チクングニア熱(ファクトシート)

2022年12月8日 WHO(原文〔英語〕へのリンク)

要点

・チクングニア熱は、アフリカ、アジア、アメリカ大陸で蚊によって媒介される感染症です。その他の地域でも散発的な発生が報告されています。
・チクングニア熱はデング熱やジカ熱と症状が似ているため、誤診されやすいといわれています。
・チクングニア熱は発熱と激しい関節痛を主な症状とし、衰弱することも多く、期間は数か月続くものと様々です。その他の症状としては、関節の腫脹、筋肉痛、頭痛、吐き気、全身倦怠、発疹などがあります。
・現在、チクングニアウイルスの感染症に対する認可ワクチンや特異的な治療法はありません。
・地域によっては報告の困難さや誤診されている場合もあるため、罹患者数は全例報告されていない可能性があります。
・チクングニア熱による重篤な症状や死亡は稀で、通常は他の併存症がある場合が多いです。

概要

チクングニア熱は、トガウィルス科アルファウィルス属のRNAウイルスであるチクングニアウィルス(CHIKV)によって引き起こされる蚊媒介性のウイルス性疾患です。チクングニアという名前は、キマコンデ語の「かがむ」という意味の言葉に由来しています。

分布と発生状況

チクングニアウイルスは、1952年にタンザニア連合共和国で初めて確認され、その後、アフリカやアジアの他の国々で確認されました。都市部での発生は、1967年にタイで、1970年代にはインドで初めての症例が記録されました。2004年以降、チクングニアウイルスの流行はより頻繁かつ広範囲に及ぶようになりました。これはウイルスの変異によりヒトスジシマカによってウイルスがより容易に拡散されるようになったことが一因となっています。チクングニアウイルスは現在、アジア、アフリカ、ヨーロッパ、アメリカ大陸の110カ国以上で確認されています。人口の大部分が感染し、その後免疫を獲得した島嶼部では以降の伝播は収束しますが、人口の大部分が未感染の国では、依然として伝播が続いています。
 
現在、ネッタイシマカやヒトスジシマカが生息するすべての地域で、蚊を媒介とした地域的な感染が起きています。

感染経路

チクングニアウイルスは、蚊によって感染します。代表的な蚊は、デング熱やジカ熱のウイルスも媒介するネッタイシマカやヒトスジシマカのヤブカで、主に日中に刺咬します。この蚊は水が溜まっている容器などに卵を産み繁殖します。どちらも屋外で刺咬しますが、ヒトスジシマカは屋内でも刺咬します。
 
未感染の蚊は、 チクングニアウイルスに感染しているヒトを刺すことで体内にウイルスを取り込みます。蚊の体内でウイルスは数日間かけて複製され、その後蚊がヒトを刺咬することで蚊の唾液腺を通してヒトを感染させます。このヒトは新たな感染者としてウイルスを複製することになり、ヒトの血液中のウイルス濃度が高くなると、さらに他の蚊に感染、次のヒトへと感染サイクルが続くことになります。

症状について

症状のある患者の場合、チクングニアウイルスの発症までの期間は、感染した蚊に刺されてから通常4~8日後(2~12日の範囲)です。突然の発熱が特徴で、しばしば激しい関節痛を伴います。関節痛は、通常は数日間続き消失しますが、数週間、数ヶ月、あるいは数年間続くこともあります。その他の一般的な症状としては、関節の腫脹、筋肉痛、頭痛、吐き気、疲労、発疹などがあります。これらの症状は、デング熱やジカ熱などの他の感染症と重複しているため、症例が誤診されることもあります。また、顕著な関節痛がない場合、感染者の症状は通常軽く、感染に気づかないこともあります。
 
ほとんどの患者は完全に回復しますが、チクングニアウイルス感染により眼、心臓、神経系の合併症が発生する症例が時々報告されています。とても幼い場合と高齢の患者の場合は重症化するリスクが高くなります。分娩時に感染した新生児や基礎疾患を持つ高齢者は重症化する可能性があり、チクングニアウイルス感染によって死亡リスクが高まる可能性があります。
 
