マールブルグ病-タンザニア連合共和国

Disease outbreak news 2023年3月24日

発生状況一覧

2023年3月21日、タンザニア連合共和国(以下、「タンザニア」という。)の保健省(MoH)は、同国のマールブルグ病(MVD)のアウトブレイクを宣言しました。3月22日現在、タンザニア、カゲラ(Kagera)州ブコバ(Bukoba)地区にある2つの村から、死者5人を含む計8人の患者(致死率は62.5%)が報告されています。このうち2名は医療従事者であり、1名は死亡しています。これは同国で初のマールブルグ病のアウトブレイクになります。
 
対応策として、迅速対応チームが派遣され、接触者追跡活動やリスクコミュニケーション活動など、感染発生地域の調査や支援を実施しています。WHOは、カゲラ州の北部に位置するウガンダ、西部に位置するルワンダ、ブルンジを含む国境を接する国との間で国境を越えた人の移動があるため、感染拡大のリスクは国家レベルで非常に高く、小地域レベルで高く、地域レベルでは中程度と評価しています。世界レベルでのリスクは低いと評価しています。

発生の概要

2023年3月16日、タンザニア保健省は、タンザニア北部に位置するカゲラ州ブコバ地区の2つの村で、原因不明の疾患による患者7人と死者5人が報告されたと発表しました。その後、タンザニアの国立公衆衛生研究所(National Public Health Laboratory, Tanzania)で逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)により、本疾患はマールブルグ病であることが確認されました。それに伴い、2023年3月21日、保健省は国内初のマールブルグ病のアウトブレイクを公式に宣言しました。
 
3月22日現在、カゲラ州から5人の死者を含む8人の患者(致死率は62.5%)が報告されています。残りの3人の患者は現在治療中です。3月22日現在、カゲラ州のブコバ地区以外からの感染者は報告されていません。
 
最初に確認された症例は、タンザニアのビクトリア湖に浮かぶゴジバ島への旅行歴を報告し、ブコバ地区の村に戻った後に症状を発症しました。この患者はこの村で死亡しています。この初発症例の患者家族から、さらに4人の感染が確認されました。さらに、この患者らを治療した医療従事者の間で2例が報告され、うち1例は死亡しました。8例目については情報がなく、調査中です。報告された患者の症状は、発熱、下痢、嘔吐、複数部位からの出血、および腎不全でした。死亡例と生存例の両方から検体を採取し、国立公衆衛生研究所でマールブルグウイルスが確認されました。

マールブルグ病の疫学

マールブルグ病は、24-90%と高い致死率を伴う伝染性の疾患です。エボラウイルス病と同じフィロウイルス科(Filoviridae)によって引き起こされ、臨床的にも類似しています。今回のアウトブレイクにおける致死率は62.5%と比較的高いです。
 
マールブルグ病は、オオコウモリのコロニーが生息する鉱山や洞窟に長期間わたり曝露されることで発症する場合が多いです。ウイルスに感染した患者やマールブルグ病での死者の血液、分泌物、その他の体液に直接触れることで、人から人へ感染します。医療従事者が、マールブルグ病疑い、または確定患者の治療中に感染した事例もあります。また、死者の体に直接触れる埋葬の儀式も、マールブルグ病の伝播につながる可能性があります。
 
潜伏期間は2~21日と様々です。マールブルグウイルスによる症状は、突然始まり、高熱、激しい頭痛、激しい倦怠感を伴います。3日目には、激しい水様性の下痢、腹痛やけいれん、吐き気、嘔吐が始まることもあります。重度の出血性症状は、発症から5~7日の間に現れ、致命的な症例では通常何らかの出血があり、多くの場合複数の部位から出血します。死亡例では、発症から8~9日後に死亡することが多く、通常、重度の出血とショックから死に至ります。
 
マールブルグ病の臨床診断は、症状が他の発熱性疾患と類似しているため、初期段階では困難です。マールブルグ病の鑑別診断には、他のフィロウイルス感染症、ラッサ熱、マラリア、腸チフス、デング熱、リケッチア感染症、レプトスピラ症、ペストなどが考えられます。
 
確定診断は、主にRT-PCRで行われます。その他、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA法)、抗原捕捉検出法、血清中和試験、電子顕微鏡法、細胞培養によるウイルス分離などの検査によっても行うことができます。
 
マールブルグ病にはワクチンや抗ウイルス治療法はありませんが、経口または静脈注射による水分補給などの支持療法と各症状に対する対症的な治療が生存率を向上させます。血液製剤、免疫療法、薬物療法などさまざまな治療法の可能性が検討されています。
 
