マールブルグ病-赤道ギニア共和国

Disease outbreak news 2023年3月22日

発生状況一覧

本症例に関するアウトブレイクニュース(Disease Outbreak News)が2023年2月25日に発表されて以来、赤道ギニア共和国(以下、「赤道ギニア」という。)でマールブルグ病(MVD)の検査確定症例が8例追加で報告されました。これにより、2023年2月のアウトブレイク宣言以降、検査確定症例は9例、推定症例は20例となりました。検査確定者のうち死亡者は7人であり、推定症例の患者はすべて死亡しています。新たに確認された8例のうち、2例はキエンテム(Kié-Ntem)県から、4例はリトラル(Litoral)県から、2例はサントル・スール(Centre- Sur)県から報告されています。報告された地域は約150キロ離れており、ウイルスが広く伝播していることが示唆されます。
 
WHOは専門家を派遣し、国の対応努力を支援するとともに、対応へのコミュニティの関与を強化しています。
 
マールブルグ病は、出血熱を引き起こす強毒性疾患であり、国際保健規則の下で審査を必要とするウイルス性出血熱の一つです。
 
WHOは、このアウトブレイクがもたらすリスクを、国家レベルでは非常に高く、地域レベルでは中程度、世界レベルでは低いと評価しています。

発生の概要

2023年2月7日、赤道ギニア保健社会福祉省は、リオムニ(Río Muni)にあるキエンテム県東部のノソック・ノソモ(Nsock Nsomo)地区 ある2つの村で、2023年1月7日から2月7日にかけて発生した少なくとも8人のマールブルグ病疑いの死亡を報告しました。
 
2023年2月12日、接触者から8つの血液検体が採取され、セネガル共和国のダカール(Dakar)にあるパスツール研究所に送られました。そのうちの1つが逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)によりマールブルグウイルス陽性であることが確認されました。この患者は、発熱、嘔吐、血の混じった下痢、痙攣を呈し、2023年2月10日に病院で死亡しました。この患者は、ノソック・ノソモ地区にある村の死亡した疑い症例4人と疫学的なつながりもありました。
 
2023年3月13日、キエンテム県に住む2人の追加検体が、エビベイン(Ebibeyin)地域病院の移動式検査室で行われたRT-PCRによってマールブルグ病陽性と判定されました。もう1つの別の検体は、キエンテム県で確認された症例と疫学的に関連している、国の西部にあるリトラル県の住民から得られたもので、同じ研究所で行われたRT-PCRにより2023年3月15日にマールブルグ病の陽性反応が出ました。2つの県(キエンテムとリトラル)は、国内で地理的に約150km離れています。3月18日と20日、リトラル県からさらに3例の検査確定例が報告されました。3月20日には、サントル・スール県からさらに2例の検査確定症例が報告されました。サントル・スール県では、症例の地理的分布が広く、疫学的なつながりが不明であることから、ウイルスが検出されることなく地域社会に広がっている可能性があると考えられます。
 
赤道ギニアでは、流行開始以来、3月21日現在、累計で9件の確定例と20件の推定例が記録されています。

マールブルグ病の疫学

マールブルグウイルスと近縁のRavnウイルスは、致死率が最大で88%に達するマールブルグウイルス病の原因です。マールブルグ病は、1967年にドイツ連邦共和国のマールブルグ(Marburg)とフランクフルト(Frankfurt)、セルビア共和国のベオグラード(Belgrade)で同時に発生した後で最初に発見されました。マールブルグウイルスの自然宿主はエジプトルーセットオオコウモリ(Rousettus aegyptiacus fruit bats)とされ、コウモリから人に感染します。
 
マールブルグ病は、感染者の血液、分泌物、臓器などの体液および、これらの体液で汚染された寝具や衣服などに、傷ついた皮膚や粘膜が直接触れることによって、人々の間に広がります。医療従事者が、マールブルグ病疑い、または確定患者の治療中に感染した事例もあります。また、死者の体に直接触れる埋葬の儀式も、マールブルグ病の伝播につながる可能性があります。
 
潜伏期間は2~21日と様々です。マールブルグウイルスによる症状は、突然始まり、高熱、激しい頭痛、激しい倦怠感があります。3日目には、激しい水様性の下痢、腹痛やけいれん、吐き気、嘔吐が始まることもあります。重度の出血性症状は、発症から5~7日の間に現れ、致命的な症例では通常何らかの出血があり、多くの場合複数の部位から出血します。死亡例では、発症から8~9日後に死亡することが多く、通常、重度の出血とショックから死に至ります。
 
発症初期には臨床症状が他の多くの熱帯熱性疾患と類似しているため、マールブルグ病の臨床診断においてこれらと区別することが困難です。エボラウイルス病、マラリア、腸チフス、レプトスピラ症、リケッチア感染症、ペストなど他のウイルス性出血熱を除外する必要があります。
 
