カンピロバクター感染症 (ファクトシート)
2018年1月 WHO (原文〔英語〕へのリンク)
要点
カンピロバクターは、世界で下痢症を起こす4大・原因疾患のうちの1つです。世界の胃腸炎の中で最も多い原因菌と考えられています。
- カンピロバクター感染症は、一般的に軽い症状ですが、幼少期の子ども、高齢の大人、免疫力の弱い人などでは死に至ることもあります。
- 一般的に、この細菌は、家禽、ウシなど、恒温動物の腸管に生息し、これらから作られた食品からは、頻繁に検出されます。
- カンピロバクター属は、加熱や調理を徹底すれば殺菌されます。
- カンピロバクター感染症を防ぐには、料理をするときに、基本的な食品・衛生習慣を確実に実行することが必要です。
概要
カンピロバクター感染症など、食べ物による疾患(食中毒など)の脅威は、かなり身近なものです。毎年10人に1人は罹っており、3,300万年分の健康な生活時間が失われています。食べ物による疾患は、特に、小さな子どもでは重篤となることがあります。下痢症は、安全が疑わしい食べ物で最も頻繁に見られ、毎年、5億5,000万人が症状を起こしています(5歳未満の子ども2億2,000万人を含みます)。(その中でも)カンピロバクターは、世界で下痢症を起こす4大・原因疾患のうちの1つです。
カンピロバクターによる下痢症は、発生頻度が高い上に、その罹病期間や起こり得る合併症のために、社会・経済学的な観点から極めて重要な位置づけとなっています。発展途上国では、子ども、特に2歳未満の子どもでのカンピロバクター感染症が多く、ときには、死亡原因となります。
カンピロバクターは、主に螺旋形でS状もしくは弧を描いたような桿菌です。現在、カンピロバクター属には17種と6亜種が当てはめられており、人への感染が最も多く報告されるのは、C. jejuni(亜種jejuni) とC. coli.です。C. lariおよびC.upsaliensisといった種類も下痢症患者から分離されますが、それ程多くはありません。
カンピロバクター感染症
カンピロバクター感染症は、カンピロバクターへの感染によって引き起こされる疾患です。
- 通常、疾患症状の発症は細菌に感染してから2-5日で現れますが、1日から10日までの幅があります。
- カンピロバクター感染症で最も多い臨床症状は、下痢(しばしば血性となる)、腹痛、発熱、頭痛、嘔気、嘔吐です。通常、症状は3日から6日続きます。
- カンピロバクター感染症による死亡は稀です。通常は、幼少期の子どもか高齢者に限られます。AIDSのように他に重篤な疾患を患っているときには、死亡のリスクが高まります。
- (血液中に細菌が入り込む)菌血症、肝炎、膵炎(それぞれ、肝臓、膵臓への感染による)、流産といった合併症が、さまざまな頻度で報告されています。感染後の合併症には、反応性関節炎(半年以上続く関節の疼痛性炎症)、ギランバレー症候群のような神経障害、呼吸器に起こるポリオ様の麻痺、また、患者数は少ないものの重症の神経機能不全などがあります。
感染源と感染経路
カンピロバクター種は、ほとんどの恒温動物に広く生息しています。これらは、家禽類、ウシ、ブタ、ヒツジ、ダチョウなどの食用動物に広く行き渡っています。犬猫などのペットにも生息しています。この細菌は甲殻類からも検出されます。
主な感染経路は、一般には食べ物からと考えられています。加熱不十分な肉、食肉製品、生乳や細菌を含んだ牛乳などに因ります。細菌を含んだ水、氷なども感染源となります。一定の割合の患者が、野外リクレーションのときに細菌を含んだ水と接した後に、発生しています。
カンピロバクター感染症は、人獣共通感染症であり、動物から人にも、動物の生産物から人にも伝播します。多くの場合、切り分ける前後の肉は解体処理中に出る糞便によってカンピロバクターに汚染されます。動物は、ほとんど症状を発症しません。
上記の各感染源の感染全体での相対的な寄与率は明らかではありませんが、細菌で汚染された調理不十分の家禽類を食べることは、大きな原因と考えられています。集団発生事例で共通の感染源が見つかることはほんの一部でしかなく、ほとんどの報告例では患者が散発的に発生し、容易に感染パターンを識別できるものではありません。
(したがって)既知のすべての情報源の重要度を推定することは極めて困難です。また、カンピロバクターの発生源が広範囲にわたることも、食品流通全体を通しての感染制御への戦略の作成を妨げています。それでも、生きた家禽におけるカンピロバクターの保菌率を下げるために具体的な戦略が置かれている国では、同じ様な患者数の低下が観察されています。
治療
治療は、一般には、電解質の補充や脱水の補正を除いては必要としません。侵襲性症状の患者(細菌が腸管粘膜細胞を侵襲し、組織に損傷を与えている患者)や、保菌者(体内にカンピロバクターを保持し続けて、無症状のままに排出し続ける状態の患者)に対しては、抗生物質での治療が推奨されています。
予防方法
カンピロバクターからの感染を予防するために行われているいくつもの方法があります。
- 予防は、農場での農業生産物から、流通、食品製造と加工まで、販売および家庭の両方に関わるすべての食品流通の段階で行うことが、感染対策の基本です。
