エボラウイルス病について (ファクトシート)

2019年5月30日 WHO(原文〔英語〕へのリンク

要点

・エボラウイルス病(Ebola virus disease:EVD)は、以前はエボラ出血熱として知られていましたが、人への感染はまれではあるものの、重症化し、しばしば死に至る疾患です。
・このウイルスは野生動物から人に伝播し、生活環境下で人から人へも拡大します。
・エボラウイルス病の致死率は平均して50%前後です。過去のアウトブレイクでは、致死率は25%から90%の間でさまざまです。
・地域社会の関与がアウトブレイクの制御を成功に導くための鍵となります。
・感染アウトブレイクの適切な制御は、症例の管理、感染の予防と制御の実践、調査活動と接触者の追跡、処理能力をもった検査体制、安全で尊厳ある埋葬、社会資源の動員など、一連を組立てて取り行うことにかかっています。
・エボラから守るワクチンは現在開発中ですが、ギニアとコンゴ民主共和国において、エボラのアウトブレイクの拡大を制御する目的で、使用されています。
・補液や症状に対する治療を行う早期の支持療法は、生存率を向上させます。まだ、このウイルスを中和し回復に向かわせることに承認された治療法はありません。しかし、ある種の血液療法、免疫療法、薬物療法が開発途上にあります。

背景

エボラウイルスは、治療をしなければ、しばしば死に至る急性かつ重篤な病態を引き起こします。エボラウイルス病は、1976年に初めて、現在の南スーダンのNzara(ンザラ)とコンゴ民主共和国のYambuku(ヤンブク)の2か所で同時期に発生しました。後者は、エボラ川の近くの村で発生したため、疾患名が川の名前にちなんで名づけられました。

2014-2016年に発生した西アフリカのアウトブレイクは、1976年にエボラウイルスが最初に確認されてから、最大のアウトブレイクとなりました。アウトブレイクは、ギニアで始まり、国境を越えてシエラレオネとリベリアに拡がりました。コンゴ民主共和国東部で発生している現在の2018-2019年のアウトブレイクは、極めて複雑な状況にあり、治安の悪さから公衆衛生上の対応の実施に支障を来しています。

エボラウイルスが属するフィロウイルス科は、クウェバウイルス(Cuevavirus)属、マールブルグウイルス属(Marburgvirus)、エボラウイルス(Ebolavirus)属の3種の属から成ります。また、エボラウイルス属は、ザイール、ブンディブギョ、スーダン、タイフォレスト、レストン及びボンバリの6型が同定されています。現在のコンゴ民主共和国におけるアウトブレイクと、2014-2016年の西アフリカにおけるアウトブレイクを起こしたウイルスはザイール型に属しています。

感染経路

エボラウイルスの自然宿主はオオコウモリ科のフルーツコウモリと考えられています。エボラウイルスは、熱帯雨林で発症したり、死亡したりした感染動物(フルーツコウモリ、チンパンジー、ゴリラ、サル、森林に生息するレイヨウ、ヤマアラシなど)の血液、分泌液、臓器、その他の体液を介して、人が濃厚に接触することで人間社会に持ち込まれます。

その後、エボラウイルスは、(皮膚の傷や粘膜を通して)以下に直接接触することで人から人へと拡がります。
・エボラに罹患した人、あるいはエボラにより亡くなった死体の血液または体液
・エボラに罹患した人、あるいはエボラにより亡くなった死体由来の体液(血液、排泄物、吐物など)に汚染された物

医療従事者は、エボラウイルス病の疑いや確定患者を扱う際に、しばしば感染しています。これは、感染予防対策が厳格に実践されずに、患者と濃厚に接触することで起きています。

埋葬儀式で(参列者が)死者の体に直接触れることも、エボラの伝播に寄与しています。

血液中にウイルスがある限り、感染した人々は感染性を有したままです。

症状

潜伏期間(感染から発症するまでの期間)は2日から21日です。症状が発現するまでは、その人は感染力をもちません。

エボラウイルス病では、次の症状が突然現れます。
・発熱
・倦怠感
・筋肉痛
・頭痛
・咽頭痛

続いて、次の症状や検査所見がみられます。
・嘔吐
・下痢
・発疹
・腎機能及び肝機能の障害による症状
・いくつかの症例では、内出血及び外出血(歯肉出血や血性便)
・白血球減少、血小板減少、肝酵素の上昇

診断

マラリア、腸チフス、髄膜炎などの感染症とエボラウイルス病との鑑別は困難です。エボラウイルス感染症による症状であることの確認は以下の検査で行います。

・抗体捕捉によるELISA法検査
・抗原検出試験
・血清中和法試験
・RT-PCR法検査
・電子顕微鏡
・細胞培養によるウイルス分離

 診断検査の選択には、技術の特殊性、疾患の発生率と罹患率、検査結果の社会的および医学的な意味などを慎重に考える必要があります。独立した国際的な評価が行われた診断検査法の使用を検討することが、強く勧められます。

