結核について (ファクトシート)
2018年1月 WHO(原文〔英語〕へのリンク)
要点
- 結核(TB)は、世界の10大死因のひとつです。
- 2016年には1,040万人が結核に罹患し、170万人が結核で死亡しました(HIV感染者40万人を含む)。結核による死亡の95%以上は低所得国と中所得国で発生しています。
- インドを筆頭に、次いで、インドネシア、中国、フィリピン、パキスタン、ナイジェリア、南アフリカ共和国の7か国で、全体の64%を占めています。
- 2016年には、推定で100万人の小児が結核を発症し、25万人が結核で死亡しました(HIVに感染した小児を含む)。
- 結核は、HIV感染者の死亡の第一原因です。2016年には、HIV感染者の死因の40%が結核でした。
- 多剤耐性結核(MDR-TB)は、公衆衛生上の危機であり健康保障上の脅威に留まっています。WHOは、約60万人が新たに第一選択薬であるリファンピシンへの耐性を示し、このうちの49万人が多剤耐性結核であったと見込まれています。世界的には、年に約2%ずつ、結核の発生率が下がってきています。(けれども)2020年に"End TB Strategy"「結核終息への戦略」の試金石に達するには年に4-5%まで減少率を加速させる必要があります。
- 2000年から2016年までに、結核の診断と治療を通して推定5,300万人の生命が救われました。
- 2030年までに結核の流行を終結させることが、持続可能な発展目標における健康上の到達点となっています。
概観
結核(TB)は細菌(結核菌)によって起こり、多くは肺で発症します。結核は治療も予防も可能です。
結核は、空気感染によって人から人に広がります。肺結核の人が咳やくしゃみをしたり、つばを吐いたりした時に、空気中に結核菌をまき散らします。人は、少量の結核菌を吸い込んだだけでも感染します。
世界の総人口の約4分の1は、結核菌に潜伏感染しているものの、発症はせず、他の人に感染させることはありません。
結核菌に感染している人が生涯で結核を発症するリスクは5-15%です。しかし、HIV感染者、栄養失調者、糖尿病患者、喫煙者などの免疫系が低下している人々では、発症リスクがずっと高くなります。
人が活動性の結核を発症しても、数か月間は症状(咳、発熱、寝汗、体重減少など)が軽症で経過する可能性があります。これは受診を遅らせ、結果として他の人に結核菌をまき散らすことになります。結核を発症した人は、1年の間に、濃厚接触者の10人から15人に感染させることができます。適切な治療を受けなければ、HIV陰性で結核を発症した人でも平均で45%は死亡し、HIV感染者で結核を合併した人はほとんどすべてが死亡します。
リスクの高い人は?
結核は、大部分が生産年齢人口の成人に発症します。しかし、リスクはすべての年齢層にあります。患者と死亡者の95%以上は、開発途上国で発生しています。
HIVと結核に重複感染している人は、結核を発症するリスクが20倍から30倍高くなるようです(「結核とHIV」の項を参照)。活動性結核になるリスクは、免疫系が障害されている他の病態に悩まされている人でも高くなります。
2016年には、推定で100万人の小児(0歳から14歳)が結核に罹患し、小児の25万人(HIV感染小児を含む)が結核で死亡しています。
喫煙は結核の発症と死亡のリスクを大幅に高めます。結核患者の8%は喫煙が寄与しています。
世界に与える結核の影響
結核は、世界中で発生しています。2016年に、世界の新規結核患者数が最も多かったのはアジアで45%を占め、次いでアフリカで25%を占めています。
2016年のうち、報告された結核患者の約87%は結核の脅威が高い30か国で発生していました。インド、インドネシア、中国、フィリピン、パキスタン、ナイジェリア、南アフリカの7か国で全体の64%を占めています。世界の(結核終息への)進展は、これらの国での結核予防と医療管理の進展に懸かっています。
症状と診断
