リーシュマニア症について (ファクトシート)

2018年3月 WHO (原文〔英語〕へのリンク

要点

  • リーシュマニア症には3種類の主な病型があります。内臓リーシュマニア症(カラ・アザールとしても知られ、最も重篤な病型です)、皮膚リーシュマニア症(最も頻度が高い病型です)、皮膚粘膜リーシュマニア症があります。
  • リーシュマニア症は、寄生虫のリーシュマニア原虫によって起こり、原虫を持った雌のサシチョウバエに刺されることで感染します。
  • この疾患は、地球上で最も貧しい人々に感染し、栄養失調、集団移動、住宅の荒廃、免疫機能の低下、財力の破綻に関係してきます。
  • リーシュマニア症は、森林の伐採、ダム建設、灌漑計画、都市化などの環境変化にも関連します。
  • 年間に推定で70-100万人の新たな患者が発生し、2万人から3万人が死亡しているとみられます。
  • 最終的には、リーシュマニア原虫に感染したごく一部の者だけが病気を発症します。

概観

リーシュマニア症は、20種を超えるリーシュマニア原虫によって引き起こされます。90種類以上のサシチョウバエが、リーシュマニア原虫を伝播すると知られています。リーシュマニア症には主に3種類の病型があります。

  • 内臓リーシュマニア症(VL)
    カラ・アザールとしても知られており、治療しなければ95%以上で死に至ります。不規則な発熱、体重減少、肝脾腫、貧血を特徴とします。ほとんどの患者が、ブラジル、東アフリカ、東南アジアで発生します。世界では、毎年、約5万人から9万人に新たな内臓リーシュマニア症患者が発生しています。2015年には、WHOに報告された新たな患者の90%以上が、ブラジル、エチオピア、インド、ケニア、ソマリア、南スーダン 、スーダンの7か国で発生していました。
  • 皮膚リーシュマニア症(CL)
    最も頻度の多い病型です。身体の感染した部位に皮膚病変や多くは潰瘍が生じ、生涯に渡って瘢痕を残し、重度の身体障害を起こします。皮膚リーシュマニア症患者の約95%は、アメリカ大陸、地中海沿岸地域、中東、中央アジアで発生しています。2015年には、新たに発生した患者のうち3分の2以上は、アフガニスタン、アルジェリア、ブラジル、コロンビア、イラン、シリアの6か国で発生しています。世界では、年間推定で60万人から100万人の新たな患者が発生しています。
  • 皮膚粘膜リーシュマニア症
    鼻、口、咽喉の粘膜の一部または全部が破壊されます。患者の約90%は、ボリビア、ブラジル、エチオピア、ペルーで発生しています。

感染経路

リーシュマニア症の原虫は、原虫をもった雌のサシチョウバエに吸血されることで伝播します。リーシュマニア症の疫学は、原虫の種類別の特徴、感染伝播が起きている地域の生態学的特徴、現在及び過去における地域住民の原虫への暴露状況、人々の生活行動様式によって異なります。人間を含めて約70の動物種が、リーシュマニア原虫の自然宿主として知られています。

WHOの管轄地域毎の特異性

  • WHOアフリカ地域事務局の管轄地域
    内臓リーシュマニア症(VL)、皮膚リーシュマニア症(CL)、皮膚粘膜リーシュマニア症がアルジェリアと東アフリカ諸国に常在しています。東アフリカでは、内臓リーシュマニア症(VL)が頻繁に発生します。
  • アメリカ大陸地域事務局の管轄地域
    アメリカ大陸では、伝播サイクルの多様性、宿主となる動物、媒介するサシチョウバエ、臨床症状や治療への反応、同じ地図上の地域でも複数のリーシュマニア症が循環する状況など、皮膚リーシュマニア症(CL)の疫学状況は非常に複雑です。ブラジルでは、この地域の90%以上の内臓リーシュマニア症(VL)がみられます。
  • 東地中海沿岸地域事務局の管轄地域
    この地域では、世界の皮膚リーシュマニア症患者の70%がみられます。内臓リーシュマニア症は、イラク、ソマリア、スーダンでかなりの頻度で常在しています。
  • ヨーロッパ地域事務局の管轄地域
    この地域では、皮膚リーシュマニア症(CL)と内臓リーシュマニア症(VL)が常在しています。感染輸入される患者もいて、主にアフリカやアメリカ大陸からの患者です。
  • 東南アジア地域事務局の管轄地域
    この地域では、内臓リーシュマニア症(VL)が主要な形態で、皮膚リーシュマニア症(CL)も常在しています。この地域は、公衆衛生上の問題として、内臓リーシュマニア症(VL)を撲滅することを主導している唯一の地域です。

カラ・アザール後皮膚リーシュマニア症(PKDL)

カラ・アザール後皮膚リーシュマニア症は、内臓リーシュマニア症の後遺症で、通常、顔、上腕、体幹その他の部位に、斑、丘疹、結節で現われます。これは、主にアフリカ東部やインド亜大陸で発生しており、インド亜大陸では5%から10%の患者で、この後遺症が現れます。通常、これは、カラ・アザールが治ったとみられた6か月から1年以上も後に現れますが、それよりも早く現れることもあります。カラ・アザール後皮膚リーシュマニア症になった人は、カラ・アザールの潜在的な感染源であると考えられています。

リーシュマニアとHIVの重複感染

リーシュマニアとHIVに重複感染している人は、臨床症状が最悪の状態に進展することが多く、再発率や死亡率も高くなっています。抗レトロウイルス薬による治療は、重複感染した人の疾患の進行を抑え、再発を遅らせ、生存率を高めます。リーシュマニアとHIVとの高い重複感染率が、ブラジル、エチオピア、インドのビハール州から報告されています。

