鳥インフルエンザA(H5N1)– メキシコ(2025年4月17日)
海外へ渡航される皆様へ
今回メキシコで報告された鳥インフルエンザは、H5N1感染による重症呼吸器感染症です。感染した鳥や哺乳類、その排泄物、死骸などとの接触が主な感染経路で、感染してから2~8日程度で、発熱や咳など、季節性インフルエンザと同じような症状が出現します。
特に、生きた鳥が売られている市場や、養鶏場などの鳥を飼っている場所で感染の報告があるため、市場や養鶏場への訪問や鳥との接触を避けることでリスクを減らすことができます。訪問や接触を避けられない場合はマスクや手袋を着用し、鳥に直接触れないようにすることで、感染するリスクを減らすことができます。
以下の点を事前に確認して、健康に気を付けて渡航してください。
●渡航前の情報収集
鳥インフルエンザに関する情報、メキシコで流行している感染症に関する情報、渡航先の医療情報を、FORTHや外務省などの公式な情報源で確認してください。トラベルクリニックで渡航前に対策について相談することも可能です。
●渡航中の健康管理
1.基本的な感染予防策
石鹸と水での手洗いやアルコール消毒液の使用などの手指衛生、マスクの着用や咳エチケットといった基本的な感染予防策は鳥インフルエンザに対しても有効です。
2.リスクを軽減するための対策
鳥インフルエンザは、感染した鳥類や哺乳類、その排泄物、死骸などに濃厚に接触することが主な感染経路なので、養鶏場や生きた動物を売買している市場に近づいたり、鳥や動物の死骸に接したりするようなリスクの高い行動を行う場合、手洗いの励行、手袋・マスクなどの着用で、感染するリスクを減らすことができます。
3.体調不良時の行動
渡航中に発熱、咳などのインフルエンザのような症状が出た場合は、速やかに現地の医療機関を受診し、渡航歴・現地での行動を必ず伝えてください。
●帰国後の対応
鳥インフルエンザの発生がみられる地域から日本へ帰国した時に体調に異常があれば、空港や港の検疫所で渡航歴・現地での行動を伝えたうえで相談してください。 帰国後10日間程度の期間、ご自身の健康状態に注意し、発熱や咳や痰などの症状があれば速やかに医療機関に相談してください。その際、受診前に必ず渡航歴や・現地での行動を医療機関に伝えてください。
そのほか、海外渡航に関する一般的な注意事項はここに注意!海外渡航にあたってをご参照ください。
以下のDisease Outbreak Newsの翻訳は、厚生労働省委託事業「国際感染症危機管理対応人材育成・派遣事業」にて翻訳・メッセージ原案を作成しています。
状況概要
発生の詳細
この症例はメキシコで報告された鳥インフルエンザA(H5)のヒト感染としては2例目であり、同国でインフルエンザA(H5N1)ウイルスの感染が確認された初の症例となります。
この症例はドゥランゴ州の10歳未満の子どもで、疫学診断・検査研究所(InDRE)で行われたインフルエンザA(H5N1)検査で陽性でした。
この症例には基礎疾患はなく、季節性インフルエンザワクチンの接種歴はなく、渡航歴もありませんでした。症状は2025年3月7日に発熱、倦怠感、嘔吐で始まりました。3月13日、呼吸不全のため入院し、翌日から抗ウイルス治療が開始されました。3月16日に三次医療機関に転院しましたが、呼吸器合併症のため4月8日に死亡しました。
3月18日、鼻咽頭ぬぐい液が採取され、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)で処理されました。結果はインフルエンザA型、亜型不明でした。検体はモンテレー・メキシコ社会保障庁のノロエステ生物医学研究センター(CIBIN)に送られ、そこでインフルエンザA型、亜型不明と確認され、同時にパラインフルエンザ3型ウイルスも検出されました。3月31日、検体は疫学中央研究所(LCE)に送られ、分子生物学的にインフルエンザA(H5)と同定されました。4月1日、検体はInDREに受理され、RT-PCR検査によりインフルエンザA(H5N1)の陽性結果が確認されました。さらに検体は鳥インフルエンザA(H5N1)系統2.3.4.4b遺伝子型D1.1と分類されました。
感染源は現在調査中です。積極的疫学調査の結果、接触者が91人特定されました。うち21人は家庭内接触者、60人は医療従事者、10人は保育施設関係者でした。接触者49人から採取された咽頭および鼻咽頭ぬぐい液検体は、インフルエンザA(H5N1)の検査で陰性でした。現在までに、本症例に関連するインフルエンザA(H5N1)のヒト感染例は確認されていません。
