デング熱と重症型のデング熱について (ファクトシート)

2019年4月15日 WHO(原文〔英語〕へのリンク

要点

・デング熱は蚊が媒介するウイルス感染症です。
・感染によりインフルエンザ様の症状が出ます。また、時には、重症型のデング熱と呼ばれる、死に至ることのある合併症を引き起こします。
・世界的なデング熱の発生率は、ここ数十年で飛躍的に高まっています。現在、全世界の人口の約半数が危険な状態にあります。
・デング熱は、世界中の熱帯及び亜熱帯地域でみられます。そして、そのほとんどが都市部、準都市部でみられます。
・重症型のデング熱は、アジアやラテンアメリカの数か国では、小児の間で深刻な病態や死亡の主原因となっています。
・デング熱や重症型のデング熱に特異的な治療法はありません。しかし、早期発見と適切に医療機関を受診することにより、死亡率を1%未満に低下させることができます。
・デング熱の予防と制御は、媒介する蚊の駆除対策に依存します。

概要

デング熱は、蚊が媒介する感染症で、近年WHO(が事務局を置く)全ての地域で急速に拡大しています。デング・ウイルスは、雌の蚊、多くはネッタイシマカ、それより少ない程度においてヒトスジシマカによって伝播されます。この蚊は、チクングニア熱、黄熱、ジカウイルス感染症も伝播します。デング熱は、降雨量、温度および無計画で急速な都市化の影響を受けて各地域が変化していることに伴い、熱帯地域全域に拡がっています。

重症型のデング熱は、1950年代にフィリピンとタイでデング熱が流行した際に、初めて認識されました。現在では、重症型のデング熱は、アジアやラテンアメリカのほとんどの国で発生しており、これらの地域では小児でも成人でも入院や死亡の主な原因となっています。

デング熱を起こすウイルスはフラビウイルス属に所属し、4種類の異なる血清型(DEN-1、DEN-2、DEN-3、DEN-4)があり、それぞれの型が密接に関係しています。ひとつの血清型のウイルスに感染して回復すると、その血清型への免疫力が生涯にわたり続きます。しかし、回復後、他の血清型への交差免疫は部分的かつ一時的となります。他の血清型ウイルスに続けて感染すると、重症型のデング熱になるリスクが増加します。


デング熱の世界的な疾病脅威

デング熱の罹患率は、ここ数十年間に世界中で劇的に増加しています。圧倒的多数の感染例が無症候であるうえ、たくさんの患者が誤って診断されていることから、デング熱の患者数は、実際より少なく報告されています。現在、一つの推計では年間でデング熱感染者は3億9000万人(信頼水準95%[2億8400万人-5億2800万人])と見積もられ、そのうち9600万人(6700万人-1億3600万人)が臨床症状(全ての重症度を含む)を発現しているとみられています。別の研究では、デング熱の流行により128か国で推定39億人がデング・ウイルスへの感染リスクにさらされているとみられています。

WHOの3地域における加盟国は、定期的に毎年患者数を報告しています。報告された患者数は、2010年の220万人から2016年には334万人に増加しました。デング熱の世界全体での疾病負荷が、どれ程かは確かではありませんが、デング熱の全数報告を始めてから、近年、一部では感染者報告数の急速な増加が示されています。

その他に、この疾患の特徴としては、多くの国で複数の型のデング・ウイルスが高密度に流行している疫学パターンがあり、人々の健康と世界経済および各国の経済に由々しき影響を与えています。

分布傾向

1970年以前は、重症型のデング熱の流行はわずかに9か国のみでした。今日では、この疾患は、アフリカ、南北アメリカ大陸、東地中海、東南アジア、西太平洋のWHOによる地域の100か国以上で流行しています。アメリカ、東南アジア、西太平洋の地域では、感染による被害は最も深刻となっています。

感染者数は、アメリカ大陸、東南アジア、西太平洋で2008年に120万人、2016年に334万人を超えました(加盟国からの提出された公式データに基づく)。最近になっても報告される感染者数は増え続けています。2015年には、南北アメリカ大陸だけで、235万人のデング熱患者が報告されました。そのうち10,200人は、重症型デング熱と診断され1,181人が亡くなりました。

デング熱は、新しい地域に拡大するにつれて、患者数が増加するだけではなく、爆発的なアウトブレイクを起こしています。現在、ヨーロッパでもデング熱がアウトブレイクを起こす可能性があります。2010年にはフランスとクロアチアで初めてデング熱の局地的な伝播が報告され、ヨーロッパの他の3か国で輸入例が確認されました。2012年にはポルトガルのマデイラ島でデング熱のアウトブレイクが起こり、2,000人を超える患者が報告され、ポルトガルと他のヨーロッパ10か国で輸入例が確認されました。低所得国および中所得国から帰ってきた旅行者では、デング熱は、マラリアに次いで診断される発熱の原因疾患となっています。