- 糞便や糞便が混じる土の付着した(汚染)物を下水処理できる充実した環境を整備できていない国では、処理の前に消毒が必要となるかもしれません。
- 家禽におけるカンピロバクターの保菌率を減らす対策には、養鶏場に環境中から鳥の群によってカンピロバクターが持ち込まれることを防ぐために、生物学的な安全対策を向上させることなどがあります。この感染制御の対策は、鶏が完全に密閉された飼育場で飼われている場合にのみ実現できます。
- 適正な衛生状態での解体処理は、糞便による解体物からの汚染を減少させます。しかし、これは、食肉や肉製品にカンピロバクターがいないことを保証するものではありません。食肉処理業者や生肉製造業者に対する適正な衛生状態での食品取扱いの研修は、細菌汚染を最小限に抑えるために不可欠です。
- 家庭の台所での感染に対する予防方法は、他の食中毒の原因となる細菌での疾患に対して取られる予防方法と同じです。
- 加熱処理(調理または低温殺菌)や滅菌照射での細菌の処理は、細菌で汚染された食べ物からのカンピロバクターの除去に唯一効果のある方法です。
WHOの取り組み
安全で栄養価の高い食事を確実に得られる環境を作るための必須要件として、WHOは他の関係者と協力しながら、食品の安全の重要性を強く提唱しています。WHOは、さまざまな部門のさまざまなタイプの専門知識を活用しながら、生産から消費までの一連の食品流通全体を網羅するための政策を示し、これを推奨しています。
WHOは、グローバル化が拡大し続ける中で、食品の安全体制の強化に取り組んでいます。 国際的な食品の安全基準の設定、疾病監視の強化、消費者の教育、安全な食品の取り扱いに対する食品取扱者の研修が、食べ物による疾患の予防に対して最も重要な介入方法の1つとなっています。
国連食糧農業機関(FAO)、世界動物衛生機関(OIE)、ユトレヒト大学にあるWHO共同研究センターと協力しながら、WHOは2012年に報告書「世界的視点でのカンピロバクター感染症(The global view of campylobacteriosis)」を公表しました。
The global view of campylobacteriosis
WHOは、カンピロバクター(Campylobacter)やサルモネラ菌(Salmonella)などの食べ物による病原菌の調査活動に対して、国内および地域内の研究所の対応能力を強化しています。
また、WHOは、一連の食品流通における抗生物質への耐性菌に関する調査情報の集積、人・食品・動物から採取された検体情報の収集、部門間を超えたデータの分析などを促進しています。
WHOは、FAOと共同で、加盟国・担当機関のネットワークを通じて、食べ物による疾患の発生を早期に発見し、対策を実施するために、国際的な取り組みを調整しながら加盟国を支援しています。
また、WHOは、食べ物による疾患を予防するために、FAO / WHO Codex委員会が作成した国際的な食品基準、ガイドライン、勧告の基礎となる科学的評価を提供しています。
住民、旅行者に対して勧められる対策
旅行中は、(食の)安全性を確かめるために、次のことが勧められます。
- 食事が提供されたときに、適切に調理され、まだ熱い状態であることを確かめてください。
- 生乳および生乳から作られた製品を避けてください。低温殺菌または一度沸騰させた乳製品だけを飲むようにしてください。
- 安全な水から作られていない限り、氷は避けてください。
- 飲料水の安全性が疑わしいときには、沸騰させてください。さもなければ、信頼できる徐放性の消毒剤(通常は薬局で入手可能)で消毒してください。
- 石鹸を使って、特に、ペットや家畜動物と触れ合った後やトイレの後には、徹底して、頻繁に手を洗ってください。
- 果物や野菜は丁寧に洗ってください。特に、生で食べるときには、そうしてください。可能であれば、果物も野菜も皮を剥くようにしてください。
食品の取り扱い業者に勧められる対策
WHOは食品を取り扱う人々に対し、以下のガイダンスを提供しています
- 職業でも家庭でも食品を取り扱う際には、食べ物を調理する間に注意を怠ってはならず、食べ物の調理における衛生上のルールを守らなければなりません。
- 職業上の調理者は、発熱、下痢、嘔吐、または感染した皮膚の病変が認められたときには、直ちに雇用者に報告しなければなりません。
- WHOの「食品をより安全に保つ5つの鍵」は、食品取扱者の訓練と消費者の教育に対する教育プログラムの基礎要件として役立ちます。特に、食中毒の予防には重要です。5つの鍵は次のとおりです。
- 清潔の保持
- 生ものと調理物とを分けて扱うこと
- 調理は徹底して行うこと
- 食べ物を安全な温度に保つこと
- 安全な水と新鮮な材料を使用すること
出典
WHO.Fact sheet, Media Centre.Reviewed January2018
Campylobacter
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs255/en/