季節性インフルエンザ (ファクトシート)

2017年12月 WHO (原文〔英語〕へのリンク

要点

  • 季節性インフルエンザは容易に人から人へと伝播する急性ウイルス性感染症です。
  • 季節性インフルエンザ・ウイルスは、世界中で流行しており、すべての年齢層で誰にでも感染を引き起こす可能性があります。
  • 季節性インフルエンザ・ウイルスは、温帯地方では主に冬に流行しますが、熱帯地方では季節性は明らかではなく、流行が年間を通して起こります。
  • 季節性インフルエンザは、リスクの高い集団で重篤な病態を起こしたり、致死的になったりして、深刻な公衆衛生上の問題となります。
  • インフルエンザの流行は、労働生産力を失わせることで経済に打撃を与えたり、医療サービスに負荷をもたらしたりします。
  • インフルエンザ予防接種は感染を予防する最も有効な方法です。
  • 抗ウイルス薬が治療に使用されています。

概要

季節性インフルエンザは、インフルエンザ・ウイルスが起こす急性呼吸器感染症で、世界各地で流行します。

病原体

季節性インフルエンザ・ウイルスには、A、B、C、D型の4種類があります。インフルエンザ A型ウイルスとB型ウイルスは、感染が伝播し、季節性疾患として流行を引き起こします。

  • インフルエンザA型ウイルス:このウイルスは、ウイルスの表面タンパク質であるヘマグルチン(HA)とノイラミニラーゼ(NA)との組み合わせにしたがって、さらに各種の亜型(サブタイプ)に分類されます。現在、人に流行しているのは、インフルエンザA(H1N1)とA(H3N2)です。このインフルエンザA(H1N1)は、A(H1N1)pdm09とも書かれます。2009年以前に流行した季節性インフルエンザA(H1N1)ウイルスに取って代わり、2009年に世界流行(パンデミック)を引き起こしました。インフルエンザA型ウイルスだけは、パンデミックを引き起こすことが知られています。
  • インフルエンザBウイルス:このウイルスは、亜型(サブタイプ)には分類されませんが、B / Yamagata系統とB / Victoria系統と呼ばれる2つの主要な群(系統)に分けられます。
  • インフルエンザC型ウイルス:このウイルスは、はるかに低い頻度でしか見つからず、現れる症状も軽度です。公衆衛生への影響はほとんどありません。
  • インフルエンザDウイルス:このウイルスは主に牛に感染します。人に感染し病気を引き起こすことは知られていません。

所見と症状

季節性インフルエンザの特徴は、突然に生じる高熱、咳嗽(通常乾性咳嗽)、頭痛、筋肉痛および関節痛、強い倦怠感(体の具合が悪い感じ)、咽頭痛、鼻汁です。咳嗽は激しくなり、2週間以上続くこともあります。ほとんどの人は、特に医学的に対処しなくても、一週間以内に発熱や他の症状から回復します。しかし、インフルエンザは、リスクの高い人の場合には、重篤な病態や致死的な状況を引き起こすことがあります。

病態の程度は、軽度から重度、さらには死に至ることもあります。入院や死亡は、主にリスクの高い人で起こります。世界で、年間に感染するこれらの数は、重症者が約300~500万人、死亡者が約29~65万人と推定されています。

先進工業国では、インフルエンザに関連する死亡のほとんどは、65歳以上の高齢者に起こります。流行は、高率に労働者や学童の欠勤や欠席をもたらし、生産性の低下を起こします。流行期のピーク時には、診療所や病院の対応能力を超えることもあります。

発展途上国における季節性インフルエンザの流行の影響は、十分には分かっていません。しかし、研究からは、インフルエンザに関連する下気道感染症で死亡する5歳未満の小児の99%が発展途上国で発生しているとみられています。

疫学

(インフルエンザは)すべての年齢層の人が感染しますが、他の人よりもリスクの高い集団があります。

  • 感染したときに重篤な状態や合併症が生じるリスクがかなり高いのは、妊娠女性、59か月未満の小児、高齢者、および慢性の心臓、肺、腎臓、代謝、神経・精神の発達系、肝臓、出血性疾患など、慢性の病的状態を持つ人、HIV/AIDS、化学療法やステロイドの服用、悪性疾患など、免疫機能が弱まっている人などです。
  • 医療従事者は、患者との接触機会が増えるために、インフルエンザへの感染リスクが高くなります。また、リスクは特に感染に弱い人でどんどんと拡がります。