活動性肺結核の一般的な症状は、頻回にわたる血痰を伴う咳、胸痛、脱力感、体重減少、発熱、寝汗です。多くの国では、依然として、結核の診断は、顕微鏡による喀痰塗抹鏡検と呼ばれる長く使われてきた検査法に頼っています。訓練された検査技師が、顕微鏡で喀痰の検体中に結核菌が存在するかどうかを見ます。(しかし)顕微鏡により検出できるのは、結核患者の半分に過ぎません。しかも、耐性結核の有無は確認できません。
2010年以降、迅速検査Xpert MTB/RIF®(セフェイド)が使用範囲を大幅に拡大させてきており、WHOも初めてその使用を推奨しました。この検査法は、結核菌を確認すると同時に、最も重要な抗結核薬であるリファンピシンへの耐性をも確認します。検査結果は2時間以内に出るため、いまではWHOが、結核の徴候や症状のある人すべてに初期診断の検査法として推奨しています。2016年には、世界で690万個が調達され、既に100か国以上で使われています。
多剤耐性そして耐性菌への薬剤にも耐性を示す結核菌の診断(多剤耐性結核菌の項を参照)はHIVが関与する結核菌とともに、複雑化し、拡大しています。2016年には、迅速検査Xpert MTB/RIFが使えない僻地の医療センターでも結核菌を検出するための迅速分子マーカー検査が1種類と、第一選択薬および第二選択薬に対する耐性を検出する検査が3種類、合計4種類の新しい検査がWHOによって推奨されました。
結核は、特に小児での診断が難しく、小児結核の診断を支える検査法としては、一般にXpert MTB/RIF検査法だけが使われています。
治療
結核は治療可能で治癒を目指せる疾患です。薬剤耐性のない活動性結核は、医療従事者または訓練を受けたボランティアが、患者への情報提供、患者管理、患者支援を行いながら4種類の抗菌薬による6か月間コースの標準療法で治療されます。このような支援がなければ、服薬の遵守は難しく、疾患が拡がってしまいます。ほとんどの結核患者は、薬剤が提供されて、適切に服用すれば治ります。
2000年から2016年までに、推定5,300万人の生命が結核の診断と治療を通して救われました。
結核とHIV
HIV感染者は、HIVに感染していない者よりも、活動性結核を発症する可能性が20~30倍も高くなります。
HIVとTBとは致命的な組み合わせで、お互いがもう一方の病気の進行を加速させる病態を作ります。2016年には、HIVに関連して、世界で約40万人が結核で死亡しました。(また)2016年において、HIV陽性患者での死亡のうちの約40%が結核によるものでした。2016年には、HIV陽性患者のうち140万人が新たな結核患者であったとみられています。このうち、74%がアフリカで暮らす者でした。
WHOは、感染と発症の予防並びに治療と死亡者を減らすための活動を含め、結核とHIVを合わせて対応するために12項目の取り組みを推奨しています。
多剤耐性結核
抗結核薬は数十年も使用されており、調査が行われた全ての国で1剤もしくはそれ以上の薬剤への耐性が記録されています。薬剤耐性は、医療施設で適切な処方を受けていなかったり、薬剤の品質が悪かったり、患者が治療を完了しないままに服薬を中断してしまったりと、抗結核薬が適切に使用されていないときに出現します。
多剤耐性結核(MDR-TB)は、少なくとも、最も強力な第一選択薬であるイソニアジドとリファンピシンに耐性を示す結核の病態です。多剤耐性結核は、第二選択薬を使用することにより治療可能で、治癒させることができます。しかし、第二選択薬による治療は、選択肢が限られており、長期にわたる化学療法(最大2年間の治療)を必要とし、治療費が高額となります。また、患者に毒性もあります。
患者によっては、薬剤耐性がさらに進むことがあります。超多剤耐性結核(XDR-TB)は、第二選択薬の抗結核薬のうち最も効果的な薬剤にも反応しない細菌によって引き起こされる多剤耐性結核で、ときに、如何なる治療の選択肢もない状態となります。
