ジカウイルス感染症について(ファクトシート)

2018年7月20日 WHO(原文[英語]へのリンク

要 点

・ジカウイルス感染症は、主に、日中刺咬する、ヤブカ属の蚊によって媒介されるウイルスを原因として引き起こされます。
・症状は、一般的に軽度であり、発熱、皮疹、結膜炎、筋肉痛や関節痛、倦怠感、頭痛などです。典型的には、これらの症状は2-7日間続きます。ジカウイルスの感染者のほとんどは症状を呈しません。
・妊娠中のジカウイルス感染は、生まれてくる乳児に小頭症およびその他の先天異常を引き起こし、先天性ジカウイルス感染症として知られています。ジカウイルス感染はまた、早産や流産を含む他の妊娠中の合併症にも関連しています。
・ギラン・バレー症候群、脊髄症及び脊髄炎を含む神経学的な合併症のリスクの増加は、大人と子どもにおけるジカウイルス感染に関連しています。

ジカウイルスは、蚊によって媒介されるフラビウイルスで、最初は1947年にウガンダで、サルから発見されました。その後、1952年にウガンダとタンザニア連合共和国でヒトからも発見されました。

ジカウイルス感染症の流行は、アフリカ、南北アメリカ大陸、アジア及び大洋州で記録されています。1960年代から1980年代にかけて、人での感染は、稀で散発的な事例が、通常、軽度の症状を伴いながら、アフリカやアジアで確認されました。

ジカウイルス感染症が起こした最初の流行は、2007年にヤップ島(ミクロネシア連邦)から報告されました。その後、ジカウイルス感染症の大流行は、2013年にフランス領ポリネシアで発生し、大洋州の他の国や地域で発生しました。2015年3月に、ブラジルから、皮疹の大規模な流行が報告され、その後ジカウイルス感染と同定され、2015年7月にギラン・バレー症候群との関連が報告されました。

2015年10月には、ブラジルでジカウイルス感染と小頭症との関連が報告されました。流行と感染のエビデンスはその後、南北アメリカ大陸、アフリカその他の地域で明らかとなりました。現在までに合計86の国と地域で蚊の媒介によるジカウイルス感染が報告されています。

症状と症候

ジカウイルス感染症の潜伏期間(接触から発症までの時間)は3-14日間と推定されています。ジカウイルスの感染者の多くは症状を呈しません。症状は一般的に軽症であり、発熱、発疹、結膜炎、筋肉痛や関節痛、倦怠感、頭痛などが含まれ、通常、2-7日で治まります。

合併症

妊娠中のジカウイルス感染は、小頭症やその他の胎児期及び新生児期の先天異常を引き起こします。妊娠中のジカウイルス感染はまた、胎児死亡、死産及び早産などの合併症をもたらします。

ジカウイルス感染は、成人や高年の小児において、ギラン・バレー症候群、脊髄症及び脊髄炎の原因にもなります。

ジカウイルス感染が妊娠の結果に及ぼす影響、予防と管理の戦略、その他の小児及び成人に発症する神経学的障害に関する調査が進行中です。


感染経路

ジカウイルスは、ネッタイシマカを主とした熱帯・亜熱帯地域に生息するヤブカ属の感染蚊に刺されることで人に伝播します。ヤブカ属の蚊は、通常、日中に刺し、早朝と夕方/夜に(活動が)ピークに達します。媒介する蚊は、デング熱、チクングニヤ熱、黄熱を伝播する蚊と同じです。

ジカウイルスはまた、妊娠中に母体から胎児に感染し、さらに性交渉、輸血や血液製剤、臓器移植などを通じて感染します。

診 断

ジカウイルス感染は、症状と最近の生活状況(例、ジカウイルスが現在感染伝播し、あるいはヤブカ属ベクター蚊が生育している地域での居住や地域への渡航)によって疑われます。ジカウイルス感染の診断は、血液または尿、精液などの体液の検査によってのみ確定することができます。

治 療

ジカウイルス感染症またはこれに関連する疾患に対して実施可能な治療はありません。

ジカウイルス感染症の症状は通常は軽症です。発熱や皮疹または関節痛の症状を呈する場合は、十分な休養と、十分な水分を取り、痛みと発熱には一般の薬剤を使って対処します。症状が悪化したときには、医療機関を受診し指示を受ける必要があります。

ジカウイルス感染が起きている地域に居住し、またはジカウイルス感染の症状を呈している妊婦は、検査と治療のために医療施設を受診する必要があります。

予 防

蚊の刺咬

日中と夕方の蚊の刺咬からの防御は、ジカウイルス感染症予防の鍵となります。妊娠中の女性や、妊娠可能年齢の女性、若齢の小児においては、蚊の刺咬に対する予防について、特別の注意が払われなければなりません。

