2015年03月12日更新 中東呼吸器症候群(MERS)の発生状況 (更新14)

2015年3月11日に公表された世界保健機関(WHO)の情報によりますと、サウジアラビアの国際保健規約(IHR)担当者は、2015年2月26日から3月2日までの間に5人の死亡者を含む中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)に感染した新たな患者18人の発生を報告しました。また、3月9日にカタールの国際保健規約(IHR)担当者は、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)に感染した新たな患者1人の発生を報告しました。

●症例の詳細情報

サウジアラビア

  1. 1. 53歳男性。サウジアラビア国籍を持たない(非サウジ国籍)リヤド市の住民で、1月16日から別の疾患で入院中、2月25日に発症しました。患者はMERS-CoV感染が検査確認された患者2人(下記のNo.5、16)と同じ病院に入院し、同じ医療担当者から治療を受けていました。しかし、彼はその患者たちとの直接の接触機会はありませんでした。発症までの14日間に他にはリスクファクターとの接触はありません。現在、患者はICUに収容され、重篤な容態です。
  2. 2. 63歳男性。リヤド市の住民で、2月25日に発症し、2月28日に入院しました。患者は1月14日に別の疾患で手術を受けていました。発症までの14日以内に如何なるリスクファクターとの接触もありません。現在、患者はICUに収容され、重篤な容態です。
  3. 3. 61歳女性。非サウジ国籍のリヤド市の住民で、2月21日に発症し、3月1日に入院しました。患者には基礎疾患がありました。発症までの14日以内に如何なるリスクファクターとの接触もありません。現在、患者はICUに収容され、重篤な容態です。
  4. 4. 57歳男性。非サウジ国籍のリヤド市の住民で、2月24日に発症し、2月28日に入院しました。患者に基礎疾患はありません。発症までの14日以内に如何なるリスクファクターとの接触もありません。患者は安定した状態で、感染病棟の陰圧室に隔離されています。
  5. 5. 51歳女性。非サウジ国籍のリヤド市の医療従事者で、2月21日に発症しました。彼女には基礎疾患がありました。彼女は病院でMERS-CoV感染が検査確認された患者(2月23日報告のNo.2)の治療に携わっていました。彼女には発症までの14日以内に他のリスクファクターとの接触はありませんでした。この患者は安定した状態で、自宅にて隔離待機しています。
  6. 6. 60歳男性。リヤド市の住民で、2月23日に発症し、2月24日に入院しました。患者には基礎疾患がありました。発症までの14日以内に如何なるリスクファクターとの接触もありません。患者は3月2日に死亡しました。
  7. 7. 64歳女性。非サウジ国籍のリヤド市の住民で、2月22日に発症し、2月28日に入院しました。患者には基礎疾患がありました。彼女には発症までの14日以内に如何なるリスクファクターとの接触もありません。現在、患者は安定した状態で、感染病棟の陰圧室に隔離されています。
  8. 8. 74歳男性。リヤド市の住民で、2月20日に発症し、2月27日に入院しました。患者には基礎疾患がありました。発症までの14日以内に如何なるリスクファクターとの接触もありません。現在、患者はICUに収容され、重篤な容態です。
  9. 9. 34歳男性。非サウジ国籍のBuridah(ブライダ)市の市民で、2月18日に発症し、2月25日に入院しました。患者に基礎疾患はありません。患者はMERS-CoV感染患者の治療を行った病院で働いていました。発症までの14日間に他にリスクファクターとの接触はありません。現在、患者は安定した状態で、感染病棟の陰圧室に隔離されています。
  10. 10. 61歳男性。リヤド市の住民で、2月21日に発症し、2月26日に入院しました。患者には基礎疾患があります。患者はMERS-CoV感染が検査確認された患者(2月23日報告のNo.37)の家族内接触者です。患者には発症までの14日間に他にリスクファクターとの接触はありません。現在、患者はICUに収容され、重篤な状態です。
  11. 11. 46歳女性。非サウジ国籍のリヤド市の医療従事者で、2月22日に発症し、2月27日に入院しました。患者に基礎疾患はありません。発症までの14日以内に如何なるリスクファクターとの接触もありませんでした。しかし、MERS-CoV感染が検査確認された患者(3月6日報告のNo.3)に対する看護の助手として携わった経緯があります。発症までの14日間に他にリスクファクターとの接触はありません。現在、患者はICUに収容され、重篤な状態です。
  12. 12. 80歳男性。リヤド市の住民で、2月22日に発症し、2月23日に入院しました。患者は、発症までの14日間に別の疾患で同病院を受診していました。この病院では、他にMERS-CoV感染が検査確認された患者が治療されていました。発症までの14日以内に如何なるリスクファクターとの接触もありません。患者は3月2日に死亡しました。
  13. 13. 45歳男性。非サウジ国籍のブライダ市の住民で、2月22日に発症し、2月26日に入院しました。患者には基礎疾患がありました。発症までの14日以内に如何なるリスクファクターとの接触もありませんでした。患者は3月2日に死亡しました。
  14. 14. 40歳男性。非サウジ国籍のリヤド市の医療従事者で、2月20日に発症し、2月24日に入院しました。患者に基礎疾患はありません。患者はMERS-CoV感染が検査確認された何人かの患者が治療された病院で働いていましたが、これらの患者との接触はありませんでした。その他には発症までの14日以内にリスクファクターとの接触はありません。現在、患者は安定した状態で、感染病棟の陰圧室に隔離されています。
  15. 15. 56歳男性。非サウジ国籍のリヤド市の住民で、2月25日に発症し、同日に入院しました。患者には基礎疾患がありました。しかし、患者は発症までの14日間に如何なるリスクファクターとの接触もありません。現在、患者は安定した状態で、感染病棟の陰圧室に隔離されています。
  16. 16. 91歳女性。リヤド市の住民で、2月12日から別の疾患で入院中、2月24日に発症しました。患者には他に基礎疾患がありました。患者は、他にMERS-CoV感染が検査確認された患者の治療が行われた同じ病院に入院していました。しかし、その患者との疫学的な接触の機会はありません。発症までの14日間に他にリスクファクターとの接触はありません。患者は3月2日に死亡しました。
  17. 17. 40歳女性。Aljouf(アルジャウフ)市の住民で、2月21日に発症し、同日に入院しました。患者は2月17日にMERS-CoV感染が検査確認された患者が治療されていた病院で別の疾患の治療を受けていました。しかし、これらの患者との接触はありません。発症までの14間に他にリスクファクターとの接触はありませんでした。患者は2月28日に死亡しました。
  18. 18. 51歳男性。非サウジ国籍のKhober(コバール)市の住民で、2月17日に発症し、2月24日に入院しました。患者には基礎疾患がありました。患者はMERS-CoV感染が検査確認された患者(2月23日報告のNo.9)の家族内接触者です。現在、患者は安定した状態で、感染病棟の陰圧室に隔離されています。