2016年において、多剤耐性結核は公衆衛生上の危機と健康の保障の脅威に留まったままです。WHOは、約60万人が新たにリファンピシンへの耐性を示し、このうちの49万人が多剤耐性結核となったと見ています。多剤耐性結核の脅威は、インド、中国、ロシアの3か国に大きく拡がっており、世界の半数近くを占めています。2016年には、多剤耐性結核の約6.2%がXDR-TBでした。
現在、世界で、多剤耐性結核患者の治療成功率は54%、超多剤耐性結核の治療成功率は30%に過ぎません。2016年に、WHOは第二選択薬への耐性をもたない多剤耐性結核に対する短期(治療)の標準治療レジメンの使用を承認しました。このレジメンは9-12か月の服薬を必要としますが、従来の多剤耐性結核の治療よりも、かなり治療費を低く抑えられます。また、2年間は服用することができます。(しかし)超多剤耐性結核や第二選択薬への耐性をもつ多剤耐性結核の患者では、このようなレジメンは使用できません。(超多剤耐性結核患者には)多剤耐性結核のレジメンにもう1剤の新薬[bedquiline、delamanid(デルティバ)の何れか]を追加し、さらに長期に薬剤を服用する必要があります。
WHOは、2016年に、このような患者を速やかに発見できる迅速診断検査法を承認しました。アジアとアフリカの35を超える国では、より短期(治療)の多剤耐性結核レジメンが使用され始めています。2017年6月までに多剤耐性結核の治療レジメンの有効性を向上させる取り組みとして、89か国がbedquilineを導入し、54か国がdelamanidを導入しました。
WHOの取り組み
WHOは結核に対処するために、6項目の中核となる取り組みを進めています。
- 1.結核に関する重要な問題に、世界でのリーダーシップを発揮すること
- 2.結核の予防、治療、感染制御のために、根拠に基づく政策、戦略、標準対処法を推進し、それらの実施状況を監視すること。
- 3.加盟国に技術的な支援を行い、変革を起こし、持続的な対処能力を確立させること
- 4.世界の結核の状況を監視すること。また、結核の治療、感染制御、財政に関する進展状況を評価すること
- 5.結核に関する研究計画を具体化し、価値ある知見の産生、翻訳、普及を促進させること
- 6.結核対策の活動に対する協力関係を促進し、関わっていくこと
2014年5月の世界保健総会で採択されたWHOの"End TB Strategy"「結核終結への戦略」は、結核による死亡者と、発生率を低下させ、破滅的な費用を必要なくさせることによって、結核の流行を終結させるために描かれた各国への青写真です。世界の大きな目標は、2015年から2030年までに結核死亡者の90%を減らし、新たな患者の80%を防ぐこと、結核治療が莫大な費用となり家族の重荷とならないことに重点を置いています。
2030年までに結核の流行を終結させることは、持続可能な発展への目標で新たに採用された健康上の目標となっています。WHOは、さらに一歩進んで、2035年までに結核死亡者を95%、結核発生率の90%を低下させ、 現在、結核の発生率が低い国々と同じレベルにすることを目指しています。
効果的に流行を終結させるために必要な戦略の柱として、以下の3つの柱を立てています。
- 第1の柱:患者中心の医療支援と予防の統合
- 第2の柱:大胆な政策と支援体制
- 第3の柱:研究と技術革新の強化
この戦略の成功は、各柱に置かれた介入を実施する際に、各国が次の主要な4つの原則を尊重することに依存します。
- 1.監視と評価をともなう政府の責務と説明責任
- 2.市民団体や地域社会との強力な連携
- 3.人権、倫理、公平性の保護と促進
- 4.世界全体の協力に基づく国家レベルでの戦略と目標の採択
出典
WHO.Fact sheet, Media Centre.Reviewed January2018
Tuberculosis
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs104/en/index.html