WHOの「緊急的使用のための評価及びリスト化」のプロセスにより評価が行われた診断用検査キット

現在、WHOが推奨している検査法は、次のとおりです。

・定期検査での診断を管理するための自動または半自動核酸検査(NAT)
・NATsを簡単に使えない僻地の環境では、迅速な抗原検出法検査。これらの検査は、調査活動の一部としてのスクリーニング検査を目的とすることにも推奨されますが、(感染)再燃の検査はNATsで確認する必要があります。
診断のために求められる検体の採取法は、次のとおりです。
・症状を有する患者からは、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)管に全血を採取します。
・死亡した個体または採血ができないときには、感染を防止できる搬送媒体に口腔内液検体を採取して保管します。

患者から採取された検体は、病原体に対する高いリスクがあります。不活化されていない検体を扱う施設での検査は、最大級の生物学的な封じ込めの条件下で実施されなければなりません。すべての生体からの検体は、国内および国際的に輸送される場合に、3重包装の方法で梱包する必要があります。

治療

経口または点滴の補液で行う支持療法や特異的な症状への対症療法は、生存率を向上させます。まだ、エボラウイルス病に対処できると証明された治療法はありません。しかし、血液療法、免疫療法、薬物療法など、ある種の治療法の可能性は、現在、評価の段階にあります。

現在進行中の2018-2019年のコンゴ民主共和国におけるアウトブレイクにおいて、エボラウイルス病治療薬の初めての多剤併用ランダム化比較試験が行われており、専門家とコンゴ民主共和国の検討により構築された倫理的な枠組みのもと、エボラ患者の治療において使用され、有効性と安全性の評価が進められています。

ワクチン

ギニアでの大規模な(臨床)試験で、実験段階のエボラワクチンが、致死的なウイルスに対して高い防御を示すことが証明されました。rVSV-ZEBOVと呼ばれるこのワクチンは、2015年に11,841人が参加した試験で調査が行われました。ワクチン投与群の5,837人で、接種後10日以上にわたりエボラ患者は記録されませんでした。一方、ワクチン非投与群では接種後10日以上経過して23人の患者がでました。

rVSV-ZEBOVワクチンは現在の2018-2019年のコンゴ民主共和国におけるアウトブレイクでも使用されています。
結果の初期解析では、このワクチンは極めて効果の高いことが示されています。

WHOの予防接種に関する戦略的諮問専門家グループ(SAGE)は、さらなるエボラワクチンの評価の必要性について発言しています。

予防と感染制御

適切なアウトブレイクの制御は、一連の介入方法、即ち、症例の管理、調査活動と接触者の追跡、適正な検査体制、安全で尊厳ある埋葬、社会資源の動員などに左右されます。地域社会の関与がアウトブレイクを上手く制御するための鍵となります。エボラ感染のリスク要因に注意を払う意識を高め、個々人で対処できる予防対策(ワクチン接種を含む)を行うことが、人での感染伝播を減らす有効な方法となります。感染のリスクを低減するためのメッセージが、いくつかの要点としてまとめられています。
・感染したオオコウモリ、サル/類人猿との接触、その生肉の摂取を原因とする、野生動物から人への感染のリスクを減らすこと:動物は、手袋やその他適切な防護服の下で処理することが必要です。動物食品(血液や食肉)は食べる前に徹底して加熱調理することが必要です。
・エボラ症状のある人、特に、感染者の体液との直接接触または濃厚に接触することでの人から人への感染のリスクを減らすこと:自宅で病人を世話するときには、手袋と適切な個人用の防御具を着用することが必要です。家庭内で病人を世話した後と同様に、患者の見舞いで病院を訪れた後にも必ず手洗いを行うことが必要です。
・アウトブレイクの抑制策:抑制策には、エボラ感染者と接触した可能性のある人を特定し、21日間の接触者の健康状態の監視すること、さらなる感染拡大を防ぐために病人から健康者を遠ざけることを重視すること、適正な衛生環境と清潔な環境の維持を重視することなどがあります。
・エボラウイルス病への対策に関して、WHO諮問グループによって続けられてきた研究と考察の分析に基づいて、WHOは、性行為感染の可能性を減らすため、発症から12ヶ月間もしくは、精液での2度のエボラウイルス検査が陰性になるまで、男性のエボラウイルス病からの回復者は安全な性生活と衛生管理を実践することを奨励しています。体液への接触を避け、石鹸と水を使って洗浄することが勧められます。WHOは、血液によるエボラウイルス検査で陰性の結果を得た回復期の男女を隔離することは推奨していません。

医療機関での感染予防

推定される診断名に関係なく、医療従事者は、患者を世話するとき、常に基本的な予防対策を講じることが必要です。これらには、基本となる手指の衛生、室内の換気、個人用の防御具の使用(飛沫または感染物質などとの接触を防御するため)、安全な注射の実施、さらには安全な埋葬の実施などが含まれます。

