リステリア症 (ファクトシート)

2018年2月 WHO (原文〔英語〕へのリンク

要点

  • リステリア症は、リステリア菌(Listeria monocytogenes)によって引き起こされる感染症です。
  • リステリア菌は、自然界に広く分布しています。リステリア菌は、土壌、水、植物、いくつもの動物の糞便などで見られ、食べ物を汚染します。
  • 高リスクの食品には、惣菜の肉類、入手した時点で食べることのできる食肉製品(加熱調理肉、塩漬け肉、発酵肉、ソーセージなど)、ソフトチーズおよび冷製の燻製漁業製品などがあります。
  • 妊婦、高齢者や弱い免疫系の弱い人、HIV /エイズ、白血病、がん、腎移植、ステロイド療法などにより免疫が抑制された状態の人などは、重症リステリア症となるリスクが最大となるため、リスクの高い食品は避ける必要があります。
  • リステリア症は重篤になりますが、予防も治療も可能な疾患です。

概要

 食品に由来するリステリア症は、最も重篤かつ深刻な食物由来の中毒性疾患の1つです。これはリステリア菌(Listeria monocytogenes)によって引き起こされます。リステリア症は比較的まれな疾患ですが、世界の国や地域によって年間100万人あたり0.1~10人と左右されます。リステリア症の患者は少ないが、この感染の致死率が高いため、公衆衛生上の重大な懸案事項となっています。

 細菌が引き起こす一般的な他の多くの食物由来の疾患とは異なり、リステリア菌は、通常、冷蔵庫の状態である低温で生存し、増殖することができます。たくさんのリステリア菌で汚染された食物を摂食することが、主な感染経路となります。また、感染は、人と人との間でも、特に妊婦から未熟児へと伝播することがあります。

 リステリア菌は、自然界の至るところに偏在し、土壌、水、動物の消化管の中でもみられます。野菜は土から、そして成長促進のために使われた肥料から、細菌で汚染される可能性があります。入手した時点で食べることのできる食肉製品も、製造過程で細菌が混入し、配給や貯蔵の間に危険なレベルにまで増殖することがあります。

 リステリア症に最も頻繁に関連する食品には、次のようなものがあります。

  • 冷蔵庫の中で長い期間貯蔵している食品(リステリア菌は、十分な時間があれば冷蔵温度でも食品中で感染力のある個数に増殖することができます)
  • 調理、またはリステリア菌を死滅させられるであろう方法で、さらに手を加えることのない食品

 これまでの感染の発生は、フランクフルト・ソーセージ、肉パテの盛り合わせ、スモーク・サーモン、発酵させた生肉ソーセージ、並びに、即売所の乳製品(ソフトチーズ、未殺菌のミルクやアイスクリームなど)、 事前準備されたサラダ(コールスロー[刻みキャベツやモヤシ類など])、そして、新鮮な野菜や果物などが関係しています。

リステリア症

 リステリア症は、リステリア菌(L.monocytogenes)によって引き起こされる病態で、どの国にも発生します。リステリア症には、主に非侵襲的病態と侵襲的病態の2つのタイプがあります。

 非侵襲性リステリア症(発熱性のリステリア菌による胃腸炎)は、元来、主に健康人に発生する軽度の病態の疾患です。症状としては、下痢、発熱、頭痛、筋肉痛が現れます。潜伏期間は短く、数日です。この病態の発生は、一般に、大量のリステリア菌を含む食品を摂取することに関係します。

 浸潤性リステリア症は、リステリア症のさらに重篤な病態です。ある特定の高リスクの集団で感染が発生します。この特定の集団には、妊婦、がんの治療を受けている患者、AIDS、臓器移植者、高齢者、乳児などが該当します。このタイプの病態は、重篤な症状および高い致死率(20%~30%)を特徴とします。症状には、発熱、筋肉痛、敗血症、髄膜炎があります。 潜伏期は通常1~2週間ですが、数日から90日までの間で変動します。

 リステリア症の最初の診断は、臨床症状と、血液、脳脊髄液、新生児の胎便(流産児の便)、並びに、糞便、嘔吐物、食品、動物の餌からの塗抹末標本で細菌を確認することに基づきます。人におけるリステリア症の診断には、PCR法検査など、さまざまな検出方法が利用できます。妊娠中に血液や胎盤の培養は、症状がリステリア症によるものかどうかを発見する最も確かな方法です。

 妊娠女性は、その他の健康成人と比べてリステリア症への感染率が20倍も高くなります。流産や死産の原因にもなります。また、新生児は低出生体重、敗血症、髄膜炎などを起こすかもしれません。HIV/AIDS患者では、免疫機能が正常な人よりも、少なくとも300倍も感染しやすくなります。

