クリミア・コンゴ出血熱(ファクトシート)

2022年5月23日 WHO(原文〔英語〕へのリンク)

要点

・クリミア・コンゴ出血熱( Crimean‐Congo Hemorrhagic Fever : CCHF)ウイルスは、重度のウイルス性出血熱を引き起こします。
・クリミア・コンゴ出血熱の感染による死亡率は最大で40%に達します。
・このウイルスは、主にマダニや家畜からヒトに感染します。感染者の血液、分泌物、臓器、その他の体液との濃厚接触で、ヒトからヒトへの感染も起こり得ます。
・クリミア・コンゴ出血熱は、アフリカ、バルカン半島、中東、アジア、北緯50度以南の国々で流行しています。
・ヒト・動物用ともにワクチンはありません。

概要

クリミア・コンゴ出血熱(以下、「CCHF」という。)は、ブニヤウイルス科(Bunyaviridae ) のダニ媒介性ウイルス(Nairovirus)によって引き起こされる地理的に広範に分布する疾患です。CCHFウイルスは、重症のウイルス性出血熱のアウトブレイクを引き起こし、致死率は10-40%に達します。
 
CCHFは、アフリカ、バルカン半島、中東、アジア諸国、北緯50度以南(主要な媒介ダニの地理的限界)の国々で流行しています。

動物とダニにおけるクリミア・コンゴ出血熱ウイルス

CCHFウイルスの宿主は、牛、羊、ヤギなどの家畜から野生動物まで幅広いです。鳥類の多くは感染しにくいですが、ダチョウは感染しやすく、流行地では高い感染率を示すことがあり、ヒトの症例の原因となることもあります。例えば、以前南アフリカのダチョウの食肉処理場で発生した例があります。動物は感染しても目立った症状はありません。
 
動物は感染したマダニに咬まれることで感染し、感染後約1週間は血液中にウイルスが留まり、その後さらに別のマダニに咬まれることでマダニ-動物-マダニの感染サイクルが確立されます。CCHFウイルスに感染する可能性のあるマダニ属は多数存在しますが、Hyalomma属のマダニが主要な媒介生物です。

感染経路

CCHFウイルスは、感染マダニに咬まれるか、食肉処理中やその直後の感染した動物の血液や組織と接触することにより、ヒトに感染します。感染者の多くは、農業従事者、食肉処理場労働者、獣医師など、畜産業に携わる人々です。
 
ヒトからヒトへの感染は、感染者の血液、分泌物、臓器、その他の体液に濃厚接触することで起こります。また、医療器具の不適切な滅菌、注射針の再使用、医療用品の汚染などにより、院内感染が起こることもあります。

徴候・症状

潜伏期間は、ウイルス感染経路によって異なります。マダニに咬まれた場合の潜伏期間は、通常1~3日ですが、最長で9日です。感染した血液や組織と接触した場合の潜伏期間は、通常5~6日ですが、最大で13日という報告もあります。
 
症状は突然現れ、発熱、筋肉痛、めまい、首の痛みとこわばり、背中の痛み、頭痛、目の痛み、羞明(光に対する過敏症)などが起こります。初期には吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、咽頭痛があり、その後、急激な気分の変化や混乱が起こることがあります。2~4日後、興奮は眠気、抑うつ、倦怠感に変わり、腹痛は右上腹部に限局し、肝腫大が検出されることがあります。
 
その他の症状としては、頻脈(心拍が速い)、リンパ節腫脹、口や喉などの内部粘膜面や皮膚に点状出血がみられます。点状出血は、大きな大紫斑となることもあり、その他の出血現象が見られることもあります。通常、肝炎の所見が見られることもあり、重症の患者は、発病5日目以降、急速な肝腎不全や肺不全を起こすことがあります。
 
CCHFによる死亡率は約30%で、発病から2週間目に死亡します。回復する患者では、一般に発病後9~10日目から改善がみられます。

診断方法

CCHFウイルス感染は、以下のような様々な臨床検査によって診断することができます。
 
・酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)
・抗原検出
・血清中和法
・逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)解析
・細胞培養によるウイルス分離
 
死亡した患者や発病後数日の患者は、通常、測定可能な抗体反応を示さないため、これらの患者の診断は、血液または組織試料中のウイルスまたはRNAの検出によって行われます。
 
患者検体の検査は非常に高いバイオハザード・リスクを伴うため、最大限の生物学的隔離が可能な条件下でのみ実施すべきです。しかし、例えば殺ウイルス剤、ガンマ線、ホルムアルデヒド、熱などを用いて検体が不活性化されている場合、基本的なバイオセーフティ環境下で取り扱うことが可能です。

