マラリア(ファクトシート)

2022128 WHO (原文〔英語〕へのリンク)

要点

・マラリアは、原虫を保有するメスのハマダラカがヒトを刺すことで感染する寄生虫(原虫)由来の、生命を脅かす疾患ですが、予防と治療は可能です。
・2021年、全世界のマラリア患者数は2億4,700万人と推定されています。
・2021年のマラリアによる推定死亡者数は619,000人に達します。
・WHOのアフリカ事務局管轄地域では、世界のマラリアの犠牲者の大部分を占めています。2021年、この地域はマラリア患者の95%、マラリアによる死亡は96%を占め、5歳未満の小児は同地域のマラリアによる死亡の約80%を占めています。

概要

マラリアは、マラリア原虫(Palasmodium)によって引き起こされる急性熱性疾患であり、感染したメスのハマダラカに刺されることによって人に感染します。
ヒトにマラリアを感染させる寄生虫は5種類で、熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)と三日熱マラリア原虫 (P. vivax)の2種が最も致命的な被害をもたらします。熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum) は中でも最も致命的なマラリア原虫で、アフリカ大陸で最も多く見られます。三日熱マラリア原虫 (P. vivax) は、サハラ以南のアフリカを除くほとんどの国で主流となっているマラリア原虫です。
 
マラリアの初期症状である発熱、頭痛、悪寒は、通常、感染した蚊に刺されてから10~15日後に現れ、軽度でマラリアと認識されにくい場合があります。熱帯熱マラリア原虫によるマラリアは治療せずに放置すると、24時間以内に重症化し、死に至ることもあります。
 
2021年には、世界人口の約半数がマラリアの脅威にさらされています。乳幼児、5歳未満の子ども、妊婦、HIV/AIDS患者、また、出稼ぎ労働者、移動民族や旅行者などマラリアの感染が激しい地域に流入する免疫力の低い人々など、マラリアに感染して重症化するリスクがかなり高い人口集団もいます。

マラリアによる世界的な影響

最新の世界マラリア報告書(英文)によると、2020年のマラリア患者数が2億4,500万人であったのに対し、2021年は2億4,700万人となりました。マラリアによる推定死亡者数は、2020年の625,000人に対し、2021年には619,000人となりました。
 
新型コロナウイルス感染症パンデミックのピークとなった2020-2021年ですが、マラリア患者は約1,300万人増加し、マラリアによる死亡者数は63,000人増加しました。WHOのアフリカ事務局管轄地域では、世界のマラリアの犠牲者の大部分を占めています。2021年、この地域はマラリア患者の95%、マラリアによる死亡は96%を占め、5歳未満の小児は同地域のマラリアによる死亡の約80%を占めています。
 
アフリカの4カ国が、世界のマラリアによる死亡者数の半分強を占めています。内訳は、ナイジェリア連邦共和国が全体の31.3%、コンゴ民主共和国で12.6%、タンザニア連合共和国で4.1%、ニジェール共和国で3.9%です。

予防

過去20年間、効果的な媒介蚊対策や予防用抗マラリア薬の使用など、WHOが推奨するマラリア予防手段や対策へのアクセスが大幅に改善し、マラリアの世界的な脅威の軽減に大きく貢献してきました。
 
媒介蚊の駆除
媒介蚊駆除(英文)は、マラリア対策・撲滅戦略において、感染予防と感染拡大の抑制に非常に有効であるため、不可欠な要素です。その中核となるのが、殺虫剤処理蚊帳(以下、「ITN」という。)と屋内残効性散布(以下、「IRS」という。)の2つの対策です。
 
世界のマラリア対策は、殺虫剤耐性のあるハマダラカの出現により、困難に直面しています。最新のWorld malaria report(英文)に記載されているように、ITNが手に入らなかったり、日常生活の中で蚊帳を紛失したり、蚊の生態の変化(人々が寝る前の早い時間に刺し、屋外へ逃げることで殺虫剤にさらされないように活動する個体も現れているようです)なども脅威となっています。
 
予防投薬法
予防投薬法(英文)とは、マラリア感染とその影響を予防するために、予防薬を単独または組み合わせて使用することです。予防投薬法では、マラリアのリスクが最も高い時期に、脆弱な人々(通常、乳幼児、5歳未満の小児、妊婦)に対して、マラリア感染の有無にかかわらず、抗マラリア薬の全治療コースを指定した時期に投与することになります。予防投薬法には、通年性マラリア予防投薬(PMC)、季節性マラリア予防投薬(SMC)、妊娠中のマラリア間歇的予防投薬(IPTp)および学齢期の子どもに対する予防投薬(IPTsc)、退院後のマラリア予防投薬(PDMC)および大量薬剤投与(MDA)などが含まれています。これらの安全で費用対効果の高い対策は、媒介蚊の駆除、マラリアが疑われる場合の迅速な診断、確定症例に対する抗マラリア薬による治療など、現在行われているマラリア対策活動を補完することを目的としています。
 