確定診断は、主にRT-PCRで行われます。その他、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA法)、抗原捕捉検出法、血清中和試験、電子顕微鏡法、細胞培養によるウイルス分離などさまざまな検査によって行うことができます。
 
マールブルグウイルスを治療するためのワクチンや抗ウイルス治療法は現時点で認可されたものはありませんが、経口または点滴による水分補給などの支持療法と対症療法が生存率を向上させます。血液製剤、免疫療法、薬物療法など、さまざまな治療法の可能性が検討されています。
 
赤道ギニアがマールブルグ病のアウトブレイクを報告したのは今回が初めてです。直近で報告されたマールブルグ病のアウトブレイクは、2022年にガーナで発生したものです。(3例の感染者が確認されました。)その他、ギニア共和国(2021年)、ウガンダ共和国(2017年、2014年、2012年、2007年)、アンゴラ共和国(2004~2005年)、コンゴ民主共和国(1998年、2000年)、ケニア共和国(1990年、1987年、1980年)、南アフリカ共和国(1975年)でマールブルグ病のアウトブレイクが過去に報告されました。

公衆衛生上の取り組み

・アウトブレイクの発生源を特定するため、綿密な疫学調査が続けられています。
・国家チームが感染地区に派遣され、積極的な症例発見、接触者追跡、疑い例の臨床管理が行われています。
・WHOは、疫学、症例管理、感染予防と管理(IPC)、検査機関、リスクコミュニケーションの専門家を派遣し、国の対応努力を支援し、コミュニティの関与を確実にしています。
・WHOは、500人の医療従事者向けに、検体収集と分析のための資材、個人防護具を含むウイルス性出血熱キットを発送しました。
・WHOは、サーベイランス、症例管理、IPC、安全で尊厳のある埋葬(SDB)、リスクコミュニケーションとコミュニティへの参加(RCCE)に関する国の対応者の訓練を支援しています。
・政府は、保健大臣と地区最高医療責任者のリーダーシップのもと、エビベイン(Ebibeyin)にある公衆衛生緊急オペレーションセンター(PHEOC)を始動し、このセンターは現在はバタ(Bata)に移りました。
・WHOは、意識向上、予防情報の共有、注意事例の報告を促すことを目的としたコミュニティ活動への取り組みを支援しています。
・ホットラインが利用できるようになり、アラートシステムが確立されました。

WHOによるリスク評価

赤道ギニアは、初めてマールブルグ病のアウトブレイクに直面しており、アウトブレイクを管理する能力を向上させる必要があります。
 
2月25日のアウトブレイクニュース(Disease Outbreak News)で報告された確定症例1人に加え、さらに8人がマールブルグ病の陽性反応を示しており、ウイルスへの国民の曝露がより広がっている可能性を示しています。
 
感染が発生した3つの県はすべて、カメルーンおよびガボンと国境を接しています。国境を越えた住民の移動は頻繁であり、国境は非常に脆弱です。赤道ギニア以外ではマールブルグ病の症例は報告されていませんが、国際的な感染拡大のリスクは排除できません。
 
上記の状況を考慮し、前回の更新以降に新たに入手した情報、赤道ギニアにおけるアウトブレイクの地理的な広がり、確認された症例の一部について疫学的関連が不明であることなどを踏まえ、リスク評価は現在見直されていますが、国家レベルでは非常に高く、小地域レベルでは高く、地域レベルでは中程度、世界レベルでは低いとされています。

WHOからのアドバイス

マールブルグ病の発生抑制は、迅速な隔離と症例管理、積極的な症例検索、症例調査、接触者追跡を含む監視、最適な検査サービス、迅速で安全かつ尊厳ある埋葬を含む感染予防と管理、社会動員など、さまざまな介入方法を用いることに頼るしかなく、コミュニティの参加こそがマールブルグ病発生をうまく抑制する鍵となっています。マールブルグ病感染の危険因子と個人ができる予防策についての認識を高めることは、人への感染を減らすための効果的な方法です。
 
マールブルグ病が確定または疑われる患者をケアする医療従事者は、患者の血液や体液、汚染された場所や物品との接触を避けるために、標準的な予防策に加えて、さらにIPC対策を適用する必要があります。
 
WHOは、マールブルグ病の男性生存者が、症状の発症から12ヶ月間、または精液が2回マールブルグウイルスに対して陰性となるまで、より安全なセックスと衛生を実践することを推奨しています。体液との接触は避けるべきであり、石鹸と水による洗浄が推奨されています。WHOは、血液検査でマールブルグウイルスが陰性となった男性または女性の回復期の患者を隔離することは推奨していません。
 
入手可能な情報と現在のリスク評価に基づき、WHOは赤道ギニアへの渡航や貿易の制限を行わないよう助言しています。

出典

Disease Outbreak News
Marburg virus disease - Equatorial Guinea
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2023-DON449