2015年06月05日更新 中東呼吸器症候群(MERS)の発生状況 (更新28)

2015年6月4日に公表された世界保健機関(WHO)の情報によりますと、オマーンの国立国際保健規約(IHR)担当者は5月29日に、新たな中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)感染者1人を確認したことをWHOに報告しました。また、サウジアラビアの国立国際保健規約(IHR)担当者は、5月26日から30日にかけて死亡者4人を含む新たな患者9人の発生を報告しました。

症例の詳細情報

オマーン

75歳男性。 Al Dahir村の住民で、5月11日に発症し、5月19日に入院しました。患者は症状に対して治療が行われ、5月20日に退院しました。5月25日に症状が悪化したために、患者は再び同じ病院に入院しました。患者は、5月29日にMERS-CoVの検査結果で陽性と判明しました。患者には基礎疾患はありませんが、彼は大量喫煙者(ヘビースモーカー)でした。患者はラクダと子牛の畜舎を所有しており、頻繁にこれらとの接触機会がありました。発症までの14日間に他に知られているリスクファクターとの接触歴はありません。現在、患者は安定した状態で、病棟の陰圧室に隔離されています。この患者に対して、家族と医療機関の接触者追跡が行われています。畜舎のラクダに対する調査も行われています。

サウジアラビア

  1. 1.43歳男性。フフーフ市の住民で、5月27日に発症しました。患者は、別の疾患のために5月21日から入院していました。患者には基礎疾患がありました。5月28日にMERS-CoVの検査結果で陽性と判明しました。現在、患者はICUに入り重篤な容態です。発症までの14日間における既知のリスクファクターとの接触について調査が進められています。
  2. 2.50歳女性。フフーフ市の住民で、5月28日に発症しました。患者は、別の疾患のために5月8日から入院していました。患者には基礎疾患がありました。5月29日にMERS-CoVの検査結果で陽性と判明しました。患者は5月29日に死亡しました。発症までの14日間における既知のリスクファクターとの接触機会についての調査が進められています。
  3. 3.48歳男性。フフーフ市の住民で、5月23日に発症しました。患者は、別の疾患のために5月4日から入院していました。患者に基礎疾患はありません。5月28日にMERS-CoVの検査結果で陽性と判明しました。現在、患者の状態は安定しており、病棟の陰圧室で隔離されています。発症までの14日間における既知のリスクファクターとの接触について調査が進められています。
  4. 4.57歳女性。フフーフ市の住民で、5月24日に発症しました。患者は、別の疾患のために5月20日から入院していました。患者には基礎疾患がありました。5月28日にMERS-CoVの検査結果で陽性と判明しました。患者は5月31日に死亡しました。発症までの14日間における既知のリスクファクターとの接触について調査が進められています。
  5. 5.74歳女性。Taif(ターイフ)市の住民で、5月27日に発症しました。患者は、別の疾患のために5月17日から入院していました。患者には基礎疾患がありました。5月28日にMERS-CoVの検査結果で陽性と判明しました。彼女は5月21日から23日かけて、MERS-CoV感染が検査確定した患者(下記、No. 9)と同じ病棟で、同じ医療従事者が担当していました。発症までの14日間に、その他に知られているリスクファクターとの接触機会はありません。現在、患者の状態は安定しており、病棟の陰圧室で隔離されています。
  6. 6.70歳女性。フフーフ市の住民で、5月27日に発症しました。患者は、別の疾患のために5月20日から入院していました。患者には基礎疾患がありました。5月28日にMERS-CoVの検査結果で陽性と判明しました。患者は5月18日から20日かけて、MERS-CoV感染が検査確定した患者(5月25日報告、No. 2)と同じ病棟に入院していました。同じ医療従事者が担当していたかどうかは調査中です。発症までの14日間に、その他に知られているリスクファクターとの接触機会はありません。患者は5月30日に死亡しました。
  7. 7.27歳女性。サウジアラビア国籍(非国籍)を持たないフフーフ市の住民で5月22日に発症しました。患者は、別の疾患のために5月18日から入院していました。患者に基礎疾患はありません。5月28日にMERS-CoVの検査結果で陽性と判明しました。彼女はMERS-CoV感染が検査確定した患者(6月1日報告、No. 2)と同じ部屋に入院していました。同じ医療従事者が担当していたかどうかは調査中です。発症までの14日間に、その他に知られているリスクファクターとの接触機会はありません。現在、彼女はICUに入り重篤な容態です。
  8. 8.26歳女性。非国籍のフフーフ市の医療従事者で、5月26日に発症し、27日に入院しました。患者に基礎疾患はありません。5月28日にMERS-CoVの検査結果で陽性と判明しました。彼女は5月22日から23日かけて、MERS-CoV感染が検査確定した患者(5月25日報告、No. 2)を担当していました。発症までの14日間に、その他に知られているリスクファクターとの接触機会はありません。現在、患者の状態は安定しており、病棟の陰圧室で隔離されています。
  9. 9.65歳男性。ターイフ市の住民で、5月20日に発症し、同日ターイフ市内の病院に入院しました。患者には基礎疾患がありました。5月25日にMERS-CoVの検査結果で陽性と判明しました。患者にはラクダとの接触機会があり、ラクダの生乳も飲んでいました。発症までの14日間に、その他に知られているリスクファクターとの接触機会はありません。患者は5月30日に死亡しました。