主要なリスクファクター

社会経済的な状況

貧困によって、リーシュマニア症のリスクが高まります。家屋が貧粗で家庭内の衛生環境(例えば廃棄物の管理が不十分、排泄物が密閉されていないなど)が十分でないと、サシチョウバエの繁殖場所や生息場所が増え、サシチョウバエが人と接触する機会が増えます。サシチョウバエは、良い吸血源となり提供される血液のある密集した家屋に引き付けられます。屋外や地ベタで就寝するといった人々の行動はリスクを高めるかもしれません。

栄養失調

食事にタンパク質、鉄、ビタミンA、亜鉛が不足していると、感染がカラ・アザールに進展するリスクが高くなります。

人々の移動

内臓リーシュマニア症と皮膚リーシュマニア症、2種類の疾患の流行状況は、移民や感染伝播サイクルが存在する環境に免疫を持たない人々が移動することと、しばしば関係します。広範な森林伐採など職業上の感染機会は、重要な要因となっています。

環境の変化

リーシュマニア症の罹患率は、都市化や森林地帯への人の侵入による変化に影響されます。

気候の変化

リーシュマニア症は気候に敏感で、さまざまな形でリーシュマニア症の疫学に影響を及ぼします。

  • 気温、降雨量、湿度の変化は、媒介するサシチョウバエと宿主動物に対して、分布図の変化やそれらの生存率および生息の大きさに影響を及ぼすことから、強く影響する可能性があります。
  • 気温の小さな変動でも、サシチョウバエの体中にいるリーシュマニア原虫の発育周期(前鞭毛型)には大きな影響力を与え、この疾患がこれまでに常在しなかった地域での寄生虫の伝播を可能にします。
  • 干ばつ、飢饉、洪水は、リーシュマニア症が流行している地域への大規模な人々の移動を引き起こし、栄養失調は免疫機能を低下させます。

診断と治療

内臓リーシュマニア症は、臨床所見と寄生虫学的検査または血清学的検査(迅速診断検査やその他の検査)を組み合わせることによって診断されます。皮膚リーシュマニア症と皮膚粘膜リーシュマニア症では、血清学的検査の有用性は限られており、臨床症状と寄生虫学的検査によって診断が確かめられます。

リーシュマニア症の治療は、病型、感染にともなう病態生理、寄生虫の種類、地理的な位置などのいくつもの要因に左右されます。リーシュマニア症は治療可能で完治できる病気です。(しかし)薬ではリーシュマニア原虫を排除することはできず、免疫力が弱まっていると再発のリスクがあるため、免疫系の応答能力が必要とされます。内臓リーシュマニア症と診断されたすべての患者は、速やかに治療を行い、完遂する必要があります。分布地域毎のさまざまな病型への治療に関する詳しい情報は、WHOテクニカル・レポート・シリーズ949「リーシュマニア症の感染管理」に示されています。

感染の予防と管理

(リーシュマニア症の)感染伝播は、宿主となる人、寄生虫、媒介するサシチョウバエ、いくつもの原因となる動物の保有宿主などが関係する複雑な生態系の中で起こっているため、リーシュマニア症の感染予防および感染管理には、介入の戦略を組み合わせる必要があります。重要な戦略は以下の通りです。

  • 早期発見と効果的な患者管理は、疾患の有病率を低下させ、障害や死に至ることを防ぎます。患者の早期発見と迅速な治療は、感染伝播を低減し、疾患の拡大と監視し、疾患の脅威を抑えることに役立ちます。現在、特に、内臓リーシュマニア症に対して非常に有効かつ安全な抗リーシュマニア薬があります。これらの薬剤の入手環境は、WHOによる交渉価格制度と医薬品の無償提供への計画のおかげで、大きく向上してきています。
  • 媒介昆虫のコントロールには、サシチョウバエを駆除することが、疾患の感染伝播を減らし遮断することに役立ちます。駆除・防御の方法には、殺虫剤の噴霧、殺虫剤で処理された蚊帳の使用、環境管理、個人予防などがあります。
  • 効果的な疾患のサーベイランスは、常在する流行の状況と、治療において患者の死亡率の高い状況とを素早く監視し、行動を取る上で重要です。
  • 原虫を保有する宿主動物の管理は複雑で、地域の状況に合わせ調整しなければなりません。
  • 有効な行動変容への介入となる地域活動や地域教育などの社会的な地域活動員との関係強化は、常に地域に合わせたコミュニケーション戦略を用いなければなりません。さまざまな利害関係者やその他の媒介昆虫による疾患への管理の計画には、支援組織との協調した行動が重要です。

WHOの取り組み

WHOはリーシュマニアの感染管理のために、次のような対応に取り組んでいます。

  • 最新のガイドラインの普及、持続性があり効果的な調査体制と感染の流行への備えや対策への体制を整備した疾患制御計画の作成など、各国のリーシュマニア症に対する感染制御プログラムを制度的にも財政的にも支援する。
  • リーシュマニア症の動向を監視し、この疾患の感染への関心を高めるとともに、世界的な脅威を提唱し、医療サービスへの公平な利用環境を促進することで、感染制御への活動の影響を評価する。
  • リーシュマニア症の感染の予防および管理に関して根拠に基づいた政策の指針、戦略、基準を作成し、実施状況を監視する。
  • 支援組織や利害関係者、その他の団体との間で、連携及び協調活動を強化する。
  • 安全かつ有効で入手可能な薬剤、診断機器、ワクチンなどの分野から有効性のあるリーシュマニア症の感染管理に関する研究を推進する。

出典

WHO.Fact sheet, Media centre.Updated March2018
Leishmaniasis

http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs375/en/index.html