タンザニアがマールブルグ病のアウトブレイクを報告したのは今回が初めてです。赤道ギニア共和国でもマールブルグ病のアウトブレイクが継続中ですが(詳細は3月22日に発表されたDisease outbreak newsを参照)、今のところ2つのアウトブレイクに疫学的関連があることを示す証拠は見つかっていません。その他、ガーナ共和国(2022年)、ギニア共和国(2021年)、ウガンダ共和国(2017年、2014年、2012年、2007年)、アンゴラ共和国(2004~2005年)、コンゴ民主共和国(1998年、2000年)、ケニア共和国(1990年、1987年、1980年)、南アフリカ共和国(1975年)でマールブルグ病のアウトブレイクがこれまでに報告されています。

公衆衛生上の取り組み

・地域および地区レベルの迅速対応チームが派遣され、調査および対応策を実施しています。
・判明している感染者の接触者を含め、地域や医療施設で同様の症状を持つ人を観察する接触者追跡活動が実施されています。合計161人の接触者が特定され、140人が3月21日に医療従事者によるフォローアップと経過観察を受けました。
・また、カゲラ州では、健康意識に関する教育や予防法の知識を提供するため、リスクコミュニケーション活動も開始されています。

WHOによるリスク評価

タンザニアは、致死率が最大90%という毒性・伝染性ともに非常に強い疾患であるマールブルグ病の発生を同国で初めて報告しました。感染発生地域であるカゲラ州は、北はウガンダ、西はルワンダとブルンジの3か国に加えビクトリア湖に隣接しており、国境を越えた人の移動により、疾病伝播のリスクが高まる可能性があります。また、タンザニアやカゲラ州の近隣諸国では、エジプトルーセットオオコウモリ (Roussettus aegyptiacus)からマールブルグウイルスが検出されていることから、この地域ではこの種のコウモリがウイルスの宿主である可能性があります。
 
致死率が高く、アウトブレイクが国内の他の地域に拡大する恐れがあること、対応策を実施するための人的、財政的、物質的リソースが不足していること、患者が増加した場合にその対応に追われ医療がひっ迫する可能性があることから、国レベルでのリスクは非常に高いと評価されています。
 
近年では、コンゴ民主共和国で2022年4月23日から7月3日、2022年8月21日から9月27日にかけてエボラウイルスが発生し、ウガンダ共和国では2022年9月20日から2023年1月11日までスーダン型エボラウイルスが発生したことを受け、タンザニアを含む近隣諸国はフィロウイルス疾患に対する準備体制の構築を進めています。西アフリカ地域では、赤道ギニア共和国で2023年2月13日にマールブルグ病のアウトブレイクが宣言され、現在も流行が続いています。
 
現在までに得られた情報に基づき、リスクは小地域レベルで高く、地域レベルでは中程度、世界レベルでは低いと判断されています。
 

WHOからのアドバイス

マールブルグウイルスの人から人への感染は、主に感染者の血液および/またはその他の体液との直接接触に関連しています。医療行為に伴うマールブルグウイルスの感染は、適切な感染制御対策が実施されていないか、あるいは不十分であった場合に発生しています。
 
マールブルグ病の確定、あるいは疑い患者をケアする医療従事者は、標準予防策に加えて、患者の血液やその他体液、および汚染された物との接触を避けるために、追加の感染予防・管理策を実施する必要があります。
 
接触者追跡活動や積極的な症例発見を含む監視・検索活動は、感染の発生した保健区域で強化すべきです。マールブルグ病のアウトブレイクを封じ込めるための対策としては、死者の迅速で安全かつ尊厳ある埋葬、マールブルグウイルスに感染した人と接触した可能性のある人の特定と21日間の経過の観察、さらなる感染を防ぐための健康な人と患者の隔離、確定患者のケア、清潔な衛生状態と環境の維持などがあります。
 
マールブルグ病感染の危険要因と、ウイルスへの曝露を減らすために個人ができる防護策についての人々の知識や認識を深めることは、感染と死亡を減らすための重要な対策です。
 
WHOは、すべての国に対して、確認のために陽性か陰性かの結果を問わず、患者の検体をWHO協力センターに発送するよう奨励しています。
 
現在のリスク評価に基づき、WHOはタンザニアとの旅行や貿易の制限を行わないよう助言しています。
 

出典

Marburg virus disease – United Republic of Tanzania
Disease Outbreak News 24 March 2023
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2023-DON451