一度感染した人は、今後感染しない可能性が高いことが、現在得られているデータから示唆されています。

診断方法

チクングニアウイルスは、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)などの検査を用いて、発病後1週間以内に採取した血液検体から直接検出することができます。
 
その他の検査では、チクングニアウイルス感染に対する人の免疫反応を検出することができます。これらは通常、感染から1週間後にウイルスに対する抗体を検査するために使用されます。抗体レベルは通常、発症後1週間までに検出可能となり、約2ヶ月間検出することができます。

治療とワクチン

治療としては、解熱剤や鎮痛剤で発熱や関節痛に対処し、十分な水分摂取と全身の安静が考えられます。チクングニア熱に対する特定の抗ウイルス治療薬はありません。
 
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は出血のリスクを高めるため、デング熱感染が否定されるまでは、鎮痛と解熱のためにパラセタモールやアセトアミノフェンが推奨されます。
 
現在、開発段階にあるワクチンが複数ありますが(2022年12月現在)、チクングニア熱を予防する認可済のワクチンはなく、市販品もありません。

予防と対策

蚊に刺されないことが最大の予防策です。チクングニアウイルスの感染が疑われる患者は、ウイルスの蚊への感染を防ぐため、発病後1週間は蚊に刺されないよう注意が必要です。
 
チクングニアウイルスの感染を減らすための主な方法は、蚊による媒介を止めることです。そのため、繁殖地となる水たまりをなくすことが必要で、毎週貯水容器を空にして掃除したり、水たまりを作ってしまう廃棄物を処理するなど、地域一丸となっての蚊の駆除プログラムを住民も巻き込んで実施することが重要です。
 
感染の発生時には、成虫を駆除する殺虫剤の散布や、蚊が触れる容器の中や周辺に殺虫剤を塗布したり、ボウフラを駆除するために容器の中の水を処理することも必要です。また、蚊の発生そのものを抑制するための緊急措置として、保健所がこれらを主導するのも良いでしょう。
 
チクングニア熱の流行時には、日中刺咬する蚊の特徴を踏まえ、皮膚の露出を最小限に抑えた服装が推奨されます。窓やドアの網戸を使用し、蚊が室内へ侵入するのを防ぐのも大切です。虫よけ剤は、製品の説明に従い、皮膚や衣服に塗布します。虫よけ剤には、ディート(DEET)、IR3535、イカリジン(icaridin)のいずれかが含まれているものが良いです。
 
幼児、病人、高齢者など、日中寝ている人は、日中の蚊の刺咬に対しての対策として殺虫剤処理された蚊帳を使用するとよいでしょう。
 
チクングニアウイルス の感染が活発な地域に滞在する人は、虫除けスプレーの使用、長袖と長ズボンの着用、蚊の侵入を防ぐ網戸の設置など、基本的な予防策を講じる必要があります。

WHOの取り組み

WHOは、グローバルアルボウイルスイニシアティブ(英文)の活動を通じて、各国がアルボウイルスのサーベイランスと対策を行うことを支援しています。
 
WHOはチクングニア熱に以下のような形で対応しています。
 
・検査機関の協力ネットワークを通じて、国々における流行発生の把握を支援。
・蚊媒介性疾患の発生を効果的に管理するため、技術的支援と指針を各国に提供。
・殺虫剤などの駆除製品や散布技術など、新しいツールの開発に関する検討。
・エビデンスに基づく戦略、政策、流行管理計画の策定。
・症例管理や流行の効果的な管理のための技術的支援と指針を各国に提供。
・各国の流行発生時の報告システムの改善支援
・地域レベルでの臨床管理、診断、媒介蚊の駆除に関するトレーニングの提供(協力センターも含む)
・加盟国向けに、疫学的調査、検査機関での管理、臨床症例管理、媒介蚊の駆除に関する指針と手引きを発行。
・グローバルアルボウイルスイニシアティブの活動を通じて、アルボウイルス感染症に対する総合的な学際的アプローチを推進。
 
WHOは各国に対し、感染者の発見・確定、患者の管理、蚊の媒介を減らすための社会的コミュニケーション戦略の実施などの能力を確立し整備するよう促しています。

出典

WHO. Fact sheets 8 December 2022
Chikungunya
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/chikungunya