感染経路について、季節性インフルエンザは、学校や老人ホームといった人の集まる空間で、急激に伝播し、簡単に拡がります。感染した人が咳やくしゃみをすると、ウイルスを含む飛沫(感染性の飛沫)が空気中に飛散して、1メートル程に広がります。これらの飛沫を吸い込むような近くにいる人には、感染の可能性があります。インフルエンザ・ウイルスは、ウイルスの付着した手から拡がることもあります。感染を予防するために、(感染した)人は、咳をするときにはティッシュで口と鼻を覆い、定期的に手を洗うことが必要です。

温帯気候では、季節性の流行が、主に冬に起こります。しかし、熱帯地域では、インフルエンザが一年を通して発生し、さらに不規則に流行を引き起こすことがあります。

潜伏期間としても知られる、感染から病気までの期間は約2日です。しかし、1日から4日までの幅があります。

診断

人のインフルエンザのほとんどは臨床的に診断されています。しかし、インフルエンザの活動が低い期間中や流行期以外では、他の呼吸器系ウイルス、例えば、ライノウイルス、RSウイルス、パラインフルエンザ・ウイルス、アデノウイルスなどもインフルエンザ様の病態(ILI)を示すため、インフルエンザをその他の病原体から臨床的に鑑別することは困難です。

最終的に診断を確定するには、適切に呼吸器検体を採取し、検査室での確定診断を確立させることが必要です。呼吸器検体の適切な採取、保管、搬送は、インフルエンザ・ウイルスへの感染の検査確認において重要な一行程です。咽喉、鼻、鼻咽頭分泌物、または気管吸引物や洗浄液からのインフルエンザ・ウイルスの確認は、直接の抗原検出、ウイルスの抽出、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応法(RT-PCR)によるインフルエンザ固有のRNAの検出などを用いて行われています。WHOによって検査手技に関するさまざまな指針が公表され、更新されています。

迅速インフルエンザ診断検査(RIDT)は、臨床現場で使用されていますが、RT-PCR法と比べると感度が低く、その信頼性は、それらが使用される状況に大きく影響されます。

治療

合併症を伴わない季節性インフルエンザの患者:
高リスク群でない患者は、症状があれば、対症療法での治療を受け、地域社会の周囲の人々に感染させるリスクを最小限に抑えるために自宅にいることが勧められます。治療は、発熱などのインフルエンザ症状を軽減することに重点が置かれます。患者は自分自身で状態が悪化したかどうかを確認し、治療を受けるべきかどうかを観察する必要があります。重篤な症状や合併症の症状を悪化させるリスクが高いグループ(上記参照)であることが分かっている患者は、できるだけ早く対症療法に加えて、抗ウイルス薬の投与を受けることが必要です。

インフルエンザ・ウイルスへの感染に関連する重篤または進行性の臨床上の病態(即ち、肺炎、敗血症または慢性下痢症の臨床症候群)を伴う患者には、できるだけ早く抗ウイルス薬で治療する必要があります。

  • ノイラミニダーゼ阻害剤(例、オセルタミビル)は、治療の有効性を最大限にするために、できるだけ早く(理想的には、発症後48時間以内に)処方されるべきものです。この薬剤の投与は、これから病状を発現しそうな患者にも検討されることが必要です。
  • 最低5日間、治療することが推奨されていますが、満足できる臨床症状の改善が得られるまでは、延長することもできます。
  • コルチコステロイドは、他の理由(例えば、喘息、その他の特別な病態)が示されていない限り、日常的に使用すべきではありません。なぜなら、ウイルス排除の遅延、細菌や真菌などの重複感染をもたらす免疫抑制に関連するからです。
  • 現在、流行しているインフルエンザ・ウイルスはすべて、アダマンタン抗ウイルス薬(アマンタジンやリマンタジンなど)に耐性があるため、これらの単独療法は推奨されません。

