2014年10月08日更新 中東呼吸器症候群(MERS)の発生状況について (更新40)
10月2日付けでWHOからサウジアラビアとオーストリアを発信元とする中東呼吸器症候群ウイルス(MERS-CoV)感染に関する情報が公表されています。
サウジアラビラから
サウジアラビアの国立国際保健規約(IHR)担当部局の発表として、MERS-CoV感染に関する検査確定症例を追加報告しました。
2014年8月11日~9月28日、4人の死亡例を含む15例のMERS-CoV感染例がWHOに報告されました。
2014年9月の報告は、ターイフ(Taif)で5例、リヤド(Riyadh)で3例、ナジュラーン(Najran)、ジュバイル(Jubail)およびラニア(Raniah)で各1例の計11例で、このうち2例が死亡と報告されています。 11例の年齢中央値は43歳(27~76歳)で、10例(91%)が男性です。また、6例(55%)が合併症をもち、2例(18%)が動物(例えば、ヒツジやラクダ)との接触者またはラクダの生乳の消費者、そして4例(36%)が医療従事者や医療関連で仕事をする者でした(重複回答あり)。
2014年8月の報告は、ジュバイル(Jubail)で2例、リヤド(Riyadh)とナジュラーン(Najran)で各1例の計4例で、このうち2例が死亡と報告されています。4例の年齢中央値は64歳(34~72歳)で、全例(100%)が男性です。また、3例(75%)合併症をもち、2例(50%)が動物(例えば、ヒツジやラクダ)との接触者またはラクダの生乳の消費者でした(重複回答あり)。
サウジアラビアのIHRの担当者は、2014年6月および7月に報告された4例のMERS-CoV感染者が死亡したことをWHOに報告しました。ギリシャのIHR担当者もMERS-CoV感染症の治療を受けていたギリシャ人患者の死亡をWHOに報告しました。
オーストリアから
2014年9月30日に、オーストリア国立国保健規約(IHR)担当部局は欧州委員会のEWRS(Early Warning and Response System)を通じて、ウィーンで検査による確定診断を行ったところMERS-CoV感染症例が確認されたとWHOに報告した。これはオーストリアで初のMERS-CoV感染症例です。
症例の詳細は以下のとおりです
症例はサウジアラビア王国(SAU)の市民権をもつ29歳の女性です。彼女はサウジアラビアのアフィーフ(Affif)から車でリヤドに移動しました。その後、2014年9月22日にカタールのドーハからウィーンに渡航しました。彼女はオーストリアに到着する前に上気道感染症と発熱の症状を発現していました。
患者は2014年9月24日にオーストリアで医療期間を受診し、9月26日に民間の病院に、さらに、2014年9月28日にウィーンにある高次の感染症病院に搬送されました。現在、患者の様態は安定しています。患者は、ラクダまたはその製品との接触歴、入院歴、MERS-CoV感染症患者との、またあらゆる病気の患者との接触をも報告されていません。
MERS-CoV感染の検査は、2つの異なる標的部位によるRT-PCRを行うことによって、2014年9月29日に確認されました。2014年9月30日には、さらに異なる標的部位を使った検査でも陽性であることが確認されました。
公衆衛生の対応
オーストリアでの接触者は全員が確認され、彼らには病気についての情報が伝えられており、オーストリア保健当局によって経過が観察されています。これまでのところ2名の濃厚接触者が上気道症状を示しており、病院に入院しています。これらの接触者の検査は、2014年9月30日の時点では結果待ちの状態です。
オーストリア保健当局は、患者が渡航前および渡航中に既に感染していたことを前提として対応しています。同機に乗り合わせた乗客の経過観察が続けられており、同機の乗務員に関する情報はカタールに伝達されています。
WHOはオーストリアのIHR担当者とサウジアラビアとの間での情報交換、サウジアラビア国内での患者との接触者の確認と経過観察を促進しています。接触者の追跡は乗客のデータの利用に基づくことになります。
世界的に報告された症例および死亡例の総数は加盟国による症例の見直し作業を行いながら更新しています。世界では、少なくとも301例の関連死を含むMERS-CoV感染症853例が検査での確定診断に至っていることがWHOに報告されています。
WHOのアドバイス
ハッジ(Hajj)への毎年の巡礼中に伴い WHOは2014年6月にMERS-CoV感染症に対する巡礼者へのアドバイスを確認することを加盟国に奨励しました。
現在の状況と利用可能な情報に基づいて、WHOはすべての加盟国へ、重症急性呼吸器感染症(SARI)のサーベイランスを継続し、通常と異なる傾向がみられた場合には慎重に検討するよう推奨しています。
感染予防制御対策は、医療施設でのMERS-CoVの拡散の可能性を防止するために必須です。MERSコロナウイルスに感染した患者の中には、軽症の患者や、所見が非典型的である患者がおり、患者を常に早期に発見できるわけではありません。そのため、医療従事者は診断に関係なく、すべての患者に対し一貫して常に標準予防策を実施することが重要です。急性呼吸器感染症の症状のある患者に医療を提供する際には、飛沫予防策を追加すべきです。また、MERSコロナウイルスに感染した可能性がある患者や確定患者に医療を提供する際には、眼の防護を加えた接触予防策を追加すべきです。エアロゾル(微粒子)が発生するような処置を行う場合には、空気予防策を行う必要があります。
MERS-CoVについてもっと詳細がわかるまでは、糖尿病、腎不全、慢性肺疾患、免疫機能不全のある人々はMERS-CoV感染で重症化するリスクの高いヒトと見なされます。そのため、このような人々がウイルスの存在する可能性がある農場や市場、飼育小屋を訪れる際には動物、特にラクダとの密接な接触を避けるべきです。農場を訪れる際に、動物を触る前と触った後の定期的な手洗いを行う、病気の動物との接触を避ける等の一般的な衛生対策をしっかりと実施すべきです。
食品衛生対策を実施する等の一般的な衛生対策をしっかりと実施すべきです。ラクダの生ミルクや尿、適切に調理されていない肉を摂食するのは避けるべきです。
WHOは、この事例に関して、入国時の特別なスクリーニングおよび渡航や貿易を制限することを推奨していません。
出典
WHO Global Alert and Response(GAR)
Middle East respiratory syndrome coronavirus(MERS-CoV)-Saudi Arabia, 2 October 2014
http://www.who.int/csr/don/02-october-2014-mers-saudi-arabia/en/
Middle East respiratory syndrome coronavirus(MERS-CoV)-Austria, 2 October 2014
http://www.who.int/csr/don/02-october-2014-mers-austria/en/