ハンセン病 (ファクトシート)

2018年1月 WHO (原文〔英語〕へのリンク

要点

●ハンセン病は、Mycobacterium leprae(らい菌)によって起こる慢性疾患です。
●らい菌は増殖速度が遅く、疾患の潜伏期間が平均で5年あります。患者によっては、症状が1年以内に現われることもあれば20年かかることもあります。
●この疾患は、主に皮膚、末梢神経、上気道粘膜、さらには眼を侵します。
●ハンセン病は多剤併用療法(MDT)によって治療が可能です。
●らい菌は、治療されていない患者と濃厚かつ頻回に接触したときの鼻や口からの飛沫で感染します。
●ハンセン病は、治療しなければ、皮膚、神経、手足、眼に、進行性で一生残る障害を起こします。
●WHOの6つの地域事務局にある145か国から公表された公式な数値では、2016年に世界で216,108人のハンセン病感染者が登録されていました。
●また、2016年末までの患者数173,358人に基づけば、患者の発見率は0.29/10,000相当します。

概要

ハンセン病は、抗酸性桿菌Mycobacterium leprae(らい菌)によって起こされる慢性感染症です。この疾患は、主に皮膚、末梢神経、上気道粘膜、眼を侵します。ハンセン病は、治療が可能で、早期に治療すれば障害を防ぐことができます。

略史-ハンセン病と治療

ハンセン病は、古代文明の文献にも記載されている太古からの疾患でした。歴史を通して、感染した人々は、しばしば地域社会や家族から除け者にされてきました。

ハンセン病は、過去には様々な方法で治療されました。その中で、最初に進展があったのは、1940年代にダプソンが開発されたことでした。しかし、治療期間は長期に渡り、時には、生涯続くために、治療の遵守は困難でした。1960年代に、らい菌は、当時、世界で唯一のハンセン病の治療薬として知られていたダプソンに耐性を持ち始めました。(時を同じくして)1960年代の初めに、リファンピシン、クロファジミンが発見されました。その後は治療法に加えられ、これは多剤併用療法(MDT)として知られるようになりました。

1981年に、WHOの研究グループはMDTを推奨しました。MDTは、すべての患者にダプソン、リファンピシンの2種類で、複数の細菌性疾患にはこれらにクロファジミンを加えた3種類の薬剤を組み合わせて使います。この後者を組み合わせた薬剤は病原体を死滅させ、患者を治癒させます。

1995年以降、WHOは世界中のすべての患者に対して無料で多剤併用療法による治療を提供するようになりました。当初は、日本財団から基金が提供され、2000年以降は、ノバルティスとの合意で基金が提供されています。この提供は、2020年まで延長されることとなっています。

世界での公衆衛生上の問題(登録感染者数が人口1万人あたり1件未満と定義される)としてのハンセン病の撲滅は、2000年に達成されました。そこまでの20年間に、1,600万人を超えるハンセン病患者がMDTでの治療を受けました。

WHOの取り組み

ハンセン病の感染制御に向けた取り組みを活性化させるために、WHOは、2016年に「ハンセン病の世界戦略2016-2020」を開始しました。この戦略は、障害の回避、特に、子どもたちの障害の回避に焦点を合わせています。

「ハンセン病の世界戦略2016-2020」
The Global Leprosy Strategy2016-2020:Accelerating towards a leprosy-free world

その戦略は、次の3つの柱で構築されています。

第1の柱となる活動:政府の責任意識、協調意識、協力意識の強化

・ハンセン病のプログラムに対して政治の関与と十分な物的・人的資源を確保すること
・子ども、女性、移民や難民など医療支援を得られない集団に特別に焦点を当てたUniversal Health Coverage(すべての人およびすべての地域社会が財政の困難に遭うことなく必要な保健医療サービスを受けられること)に貢献すること
・政府と非政府の活動者が協力関係を推進することと、国際レベルかつ国内の部局間での連携と協力関係を推進すること
・ハンセン病のすべての視点で基礎と運用面の研究を行い、促進し、政策、戦略および活動を報告するための証拠ベースを最大化すること
・(地理情報システムを含む)プログラム(活動計画)の監視と評価に向けて、調査活動および健康情報のシステムを強化すること

第2の柱となる活動:ハンセン病とその合併症の阻止

・患者と地域社会のハンセン病に対する存在意識の強化
・(キャンペーンなどによる)罹患率の高い地域での積極的な患者の捜索による発症初期の患者発見と接触者の健康監視の促進
・治療レジメンの改善に向けた活動を含む、治療の速やかな開始と服薬遵守の確保
・障害の予防と障害の管理に対する改善
・検査施設間のネットワークを含む抗菌薬耐性に関する調査活動の強化
・e-ヘルス(電子医療情報)などによる、ハンセン病についての研修、紹介および専門知識の維持に向けた革新的な方法の推進
・感染および疾患を予防するための介入の推進

第3の柱となる活動:差別の阻止と社会参加の促進

・すべての形態の差別や偏見に取り組むことでの社会への融合の推進
・ハンセン病に感染した人々の発言力の強化と、ハンセン病の支援に積極的に参加する対応能力の強化
・ハンセン病の支援の向上に向けた取り組みの中での地域社会の参加
・ハンセン病に感染した人々の間での連携組織づくりの推進、およびこれらの連携組織やその他の社会集団を基礎とする組織メンバーとの統合強化の奨励
・ハンセン病に感染した人々とその家族に向けた所得創出の促進などの社会的・財政的支援サービスの利用環境の向上
・ハンセン病に関連する障害を持つ人々への地域社会を基盤にしたリハビリの支援
・差別的な法律の廃止に向けた活動と、ハンセン病に感染した人々の社会への組み入れ

世界のハンセン病への戦略の目標

・新しい小児患者での障害をゼロにすること
・グレード2の障害者の割合を100万人あたり1未満にすること
・ハンセン病を理由とする差別を許すような法律をもつ国をゼロにすること

2016年8月、WHOは、「ハンセン病の世界戦略2016-2020」の採用と実施を促がすために、運用マニュアルを公表しました。このマニュアルは、各国における疫学上の脅威に応じて、国のハンセン病対策プログラム(もしくは同等の組織)の運用者に、世界のハンセン病対策を採用し、実施してもらうためのガイダンスを提供するものです。

「ハンセン病の世界戦略2016-2020」運用マニュアル
Operational Manual2016 - Global Leprosy Strategy 2016-2020

2017年3月に、世界ハンセン病プログラムは、疾患の監視と評価へのガイド-世界ハンセン病戦略2016-2020を発表しました。世界ハンセン病戦略は、世界のハンセン病対策への鍵となる介入と定義され、ハンセン病の薬剤耐性の調査のためのネットワークの拡充をリードしています。

出典

WHO.Fact sheet, Media centre.Updated January2018
Leprosy
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs101/en/index.html