。志賀赤痢菌が産生する毒素に似ていることが由来です。STECは7℃から50℃の温度帯で増殖します。37℃は最適温度です。STECは、pH4.4以下の酸性の食べ物や最小の水分活性(aW) 0.95の食べ物でも、増殖します。

STECは、調理した食べ物のすべての部分が70℃以上に熱せられると死滅します。大腸菌O157:H7は、公衆衛生(の問題)に関係するSTEC血清型のうちで、最も重要なものです。しかし、他の血清型の大腸菌も、散発的な患者や流行にはしばしば関係しています。

症状

STECが引き起こす病態による症状には、腹部の痙攣や下痢があります。患者によっては、血性の下痢症(出血性大腸炎)に発展することがあります。発熱や嘔吐も起こります。潜伏期間は3日から8日ほどで、中央値は3日から4日です。ほとんどの患者は10日以内に回復しますが、少数の患者(特に小児および高齢者)は、溶血性尿毒症症候群(HUS)などの生命を脅かすような病態を起こすことがあります。HUSは、急性腎不全、溶血性貧血および血小板減少(低血小板血症)によって特徴付けられる病態です。

STEC感染者のうち10%までがHUSを発症し、3~5%が死亡すると推定されています。 一般的に、HUSは小児において急性腎不全の最も大きな原因となっています。HUS患者の25%には神経学的合併症(痙攣発作、脳卒中、昏睡など)を引き起こすことがあり、回復しても患者の約50%には軽度の慢性腎不全後遺症が残ります。

血性の下痢症や激しい腹痛の症状が現れた人は、医療施設に受診する必要があります。(このとき)STEC患者の治療に抗生物質は含まれておらず、後にHUSの発症リスクを高める可能性があります。

感染源と感染経路

STECに関して最も利用しやすい情報は、生化学的に他の大腸菌血清型と簡単に区別できる血清型O157:H7についてです。この病原菌の宿主は、主に牛と考えられています。また、ヒツジ、ヤギ、シカなど、この他の反芻動物も重要な宿主と考えられています。さらに、豚、馬、ウサギ、イヌ、ネコなどの哺乳動物や、ニワトリ、七面鳥などの鳥でも、感染が見つかっています。

大腸菌(E.coli)O157:H7は、主に生または調理不十分の肉製品、生乳など、(細菌で)汚染された食品を摂取することで人に伝播します。糞便で汚染された水やその他の食品、並びに、牛肉やその他の肉製品(が細菌)で汚染された台や壁、さらには台所用品など、料理を準備している間の接触機会による細菌汚染も感染につながります。大腸菌O157:H7の感染発生についての食品例には、調理不十分のハンバーガー、乾燥し固めたサラミ、低温殺菌していないアップル・サイダー、ヨーグルト、生乳から作られたチーズなどがあります。

栽培や取扱いのいくつもの段階で家畜や野生動物の糞便と接触することで細菌汚染される果物や野菜(芽野菜、ホウレンソウ、レタス、サラダキャベツ、サラダ)などの摂取が原因となる感染の流行が増えています。また、STECは、(池や河川などの)水域、井戸水、生活用水路からも分離されており、肥料や用水路の堆積物ででも数か月間は生存することが確認されています。(さらには、細菌で)汚染された飲み水やレクリエーション場で使う水など、水を介した感染経路も報告されています。

人から人への伝播として、糞口感染は重要な感染経路です。無症候性の保菌者の存在が報告されており、彼らは疾患の臨床的な徴候を示すことなく他人に感染させることができます。STECの排菌期間は、成人では1週間以下ですが、小児ではさらに長くなることがあります。一般市民が飼育動物と直接触れ合う農場やその他の催し会場などを訪れたときも、STECへの感染の重要なリスク要因となることが知られています。

