志賀毒素産生大腸菌(ファクトシート)

2018年1月 WHO (原文〔英語〕へのリンク

要点

  • 大腸菌(E. coli)は、恒温動物の下部消化管で一般的にみられる細菌です。ほとんどの大腸菌株は無害ですが、重症の食中毒を引き起こす菌株もあります。
  • 志賀毒素産生大腸菌(STEC)は、重篤な食物由来の感染症を引き起こすことができる細菌です。
  • STEC感染発生の主な原因は、生または調理不十分な肉製品、生乳や、糞便で汚染された野菜です。
  • ほとんどの場合、その病気は、患者本人に限定ですが、特に幼児や高齢者では、溶血性尿毒症症候群(HUS)を含む生命を脅かす疾患につながる可能性があります。
  • STECは熱に感受性があります。家庭で食事の準備をする時は、「徹底的に調理する」など基本的な食品衛生習慣に従って下さい。
  • WHOの「食品をより安全に保つ5つの鍵」は、STECなど食物由来の病原体からの感染を防止するための重要な手段です。

概要

大腸菌(E. coli)は、人や恒温動物の消化管で一般的にみられる細菌です。ほとんどの大腸菌株は無害です。しかし、いくつかの株、志賀毒素産生大腸菌(STEC)は重大な食物由来の感染症を引き起こします。主に、生や調理不十分な肉製品、生乳、汚染された生野菜やスプラウトなどの汚染された食品の摂取により人に伝播します。

STECは赤痢菌によって産生される毒素と類似の志賀毒素として知られる毒素を産生します。STECは、7℃から50℃の温度範囲で37℃を最適温度にして、増殖することができます。STECの中には、pH4.4までの酸性食品や最小の水分活性(aW)0.95の食品で増殖できるものもあります。

STECはすべての部分が70℃以上の温度で調理することにより破壊されます。大腸菌O157:H7は公衆衛生に関して最も重要なSTEC血清型です。しかし、他の血清型は、散発的な症例や流行に頻繁に関与しています。

症状

STECによって引き起こされる疾患の症状には、腹部の痙攣と下痢があり、場合によっては血性の下痢(出血性大腸炎)に進行することがあります。発熱や嘔吐も起こります。潜伏期間は3日から8日の範囲で、中央値は3日から4日です。大部分の患者は10日以内に回復しますが、少数の患者(特に小児と高齢者)においては、感染は溶血性尿毒素症候群(HUS)などの生命を脅かす疾患につながる可能性があります。HUSは、溶血性貧血、血小板減少(血小板低値)によって特徴づけられます。

STEC感染患者のうち10%までがHUSを発症し、3~5%が死亡すると推定されています。全体として、HUSは小児における急性腎不全の最も一般的な原因です。HUS患者の25%は神経学的合併症(発作、脳卒中、昏睡など)を引き起こすことがあり、生存者の約50%において、軽度の慢性腎不全後遺症が残ります。

血性の下痢や重度の腹部の痙攣を経験した人は、医療施設を受診する必要があります。抗生物質はSTEC患者への治療の役割はなく、その後のHUSのリスクを増加させる可能性があります。

感染源と感染経路

STECに関して最も入手可能情報は、他の大腸菌株と容易に生化学的に区別できる血清型O157:H7についてです。この病原菌の宿主は、主に牛であると考えられます。他に、ヒツジ、ヤギ、シカなどの反芻動物は重要な宿主と考えられます。さらに、豚、馬、ウサギ、犬、猫などの哺乳類やニワトリ、七面鳥などの鳥類でも感染が見られます。

大腸菌O157:H7は、主に生や調理不十分な肉製品、生乳などの汚染された食品を摂取することで、人に伝播します。糞便で汚染された水や他の食品、牛肉や他の肉製品、汚染された表面や台所用品など料理を準備している間の接触汚染なども感染につながります。大腸菌O157:H7の流行に関与する食品の事例には、調理不十分なハンバーガー、乾燥し固めたサラミ、未殺菌の新鮮なアップルサイダー、生乳から作られたヨーグルトやチーズが含まれます。

栽培や出荷のある段階で、家畜や野生動物の糞便との接触による汚染の可能性のあるスプラウト、ホウレンソウ、レタス、コールスロー、サラダなどの果物や野菜の摂取が関連した流行が増えています。STECは、また、池や河川などの水域や井戸・水路から隔離されて、肥料や水路の堆積物でも数か月生存することが確認されています。汚染された飲料水やレクレーションでの水の両方から、水を介して伝播したことが報告されています。