WHO世界インフルエンザ監視・対応システム(GISRS)は、流行するインフルエンザ・ウイルスの抗ウイルス薬に対する耐性を監視し、臨床管理および可能性のある薬剤の予防投与における抗ウイルス薬の(選択)使用に関して即応性のあるガイダンスを提供しています。

予防

この疾患を予防する最も有効な方法は、予防接種です。安全で有効なワクチンがあり、60年以上使われてきました。ワクチン接種による免疫は時間の経過とともに低下していきます。インフルエンザを予防するには、毎年のワクチン接種が推奨されます。不活性化インフルエンザ・ワクチン注射剤は、世界中で最もよく使用されています。

健康な成人では、流行しているウイルスがワクチンのウイルス株と完全に一致していなくても、保護をしてくれます。しかし、高齢者では、インフルエンザ・ワクチンは疾患予防の効果はそれほど大きくありません。それでも、疾患の重症度、合併症の発生率および致死率を低下させる可能性はあります。ワクチン接種は、特に、重篤なインフルエンザ合併症の起こるリスクの高い人や、ハイリスクの人と一緒に暮らしている人、又はその人の世話をしている人にとっては重要です。

WHOは、以下の人に毎年の予防接種を推奨しています。

  • 妊娠周期を問わずすべての妊娠女性
  • 6か月~5歳の小児
  • 高齢者(65歳以上)
  • 慢性に治療状態にある人
  • 医療従事者(ヘルスケアワーカー)

ワクチンのウイルス株が、流行しているウイルスとよく一致した場合には、インフルエンザ予防接種はかなり有効です。インフルエンザ・ウイルスの特性は絶えず変化しているため、全世界の国家インフルエンザ・センターとの協力機関である、WHO世界インフルエンザ監視・対応システム(Global Influenza Surveillance and Response System: GISRS)が人に流行しているインフルエンザ・ウイルスを常に監視しており、年2回、インフルエンザ・ワクチンの構成を更新しています。

長年にわたってWHOは、代表的な3種(インフルエンザ A型亜型2種とB型インフルエンザ1種)を構成成分とする推奨ワクチンを更新してきました。2013年~2014年の北半球のインフルエンザシーズンからは、4価で構成されるワクチンが推奨されるようになりました。4価のインフルエンザ・ワクチンは、従来の3価のワクチンのウイルスに加え、インフルエンザB型ウイルスもう1種を加えています。これにより、インフルエンザB型ウイルス感染症に対して今までよりも広い系統でも保護作用をもたらすと期待されています。たくさんのインフルエンザ不活性化ワクチンとインフルエンザ・ワクチンが、注射剤で使用できます。弱毒化インフルエンザ生ワクチンは、鼻スプレーで使用できます。

抗ウイルス薬により、曝露前または曝露後の予防が可能です。しかし、個々人の要因、ウイルスとの接触の状況、接触に関連するリスクなど、いくつもの要因に影響されます。

ワクチン接種や抗ウイルス薬治療以外にも、公衆衛生上の管理には、個々人の予防対策に、次のようなことが含まれます。

  • 定期的な手洗いと手指の適切な乾燥
  • 正しい呼吸器(汚染から)の衛生上の所作-咳やくしゃみのときに口と鼻を覆うことや、ティッシュの使用と正しい処分
  • 気分不良、発熱、その他インフルエンザの症状を伴う人の自主的な早期隔離
  • 症状のある人との緊密な接触の回避
  • 他人の目、鼻、口との接触の回避

WHOの取り組み

WHOは、GISRSネットワークを通じて、他の支援組織と協力して、全世界でインフルエンザの活動を監視し、1年に2度、北半球および南半球に対して推奨する季節性インフルエンザ・ワクチンの構成成分を発表し、熱帯および亜熱帯地域の国々にワクチン製剤の選択(北半球対南半球)を指導し、ワクチン接種キャンペーンの時期に関する決定を支援し、加盟国に対して、その疾病予防および疾病管理の戦略への取り組みを支援しています。

WHOは、抗ウイルス感受性モニタリング、疾病監視および流行対策など国家的、地域的、世界的なインフルエンザへの対応能力を強化し、ハイリスク群のワクチン接種率を高め、次のインフルエンザ・パンデミックに備えています。

出典

WHO.Fact Sheet, Media centre.December2017
Influenza(Seasonal)
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs211/en/