メキシコ国立食品衛生安全品質管理局(SENASICA)の情報によると、2022年1月から2024年8月の間に、メキシコのさまざまな地域で75件の家きんにおけるA(H5N1)の発生が報告され、その地域にはアグアスカリエンテス(5)、バハ・カリフォルニア(4)、チアパス(1)、チワワ(3)、グアナファト(2)、ハリスコ(17)、メキシコシティ(7)、ミチョアカン(1)、ヌエボ・レオン(1)、オアハカ(2)、プエブラ(2)、ソノラ(8)、タマウリパス(1)、ベラクルス(1)、ユカタン(20)が含まれていました。2025年1月末、SENASICAは患者が住んでいたドゥランゴ州のサワトバ動物園で病気のハゲワシから高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)A(H5N1)の新たな症例を確認しました。これに続き、ドゥランゴ州ペーニャ・デル・アギラ・ダムで、神経症状と出血症状を呈したカナダガン1羽の死亡が報告されました。計25羽の病鳥が報告され、ドゥランゴ州ゴメス・パラシオの研究所で高病原性鳥インフルエンザA(H5)の存在が確認されました。ラス・アウラス公園でも、高病原性鳥インフルエンザA(H5)の陽性例が1羽で確認されました。
鳥インフルエンザの疫学
鳥インフルエンザウイルスのヒトへの感染は、軽度の上気道症状から重篤で生命を脅かす状態まで、様々な症状を引き起こす可能性があります。臨床症状としては、結膜炎、呼吸器症状、消化器症状、脳炎、脳症などが挙げられます。感染した動物や環境での曝露歴のある個人において、A(H5N1)ウイルスの無症候性感染が検出された症例もあります。
ヒトへの鳥インフルエンザ感染の確定診断には、検査室による確認が必要です。WHOは、RT-PCRなどの分子診断法を用いた動物インフルエンザの検出に関する技術ガイダンスを定期的に更新しています。臨床的エビデンスによれば、特定の抗ウイルス薬、特にノイラミニダーゼ阻害剤(例:オセルタミビル、ザナミビル)は、ウイルス複製期間を短縮し、一部の症例では、患者の予後を改善することが示されています。
2003年から2025年4月10日までの間に、鳥インフルエンザA(H5N1)によるヒト感染例が24か国から972例WHOに報告され、うち470例が死亡(致命率48.4%)していました。これらの症例のほぼ全てが、生きているまたは死んだ鳥類、あるいは汚染された環境との濃厚接触に関連しています。
公衆衛生上の取り組み
●症状のある家庭内接触者および医療従事者からの呼吸器検体の採取、濃厚接触者の継続的な追跡調査および監視など、症例および接触者に関する包括的な疫学調査を実施すること。
●地域における非定型的な呼吸器感染症の発生状況や傾向を特定し分析するため、特にインフルエンザウイルスに焦点を当て、呼吸器ウイルス(インフルエンザ様疾患 [ILI(influenza-like illness)] および重症急性呼吸器感染症 [SARI(severe acute respiratory infection)] を含む)の監視を強化すること。
●SENASICA と国家環境機関(SEMARNAT および CONANP)が関与するワンヘルス・アプローチを活性化し、機関間の調整を確保し、動物の健康に対する潜在的なリスクと地域社会および動物個体群における曝露の可能性を評価したうえで、その結果を国家疫学監視委員会 (CONAVE)に通知すること。
●家きんおよび野鳥における高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の発生状況を国際獣疫事務局(WOAH)に定期的に報告すること。2025年3月5日の最新の報告では、積極的な監視と発生時の迅速な通報が行われており、最近ではドゥランゴ州で発生が確認されました。そのため、地元の養鶏農家は、農場および裏庭でのバイオセキュリティ対策を強化し、動物の健康状態に異常が見られた場合は直ちに関係当局に報告するよう強く要請されています。家きん生産施設、裏庭、連邦政府の検査を受けたと畜場、市営と畜場、そして野鳥の個体群に関する国家レベルのモニタリングを通じて、継続的な疫学監視が実施されています。
WHOによるリスク評価
2022年1月以降、メキシコの複数の州(ドゥランゴ州を含む)で、家きんにおけるA(H5N1)を含むHPAI A(H5)ウイルスの発生が報告されています。
鳥インフルエンザウイルスが家きん類の間で循環していると、感染した鳥や汚染された環境との接触を通じたヒトへの感染リスクが高まります。そのため、散発的なヒト感染例の発生が予想されます。
1997年から2007年にかけて、いくつかの国で、A(H5)ウイルスのヒトからヒトへの感染が散発的に観察されていましたが、持続的な感染は記録されていません。入手可能な疫学的およびウイルス学的データは、過去のアウトブレイクで確認されたA(H5)ウイルスが持続的なヒトからヒトへの感染能力を獲得していないことを示唆しています。
WHOは、最新の情報に基づき、A(H5)ウイルスに関連する全体的な公衆衛生リスクは低いと評価しています。ただし、職業上曝露のある個人については、感染リスクは低から中程度と考えられます。
この事象に関連して新たな疫学的またはウイルス学的知見が明らかになるにつれて、リスク評価は更新されます。
WHOからのアドバイス
インフルエンザウイルスの動的かつ進化する性質を踏まえ、WHOは、ヒトや動物の健康に影響を与える新興または流行中のインフルエンザ株のウイルス学的・疫学的・臨床的変化を検出・監視するための強固な世界的サーベイランスシステムの、極めて重要な役割を強調しています。包括的なリスク評価を行う上で、ウイルス分離株の迅速な共有は依然として不可欠です。
