2014年04月21日更新 中東呼吸器症候群(MERS)の発生状況について (更新19)

4月20日付けで公表された世界保健機関(WHO)の情報によりますと、4月18日にギリシャ保健省は、MERS(マーズ)コロナウイルスに感染した確定患者が新たに1人発生したと公表しました。

患者の詳細は以下のとおりです。

・サウジアラビアのジッダ(Jeddah)在住の69歳ギリシャ人男性。この患者は4月17日ギリシャへ帰国しました。ジッダにいる間、4月8日と10日に下痢を伴う発熱症状で医療機関を受診しました。そして、腸チフスの疑いがあるとの診断を受けました。特記すべき点として、この患者は、同じ病院で腸チフスとの診断で3月31日から4月5日まで入院していた妻を、定期的に見舞いに訪れていました。

この患者は、4月17日ギリシャ到着時に受診を希望しました。両側肺炎とMERSに感染していることが、国立インフルエンザ関連研究所で確定診断されました。現在の容態は安定しており、適切な治療を受けています。

ギリシャでは、これがはじめてのMERS感染患者です。

全体として、2012年9月からこれまでに、WHOに報告されたMERSコロナウイルスに感染したと確定された患者は250人で、このうち93人が死亡しました。

現在の状況と利用可能な情報に基づいて、WHOはすべての加盟国へ、重症急性呼吸器感染症(SARI)のサーベイランスを継続し、通常と異なる傾向がみられた場合には慎重に検討するよう推奨しています。

医療機関でMERSコロナウイルスに感染するかもしれないため、感染予防・制御を強化し続ける必要があります。MERSコロナウイルスの感染が疑われる患者や確定患者に医療を提供する施設では、他の患者やヘルスケアワーカー、医療機関を訪れる人にウイルスが感染するリスクを減らすために適切な対策を行うべきです。すべての医療従事者に対して感染予防・制御に関する教育と訓練を定期的に実施すべきです。

MERSコロナウイルスに感染した患者の中には、軽症の患者や、所見が非典型的である患者がおり、患者を常に早期に発見できるわけではありません。そのため、MERSコロナウイルスや他の病原体に感染した疑いがある患者や確定患者の有無にかかわらず、常に、どの場所でも、すべての患者に対して標準予防策を実施することが重要です。

急性呼吸器感染症の症状のある患者に医療を提供する際には、飛沫予防策を追加すべきです。また、MERSコロナウイルスに感染した可能性がある患者や確定患者に医療を提供する際には、眼の防護を加えた接触予防策を追加すべきです。エアロゾル(微粒子)が発生するような処置を行う場合には、空気予防策を行う必要があります。

臨床的にも疫学的にもMERSコロナウイルスの感染が強く疑われる場合には、その患者の最初の鼻咽頭スワブ(ぬぐい液)の検査が陰性であっても、感染している可能性があるとして管理すべきです。最初の検査が陰性であっても、再検査を行うべきで、下気道からの検体が望ましいです。

医療従事者は、引き続き、警戒するよう勧められます。最近、中東から帰国し、SARIを発症した患者には、現在のサーベイランスに関する推奨に示されている通り、MERSコロナウイルスの検査をすべきです。WHOは、すべての加盟国に対し、MERSコロナウイルスの新たな感染者が発生した際には、考えられる感染源と臨床経過の情報を合わせて、速やかに評価して報告するよう呼びかけています。感染様式を確認するための感染源調査は速やかに実施されるべきで、それにより、ウイルスの更なる伝播を防ぐことができます。

MERSコロナウイルスに感染して重症となるリスクが高い人は、ウイルスが存在する可能性があると知られる農場や飼育小屋を訪れる際に、動物との接触を避けるべきです。一般市民は、農場を訪れる際に、動物を触る前と触った後の定期的な手洗いを行う、病気の動物との接触を避ける、食品衛生対策を実施する等の一般的な衛生対策をしっかりと実施すべきです。

WHOは、この事例に関して、入国時の特別なスクリーニングおよび渡航や貿易を制限することを推奨していません。

海外渡航時には、手洗いの励行や動物との接触を避けるなど、一般的な衛生対策を心がけていただくとともに、MERSコロナウイルスの患者が発生している国に滞在した後に、発熱や咳などの呼吸器症状が現れた場合には、検疫所にご相談ください。

出典

WHOGlobal Alert and Response
Middle East respiratory syndrome coronavirus(MERS-CoV) – update
http://www.who.int/csr/don/2014_04_20_mers/en/