これらの患者に対して、家族と医療機関の接触者追跡が行われています。

サウジアラビアの国立国際保健規約(IHR)担当者は、以前に報告されたMERS-CoV患者2人の死亡もWHOに報告しました。患者は5月25日に報告されたNo.2と5月17日のNo.3です。

世界的には、WHOは、1,164人の検査確定したMERS-CoV感染の患者報告と、少なくとも440人の関連する死亡報告を受けています。

WHOからのアドバイス

WHOは、現状および利用可能な情報に基づいて、加盟国すべてに対して、急性呼吸器感染症に関するサーベイランスを継続し、また、あらゆる異常を示す患者についても注意深く調査することを勧めています。

感染の予防と制御の対策には、診療施設においてMERS-CoVが拡がる可能性を防ぐことが重要です。他の呼吸器感染症と同様に、MERS- CoVの初期症状は非特異的なため、通常、早い時期に患者をMERS-CoVと診断できるものではありません。したがって、医療従事者は、診断にかかわらず、すべての患者に対して常に一貫した標準感染予防対策を適用する必要があります。急性呼吸器感染症の兆候を呈している患者の治療にあたる場合には、標準感染予防対策に加えて、飛沫予防対策を行うべきです。また、MERS-CoV感染の可能性がある患者、あるいは確定診断された患者の治療にあたる場合には、接触予防対策および眼の防護策を追加すべきです。さらに、エアロゾル(微粒子)が発生するような処置を行う場合には、空気感染の予防対策を行う必要があります。

今後、MERS-CoVに関して解明が進むまでは、糖尿病、腎不全、慢性肺疾患、免疫不全のある人は、MERS‐CoV感染で重篤化するリスクが高いと考える必要があります。したがって、これらの人は、ウイルスの存在する可能性がある農場、市場あるいは家畜小屋のある地域を訪れる場合、動物に近づくこと、特にラクダと濃厚接触することを避けなければなりません。動物に触れる前後には必ず手洗いを行い、病気の動物との接触を避けるという一般的な衛生習慣をしっかりと守るべきです。

食品に対する衛生習慣には注意深くあるべきです。ラクダの生乳あるいは尿を飲むこと、また、調理不十分の肉を食べることは避けるべきです。

WHOは、この事象に関連して入国時に特別な検査を行うことを勧めてはいません。また、現在、旅行あるいは貿易を規制することも推奨していません。

出典