海外渡航者に対するワクチン接種に関する考慮事項
国際保健規則(2005)(IHR)の規定に従って、出入国する海外旅行者に対するCOVID-19ワクチン接種の証明の締約国による要件の導入の可能性に関する科学的、倫理的、法的および技術的、考慮事項を示している。
ワクチン接種証明は、SARS-CoV-2感染に応答する抗体がある免疫状態であることの証明書というわけでなく、誰がCOVID-19ワクチンを接種したかどうかのみを反映していると考える。 WHOは、下記のサイトで「immunity(免疫)」パスポートに関する概要を説明している。さらに、「immunity(免疫)」パスポートに関連する倫理的問題と考慮事項の詳細については、https://www.who.int/bulletin/volumes/99/2/20-280701.pdfを参照してください。
Interim position paper: considerations regarding proof of COVID-19 vaccination for international travellers
WHOの見解
COVID-19ワクチンの効果がまだよくわかっていない現時点(2021/2/05)でWHOの見解としては、各国の当局や輸送業者は出入国の条件としてCOVID-19ワクチン接種証明を要件として導入すべきではないと考える。ワクチン供給が限られており、旅行者への優先的なワクチン接種となれば、ハイリスクと思われる人へのワクチン接種が不十分になる可能性があるからである。また、WHOはCOVID-19ワクチン接種を受けても通常の渡航感染症対策をとるように勧告している。
これらの暫定勧告は、COVID-19パンデミックに関する国際保健規則緊急委員会が2021年1月14日の第6回会合で策定した助言に沿ったものである。これらの勧告は、3ヶ月後、あるいは次回の緊急会合で、すぐにではないが見直される予定である。
科学的考察
COVID-19ワクチンについては、以下の多くの科学的不明点が残されている。
・SARS-CoV-2の変異種を含む疾病予防と感染制御の効果
・ワクチンの効果持続期間
・ブースター接種のタイミング
・無症候性感染に対する予防をワクチンが提供するかどうか
・ワクチン接種を優先すべき年齢と集団
・具体的なワクチン接種の禁忌項目
・渡航時のワクチン接種時期
・SARS-CoV-2に対する抗体を持つ人の免除の可能性
などがある。勧告は、新旧のCOVID-19ワクチンに関するエビデンスがまとめられ、WHO予防接種専門家戦略諮問グループ(SAGE:Strategic Advisory Group of Experts on Immunization)からの助言により更新される。これまでにWHOは、2021年1月5日と25日に開催されたSAGEの臨時会議を経て、緊急使用リストに掲載された2つのワクチン、mRNAワクチンBNT162b2(ファイザー・バイオンテック社)とmRNA-1273ワクチン(モデルナ社)について勧告を行ってきた。
中間勧告では、これら2つのワクチンのCOVID-19に対する有効性、および推奨される集団とその設定に関する科学的考察が示されている。また、有効性に関する現在の研究の違いをリストアップしている。SAGEはWHOとしてはハイリスクグループ(高齢者を含む、基礎疾患を持つ人)に属する場合や優先順位決定ロードマップで特定された疫学的な状況(https://www.who.int/publications/m/item/who-sage-roadmap-for-prioritizing-uses-of-covid-19-vaccines-in-the-context-of-limited-supply)でない限り、海外旅行者へのこれらのワクチン接種は推奨しないと結論づけた。現在、旅行者にCOVID-19ワクチンの接種を推奨していないと結論付けている。SAGEは、ワクチン供給量の増加に伴いこれらの推奨事項は再検討されると付け加えた。
倫理的考察
現在、COVID-19ワクチン供給は世界的に限られており、特に低中所得国では限られている。 現在、ワクチン接種を開始している国の94%は、高所得者層または高中所得者層に属している。WHOは、COVID-19ワクチンの不公平な配分が、すでに存在する不平等を深め、新たな不平等をもたらす可能性があるとの懸念を示している。
現在の状況では、渡航条件としてワクチン接種を導入することは限られたワクチン供給において世界での公平な供給を妨げる可能性があり、個々の社会や世界全体の健康に対するワクチン接種の利益を最大化する可能性は低いと考えられる。 渡航条件としてのワクチン接種を導入する政策により、個人、経済、社会的利益が促進される可能性がある一方で、これらの利益は、ワクチンによりリスクが軽減される重要な未知なことも含め、現在の科学的知識に基づいて公衆衛生へのリスクとのバランスを取らなければならない。
もう一つの倫理的配慮は、利益と負担の一般的な配分の公平性である。ワクチンが不平等に配分されている状況では、認可されたCOVID-19ワクチンを接種できない人は、ワクチン接種状況の証明が入国や出国の条件となった場合、移動の自由が不当に阻害されることになる。 各国は、個人の移動の自由を最も侵害しない公衆衛生上の介入を選択すべきである。
法的考察
IHRの規定に合意した締約国は、出国・入国する外国人旅行者に対する予防接種の証明要件の導入に関するIHRの規定を遵守することが期待される。2021年1月14日に開催された第6回COVID-19パンデミックに関するIHR緊急委員会は、各国が海外渡航者にワクチン接種の証明を求めるのは時期尚早であると勧告した。その後、WHO事務局長は、COVID-19パンデミックに関連した国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態に鑑みて、各国に対して以下の暫定勧告を発表した。
「現時点では、ワクチン接種の感染抑制効果についてはまだ未知数であり、入手できるワクチンも限られているため、各国は入国の条件としてワクチン接種証明や免疫力の要件を導入すべきではない。」
現在、黄熱病は、IHRに記載されている唯一の疾患であり、各国が海外旅行者に対してワクチン接種の証明を要求することができる(IHRの付属書7)。さらに、ポリオウイルスの国際的な蔓延が国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態の中で、ポリオIHR緊急委員会の助言に従い、WHOは3ヶ月ごとに、特定の影響を受けた国が海外旅行者に対してポリオワクチン接種証明を義務付けることを認める暫定勧告を発行している。
今後、IHRの規定に従って、海外旅行者に対するCOVID-19ワクチン接種証明の義務付けを導入する場合、疾病の国際的な広がりからすべての人々を保護するために、ワクチンはWHOによって承認され、適切な品質と広く入手可能なものでなければならない。( 国際的な旅行者に対するワクチン接種要件に関する規定の詳細については、IHRの第31条、第36条、第40条、第43条及び付属書6及び7を参照のこと。規則の下での暫定勧告又は常設勧告の発行に関する規定については、各国が出入国の条件として外国人旅行者の予防接種の証明要件を導入することを認めることができるため、第12条、第15条、第18条及び第53条を参照のこと。)
技術的考察
デジタルのワクチン接種証明書は、さらに、国の予防接種プログラムのニーズをサポートする必要があり、デジタル技術によって不公平が生じたり、それを永続させたりしないことを保証しなければならない。WHOは国内および国際レベルでの使用可能なデジタルのワクチン接種証明書のために、そのガバナンスの枠組みと仕様の確立に加盟国とともに取り組んでいる。
将来的にどのような技術が導入されるかに関わらず、海外旅行者のCOVID-19接種状況は、IHRの付属書6に示されているモデルに基づいて、国際的なワクチン接種および接種証明書を通じて記録されるべきである。WHOが事前に認定したCOVID-19ワクチンが広く入手可能となり、IHRの下で関連する推奨事項が提供されるようになれば、同じ形式を適用することができる。
出典
5 February 2021 COVID-19 Travel Advice
https://www.who.int/news-room/articles-detail/interim-position-paper-considerations-regarding-proof-of-covid-19-vaccination-for-international-travellers