麻疹について(ファクトシート)

2018年1月:WHO(原文〔英語〕へのリンク

要点

  • 麻疹は安全かつ費用対効果の高いワクチンを使用できるにもかかわらず、小児での主な死因の1つです。
  • 2016年には、世界で89,780人が麻疹で死亡しました。この年は、年間の死亡者が10万人を下回った初めての年となりました。
  • 麻疹ワクチンによって、2000年から2016年までに、世界での麻疹による死亡者は84%減少しました。
  • 2016年には、世界の小児の約85%が1歳の誕生日までに定期予防接種として1回目の麻疹ワクチン接種を受けました。2000年での72%からの上昇でした。
  • 公衆衛生上、麻疹ワクチンは最も効果の高いものの1つであり、麻疹ワクチンの接種は、2000年から2016年までに、推定で2,040万人の死亡を防ぎました。

概要

麻疹はウイルス性疾患です。非常に感染伝播しやすく、重症化します。ワクチン接種が広く実施される1963年以前には、2-3年に一度は大流行が発生し、毎年推定で260万人もの患者が麻疹で死亡していました。

この疾患には、安全かつ有効なワクチンを使えるにもかかわらず、依然として世界の小児における大きな死亡原因の1つに留まっています。2016年には、推定で89,780人が麻疹で死亡しました。ほとんどが5歳未満の小児でした。

麻疹はパラミクソウイルス科のウイルスによる疾患で、通常、直接接触や空気を介して伝播します。麻疹ウイルスは気道に感染し、その後に身体全体に広がります。麻疹は人に感染する疾患で、他の動物に感染することは知られていません。

ワクチン接種の活動が加速され、麻疹による死亡者数の減少に大きな効果がありました。2000年から2016年までに、麻疹ワクチンの接種は死亡者を推定2,040万人も防ぎました。全世界での麻疹による死亡者数は、2000年の550,100人から84%減少し、2016年には89,780人になりました。

症状と所見

麻疹の最初の徴候は高熱で、通常、ウイルスに接触した後、10日から12日程で発症し、4日から7日間続きます。初期の段階で、鼻水、咳、結膜の発赤、涙目、頬部内側の白色斑(コプリック斑)がみられます。通常は数日後に、発疹が顔面と上頚部に出現します。発疹は3日間以上続いて拡大し、ときに手や足にも達します。発疹は5日から6日間続いた後に消退します。平均すると、ウイルスに接触した後14日(7日~18日)で発疹が出現します。

麻疹に関連する死亡原因のほとんどは、この疾患に関連した合併症によるものです。重篤な合併症は5歳未満の小児と、30歳を過ぎた成人に多くみられます。最も深刻な合併症は、失明、脳炎(脳浮腫を引き起こす感染)、重症の下痢症とそれに伴う脱水、耳への感染、肺炎などの重症呼吸器感染症です。麻疹の重症化は、貧しく栄養状態の悪い幼児、特にビタミンAの不足や、HIV/AIDSなどで免疫機能が低下した患者でよく起こるようです。

低栄養状態の割合が高く、特にビタミンAの欠乏症や適切な医療処置が受けられない環境に暮らす住民では、麻疹患者のうちの約3-6%が死亡します。移住を余儀なくされた人々では、死亡率が30%まで上がります。妊娠中に感染した場合には、重い合併症のリスクがあり、流産や早産が起こる可能性があります。麻疹に感染して回復した人には、生涯にわたり免疫が維持されます。

感染リスクの高い人

ワクチン未接種の幼児には、麻疹の感染と、合併症に大きなリスクがあり、死に至ることもあります。ワクチン接種歴のない妊婦にもリスクがあります。免疫のない如何なる人(ワクチン接種歴のない人またはワクチンを接種しても免疫ができなかった人)も感染する可能性があります。

麻疹は、多くの発展途上国、特にアフリカやアジアの一部で、いまでも頻繁にみられる疾患です。麻疹による死亡の大部分(95%以上)は国民1人あたりの所得が低く、公衆衛生の基盤が弱い国で発生しています。

麻疹の流行は、特に、自然災害や紛争が起きている国や、そこから復興する国で発生すると悲惨な状況となります。公衆衛生の基盤や保健サービスへの打撃は定期予防接種の中断を起こし、避難キャンプでの密集は感染リスクを増大させてしまいます。

感染経路

麻疹ウイルスは、非常に感染力が強く、咳、くしゃみ、濃厚接触、ウイルスを含んだ鼻咽頭の分泌物との直接接触で伝播します。

ウイルスは、浮遊中や物質の表面で最大2時間の活性があり、感染力を持ちます。感染者は発疹が出現する4日前から発疹が消退した4日後まで、感染力を持っています。

麻疹の感染発生は、たくさんの死亡者が出る、特に、若い栄養失調の子どもが死亡するような流行の原因となります。麻疹がほぼ排除された国でも、他国からの輸入感染者が重要な感染源となっています。

治療

麻疹ウイルスに特化した抗ウイルス薬による治療法はありません。

麻疹による重症合併症は、充分に栄養と水分を摂り、WHOの推奨する経口補液での脱水への治療で避けることができます。この補液は下痢や嘔吐で失った水分や他の必須元素を補うものです。抗生剤は、眼や耳の感染や肺炎の治療に対して必要に応じて処方されるべきものです。