ワクチン
2021年10月以降、WHOは、熱帯熱マラリア原虫マラリアの感染が中程度から高程度とされる地域に住む子どもたちの間で、RTS,S/AS01マラリアワクチンの幅広い使用も推奨しています。このワクチンは、幼い子どもたちのマラリア、および致命的な重症マラリアを大幅に減少させることが確認されています。RTS,SワクチンのQ&A(英文)。

症例管理

マラリアの早期診断と治療は、病気、死亡、感染の抑制につながります。WHOは、マラリアが疑われるすべての症例について、寄生虫を用いた顕微鏡検査または迅速診断検査(英文)を推奨しています。診断検査により、医療従事者はマラリア熱と非マラリア熱を迅速に区別することができ、適切な治療を行うことが可能になります。
特に熱帯熱マラリア原虫マラリアに対する最も有効な治療法(英文)は、アルテミシニンベースの併用療法(ACT)です。治療の第一の目的は、合併症のないマラリアが重症化したり死亡したりするのを防ぐために、マラリア原虫を迅速かつ完全に駆除することです。
 
抗マラリア薬耐性
過去10年間、抗マラリア薬に対する薬剤耐性は、大メコン圏における世界的なマラリア対策への脅威として浮上しました。WHOは、最近アフリカで報告された薬剤耐性マラリアについても懸念しています。マラリア流行国の治療方針に情報を提供し、薬剤耐性マラリアを早期に発見し、対処するためには、薬剤の有効性を定期的にモニタリングすることが必要です。
 
大メコン圏における抗マラリア薬耐性に関するWHOの取り組みについては、メコン・マラリア撲滅計画のウェブページをご覧ください(英文)。また、WHOはアフリカにおける薬剤耐性に対処するための戦略も策定しています。

撲滅活動

マラリア撲滅とは、計画的な活動の結果、特定のマラリア原虫の地域的な伝播が特定の地域でなくなることと定義されます。ただし、伝播の再開を防ぐための継続的な対策が必要です。
 
2021年には、35カ国が1,000人未満の固有感染例を報告し、2000年13カ国から増加しました。少なくとも3年連続でマラリアの固有感染者ゼロを達成した国は、WHOのマラリア撲滅の認定(英文)を申請することができます。2015年以降、モルディブ(2015年)、スリランカ民主社会主義共和国(2016年)、キルギス共和国(2016年)、パラグアイ共和国(2018年)、ウズベキスタン共和国(2018年)、アルゼンチン共和国(2019年)、アルジェリア民主人民共和国(2019年)、中華人民共和国(2021年)、エルサルバドル共和国(2021年)の9カ国がWHO事務局長によってマラリア撲滅の認証(認証プロセス英文)を受けました。WHOによってマラリア撲滅認証を受けた国と地域(英文)。

サーベイランス

マラリアサーベイランスとは、マラリア関連データを継続的かつ体系的に収集、分析、解釈し、そのデータを公衆衛生活動の計画、実施、評価に利用することです。マラリア症例と死亡例のサーベイランスを改善することは、保健省がどの地域または人口集団が最も影響を受けているかを判断し、国が疾病パターンの変化を監視することを可能にします。また、強力なマラリア監視システムは、各国が効果的な保健医療活動を設計し、マラリア対策プログラムの効果を評価するのに役立ちます。

WHOの取り組み

WHOのマラリアに関する世界技術戦略2016-2030は、2021年に更新され、すべてのマラリア蔓延国に対する技術的な枠組みを提供しています。この戦略は、マラリア感染制御・撲滅に向けて取り組む地域・国のプログラムを指導・支援することを目的としています。
 
この戦略では、以下のような大胆ではあるものの、実現可能と思われる世界目標が設定されています。
・2030年までにマラリア発症率を90%以上削減する。
・2030年までにマラリアによる死亡率を90%以上削減する。
・2030年までに少なくとも35カ国でマラリアを撲滅する。
・マラリアがないすべての国において、マラリアの再発を防止すること。

この戦略のもと、世界マラリア計画は、マラリアの感染制御と撲滅に向けたWHOの世界的な取り組みを、以下のように展開しています。 
・エビデンスに基づく規範、標準的手法、政策、技術戦略、ガイドラインを設定し、周知させ、その採択を促す。
・世界的な進捗状況を独自に記録する。
・対応能力の確立、システム強化、サーベイランスの手法を開発する。
・マラリアの感染制御と撲滅に対する脅威と新たな活動分野を特定する。
 

出典

WHO. Fact sheets 8 December 2022
Malaria
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/malaria