中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)について(ファクトシート)
2019年3月11日 WHO(原文[英語]へのリンク)
要点
・中東呼吸器症候群(MERS)は、2012年にサウジアラビアで初めて発見された新しいコロナウイルス(MERS‐CoV)によって起こるウイルス性呼吸器疾患です。
・コロナウイルスはウイルスの中でも大きな科で、感冒から重症急性呼吸器症候群(SARS)まで幅広い疾患を起こすものがあります。
・典型的なMERSの症状は、発熱、咳、息切れ(呼吸困難)です。肺炎は一般的な症状ですが、必ず起こるとは限りません。下痢などの消化器症状も報告されています。MERS-CoVへの感染が検査で確認された患者のいくつかは、無症状であることが報告されています。これは、臨床検査でMERS-CoVに対して陽性であっても、臨床症状を示さないことを意味します。このような無症状の感染者のほとんどは、検査で確認された患者から積極的に接触者を追跡することで発見されています。
・報告されたMERS-CoV患者の致死率は約35%です。
・ヒトのMERS-CoV感染例の大半は医療施設での人から人への感染ですが、現在の科学的根拠からは、ヒトコブラクダがMERS-CoVの重要な保有宿主であり、人にMERS(ウイルス)が感染する場合に動物での感染源であることが示唆されています。しかし、ウイルスの伝播において、ヒトコブラクダが果たしている正確な役割や正確な感染経路は解明されていません。
・患者との濃厚接触、例えば防護対策を採らずに治療に当たるようなことがなければ、このウイルスは人から人へ簡単に感染するとはみられていません。サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、韓国など、医療施設が関係する最大級の集団感染がいくつもの国でみられ、流行が発生しました。
・コロナウイルスはウイルスの中でも大きな科で、感冒から重症急性呼吸器症候群(SARS)まで幅広い疾患を起こすものがあります。
・典型的なMERSの症状は、発熱、咳、息切れ(呼吸困難)です。肺炎は一般的な症状ですが、必ず起こるとは限りません。下痢などの消化器症状も報告されています。MERS-CoVへの感染が検査で確認された患者のいくつかは、無症状であることが報告されています。これは、臨床検査でMERS-CoVに対して陽性であっても、臨床症状を示さないことを意味します。このような無症状の感染者のほとんどは、検査で確認された患者から積極的に接触者を追跡することで発見されています。
・報告されたMERS-CoV患者の致死率は約35%です。
・ヒトのMERS-CoV感染例の大半は医療施設での人から人への感染ですが、現在の科学的根拠からは、ヒトコブラクダがMERS-CoVの重要な保有宿主であり、人にMERS(ウイルス)が感染する場合に動物での感染源であることが示唆されています。しかし、ウイルスの伝播において、ヒトコブラクダが果たしている正確な役割や正確な感染経路は解明されていません。
・患者との濃厚接触、例えば防護対策を採らずに治療に当たるようなことがなければ、このウイルスは人から人へ簡単に感染するとはみられていません。サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、韓国など、医療施設が関係する最大級の集団感染がいくつもの国でみられ、流行が発生しました。
症状
MERS-CoV感染の臨床症状は、無症状や軽度の呼吸器症状から重症の急性呼吸器疾患や死に至るまで多岐にわたります。MERS-CoV疾患の典型的な症状は、発熱、咳、息切れです。肺炎は一般的な症状ですが、症状が必ず起こるとは限りません。下痢などの消化器症状も報告されています。重症の病態では、人工呼吸器や集中治療室での治療を必要とする呼吸不全が起こることがあります。このウイルスは、高齢者、免疫力の低下した人、腎臓病、癌、慢性肺疾患や糖尿病といった慢性疾患がある人に、より重篤な病態を起こすようです。
MERS患者のうち、約35%が死亡しています。しかし、これは実際の致死率より大きく見積もっているかもしれません。なぜなら、軽症のMERS患者は、既存の調査体制では、この病気と分かるまでの多く(の患者)が見過ごされており、この致死率は検査で確定診断された患者だけで計算されているからです。