サウジアラビアの国際保健規約(IHR)担当者は、以前に報告されたMERS-CoV患者6人の死亡をWHOに報告しました。患者は2月23日に報告されたNo.2、35、2月26日に報告されたNo.3、3月6日に報告されたNo.2、4、8です。

カタール

  • 69歳男性。Al Shahaniya(アッシュシャハニャー)市の住民で、2月27日に発症しました。彼は医学的なアドバイスを求めて3月3日にプライマリー・ヘルス・ケア(PHC)センターを受診し、同日に病院の救急部に紹介され受診しました。患者は症状の治療を受け、同じ日に退院しました。(しかし)、彼は症状が悪化したために、3月6日に同じ病院の救急部に入院しました。彼には基礎疾患がありました。また、頻回にラクダとの接触の機会があり、その生乳も飲んでいました。発症までの14日間に他にリスクファクターとの接触はありません。現在、患者はICUに収容され、重篤な容態です。

これらの症例に対して、家族と医療機関の接触者追跡が行われています。

世界的には、WHOは、1,060人の検査確定したMERS-CoV感染の患者報告と、少なくとも394人の関連する死亡報告を受けています。

WHOからのアドバイス

WHOは、現状および利用可能な情報に基づいて、加盟国すべてに対して、急性呼吸器感染症に関するサーベイランスを継続し、また、あらゆる異常を示す症例についても注意深く調査することを勧めています。

医療施設でMERS-CoVが拡がる可能性を下げるには、感染予防および管理方法が重要です。他の呼吸器感染症と同様に、MERS-CoVの初期症状は非特異的なため、通常、早い時期に患者をMERS-CoVと診断できるものではありません。したがって、医療従事者は、診断にかかわらず、すべての患者に対して常に一貫した標準感染予防対策を適用する必要があります。急性呼吸器感染症の兆候を呈している患者の治療にあたる場合には、標準感染予防対策に加えて、飛沫予防対策を行うべきです。また、MERS-CoV感染の可能性がある症例、あるいは確定診断された症例の治療にあたる場合には、接触予防対策および眼の防護策を追加すべきです。さらに、エアロゾル(微粒子)が発生するような処置を行う場合には、空気感染の予防対策を行う必要があります。

今後、MERS-CoVに関して解明が進むまでは、糖尿病、腎不全、慢性肺疾患、免疫不全のある人は、MERS‐CoV感染で重篤化するリスクが高いと考える必要があります。したがって、これらの人は、ウイルスの存在する可能性がある農場、市場あるいは家畜小屋のある地域を訪れる場合、動物に近づくこと、特にラクダと濃厚接触することを避けなければなりません。動物に触れた後には必ず手洗いを行い、病気の動物との接触を避けるという一般的な衛生習慣をしっかりと守るべきです。

食品に対する衛生習慣は守るべきものです。ラクダの生乳あるいは尿を飲むこと、また、調理不十分の肉を食べることは避けるべきです。

WHOは、この事象に関連して入国時に特別な検査を行うことを勧めてはいません。また、現在、旅行あるいは貿易を規制することも推奨していません。

出典

WHO.Global Alert and Response(GAR).
Middle East respiratory syndrome coronavirus(MERS-CoV)- Saudi Arabia. 11 March 2015
http://www.who.int/csr/don/11-march-2015-mers-saudi-arabia/en/

WHO.Global Alert and Response(GAR).
Middle East respiratory syndrome coronavirus(MERS-CoV)- Qatar. 11 March 2015
http://www.who.int/csr/don/11-march-2015-mers-qatar/en/