人から人への伝播は、経口糞便感染による伝播が重要な感染経路です。無症候性のキャリア状態が報告されており、臨床的な徴候は示さないが、他の人に感染させることができます。STECの排泄期間は成人で1週間以下ですが、小児ではより長くなることがあります。一般市民が動物と直接接触する可能性のある農場やその他の場所を訪問することも、STEC感染の重大な危険因子となることが確認されています。

予防

感染の予防には農場での農業生産から商業施設と家庭のキッチンの両方で食品の処理、加工、準備まで食物連鎖の全ての段階で管理が必要です。

産業
病気の発生件数は牛肉の様々な汚染軽減・戦略(例えば、屠殺環境で多数の病原体の侵入を減らすために屠殺動物のスクリーニングをするなど)により減少させることができます。

農場、屠殺場、食料生産に携わる従業員への衛生的な食品取り扱いの教育は、微生物汚染を最小限に抑えるために不可欠です。食物からSTECを排除する唯一効果のある方法は、加熱(例えば、調理または低温殺菌)または放射線照射などによる殺菌処理を導入することです。

家庭
大腸菌O157:H7感染の予防手段は、他の食品媒介疾患に推奨される予防策と同様です。WHOの「食品をより安全に保つ5つの鍵」に記載されているように、基本的な食品衛生習慣は、多くの食品媒介疾患の原因となる病原体の伝播を防ぎ、STECによって引き起こされる食品媒介疾患を予防することができます。

食品をより安全に保つ5つの鍵は以下の通りです。

  • 清潔の保持
  • 生モノと調理したモノを分けること<
  • 完全に調理すること<
  • 食品を安全な温度に保つこと<
  • 安全な水と原材料を使用すること

Five keys to safer food manual

これらの推奨事項は、すべての場合において実施すべきです。特に食品の中心が少なくとも70℃に達するように「完全に調理する」べきです。果物や野菜は、特に生で食べる場合は慎重に洗って下さい。可能であれば、野菜と果物は皮をむいて下さい。身体の弱い人(小児や高齢者など)は、生や調理されていない肉製品、生乳、生乳から作られた製品の摂取を避けるべきです。

特に小児や高齢者、免疫不全の人の世話をする人に対しては、食べ物の準備前や消費前とトイレの後に定期的な手洗いを行うことを強く勧めます。細菌は人から人へと、また、食べ物、水、動物など直接接触を介して受け渡されます。

多くのSTEC感染が、レクリエーション中の水との接触によって引き起こされます。したがって、動物の老廃物からレクリエーションの水域および飲料水源を護ることが重要です。

果物や野菜の生産者
WHOの「より安全な果物と野菜を育てる5つの鍵」は、植え付け、栽培、収穫、貯蔵中に新鮮な生産物の微生物汚染を防止するための重要な実践として、自分や家族で食べたり、地域の市場で売ったりするために新鮮な野菜や果物を栽培する農村地域で働く人に提供されています。

より安全な果物と野菜を育てる5つの鍵は以下のとおりです。

  • 個人での適切な衛生習慣の実践
  • 動物の糞便汚染からの農場の保護
  • 糞便廃棄物の処理の実施
  • 灌漑用類のリスク評価と管理
  • 清潔で乾燥した収穫物と貯蔵施設の状態の維持

Five keys to growing safer fruits and vegetables

WHOの取り組み

WHOは食品中のSTECを管理するための科学的な評価を提供しています。これらの評価は、国際食品規格委員会(Codex Alimentarius Commission)によって作成された国際食品規格、ガイドライン、推奨事項が基礎となっています。

WHOは、適正な製造の実践を促し、小売業者および消費者に適正な食品の取り扱いと汚染の回避を教育することによる食品安全システムの強化を促進しています。

2011年にヨーロッパで大腸菌が流行したときには、WHOは国際保健規約(IHR)と世界の食品安全機関ネットワーク(INFOSAN)を通じて、情報の共有と協力の調整を支援します。WHOは、各国の保健当局や国際的な支援組織と緊密に協力し、技術支援や感染発生に関する最新情報を提供しています。

出典

WHO.Fact sheet, Media Centre.Reviewed January2018
E. coli
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs125/en/