2015年に、インドのデリーでは2006年以来最悪な1万5000人以上の感染者が報告されました。アメリカ合衆国のハワイ州のハワイ島は、2015年と2016年に感染が続き181人の感染の流行が報告されました。フィジー、トンガ、フランス領ポリネシアの太平洋諸国では、引き続き症例が報告されています。

2016年は、世界中での大規模なデング熱の流行発生で特徴付けられました。南北アメリカ大陸の地域では、2016年に238万人を超える患者が報告されました。ブラジルでは150万人をわずかに下回る患者が発生し、2014年に比べて約3倍も増加しました。この地域では、1,032人もの死亡者も報告されました。西太平洋地域では、2016年に375,000人を超えるデング熱患者が報告されました。このうち、フィリピンでは患者が176,411人に、マレーシアでは患者が100,028人に上りました。これらの国では、前年にも同様の被害が示されています。ソロモン諸島では、7,000人以上の感染が疑われたためにアウトブレイクを宣言しました。アフリカ地域では、ブルキナファソで、感染の可能性の高い患者1,061人によるデング熱の局所的なアウトブレイクが報告されました。

2017年に、アメリカ大陸ではデング熱患者584,263人が報告されました。これは、前年の同時期の2,177,171人と比べれば著明に減少していました。これは73%の減少を示しています。2017年に症例の増加を登録した国はパナマ、ペルーとアルバだけでした。同様に、2017年には重症型デング熱の53%の減少が記録されました。2016年の後のポスト-ジカアウトブレイクの期間中にデング症例の減少が見られていますが、この減少をもたらした正確な要因については依然として不明です。WHO西太平洋地域では、いくつかの太平洋諸国の加盟国でデング熱のアウトブレイクが報告され、デング熱1型と2型の伝播が報告されました。

2017年から2018年にかけての症例数の減少の後、2019年には急激な増加が観察されています。西太平洋地域では、オーストラリア、カンボジア、中国、ラオス、マレーシア、フィリピン、シンガポール、ベトナムにおいて症例の増加が観察されています。一方、ニューカレドニアではデング熱2型、仏領ポリネシアではデング熱1型が報告されています。デング熱のアウトブレイクはアフリカ地域のコンゴ、コートジボワール、タンザニアでも報告されています。いくつかの米州の国でも症例数の増加が観察されています。推計で50万人の重症型デングの患者が毎年入院を必要としていて、さらに2.5%の症例が年間で命を落とします。しかし、多くの国で、国レベルの能力強化を通しての患者管理の著しい改善がなされ、2010年から2016年の間で、致死率を1%以下に低下させ、世界全体でも28%の致死率の低下が記録されました。

感染経路

デング熱の主な媒介昆虫はAedes aegypti(ネッタイシマカ)です。ウイルスは感染した雌蚊の刺咬によって人に伝播します。4日から10日(蚊の体内で)ウイルスを増殖した後、感染力をもつ蚊は死ぬまでウイルスを伝播させることができます。

症状のある人も症状のない人もウイルスの主たるキャリアであり、ウイルスを増殖させる宿主となり、感染していない蚊への感染源となります。デング・ウイルスに感染した人は、発症後(4日~5日、最長12日)に蚊を介してデング・ウイルスを伝播する可能性を有します。

ネッタイシマカは都市部に生息し、多くが生活で使われている人工の容器で繁殖します。通常、ネッタイシマカが刺咬する時間帯のピークは早朝と夕暮れ前ですが、他の蚊とは異なり、日中でも刺咬します。雌のネッタイシマカは産卵期毎に複数の人を刺咬します。

Aedes albopictus(ヒトスジシマカ)は、アジアでは2番目に重要なデング熱の媒介昆虫です。古タイヤ(繁殖環境)やその他の商品(ギンヨウセンネンボク(万年竹)など)などが国際的に貿易されていることで、広く北米や25か国以上のヨーロッパの国々へ拡がっています。ヒトスジシマカは適応に優れているため、ヨーロッパの冷涼な地域でも生存できます。ヒトスジシマカの拡大は、零度以下の温度での生存能力、冬眠、僅かな生息場所に潜む適応能力などによるものです。

特徴

デング熱は、重症のインフルエンザ様疾患で、乳幼児、小児、成人ともに感染します。死亡することは滅多にありません。

デング熱は、高熱(40℃/104°F)を伴い、激しい頭痛、眼の奥の痛み、筋肉痛と関節痛、悪心、嘔吐、リンパ節の腫脹、発疹のうち2つ以上の症状がある場合に感染を疑う必要があります。症状は、感染した蚊に刺された後4~10日の潜伏期を経て出現し、通常2~7日間持続します。