個人の防御手段には、できるだけ体の多くの部分を覆う(できれば明るい色の)服を着ること、網戸の使用や、ドアや窓を閉めるなどの物理的障壁を用いること、ディート(DEET)、IR3535、icaridin(イカリジン)などを含有する虫よけ剤を使用上の注意に従って使用することなどがあります。

若齢の子供や妊婦は、日中や夕方に睡眠をとる場合は、蚊帳の中に入る必要があります。旅行者も感染が発生する地域に住む人々も、蚊の刺咬から自身の身を守るために、これらの基本的な予防対策を行う必要があります。

ヤブカ属は、家庭や学校、職場の周りの小さな水たまりで繁殖します。貯水槽に蓋をし、植木鉢に残った水を捨て、ゴミ箱や使用済みタイヤなどをきれいにしておくことなどによって、これらの蚊の繁殖場所をなくすことが重要です。地域のイニシアティブが、地方自治体と公衆衛生プログラムを支援することは、蚊の繁殖場所を減少させるためには不可欠です。また、保健当局は、蚊の集団を減らし、疾患の広がりを抑えるために殺虫剤を散布することも勧められます。

ジカウイルス感染に対する予防や治療のための利用可能なワクチンはありません。ジカウイルスワクチン開発はまだ研究段階です。


妊娠を通じた感染

ジカウイルスは母体から胎児に妊娠中に感染することがあり、小頭症(頭部の正常な大きさよりも小さい)やその他の先天奇形を乳児に引き起こします。これらは総称して先天性ジカウイルス感染症と称されます。

小頭症は、脳の発達異常または脳組織の欠如により引き起こされます。脳障害の程度によって、子どもに現れる影響は異なります。

先天的ジカウイルス感染症は、四肢の拘縮、筋緊張の亢進、眼部の異常、聴覚欠損などの異常を含みます。妊娠中の感染による先天異常のリスクは分かっていません。妊娠中にジカウイルスに感染した女性の小児のうち、推定5-15%の小児にジカ関連合併症が認められています。先天奇形は、有症候性、無症候性のいずれでも発生します。


性交渉に伴う感染

ジカウイルスは性行為を介しても感染伝播します。これは、ジカウイルス感染および妊婦と胎児に対する有害な事象の間の関連性への懸念を示します。

ジカウイルスが活発に伝播している地域では、ジカウイルスに感染した全ての人とその性交渉パートナー(特に、妊娠女性)は、性交渉によるジカウイルスの感染経路についての情報を得ておくべきです。

WHOは、ジカウイルスの感染伝播が活発な地域では、妊婦と胎児に対する有害な事象が起こる可能性を回避するために、妊娠の有無やいつ妊娠したかについての情報の判別ができるように、性的に活動性の高い男女は全ての避妊の方法について、正確に指導を受け、情報の提供を受けることを勧めています。

ジカウイルスへの感染の懸念がありながらも、安全でない性交渉を行い、妊娠を希望していない女性は、直ちに、緊急避妊サービスや医療相談を受ける環境を整えるべきです。妊娠女性は、妊娠全期間を通して、少なくとも(コンドームの一貫した正しい使用を含め)安全性の高い性生活を行うか、性交渉を控えるかをするべきです。

WHOは、ジカウイルスが感染伝播していない地域でも、感染伝播が活発な地域から戻ってきた男性は6か月間、女性は2か月間、性交渉によるジカウイルスの感染を防ぐために、性生活を控えるか、より安全な性生活を送ることを勧めています。地域の中でジカウイルスの伝播が発生している地域に住んでいる、又は、(そこから)戻ってきた妊娠女性の性交渉パートナーは、妊娠全期間を通じて、安全性の高い性生活を行うか、性交渉を控えるかをするべきです。

WHOの取り組み

WHOは、次のようなジカに対する戦略的対応のための枠組みにおける活動を行い、ジカウイルス感染症の制御を実施している国々を支援しています。

・ジカウイルス感染と関連合併症の予防、サーベイランス及び管理に関する研究を促進すること
・ジカウイルス感染と関連合併症の統合サーベイランスシステムを構築し、強化し、発展させること
・世界全体のジカウイルス感染に関する試験について、検査室の能力を強化すること
・ヤブカ属の蚊を減少させるためのベクター管理戦略を適用し監視するための世界的な取り組みを支援すること
・ジカ感染の合併症によって影響を受けた子供と家族に対するケアと支援を強化すること

出典