2015年07月13日更新 中東呼吸器症候群(MERS)の発生状況 (更新52)
2015年7月10日に世界保健機関(WHO)より以下の情報が公表されました。2015年6月18日にタイで確認された中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)感染者の更新情報です。詳細は以下のとおりです。
6月20日のDisease outbreak news(DON)においてタイの国際保健規約(IHR)国家担当者から6月18日にこの国で初めての中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)患者1人が確認されたことを報告されました。患者はオマーンからタイに来た75歳男性。その患者は、臨床的に回復し、繰り返し行われた検査で感染が遷延する証拠は示されなかったことから、退院となりました。
現在は、患者と接触の機会があった全員がMERS-CoVの感染症状を示すことなく14日間を経過しています。
●公衆衛生上の取り組み
タイの国家保健当局は以下の公衆衛生対策を行っています。
- 入国審査、医療機関、地域ヘルスボランティアのネットワークを通した地域社会、各レベルでのサーベイランスの強化
- 定期的なリスク評価の実行、脚光を浴びせるメディアの監視と風評のサーベイランス、専用の電話ホットラインの設置
- MERSに特化した迅速対応チーム
- 指定検査機関での診断検査の改善
- 感染の予防と制御、医療現場の管理、医療施設の準備に対する取り決めの検討と強化
- 地域社会、渡航者さらには医療従事者との間で的確なメッセージを交わし協調してリスク伝達を行うこと
公衆衛生当局は、今後も起こりうる患者の感染輸入に対して引き続き警戒を維持することの必要性を強調しています。
●世界での発生状況
WHOは、世界で2012年9月以降に検査で確定したMERS-CoV感染患者1,368人の報告と、少なくとも関連する死亡者489人の報告を受けています。
●WHOからのアドバイス
WHOは、現状および利用可能な情報に基づいて、加盟国すべてに対して、急性呼吸器感染症に関するサーベイランスを継続し、また、あらゆる異常を示す患者についても注意深く調査することを勧めています。
感染予防と制御の対策には、診療施設においてMERS-CoVが拡がる可能性を防ぐことが重要です。他の呼吸器感染症と同様に、MERS-CoVの初期症状は非特異的なため、通常、早い時期に患者をMERS-CoVと診断できるものではありません。したがって、医療従事者は、診断にかかわらず、すべての患者に対して常に一貫した標準感染予防対策を適用する必要があります。急性呼吸器感染症の兆候を呈している患者の治療にあたる場合には、標準感染予防対策に加えて、飛沫予防対策を行うべきです。また、MERS-CoV感染の可能性がある患者、あるいは確定診断された患者の治療にあたる場合には、接触予防対策および眼の防護策を追加すべきです。さらに、エアロゾル(微粒子)が発生するような処置を行う場合には、空気感染の予防対策を行う必要があります。
今後、MERS-CoVに関して解明が進むまでは、糖尿病、腎不全、慢性肺疾患、免疫不全のある人は、MERS‐CoV感染で重篤化するリスクが高いと考える必要があります。したがって、これらの人は、ウイルスの存在する可能性がある農場、市場あるいは家畜小屋のある地域を訪れる場合、動物に近づくこと、特にラクダと濃厚接触することを避けなければなりません。動物に触れる前後には必ず手洗いを行い、病気の動物との接触を避けるという一般的な衛生習慣をしっかりと守るべきです。
食品に対する衛生習慣には注意深くあるべきです。ラクダの生乳あるいは尿を飲むこと、また、調理不十分の肉を食べることは避けるべきです。
WHOは、この事象に関連して入国時に特別な検査を行うことを勧めてはいません。また、現在、旅行あるいは貿易を規制することも推奨していません。
多くの人々が集まるために準備するホスト国では、MERS-CoVに関してWHOから発行されたすべての勧告とガイダンスが十分に考えられており、すべての関係職員にそれが利用可能であることを、公衆衛生当局は確認しておく必要があります。また、公衆衛生当局は、多くの人々が集まる期間中に受診者が医療システムで収容可能であることを保証するために、殺到したときの収容能力に対しても計画しておく必要があります。
出典
WHO.Global Alert and Response(GAR).
Middle East respiratory syndrome coronavirus(MERS-CoV)- Thailand. 10 July 2015.
http://www.who.int/csr/don/10-july-2015-mers-thailand/en/