麻しんについて(ファクトシート)

2019年5月9日 WHO(原文[英語]へのリンク

要 点

・麻しんは安全かつ費用対効果の高いワクチンを使用できるにもかかわらず、2017年には世界で11万人が麻しんにより死亡しており、そのほとんどが5歳未満の小児です。
・麻しんワクチンによって、2000年から2017年までに、世界での麻しんによる死亡者は80%減少しました。
・2017年には、世界の小児の約85%が1歳の誕生日までに定期予防接種として1回目の麻しんワクチン接種を受けました。2000年での72%からの上昇でした。
・公衆衛生上、麻しんワクチンは最も効果の高いものの1つであり、麻しんワクチンの接種は、2000年から2017年までに、推定で2,110万人の死亡を防ぎました。

概 要

麻しんはウイルスによって引き起こされ、非常に感染伝播しやすく、重症化する疾患です。ワクチン接種が導入され広く実施される1963年以前には、2-3年に一度は大流行が発生し、毎年推定で260万人もの患者が麻しんで死亡していました。

安全かつ有効なワクチンを使えるにもかかわらず、2017年には、推定で11万人が麻しんで死亡しました。ほとんどが5歳未満の小児でした。

麻しんはパラミクソウイルス科のウイルスによる疾患で、通常、直接接触や空気を介して伝播します。麻しんウイルスは気道に感染し、その後に身体全体に広がります。麻しんは人の疾患で、他の動物での発生は知られていません。

ワクチン接種の活動が加速され、麻しんによる死亡者数の減少に大きな効果がありました。2000年から2017年までに、麻しんワクチンの接種は死亡者を推定2,110万人も防ぎました。全世界での麻しんによる死亡者数は、2000年の545,000人から80%減少し、2017年には110,000人になりました。


症状と所見

麻しんの最初の徴候は通常、高熱で、ウイルスに接触した後、10日から12日程で発症し、4日から7日間続きます。初期の段階で、鼻水、咳、結膜の発赤、涙目、頬部内側の小さな白色斑がみられます。数日後に、発疹が通常は顔面と上頚部に出現します。発疹は3日間以上続いて拡大し、ときに手や足にも達します。発疹は5日から6日間続いた後に消退します。平均すると、ウイルスに接触した後14日(7日~18日)で発疹が出現します。

麻しんに関連する死亡原因のほとんどは、この疾患に関連した合併症によるものです。重篤な合併症は5歳未満の小児と、30歳を過ぎた成人に多くみられます。最も深刻な合併症は、失明、脳炎(脳浮腫を引き起こす感染)、重症の下痢症とそれに伴う脱水、耳への感染、肺炎などの重症呼吸器感染症です。麻しんの重症化は、貧しく栄養状態の悪い幼児、特にビタミンAの不足や、HIV/AIDSなどで免疫機能が低下した患者でよく起こるようです。

感染リスクの高い人

ワクチン未接種の幼児には、麻しんの感染と、合併症に大きなリスクがあり、死に至ることもあります。ワクチン接種歴のない妊婦にもリスクがあります。免疫のない如何なる人(ワクチン接種歴のない人またはワクチンを接種しても免疫ができなかった人)も感染する可能性があります。

麻しんは、多くの発展途上国、特にアフリカやアジアの一部で、いまでも頻繁にみられる疾患です。麻しんによる死亡の大部分(95%以上)は国民1人あたりの所得が低く、公衆衛生の基盤が弱い国で発生しています。

麻しんの流行は、特に、自然災害や紛争が起きている国や、そこから復興する国で発生すると悲惨な状況となります。公衆衛生の基盤や保健サービスへの打撃は定期予防接種の中断を起こし、避難キャンプでの密集は感染リスクを増大させてしまいます。

感染経路

麻しんウイルスは、世界で最も感染力の強い疾患の一つであり、咳、くしゃみ、濃厚接触、ウイルスを含んだ鼻咽頭の分泌物との直接接触で伝播します。

ウイルスは、浮遊中や物質の表面で最大2時間の活性があり、感染力を持ちます。感染者は発疹が出現する4日前から発疹が消退した4日後まで、感染力を持っています。

麻しんの感染発生は、たくさんの死亡者が出る、特に、若い栄養失調の子どもが死亡するような流行の原因となります。麻しんがほぼ排除された国でも、他国からの輸入感染者が重要な感染源となっています。