治療

CCHF には対症療法を中心とした一般的な支持療法が実施されます。
抗ウイルス剤のリバビリンは、CCHFの治療に使用されており、明らかな効果を上げています。経口と静脈注射の両方が効果的と思われます。

予防と管理

〇 動物やダニのCCHFを駆逐する


クリミア・コンゴ出血熱の主な媒介となるHyalomma属のマダニ。
写真提供 :Robert Swanepoel/NICD 南アフリカ共和国
 
マダニ-動物-マダニのサイクルは通常気付かれず、家畜への感染も明らかにならないため、動物やマダニへのCCHF感染を予防・管理することは困難です。さらに、媒介となるマダニは多く広く存在するため、殺ダニ剤(マダニを殺すことを目的とした薬剤)によるマダニ対策は、管理の行き届いた家畜生産施設においてのみ、現実的な選択肢です。
 
例えば、南アフリカのダチョウ食肉処理場で発生したダニ感染症(上述)を受けて、ダチョウを屠畜する前に隔離場所で14日間ダニがいない状態にする対策がとられました。これにより、屠殺中の動物が感染しているリスクを低減し、家畜と接触したヒトへの感染も防ぐことができました。
 
動物に使用できるワクチンはありません。
 
〇 ヒトへの感染リスクを軽減する

CCHFに対する不活化マウス脳由来ワクチンが開発され、東ヨーロッパで小規模に使用されていますが、現在、ヒトに広く使用できる安全で効果的なワクチンはありません。
 
ワクチンがない場合、ヒトへの感染を減らす唯一の方法は、危険因子に対する認識を高め、ウイルスへの曝露を減らすためにできる対策について人々を教育することです。
 
公衆衛生上の助言は、以下のようないくつかの側面に焦点を当てる必要があります。
 
・マダニからヒトへの感染リスクを減らす
●長袖、長ズボンの身体を保護できる衣服を着用する。
●衣服に付着したマダニを発見しやすくするため、明るい色の衣服を着用する。
●衣服に認可された殺ダニ剤(ダニを殺すための化学薬品)を使用する。
●皮膚や衣服に認可されたダニ除け剤を使用する。
●定期的に衣服や皮膚のマダニを確認し、発見した場合は安全に除去する。
●動物や厩舎、納屋に生息するマダニの駆除や発生予防に努める。
●マダニが多く生息する場所や、マダニが最も活発に活動する季節を避ける。
・動物からヒトへの感染リスクを低減する。
●感染発生地域で動物やその組織を取り扱う際、特に食肉処理場や家庭での食肉調理、屠殺、殺処分の際には手袋やその他の保護具を着用する。
●屠殺場に動物を移す前に隔離するか、屠殺の2週間前まで定期的に動物を殺虫剤で手入れする。
 
・地域社会でのヒトからヒトへの感染リスクを減らす。
●CCHF に感染しているヒトとの身体的接触(濃厚接触)を避ける。
●病人の世話をする際には手袋等の保護具を着用する。
●病人の世話をした後や見舞の後は定期的に手洗いを実施する。
 
〇 医療現場での感染制御

CCHF疑い患者や確定患者をケアする医療従事者、患者からの検体を取り扱う者は、標準的な感染制御予防策を実施しましょう。これには、基本的な手指衛生、個人用保護具の使用、安全な注射手技、安全な埋葬法などが含まれます。
 
予防措置として、CCHFの発生地域の近隣の地域で患者をケアする医療従事者も、標準的な感染対策の予防策を実施する必要があります。
 
CCHF 疑い患者から採取した検体は、適切な設備を備えた検査施設で働く、訓練を受けたスタッフによって取り扱われるべきです。
 
CCHF疑い患者、あるいは確定患者の治療をする際の感染管理の推奨事項は、WHOがエボラ出血熱とマールブルグ出血熱のために開発したものに従うとよいでしょう。

WHOの取り組み

WHOはパートナー機関と協力し、ヨーロッパ、中東、アジア、アフリカにおけるCCHFのサーベイランス、診断能力の向上、発生時の対応活動を支援しています。
 
また、WHOは疾病の調査や対応に役立つ資料を提供し、血液感染やその他の病原体の感染リスクを減らすことを目的とした、医療における標準予防策に関する補助資料も作成しました。

出典

WHO. Fact sheets 23 May 2022
Crimean-Congo haemorrhagic fever
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/crimean-congo-haemorrhagic-fever