麻疹と診断されたすべての小児は、24時間間隔で2回のビタミンAの投与を受けることが必要です。この治療は、たとえ栄養状態が良い小児でも麻疹感染の間にビタミンAが低下することから、これを補正し、眼の障害や失明を予防することを助けます。ビタミンAの補給は麻疹による死亡を50%減少させることが示されています。

予防

患者の発生率と死亡率の割合が高い国では、小児に対する麻疹ワクチンを集団予防接種キャンペーンと組み合わせて定期的に予防接種することが、麻疹による世界での死亡数を減らす公衆衛生戦略の鍵となっています。麻疹ワクチンは50年以上に亘って使用されてきました。安全かつ有効であり、そして安価です。一人の小児に麻疹ワクチンを接種する費用は約1米ドル(120円)です。

麻疹ワクチンは、風疹や流行性耳下腺炎の感染症が問題となっている国では、しばしば、これらのワクチンと一緒に接種されます。単独ワクチンでも混合ワクチンでも同等の効果が得られます。麻疹ワクチンに風疹ワクチンを追加すると、わずかなコストの追加で同時に接種でき、実施費用が一回分で済みます。

2016年には、世界の小児の約85%が、定期の保健サービスとして、1歳の誕生日までに1度目の麻疹ワクチンを接種しています。2000年には72%でした。1度目のワクチン接種では約15%の小児は免疫を獲得できないので、免疫を確実に獲得し、集団感染を予防するには2度目の接種が推奨されます。

WHOの取り組み

2010年に、WHO総会は将来の麻疹の撲滅に向けて2015年までに達成すべき3つの目標を立てました。

  • 初回の麻疹を含むワクチン(MCV1)の定期予防接種における接種率を、全国で90%以上かつ全ての地域で80%以上に上げること
  • 年間の麻疹発生率を100万人あたり5人未満に減らし維持すること
  • 2000年の推定値から麻疹の推定死亡率を95%以上減らすこと

2012年に、世界保健総会は、2015年までにWHOが管轄する4つの地域で、2020年までに5つの地域で、麻疹の撲滅を目的とする世界ワクチン行動計画を採択しました。

2016年までに、ワクチン接種率の向上への世界的な押し上げで、死亡者を84%低下させることができました。2000年から2016年までの間に、麻疹・風疹イニシアチブと予防接種のための世界同盟の支援(GAVI)の支援を受けて、麻疹のワクチン接種で約2,040万人の死亡を防ぎました。2016年には、31か国で約1億1,900万人の子どもたちが、集団ワクチン接種キャンペーン中に麻疹ワクチンの接種を受けました。現在、WHOの管轄するすべての地域が、この予防可能な致死的疾患を2020年までに撲滅するという目標を定めています。

麻疹・風疹イニシアチブ(The Measles & Rubella Initiative)

2001年に発足した麻疹・風疹イニシアチブ(M&R Initiative)は、アメリカ赤十字、国連基金、米国疾病予防管理センター(CDC)、国連児童基金(UNICEF)、WHOによる世界規模の共同団体です。麻疹・風疹イニシアチブは、麻疹で死亡したり、先天性風疹症候群で生まれたりする子どもを確実になくすこと、2015年までに麻疹による死亡を95%減らすこと、2020年までに少なくともWHOの5つの地域で麻疹と風疹の撲滅を達成すること、を公約としています。

世界麻疹風疹排除対策戦略計画2012-2020

2012年に、麻疹・風疹イニシアチブは、2012年から2020年に実施する新たな麻疹と風疹の世界的戦略計画を開始しました(Global Measles and Rubella Strategic Plan 2012-2020)。この計画では、2015年から2020年の間に麻疹と風疹の感染制御と撲滅の目標を達成するために、国内及び国際的な支援者と協力して、国としての予防接種管理のための明確な戦略が立てられています。

2015年末までに

  • 2000年のレベルと比較して、世界の麻疹による死亡者を少なくとも95%減少すること
  • (管轄)地域における麻疹・風疹および先天性風疹症候群(CRS)の撲滅目標を達成すること

2020年末までに

  • 少なくともWHOの管轄する5つの地域で麻疹と風疹の撲滅を達成すること

現在の麻疹のワクチン予防接種率および発生率の傾向、並びに中期戦略の再検討からの報告に基づき、WHOの予防接種専門家グループ(SAGE)は、世界でワクチン接種率の解離が続いていることから、世界での2015年のマイル・ストーン(重要事項)と麻疹撲滅の目標は達成されなかったと結論付けました。SAGEは、これまでに麻疹の感染管理で得られてきたものを確実に維持するために、全体的に予防接種の向上と調査体制の改善に重点を置くことを促しています。

WHOは、対象者へのワクチンの接種活動のさらに協調した取り組みを可能することで、そして、このワクチンで予防可能な病気である麻疹による死亡を減らし、麻疹を速やかに確実に診断するとともに麻疹ウイルスの国際的な拡がりを追跡するために、世界的な検査ネットワークを引き続き強化していきます。

出典

WHO. Fact sheet, Media centre. Reviewed January 2018 Measles.

http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs286/en/