予防

予防では、農場での生産、商業施設と家庭の両方での加工処理、食品の製造および調理まで、一貫して食べ物の流通段階すべてで感染対策を行う必要があります。

食品関連企業
感染の発生件数は、牛肉のさまざまな(汚染の)影響削減への戦略(例、屠殺環境での大量の病原体の侵入を減らすために屠殺動物をスクリーニング検査すること)によって減らすことができます。(しかし)良好な衛生環境での屠殺の実施は、解体時の糞便からの汚染を減らせるものの、生産物にSTECが存在しないことを保証するものではありません。

農場、食肉加工、食糧生産に携わる従業員に対する衛生的な食品取扱いの教育は、細菌汚染を最小限に抑えるために不可欠です。食品のSTECを死滅させる唯一有効な方法は、加熱(例えば、調理または低温殺菌)または(紫外線)照射などの殺菌処理を導入することです。

家庭内
(家庭内での)大腸菌O157:H7への感染の予防対策は、他の食品由来の感染症に対して推奨される予防対策と同じです。WHOの「食品をより安全に保つ5つの鍵」に記載されているように、基本的な正しい食品衛生の習慣が、多くの食品由来の感染症の原因となる病原体の伝播を防ぎ、STECによる食品由来の感染からも保護します。

食品をより安全に保つ5つの鍵は、次のとおりです。
・清潔の保持
・生鮮物と調理物とを分けて扱うこと
・調理は徹底して行うこと
・食品を安全な温度に保つこと
・安全な水と新鮮な材料を使用すること

これらの推奨事項は、どんな場面でも、実施すべきです。特に、食べ物の中心は少なくとも70℃に達するように「徹底的に調理する」べきです。果物や野菜は、特にそれを生で食べる場合には、丁寧に洗ってください。できることならば、野菜や果物は皮を剥ぐべきです。感染に弱い人(小児や高齢者など)は、生の肉製品や調理不十分な肉製品、生乳、生乳からの加工製品の摂取は避けるべきです。

小児、高齢者、免疫不全状態にある人を介助する人には、食べ物の準備や介助の前とトイレ後には確りと手洗いすることが強く勧められます。細菌は、人から人へでも、また、食べ物、水、動物などを介しても、動物との直接の接触でも受け渡すことができます。

STEC感染の多くは、娯楽時の水の摂取からも引き起こされています。そのため、動物の老廃物からレクリエーション場の水域や飲み水の供給源を護ることも重要です。

果物や野菜の生産者
植え付け、栽培、収穫、貯蔵の間、新鮮な生産物の細菌汚染を防ぐために重要な実践として、WHOの「より安全な果物や野菜を栽培する5つの鍵」が、農村地域で自分たちや家族で食べたり、地域の市場で売ったりする果物や野菜を栽培して働く者に提供されています。

より安全な果物や野菜を栽培する5つの鍵は次のとおりです。
・個人での適正な衛生習慣の実践
・動物の糞便汚染からの農場の保護
・糞便廃棄物の処理設備の導入
・灌漑用水のリスク評価と管理
・収穫物やその貯蔵施設の清潔と乾燥の維持

WHOの取り組み

WHOは食品中のSTECを感染制御するための科学的な評価法を提供しています。これらの評価は、国際食品規格委員会(Codex Alimentarius Commission)によって作成された国際的な食品規格、ガイドライン、推奨事項が基礎となっています。

WHOは、適正な生産の実践を促進し、小売業者および消費者に正しい食品の取り扱いと細菌汚染からの回避を教育することによる食品への安全システムの強化を促進しています。

2011年にヨーロッパで発生した流行のように、大腸菌が流行したときには、WHOが国際保健規約(IHR)と世界の食品安全機関ネットワーク(INFOSAN)を通じて、情報共有の調整と協力への支援を図っています。WHOは、各国の保健当局や国際的な支援組織と緊密に協力し、技術支援や感染発生に関する最新情報の提供を行っています。

出典

WHO.Fact sheet, Media Centre.Reviewed September2017
E. coli
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs125/en/