家きん、野鳥、その他の動物種におけるインフルエンザAウイルスの発生に人間がさらされる場合、またはヒトでの感染例発生が疑われる場合は、ウイルスに曝露される可能性のある集団に対し、直ちに監視を強化する必要があります。
サーベイランス(監視)戦略は、影響を受けている地域の人々の医療機関受診行動を考慮し、積極的・受動的な方法を組み合わせるべきです。例えば、インフルエンザ様疾患(ILI)や重症急性呼吸器感染症(SARI)の定点観測システムを通じた積極的な症例探索、病院ベースのスクリーニング、職業上曝露リスクが高いと思われる集団を対象とした集中的な監視などが含まれます。また、監視の網羅性を高めるため、伝統的ヒーラー、民間開業医、民間検査機関など、追加の情報源も適宜取り入れるべきです。
鳥インフルエンザウイルスが家きん類、野鳥、そして一部の哺乳類の間で広く検出されていることを考慮し、一般の方々は病気の動物や死亡した動物との直接接触を避けるようお勧めします。死亡した鳥や哺乳類が見つかった場合や、それらの回収を依頼する場合は、安全な取り扱いと検査を確実にするため、地域の獣医師や野生動物管理当局に報告してください。
卵や肉を含むすべての家きん製品は、十分に加熱調理し、適切な食品安全対策を講じて取り扱う必要があります。生乳の摂取は健康リスクの可能性があるため、推奨されません。WHOは加熱殺菌乳の摂取を推奨していますが、加熱殺菌乳が入手できない場合は、生乳を沸騰するまで加熱することで安全に摂取できます。
パンデミックを引き起こす可能性のある新型インフルエンザウイルスA型(鳥類由来株を含む)によるヒト感染が確定または疑われる場合は、包括的な疫学調査を開始する必要があります。そのためには、動物への曝露歴、旅行歴、濃厚接触者の特定など、検査による確定診断に先立って詳細な評価を行う必要があります。疫学調査には、新型ウイルスのヒトからヒトへの感染を示唆する異常な事象の早期発見も含まれるべきです。確定例または疑い例の臨床検体は検査を行い、WHO協力センターに送付してウイルス学的特性をさらに解析する必要があります。感染源と疑われる動物、環境、または食品からも追加検体を採取する必要があります。
家きんの生産および加工環境で働く人は、鳥や汚染された可能性のある環境と密接に接触するため、鳥インフルエンザやその他の人獣共通感染症に感染するリスクが高いので、追加の健康上の注意を払う必要があります。
鳥インフルエンザA(H5)ウイルスに感染または汚染された動物や物資と直接または密接に接触する農場労働者は、曝露のリスクを最小限に抑えるために適切な個人用保護具を着用する必要があります。
現在、ヒトにおけるインフルエンザA(H5)ウイルス感染の予防を目的としたワクチンがいくつか承認されていますが、その供給量は限られています。パンデミック対策のためのワクチン候補ウイルスは、流行している株に基づき、ヒトにおけるA(H5)感染症の予防を目的として選定されています。現在入手可能なデータに基づくと、既存の季節性インフルエンザワクチンによる鳥インフルエンザA(H5)ウイルスに対する予防効果は期待できません。しかしながら、感染または感染の可能性がある鳥やその他の動物に頻繁に曝露する可能性のある人は、季節性インフルエンザワクチンを接種することが重要です。これは、トリ型ウイルスとヒト型ウイルスの重複感染やゲノム組換えのリスクを低減し、パンデミックを引き起こす可能性のある新たな株の発生を防ぐことに貢献するからです。疫学的、臨床的、ウイルス学的な状況を綿密に監視し、最近のヒト、家きん、その他の動物インフルエンザウイルスの更なる特性解析、そして血清学的調査を行うことは、リスク評価と必要に応じたリスク管理対策の調整に不可欠です。
WHOは、動物インフルエンザの発生地域への旅行者に対し、生きた動物を扱う市場、農場、と畜場、あるいは動物の排泄物による汚染の可能性がある環境への訪問を避けるよう助言し、手指衛生と安全な食品取り扱い手順の遵守を強く推奨しています。感染者が海外旅行をする場合、旅行中または到着時の定期健康診断で検出される可能性があります。しかし、このウイルスはまだヒト―ヒト間で容易に感染する能力を獲得していないため、地域社会レベルでのさらなる感染拡大は考えにくいとされています。
新たに発生したインフルエンザAウイルス亜型によるすべてのヒト感染症はIHR (2005)に基づく報告義務があり、IHR締約国は、パンデミックを引き起こす可能性があるため、インフルエンザAウイルスによる最近のヒト感染症が検査で確定診断された場合、症状の有無にかかわらず24時間以内にWHOに報告することが義務付けられています。WHOは、インフルエンザA(H5)確定症例の定義を WHOウェブサイト で更新しました。
WHOは、ヒトと動物の接点におけるインフルエンザウイルスの現状を鑑みて、入国地点での特別な渡航者スクリーニングやその他の制限を推奨していません。