MERS患者のうち、約35%が死亡しています。しかし、これは実際の致死率より大きく見積もっているかもしれません。なぜなら、軽症のMERS患者は、既存の調査体制では、この病気と分かるまでの多く(の患者)が見過ごされており、この致死率は検査で確定診断された患者だけで計算されているからです。
ウイルスの起源
MERS-CoVは動物から人に感染する人獣共通の感染性ウイルスです。ウイルスの起源は十分には解かっていません。研究では、感染したヒトコブラクダとの直接または間接の接触機会によって、人は感染していることが分かっています。MERS-CoVは、中東、アフリカ、南アジアなど、いくつもの国のヒトコブラクダから発見されています。
しかし、このウイルスの起源は十分に解明されてはおらず、ウイルスゲノムの違いの解析からは、起源はコウモリにあり、遠い過去のある時にラクダに伝播したと考えられています。
しかし、このウイルスの起源は十分に解明されてはおらず、ウイルスゲノムの違いの解析からは、起源はコウモリにあり、遠い過去のある時にラクダに伝播したと考えられています。
感染経路
人以外から人への感染:
動物から人への感染経路は十分に解かっていません。しかし、ヒトコブラクダがMERS-CoVの主要な保有宿主で、人へのMERS-CoV感染症の動物感染源となっています。人から同定されたウイルスと同じ遺伝子配列をもつMERS-CoVが、エジプト、オマーン、カタール、サウジアラビア等、いくつもの国のヒトコブラクダから分離されています。
人から人への感染:
感染者に対し防護策を行わずに治療に当たるような濃厚な患者との接触がなければ、ウイルスは人から人に簡単に伝播するとはみられていません。人から人への伝播が発生しそうな医療施設、特に、感染の予防や管理への対策が十分でなく不適切(に対処している)医療施設で、患者が集団発生しています。人から人への感染伝播は、家族、患者、医療従事者などとの間で認められたものの、これまでのところ限定されています。MERS-CoV患者の大半は医療施設内から発生していますが、一方、人から人への持続的な感染は世界のどこからも報告されていません。
2012年以降、MERS症例は、アルジェリア、オーストリア、バーレーン、中国、エジプト、フランス、ドイツ、ギリシャ、イラン、イタリア、ヨルダン、クウェート、レバノン、マレーシア、オランダ、オマーン、フィリピン、カタール、韓国、サウジアラビア、タイ、チュニジア、トルコ、アラブ首長国連邦、英国、米国、イエメンなど、27か国から報告されています。
患者の約80%はサウジアラビアから報告されてきました。私たちの分かっていることは、感染したヒトコブラクダ、又は、感染した人と防護なしに接触すれば、人はそこで感染するということです。中東以外で発見された患者は、大抵の場合、中東で感染し、その後、中東以外の地域に移動した旅行者です。稀に、中東以外の地域でも集団感染が発生しています。
動物から人への感染経路は十分に解かっていません。しかし、ヒトコブラクダがMERS-CoVの主要な保有宿主で、人へのMERS-CoV感染症の動物感染源となっています。人から同定されたウイルスと同じ遺伝子配列をもつMERS-CoVが、エジプト、オマーン、カタール、サウジアラビア等、いくつもの国のヒトコブラクダから分離されています。
人から人への感染:
感染者に対し防護策を行わずに治療に当たるような濃厚な患者との接触がなければ、ウイルスは人から人に簡単に伝播するとはみられていません。人から人への伝播が発生しそうな医療施設、特に、感染の予防や管理への対策が十分でなく不適切(に対処している)医療施設で、患者が集団発生しています。人から人への感染伝播は、家族、患者、医療従事者などとの間で認められたものの、これまでのところ限定されています。MERS-CoV患者の大半は医療施設内から発生していますが、一方、人から人への持続的な感染は世界のどこからも報告されていません。
2012年以降、MERS症例は、アルジェリア、オーストリア、バーレーン、中国、エジプト、フランス、ドイツ、ギリシャ、イラン、イタリア、ヨルダン、クウェート、レバノン、マレーシア、オランダ、オマーン、フィリピン、カタール、韓国、サウジアラビア、タイ、チュニジア、トルコ、アラブ首長国連邦、英国、米国、イエメンなど、27か国から報告されています。