エボラウイルスが疑われた、または確定診断された患者を世話する医療従事者は、患者の血液や体液との接触を防ぎ、衣類やベッド・シーツのような(ウイルスで)汚染された物やその物の表面などとの接触を防ぐために、追加の感染管理対策をとる必要があります。1m以内でエボラウイルス病患者と接するときには、医療従事者は顔面の防御(フェイス・シールド、医療用マスクとゴーグル)、滅菌は必要ないものの清潔な長袖のガウン、手袋(いろいろな処置を行うための滅菌手袋)をつける必要があります。

検査施設の勤務者にもリスクがあります。エボラ感染の検査のために人や動物から採取された検体は、訓練を受けた職員が取り扱うべきであり、十分に設備が整った検査施設で対処されるべきです。

エボラウイルス病から回復した人々へのケア

エボラウイルス病から回復した患者において、多くの医学的合併症が報告されており、メンタルヘルスの問題も含まれています。エボラウイルスは、精液を含む数種類の体液には残っているかもしれません。エボラ回復者は、直面する医学的及び心理社会的困難に対して、また、エボラウイルス伝播が継続するリスクを小さくするため、包括的な支援が必要です。これらのニーズに対処するため、これらに特化したプログラムをエボラから回復した人々のケアのために立ち上げることができます。

・詳しくは、「エボラウイルス病回復者のクリニカルケアに関するガイダンス」をご覧ください。

エボラウイルスは、エボラウイルス病からの回復した一部の人の免疫特異部位で存続することが知られています。これらの部位には、睾丸、眼の内部、および中枢神経系などがあります。妊娠中に感染した女性では、胎盤、羊水、胎児でウイルスが存続します。授乳中に感染した女性では、ウイルスは母乳中に存続している可能性があります。

稀ですが、病気からの回復者の何人かで、特定の部位でウイルスが増殖したために生じた再燃性の症候性疾患が、報告されています。この現象が起こる理由は、まだ完全には解明されていません。

ウイルスの存続についての研究では、病気からの回復者の何人かの体液では、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法検査において、エボラウイルスが9か月以上にわたって陽性であったことが示されています。

性行為感染のリスク、特に、時間の経過とともに精液中で活性があるため、感染力を有するウイルスの存在率について、さらに多くの調査データと研究(成果)が必要とされています。現在の証拠に基づいて、暫定的に、WHOは以下のことを推奨しています。

・全てのエボラからの回復者および性的パートナーは、2度の精液検査が陰性になるまでの間の性行為は安全に行う必要があり、確実に行えるよう、カウンセリングを受けることが必要です。回復者は、コンドームが支給されることが必要です。
・男性のエボラ回復者は、発症後3ヶ月の時点で精液検査を受けることが必要であり、それが陽性の場合は、RT-PCR法による精液検査が1週間の間隔を置いて2度陰性になるまで、毎月、精液の検査が行われるべきです。
・エボラからの回復者および性的パートナーは、以下の対応を行う必要があります。
 ・性行為の一切を控えること
 ・回復者の精液が2度の検査で陰性となるまでは、一貫して確実にコンドームを使用して安全な性生活を送ること
・回復者は、上記のように2度の陰性結果が得られれば、エボラウイルス感染の恐れなく安全に、通常の性生活を再開することができます。
・現在進行中の研究の詳細分析と検討がWHOのエボラウイルス病対応に関するアドバイザリーグループにより行われ、これに基づいてWHOは、エボラウイルス病の男性回復者は、発症から12ヶ月が経過し、もしくは精液検査でエボラウイルスが2度陰性になるまでの間、安全な性生活と衛生管理を行うよう推奨しています。
・回復者の精液が2度のエボラウイルスに対する検査で陰性の結果が得られるまでは、回復者はマスタベ-ションの後を含め、精液と直接に接触した後には、石鹸と水で直ぐに徹底的に洗浄することによって、適切に手と身体の清潔を保つことを実践する必要があります。この間、使用されたコンドームは、中の精液との接触を防ぐために、安全に取り扱い、安全に破棄される必要があります。
・全てのエボラ出血熱からの回復者およびそのパートナーや家族には、敬意と尊厳そして思いやりをもって接せられるべきです。

エボラウイルス病の性行為感染に関する暫定的助言
 

WHOの取り組み

WHOは、エボラウイルス病の調査体制を維持し、感染制御の計画を作成してリスク国を支援することで、エボラウイルス病のアウトブレイクを防ぐことを目指しています。下記の文書は、エボラやマールブルグウイルスのアウトブレイクを制御するための総合ガイダンスです。

エボラやマールブルグウイルス病の流行:準備、警告、制御、および評価

アウトブレイクが発生したとき、WHOは、地域社会への参画、症例検知、接触者の追跡、予防接種、症例管理、検査設備、感染管理、ロジスティクス及び安全で尊厳を保った埋葬の実施への訓練や支援に取り組みます。

WHOはエボラ感染予防と制御に関する詳細なアドバイスを作成しました。

エボラに焦点を当てた医療施設における疑いおよび確定したフィロウイルス出血熱の患者をケアするための感染予防と制御のための指針

出典

WHO.Factsheet,30 May 2019
Ebola virus disease

https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/ebola-virus-disease