治 療

麻しんウイルスに特化した抗ウイルス薬による治療法はありません。

麻しんによる重症合併症は、充分に栄養と水分を摂り、WHOの推奨する経口補液での脱水への治療を確実に行う支持療法で避けることができます。この補液は下痢や嘔吐で失った水分や他の必須元素を補うものです。抗生剤は、眼や耳の感染や肺炎の治療に対して処方されるべきものです。

麻しんと診断されたすべての小児は、24時間間隔で2回のビタミンAの投与を受けることが必要です。この治療は、たとえ栄養状態が良い小児でも麻しん感染の間にビタミンAが低下することから、これを補正し、眼の障害や失明を予防することを助けます。ビタミンAの補給は麻しんによる死亡を減少させることが示されています。


予 防

患者の発生率と死亡率の割合が高い国においては、小児に対する麻しんワクチンを集団予防接種キャンペーンと組み合わせて定期的に予防接種することが、世界の麻しんによる死亡数を減らす公衆衛生戦略の鍵となっています。麻しんワクチンは50年以上にわたって使用されてきました。安全かつ有効であり、そして安価です。一人の小児に麻しんワクチンを接種する費用は約1米ドルです。

麻しんワクチンは、しばしば、風しんや流行性耳下腺炎のワクチンと一緒に接種されます。単独ワクチンでも混合ワクチンでも同じく安全で有効です。麻しんワクチンに風しんワクチンを追加するコストの増加はわずかであり、配送と実施の費用をまとめることができます。

2017年には、世界の小児の約85%が、定期の保健サービスとして、1歳の誕生日までに1度目の麻しんワクチンを接種しています。2000年には72%でした。1度目のワクチン接種では約15%の小児は免疫を獲得できないので、免疫を確実に獲得し、流行を予防するには2度目の接種が推奨されます。2017年には、67%の小児が麻しんワクチンの2回目の接種を受けました。

 2017年に麻しんワクチンの定期予防接種において少なくとも1回の接種を受けていない、推定で2,080万人の乳児のうち、約810万人はインド、ナイジェリア及びパキスタンの3ヶ国でした。

WHOの取り組み

2010年に、WHO総会は将来の麻しんの撲滅に向けて2015年までに達成すべき3つの目標を立てました。
・初回の麻しんを含むワクチン(MCV1)の定期予防接種における接種率を、全国で90%以上かつ全ての地域で80%以上に上げること
・年間の麻しん発生率を100万人あたり5人未満に減らし維持すること
・2000年の推定値から麻しんの推定死亡率を95%以上減らすこと

2012年に、世界保健総会は、2015年までにWHOが管轄する4つの地域で、2020年までに5つの地域で、麻しんの撲滅を目的とする世界ワクチン行動計画を採択しました。

2017年までに、ワクチン接種率の向上への世界的な押し上げで、死亡者を80%低下させることができました。2000年から2017年までの間に、麻しん・風しんイニシアチブと予防接種のための世界同盟の支援(GAVI)の支援を受けて、麻しんのワクチン接種で約2,110万人の死亡を防ぎました。防いだ死亡のほとんどは、アフリカ地域とGAVIによる支援を受けた国々でした。

しかしながら、持続して注意が払われなければ、激戦の末に得られた成果は容易に失われます。小児が予防接種を受けない地域では、流行が発生します。国内あるいは一部の地域における低い予防接種率のために、2017年、複数の地域が大規模な、多くの死亡を引き起こすような麻しんの流行に襲われました。現在の麻しんのワクチン予防接種率および発生率の傾向に基づき、WHOの予防接種専門家グループ(SAGE)は、麻しん排除は非常に危ぶまれる状況にあり、麻しんはすでに麻しん排除を達成したないしほぼ達成に近づいている多くの国において再興してきましたことを断定しています。

WHOは、対象者へのワクチンの接種活動のさらに協調した取り組みを可能とし、ワクチンで予防可能な病気である麻しんによる死亡を減らすために、麻しんを速やかに確実に診断し、麻しんウイルスの国際的な拡がりを追跡するための世界的な検査ネットワークを引き続き強化していきます。


麻しん・風しんイニシアチブ(The Measles & Rubella Initiative)

2001年に発足した麻しん・風しんイニシアチブ(M&R Initiative)は、アメリカ赤十字、国連基金、米国疾病予防管理センター(CDC)、国連児童基金(UNICEF)及びWHOによる世界規模の共同団体です。麻しん・風しんイニシアチブは、麻しんで死亡したり、先天性風しん症候群で生まれたりする子どもを確実になくすことを公約としています。私たちはこれからも引き続き、麻しんと風しんの撲滅のための、計画、資金及び評価に係る支援を各国に対して行っていきます。

出典