重症型のデング熱は、血漿漏出、体液貯留、呼吸促迫、重度の出血、臓器不全など、死に至る可能性のある合併症を伴います。危険な兆候は、初発症状が出現してから3~7日後に起こり、このとき体温低下(38℃/100°F以下)が起こるほか、激しい腹痛、連続する嘔吐、呼吸促迫、歯肉出血、倦怠感、不穏、吐血といった症状がみられます。危篤状態から24~48時間後に死亡することがあり、合併症や死亡するリスクを避けるために適切な医学的処置が必要です。


治療

デング熱には特異的な治療法はありません。

重症型のデング熱は、疾患の影響や進展に関して経験のある医師と看護師であれば医学的な対処により救命することができます(20%以上の致死率を1%未満に減らせます)。重症型のデング熱の治療では、患者の体液量の管理が非常に重要です。

予防接種

2015年12月に、流行地域の9-45歳に向けて、サノフィ・パスツールによる初めてのデング熱ワクチンDengvaxia(CYD-TDV)が、20ヶ国で承認登録されました。2016年4月、WHOはデング熱が住民の血清抗体保有率が70%以上の高度に常在している地域でのワクチン使用の条件付き勧告を行いました。2017年11月に、予防接種時の血清抗体保有状況を後ろ向き研究で明らかにするための追加分析の結果が発表されました。この分析からは、最初の予防接種の時点で血清抗体陰性であることが推測される研究の参加者では、予防接種を受けていない人と比較して、より重症なデング熱と入院のリスクがより高くなるということが示されました。

WHOのポジション

デング熱弱毒化生ワクチンCYD-TDVは、臨床治験において、以前にデング・ウイルスの感染を受けた人(血清抗体陽性の人)においては有効かつ安全であることが示されてきましたが、血清抗体陰性の人で予防接種後に最初のデングの自然感染をうけた場合、重症型デング熱のリスクが増大することが報告されています。

デング制御プログラムの一環として、予防接種を考慮している国々では、予防接種前スクリーニングが推奨戦略となります。この戦略では、過去のデング感染の証拠がある人たちだけが予防接種を受けることになります(抗体検査または文書に記録されている検査室で確定された過去のデング感染)。

予防接種前スクリーニング戦略の実施についての決定は、国レベルでの注意深い評価が必要となります。それには入手できる検査の感度と特異性や地域における優先度、デングに関する疫学、その国のデングの入院率そしてCYD-TDVとスクリーニング検査の双方が手ごろな価格であることに対する考慮が含まれます。

予防接種はデングの予防と制御の統合戦略の一部と見なされるべきです。よく実施されかつ維持されている媒介昆虫の制御のような他の疾病予防対策をしっかり行う必要性が今現在もあります。デング様の症状が出現した場合は、予防接種を受けていても受けていなくても、速やかに医療を受けるべきです。

予防と制御

現在、デング・ウイルス伝播の制御と予防の唯一の方法は、媒介蚊の除去に努めることです。以下のような方法があります。

・環境の管理と改善により、産卵環境から蚊を閉め出すこと
・固形廃棄物を適切に廃棄し、人工的にできる生育場所を取り除くこと
・家庭での貯水容器には蓋をして、基本的に毎週、空にし、清掃すること
・屋外の貯水容器に適切な殺虫剤を用いること
・網戸、長袖の衣服、忌避剤、殺虫剤で処理した物、蚊取り線香、噴霧器など、家庭での防護対策を実施すること
・媒介する蚊の駆除を継続するために、地域社会の参加と動員を向上させること
・流行時期には、媒介する蚊の駆除の緊急的な方法のひとつとして、殺虫剤の空中散布を行うこと
・蚊の駆除への介入の効果を評価するために、積極的な蚊の監視と蚊の調査を行うこと

デング熱患者に対し注意深く臨床症状を見極め管理することで、重症型のデング熱による死亡率を大きく下げることができます。

WHOの取り組み

WHOは、下記のような方法でデング熱に対応しています。

・検査施設の共同研究ネットワークを通して、流行状況を確認する各国への支援
・デング熱の流行に効果的に対応するための技術的支援やガイダンスの提供
・報告システムの改善や、疾病負荷を正確に把握するための各国への支援
・地域事務局単位では、数か所の共同センターで、臨床管理、診断、媒介昆虫の制御・駆除についての訓練を提供すること。
・根拠に基づいた戦略や政策の策定
・殺虫剤や技術の応用などを含めた新しい方法や器具の開発
・100か国以上の加盟国からデング熱と重症型のデング熱の公式な記録を収集すること
・加盟国に向けたデング熱のサーベイランス、患者の管理・診断、感染の予防と制御に関するガイドラインやハンドブックの発行

出典

WHO.Factsheet,15 April 2019
Dengue and severe dengue
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/dengue-and-severe-dengue