患者の約80%はサウジアラビアから報告されてきました。私たちの分かっていることは、感染したヒトコブラクダ、又は、感染した人と防護なしに接触すれば、人はそこで感染するということです。中東以外で発見された患者は、大抵の場合、中東で感染し、その後、中東以外の地域に移動した旅行者です。稀に、中東以外の地域でも集団感染が発生しています。
予防と治療
現在、ワクチンや特別な治療法はありません。しかしながら、いくつかのMERS-CoVに特異的なワクチンや治療法が開発中です。治療は患者の臨床状態に基づいて支持療法で行われます。
一般的な予防対策として、ヒトコブラクダやその他にも動物がいる農場、市場、家畜小屋、その他(関係する)場所を訪れる人は誰もが、動物との接触の前後に手洗いを含む規則正しい一般衛生対策を実行するべきであり、病気の動物との接触は避けるべきです。
生や加熱が不十分な(ラクダの)ミルクや肉類などの動物製品の摂取は、さまざまな臓器から人が病気を発症し得るリスクを高めてしまいます。調理や殺菌を行い適切に処理された動物製品を接種することは安全ですが、未調理の食品との接触汚染を避けるために、注意して取り扱うことが必要です。ラクダの肉やミルクは、殺菌、調理、その他の熱処理をすれば摂取することができる栄養価の高い食品です。
MERS-CoVに関して解明が進むまでは、糖尿病、腎不全、慢性肺疾患、免疫不全のある人は、MERS‐CoV感染で重篤化するリスクが高いと考える必要があります。これらの人々はラクダとの接触、ラクダの生乳やラクダの尿を飲んだり、適切に調理されていない肉を食べたりすることを避ける必要があります。
一般的な予防対策として、ヒトコブラクダやその他にも動物がいる農場、市場、家畜小屋、その他(関係する)場所を訪れる人は誰もが、動物との接触の前後に手洗いを含む規則正しい一般衛生対策を実行するべきであり、病気の動物との接触は避けるべきです。
生や加熱が不十分な(ラクダの)ミルクや肉類などの動物製品の摂取は、さまざまな臓器から人が病気を発症し得るリスクを高めてしまいます。調理や殺菌を行い適切に処理された動物製品を接種することは安全ですが、未調理の食品との接触汚染を避けるために、注意して取り扱うことが必要です。ラクダの肉やミルクは、殺菌、調理、その他の熱処理をすれば摂取することができる栄養価の高い食品です。
MERS-CoVに関して解明が進むまでは、糖尿病、腎不全、慢性肺疾患、免疫不全のある人は、MERS‐CoV感染で重篤化するリスクが高いと考える必要があります。これらの人々はラクダとの接触、ラクダの生乳やラクダの尿を飲んだり、適切に調理されていない肉を食べたりすることを避ける必要があります。
医療施設
いくつもの国において、MERS‐CoVが診断される前の医療施設内で、患者から医療従事者へ、また、患者から患者へのウイルス感染が発生しています。症状やその他臨床的な特徴が特異的ではないために、いつでも早い時期に、また、検査なしにMERS‐CoV患者を発見できるとは限りません。
感染の予防と管理への対策は、医療施設でMERS‐CoVが広がる可能性を防ぐことにおいて重要です。MERS‐CoV感染の疑いのある患者や確定患者に治療を行う施設は、感染患者から、他の患者、医療従事者および来院者に、ウイルスが感染伝播するリスクを下げる適切な対策を取る必要があります。医療従事者は、感染の予防と管理に対する研修と訓練を受け、これらのスキルを定期的に更新していくことが必要です。
感染の予防と管理への対策は、医療施設でMERS‐CoVが広がる可能性を防ぐことにおいて重要です。MERS‐CoV感染の疑いのある患者や確定患者に治療を行う施設は、感染患者から、他の患者、医療従事者および来院者に、ウイルスが感染伝播するリスクを下げる適切な対策を取る必要があります。医療従事者は、感染の予防と管理に対する研修と訓練を受け、これらのスキルを定期的に更新していくことが必要です。
旅行
WHOは、MERS-CoVに対して、渡航や貿易の制限および入国スクリーニング検査の適用を勧めてはいません。
WHOの取り組み
WHOは、公衆衛生の専門家、動物衛生の専門家、臨床医や科学者と協力しながら、このウイルスと(ウイルスが起こす)疾患をより詳しく理解するための科学的なエビデンスを感染が発生した国と国際的に収集して共有し、流行対策の優先順位、治療戦略や臨床の管理方法を決定することに取り組んでいます。またWHOは、国連食糧農業機関(FAO)、国際獣疫事務局(OIE)及び各国とも協力して、このウイルスと戦う公衆衛生上の予防戦略を策定することに取り組んでいます。