 潜伏期間が長いために、実際の感染源となる食品を確認することが課題となります。

治療

 リステリア症は、早期に診断できれば、治療できます。髄膜炎のような重篤な症状への治療には、抗生物質が使用されます。妊娠中に感染した場合には、速やかに抗生物質で管理して、胎児や新生児の感染を防ぎます。

感染制御の方法

 リステリア菌の制御は、食品流通のすべての段階に求められ、最終生産物におけるこの細菌の増殖を防ぐには、全体を調和させて取り組む姿勢が必要となります。リステリア菌を制御することの課題は、かなりの部分が、偏在する特性、一般的な保存方法(食品への塩、燻製、酸を使った方法)への高度な耐性、冷蔵温度(約5℃)での生存能力と増殖性から来ています。食品流通のすべての部門が、危害分析重要管理点方式(Hazard Analysisand Critical Control Point;HACCP)の原則に基づいた適正衛生規範(Good Hygienic Practices;GHP)と適正製造規範(Good Manufacturing Practices;GMP)を実行しなければなりません。

Guidelines on the application of general principles of food hygiene to the control of Listeria monocytogenes in ready-to-eat foods[PDF形式:198KB]](英文、28ページ)

 また、食品製造業者は、製造過程やその他の衛生管理に基づいたHACCPが正しく機能しているかを確認し、検証する際に、適切に微生物学上の基準に照らして検査を行う必要があります。さらに、リステリア菌のリスクが関係する食品の製造者は、リステリア菌の生存と増殖に好条件となる領域を含め、適した環境を特定し、排除する環境モニタリングを実施しなければなりません。

 遺伝子のフィンガープリント(指紋)である全ゲノム配列(WGS)を使った最新の技術で、患者から単離されたリステリア菌と食品から単離されたリステリア菌とを結びつけることにより、リステリア症の発生の食品源を、これまでよりも素早く確認できるようになりました。

予防方法

 食品中のリステリア菌は、低温殺菌や調理によって死滅します。

 一般的に、リステリア症の予防に関するガイダンスは、他の食品由来の疾患の予防で役立てられているガイダンスと同じです。ここには、安全な食品の取り扱いを修得し、「食品をより安全に保つ5つの鍵」に従うことが含まれます。5つの鍵とは、次のとおりです。

  • 清潔の保持
  • 生鮮物と調理物とを分けて扱うこと
  • 調理は徹底して行うこと
  • 食品を安全な温度に保つこと
  • 安全な水と新鮮な材料を使用すること

高リスクの人々には、次のことへの注意が必要です。

  • 未殺菌の牛乳から製造された乳製品、総菜や出来合いの肉料理、肉パテやミート・スプレット(ほぐし肉)、低温燻製の海産物(スモーク・サーモンなど)の摂取を避けること。
  • 製品ラベルに記載されている保管期間と保管温度を読み、慎重に確認すること。

 潜在的に、これらの食品に存在する細菌が(感染の)危険が生じるほどに増殖していないことを確認するために、調理済みの食品のラベルに記載されている消費期限と保管温度を尊重することは重要です。食べる前にもう一度調理することは、細菌を殺す非常に効果的な方法です。

WHOの取り組み

 WHOは、食品の安全システムの強化、適正製造規範(GMP)の推進、適切な食品の取扱いへの啓発と細菌汚染の回避に関する小売業者と消費者への教育を促進しています。消費者、特にリスクの高いグループの人々の教育と、安全な食品の取り扱う食品関係者の研修は、リステリア症を含めた食品由来の疾患を予防するための最も重要な手段の1つです。

 WHOとFAOは、食物中の食品中のリステリアの国際的な定量的リスク評価を公表しています。これは食品中のリステリア菌の管理に対する食品衛生の一般原則の適用に関するコーデックス委員会ガイドラインの科学的根拠を形成しています。このガイダンスには、微生物学的基準(すなわち、食品中のL.monocytogenesの存在の最大許容量)が含まれています。

 国際食品安全機関(INFOSAN)は、感染発生への調査活動や(対策の)主導および実施を行う加盟国を、WHOが支援する主力の機関です。ここは、食品の安全に関する事例を管理する加盟国の担当当局と結ばれています。このネットワークは、WHOとFAOによって共同管理されています。

出典

WHO.Fact sheet, Media Centre.February2018
Listeriosis

http://www.who.int/mediacentre/factsheets/listeriosis/en/