感染が発生した国や国際的な技術協力者、並びにネットワークとともに、WHOは、以下のようなMERSに対する世界的な公衆衛生対策を主導しています。
・発生状況に対する最新情報の提供
・リスク評価や各国当局との共同調査の実施
・科学会議の招集
・暫定的サーベイランスの推奨、患者の生化学検査、感染の予防と制御の対策、および患者管理に関する保健当局や保健行政の技術機関のためのガイダンスと指導書の作成
WHO事務局長は、国際保健規則(2005)の下で、この事象が国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)に該当することの是非および行動すべき公衆衛生対策に関して、事務局長に助言を行う緊急委員会を招集しました。委員会は、この疾患が最初に確認されてから何度も開かれてきました。WHOは、重症急性呼吸器感染症(SARI)のサーベイランスを強化し、異常なパターンのSARIや肺炎症例を注意深く検討することを、すべての加盟国に要請しています。
MERS症例が報告されているかどうかにかかわらず、各国は、特に中東からの多くの旅行者や出稼ぎ労働者に対して、厳重な警戒体制を維持する必要があります。サーベイランスについては、WHOのガイドラインに則り、医療施設における感染の予防と制御の対策に沿って、各国が引き続き強化していく必要があります。WHOは、最も効果的に国際的な対策を実施し、対策の情報を提供するために、ウイルスとの接触機会、検査、臨床経過の情報を含め、すべてのMERS-CoV感染の確定症例と疑い症例に関して、WHOに報告することを加盟国に引き続き要請しています。
感染が発生した国や国際的な技術協力者、並びにネットワークとともに、WHOは、以下のようなMERSに対する世界的な公衆衛生対策を主導しています。
・発生状況に対する最新情報の提供
・リスク評価や各国当局との共同調査の実施
・科学会議の招集
・暫定的サーベイランスの推奨、患者の生化学検査、感染の予防と制御の対策、および患者管理に関する保健当局や保健行政の技術機関のためのガイダンスと指導書の作成
WHO事務局長は、国際保健規則(2005)の下で、この事象が国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)に該当することの是非および行動すべき公衆衛生対策に関して、事務局長に助言を行う緊急委員会を招集しました。委員会は、この疾患が最初に確認されてから何度も開かれてきました。WHOは、重症急性呼吸器感染症(SARI)のサーベイランスを強化し、異常なパターンのSARIや肺炎症例を注意深く検討することを、すべての加盟国に要請しています。
MERS症例が報告されているかどうかにかかわらず、各国は、特に中東からの多くの旅行者や出稼ぎ労働者に対して、厳重な警戒体制を維持する必要があります。サーベイランスについては、WHOのガイドラインに則り、医療施設における感染の予防と制御の対策に沿って、各国が引き続き強化していく必要があります。WHOは、最も効果的に国際的な対策を実施し、対策の情報を提供するために、ウイルスとの接触機会、検査、臨床経過の情報を含め、すべてのMERS-CoV感染の確定症例と疑い症例に関して、WHOに報告することを加盟国に引き続き要請しています。
出典
WHO.Fact sheet,11 March 2019.
Middle East respiratory syndrome coronavirus(MERS-CoV)
https://www.who.int/en/news-room/fact-sheets/detail/middle-east-respiratory-syndrome-coronavirus-(mers-cov)
Middle East respiratory syndrome coronavirus(MERS-CoV)
https://www.who.int/en/news-room/fact-sheets/detail/middle-east-respiratory-syndrome-coronavirus-(mers-cov)